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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
153/977

153.初めての海に感激です。





「ふわぁぁ〜〜〜〜っ、う〜〜〜み〜〜〜〜っ♪」


 木々が途切れた場所から遥か先に見えるのは、間違いなく海。

 今世では初めて見るけど、前世の記憶にある物と同じ青色の海。

 良かった、こっちの海は前世で見た映画みたいに赤い血の色じゃなくて。

 もしそうだったのなら、きっとそれは原初の海だったのかも。

 そんな妄想をしながら、遥か遠くに見える海の光景に人が浸っていると言うのに、一部その景色を堪能できない人達が……。


 ぐあああーっ!!

「来てるっ!来てるからっ! 他所見してないで、なんとかしてぇ!」


 もう煩いですね。

 海に見える方向とは反対側に伸ばした手の先に、ブロック魔法を円柱状に組み立て、その中で風魔法を展開。


 ぼしゅ!!

 ぷぎっ!


 風魔法そのものは中程度の威力だけど、ブロック魔法で作った砲筒の中で展開された魔法は逃げ場を求めて一方向へと向かい、空気の壁とも言える威力でもって、向かってきた角が生えた巨大な猪を吹き飛ばす。

 十メートル以上反対側へと吹き飛んでいったので、根性があればまた向かってくるかもしれないけど、大半はこれで逃げてゆく。

 うん、なかなかの威力。

 結局は風で吹き飛ばしているだけだから、魔物を倒す威力はないけど、相手を退けたりするのは結構便利そう。

 今、思いつきで使ってみたけど、また一つ非殺傷型攻撃魔法が出来上がった。

 うん空気砲と呼ぼう。

 前世では意味が違ってくるけど、それが一番しっくりくる名前に思える。


「ところでジュリ、ちゃんと私の放った攻撃を理解している?

 真似できそうなら真似して、攻撃手段を増やさないと、色々な魔物に対応できなくなるからね」

「私には風属性は無いから無理ですわ」


 おお、ちゃんと理解出来ていた。

 でも、その答えじゃ三十点。


「別に風じゃなくても、火属性魔法でもできるからね。

 煙突状の結界内で攻撃魔法を展開する事で、指向性を持たせた近中距離の攻撃魔法を、素早く相手に放つ事が出来るのが、今の魔法の本質。

 ちゃんと本質を理解出来れば、応用性も広がるから、その辺りも含めて見直しておくと良いわよ」

「ゔっ、確かにそうですわね」


 素直に自分の考えが足りてなかった事を認めて、一生懸命に今まで私が使った魔法を思い出そうとしているジュリは、きっと此れから伸びると思う。

 これまでの道中で見せてきた魔法、それを自分なりに理解し、原理や使った意図などを考えれる様になれば、この道中の経験はジュリにとって財産になるはず。

 そういう思考をする癖を付けておけば、今は使えなくても、いつか使える様になるかもしれないし、応用した魔法を自ら開発するかもしれないからね。


「あっ! しまった〜〜っ、失敗した」

「どうしましたの、いきなり?」


 ふと、気がついた事に、思わず声を出してしまう。

 だって惜しい事をした。


「今の狩っておけば良かったと思って。

 せっかく美味しいお肉だったかもしれないのに」


 魔物:一角山王猪ドス・エンペラー・ボア


 味でこそ白角兎(ホワイト・ラビット)には敵わないと言われてはいるけど、独特の香りとコクのある旨みの肉は、好きな者にはヤミツキになる味らしいと本に記載されていた。


「貴女ぐらいですわよ。

 人災級以上の魔物を見てそう思うのは」


 そうかなぁ?

 何時だったか、深赤王河蟹(ルービー・クラブ)の身のお返しに、深緑王河蟹(エメラルド・クラブ)の身を倍で返して数日後。

 今度の新式武器の実験相手は深緑王河蟹に決まったから、以前に獲った場所を教えて欲しいと聞かれたから、多分、獲りに行ったと思う。

 その証拠に、そのあとコッフェルさんの家の台所に、蟹鍋をやった形跡と残骸がありましたからね。

 だから、きっと私だけじゃ無いと思うんだけどなー。


「また会える事を期待しておくとして、今日中に魔物の領域から出ちゃいましょ」

「頼みますから、魔物と遭遇する事を祈らないでくださいっ!」





 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 港街:ルシード


 シンフォニア王国で三つある主要貿易港の内の一つ。

 他にも、王都に一番近いフォルス港に王国の西側にあるポンパドール。

 そして此処ルシードは王国内では一番西側に当たる港となり、この大陸より北にある大陸に向かうには、此処からかなり南西に大回りして行く必要があるため、補給港としての意味もあって、港の広さだけで言うならば王国一とも言われている。

 

「入頭税なしですか?」

「ああ、それをすると出て行かねえ連中が多いからな。

 払うのは荷車や馬を使った、一定以上の荷物を持っている奴等だけだ」

「それだけ税収があると言う事は良い事ですわね」

「ジュリそれは違うんじゃ無いかな。

 上からすれば、税収はあればあるだけ良いものだから、入頭税を取らないのは、それをする事でそれ以上の不利益があるからと見るべき。

 言っていたでしょ、出ていかない人達が多いって」


 街の入口では特に手続きする事はなく通り過ぎ、港街の主要路を歩きながらジュリにそう説明する。

 よほどの田舎で、入頭税を取ると流通に支障をきたすと言うのであれば別だけど、逆に十分な収入があるから、周りの街が当たり前に取っている税収を取らないのは、貴族間での軋轢を生むし、理由には当たらない。

