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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
154/977

154.流石は港街なのです。憧れの食材がいっぱいです。





「すごい、すごいっ」

「流石は港街と言った所ですわね」


 ジュリは冷静な事を言っているけど、そう言うジュリだって、目を輝かせながら彼方此方に視線を向けているは知っているんですからね。

 今はそれを突っ込むどころじゃないので、突っ込みませんけど。

 あっ胡椒も、黒だけでなく白や赤もある。

 高くても幾らあっても良い調味料なので、一籠ずつください。

 ああ、そっちも山椒がいろんな種類が、あっ、香辛料や香草もいっぱいありますね。

 豆も沢山の種類ありますけど、やはり豆は輸入品でも値段安めですねぇ。

 南の大陸や北からの輸入品ですか?

 これも一籠づつください。

 ええ、今言った分を全部。

 お金はあるので大丈夫です。


「随分と買い込みますのね」

「だって、リズドでは手に入らない物ばかりです」


 お店の人曰く、これ等の輸入品は、殆どが貴族向けの飲食店か、貴族に直接卸しているので、一般のお店には並びにくいとか。

 そうですよね、今のでも銀板貨(じゅうまん)で五枚とお値段高めですものね。

 全部で大樽(ドラム缶)で半分程の量だけど、前世換算で五十万相当もするから、一般家庭が普段使いするのには厳しいかもしれない。

 でも、これで作れる料理のレパートリーも増えます。

 この街は空間移動に必要なマーキングの魔法を刻むの決定ですね。

 工芸品は基本見るだけですね。こういうのは見るのが楽しい訳ですから。

 ああ、珍しい織物や装飾品に興味あるあたり、ジュリも女の子ですよねぇ。

 私は見るだけで十分楽しいですから。

 あっジュリもですか、一々物欲が沸いていたら幾らお金があっても足りないと。

 確かにそうですよね。

 でも食事は大切な人生の糧なので、先程のは当てはまりません。

 ええ、そう言う訳で……。


「すいませーん、これ、どれだけ在庫あります?」


 興奮を抑えきれない勢いで、お店の人に聞く。

 あまり量が売れるものじゃないから麻袋に二十袋程と。

 見た感じ一袋十五キロ程かな。


「全部くださいっ!」

「はっ?」


 お店の人が思わず聞き直してきますけど、もう一度はっきり買い占める事を伝える。

 ジュリが不思議な生き物を見る様な目で何か言ってきますけど、そんな事で私のこの購買意欲を削ぐ事はできません。

 だって、お米ですよ。お米っ!

 しかも長粒種じゃなく短粒種ですっ!

 そんなの見たら買わない訳ないじゃないですかっ!

 えっ、別の品種もある?

 粘りの強い品種って、餅米じゃないですかっ。

 五袋、全部買いです。

 全部で、銀板貨(じゅうまん)で四枚?

 籾殻のままだから三分の二ぐらいになるとして

 キロ辺り二千円を切るぐらいかな?

 高級米と思えばそんなものです。

 いえいえ余裕で即金で買えますよ。

 収納の魔法持ちなので、運搬の手配は無用です。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「あんなに生き生きした貴女を見るのは、初めてかもしれませんわね」