 考えられるのは、港街と言うこの街の特性上、多くの人と物が動くため、仕事を求めようとする人も多く集まり、結果的にスラムが肥大しやすいと言う事。

 此処の街を治める領主が入頭税を取らないのは、窃盗や暴行などの治安の問題もあるし、何より病気や薬物の蔓延を恐れたからだろう。


「街の出入り口に、それなりの衛兵がいたでしょ。

 あれは街の外からの侵入を防止するためと、塀の直ぐ外に住み着かせないため」


 街を守るのは、なにも野生動物や魔物からだけとは限らないからね。

 だから入頭税を取らないのは、街の中に入れはするけど、用が済めば出ていけと言う意味でもある。

 そして、そういう体制をとっていれば、強制退去処置もしやすいと言う事。


「便利の裏には色々な思惑があると言う事ですね。

 言われてみれば、大外の防壁の向こうに、それらしい集落がありましたわね」


 ジュリが言っているのは、街を囲う外壁の更に大外にある防壁。

 この街を賄う広大な畑の外側にある防壁の、更に向こうにある貧民村らしき集落。

 大きな街にはどうしても、そういった暗い部分ができてしまう。


「そういう事」


 あまりそういう事も考えていても仕方ないと、思っている時に軽快な音楽が聞こえてくる。

 意識を向けた先の方にあるのは、こう言った大きな街に幾つもある広場の内の一つ。

 少しばかりの人集りの向こうでは、二人の熟年の楽士と、更に二人の若い男女よって織り成さられるダンス。

 よく貴族達が好む様な気品や格式のある物ではなく、大衆向けのリズムと勢いのある、如何にも生命力の溢れた踊り。

 だけど残念ながら、ちょうど終わりの部分だったのだろうか、私達が近くに行った途端に終わってしまう。

 リズドの街ではこう言ったものは、主に酒場とかなので、私は見る機会がなかっただけに残念。

 踊っていた若い二人の額と露出する肌から垣間見える汗の量に、敬意を払うつもりで銅貨二枚を木箱の箱に放る。

 相場は知らないけど、最後の部分だけなら、そんなものだろうと思う。


 ひゅっ。


 だけど、放った銅貨はすぐに投げ返され。


「あんた等ほとんど見てねえだろ。

 ならこれは受け取れねえ、今度きちんと見た時に払ってくれや」


 驚いた。

 人集りは密集していたと言う程多くはないと言っても、それなりの人は集まっていたのだから、よくも踊りながらも見ていたものだと感心する。

 健康的に日焼けしたライラさんぐらいの若い女性の浮かべる笑顔と、見に来いと言わんばかりの不敵な瞳に、自分達の踊りと音楽にそれだけの自信と誇りがあるのだと感じる。

 なら、今度は何時頃に始めるのかだけを聞いて、その場を後にする。


「見に行きますの?」

「ええ、ちょうど心を休ませるのにも良いんじゃないかなと思って。

 三日間もひたすら追い駆けっこをしてたから、流石に気分転換したいもの」

「そうね、その意見には大いに賛成ですわね。

 でもあれを追い駆けっこと言える貴女の神経には、心底敬意を払えますわ」

「酷いなぁ。

 ジュリも大分慣れてきたじゃないですか、二日目には魔物が出ただけなら、いちいち悲鳴を上げなくなったのですから」


 悲鳴を上げ疲れただけと言ってくるけど、間違いなく慣れてきている。

 私が引き寄せてから対応する前に、盾の魔法を自分で展開してそれ以上近寄らせない様にしていたし、三日目には私の真似をして魔物の足元に引っ掛かるように展開して、魔物を足止め出来る様になっていましたからね。

 まぁ、相変わらず魔力制御に無駄が多くて、すぐに魔力切れになってはいましたけど。


「まずは宿を取らないと」

「やっと、魔物の襲撃に怯えずに眠れるんですね」


 人聞きの悪い。

 ちゃんと魔物の襲撃されにくい場所で夜を過ごしたし、結界も張り続けてあったので、そうそう襲撃なんて受けない。

 地中からミミズやモグラやムカデの魔物が近寄ってきた時は、地中に破裂音の振動を響かせて追い払っていたのですから、ジュリは安全だったはずですよ。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「やっぱり港街だけあって高めかな」

「あれでも王都よりマシですわよ」


 取った宿は上の下ランク。

 別に私はビジネスホテルやカプセルホテルみたいな所でも良いのだけど、ライラさんは疎かコッフェルさんやヨハンさんまで、女の二人旅なのだから一定以上の宿を取る様にと注意されている。

 私はともかくジュリが可哀想だと言われれば、納得するしかない訳で。


「別に食事は外でとっても良かったのに」

「貴女だと面白がって、敢えて変な店を選ぶだろうから、なるべく宿で安全に食事が取れる所でと頼まれていますから」


 そう言う事を彼女に言うのは、おそらくコッフェルさんだろうなぁ。

 自分は平気でそう言う事をするくせに、まったく余計なお世話だと思うものの、コッフェルさんの心配もしょうがないとも思う。

 魔物相手にならともかく、人混みの中では、所詮私達は十二歳と十三歳の子供でしかないのだから。






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