「確かに、少し興奮しすぎましたね」


 懐かしい食べ物に興奮するあまりに、値切り交渉もせずに買ってしまったのだから反省。

 それだけ興奮したし、それだけの価値が私にとってはあるので後悔はしていないけど、次回は少し勉強してもらえるように頑張ろう。


「それにしても、随分と気前良くお買いになられましたわね」

「まぁ、それだけ稼いでますから、偶の贅沢ぐらい許してください」


 この市場に来る前に見てきた路上舞踏も、銅板貨(せんえん)五枚を箱の中に入れてきた事もあって、ジュリの声音には少しだけ嗜めの色が含まれている。

 確かに相場からしたら数倍だけど、私にとっては闘舞を模した軽快な舞踏はそれ以上の価値があったから、私にとってなんら問題はない。

 コッフェルさんからも、よく言われている。

 必要な物と思った物や、それだけの価値があると感じたのなら、お金を惜しむなと。

 それが惜しくはなく、投資だったと思えるように成れば良いだけだし、それだけの金を稼いでおけば失敗しても糧になると。


「そんなに稼いでいるんですか?」

「ええ、大きな声では言えませんが、此処半年は白金貨(おく)単位で」

「ぶっ!」


 ジュリ……、口を塞いでください。

 今、思いっきり唾飛んでましたよ。

 そう言うレベルじゃないって言われても、私の知らない所で勝手に話が大きくなって、結果的にそう言う事になっているんですから、仕方ないじゃないですか。

 その前は金貨(ひゃくまん)単位程度の稼ぎでしかなかったんですけどね。

 ……それでも十分な稼ぎだと。

 ええ、自分でもそう思ってます。


「それだけお稼ぎに成られていて、なんで学習院なんかに居られるんですの?」

「そんなの、未成年だからに決まっています」


 残念ながら、いくら稼ぎがあろうとも、未成年では社会的信用がない。

 これは未熟な子供を守ろうとする社会的なシステムではあるけど、逆に働かないと生きてゆけない子供達や、私みたいな例外には足枷になってしまっている。

 だからこそストリートチルドレンは、どこの街や町にもいるし、問題にもなっている。

 未成年で社会的信用があるのは王族か、若くして貴族の当主になってしまった子供ぐらいだろう。


「ジュリには言ってませんでしたけど、私は家を出た(・・・・)人間ですから、自分で稼いで、価値を示し続けないといけないんです」


 名乗るべき家名がないと言ってはあるから、ある程度想像はついていると思うけど、ハッキリ言うのと言わないのとでは意味が違う。

 幸運な事に私は心優しい人達に巡り合って、今の環境を甘受させて貰っているので、その事には本当に感謝している。

 無論、そのためにやるべき事はやらないといけないのだけど、私の居場所を作るために沢山骨を折って貰った事に違いはない。


「普通に聞いたら、並大抵の事ではないのですが」

「幸いな事に、私には魔法がありましたから」


 魔法がなかったら私は家を出る事なく、悲観した人生を送っていたかもしれないし、それ以前に生きていなかった可能性も高い。

 最悪、今頃どこかの伯爵家の次男の所にお嫁にやられ、孕まされていた可能性すらある。

 うん、想像すらしなくても、そう思うだけで全身に鳥肌が立ち吐き気がする。

 あっ、大丈夫ですから、少し嫌な事を思い出しただけですから。

 少し休憩すれば、普通に歩けますから。


「少し港の方を歩きましょうか?」

「ええ、暑くなってきましたし、港の方が風通しも良いですわよね」


 そうですよねぇ。

 山の中は木陰や地面の冷えた空気があるから涼しかったですけど、石畳が敷かれた街中は夏の日差しが照り返してきますからね。

 私は冷風の魔法を結界内に掛けてあるので涼しいですけど、ジュリは幾ら薄着をしていても暑いものは暑いみたい。

 私だけ狡いって、ジュリもやったら良いじゃないですか。

 風属性なくても無属性魔法で、服の下の空気を動かしてやるだけでも、だいぶ違いますよ。


「きゃっ」


 だから力加減をしてください。

 力入れすぎてスカートが捲れたからって、私のせいにしないでもらいたい。

 大丈夫ですよぉ〜、薄桃色の下着しか見えませんでしたから。

 冗談ですから、そんなに真っ赤になって怒らなくても。

 なんで知っているかって、同じ場所で寝食を共にしていれば、知りたくなくても自然と知り得ちゃいますよ。

 とりあえず微かで良いんですよ、うぶ毛を擽るくらいの範囲でやれば魔力もそれほど要りませんから、ジュリの魔力容量でも余裕のはずです。

 そう言えば、こう言う効果の魔導具を作ったら売れるかなぁ?

 魔石は勿体ないとして、弱い気流の魔法程度なら魔石を使わなくてもできると思う。

 それでも値段が高くなりそうだから、見本を作ってからヨハンさん辺りに相談してみよう。


「……ジュリ、服が不自然に動いてますけど。

 ハッキリ言って、服の中で蛇が這っているように見えて不気味ですよ」

「気持ち悪い事を言わないでください。

 これ、意外に難しいんですっ」

「魔力制御の練習だと思って、頑張ってくださいね。

 ジュリの魔力制御って、まだまだ大雑把ですから」

「くぅっ」


 すぐに慣れますから大丈夫ですよ。

 魔力制御って、ある程度までは結局は慣れですから、四六時中やっていれば嫌でも慣れます。

 そう言う訳で、風邪を引く前に慣れちゃってくださいね。

 ええ、暑い昼間の間は強制です。

 ジュリの魔力制御の指導者としての命令です。

 ああ、怒って力を込めると、またスカートや腰回りの布が捲れ上がりますよ。

 いえいえ、鬼じゃありません。

 鬼と言うのは、人が疲れて倒れそうになっても、倒れないように支えながらも、強制的に走らせる人達の所業です。

 それに比べたら楽な物ですよ。






 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

【後日談】:


「おこめでしたっけ?

 パンの方が美味しいですし、なにより食べにくいですわ」

「が〜〜〜んっ!

 この美味しさが分からないとは、……ジュリ、もしかして味覚障害?」

「違います!」






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