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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
152/977

152.大丈夫です。一生黙っておいてあげますから。

短めですが





「お湯を張って完了っと」


 即席だけど、崖を魔法でくり抜いて作った洞窟。

 中は四つのブロックに分けて、手前から玄関、居間兼寝室、お風呂場、かなり奥にトイレ。

 いずれも簡易的な物では有るけど、硬い地層に高圧縮を掛けてあるので、そう簡単に崩れてくる事はないはず。

 洞窟の入口は流石に危険なので岩を二重にして塞いであるけど、この中ならまず安全と言える。


「ジュリー、お風呂が出来上がったので入っちゃいましょう」

「……、……」


 顔をまだ赤く染めながらも、ノソノソと服を脱ぎ始める彼女を余所に、お風呂に必要な物を収納の魔法から取り出してから、私も服を脱ぐ。

 一応は湯着もあるけど、お風呂は裸派の私には関係ない。

 あっジュリも要りませんか、いえ、着ても良いんですよ。

 私は着ない派と言うだけですから。

 ジュリはお風呂は初めてだけど、彼女としては少しでも早く身体を洗い流したいのか、大人しく私の教えたとおりに身体を洗い、やがて温かい湯船のおかげか、やっと緊張が解れて来たらしく。


「……本当に信じられませんわ」

「なにがです?」

「全部に決まっていますっ!

 魔物の領域を突っ切るのも、渓谷をそのまま空中を突っ切るのも、こうしてあっと言う間に洞窟を作って、洞窟とは思えないような部屋を幾つも作り出すなんて」

「驚きの体験です」

「驚いたのは、私の方ですっ!

 おかげ様で、十年は寿命が縮みましたわよっ!」


 いえいえ、驚いたのは私ですよ。

 まさかリバースではなくノーマルとは……。

 うん、彼女の名誉のために、敢えて何があったかは言いませんが、服は後でちゃんと洗って乾かしてあげますから、あまり気にしたら駄目です。

 たかが剣牙風虎サーベル・ウィンド・タイガーの口が、目の前まで迫って来たぐらいじゃないですか。

 あいつは物凄く素早いから狙撃し難いですけど、結界でちゃんと止めましたし、これが何時もの狩猟なら、むしろその時が一番狙い時なんですよ。

 ほら口の中なら、弓矢も比較的通りやすいですから、魔力の節約になりますし。

 ……普通は狙い時とは思わないし、私の魔法の使い方を見ていたら節約を気にしているとは思えないって。

 弱点を狙うのは基本ですよ。

 それに魔力の節約はしてますよ。

 魔法は遠くにやるほど、魔力を無駄にしますから、なるべく手元で魔法を発現させて節約です。

 なるべく引き寄せてから叩き出してたのも、そのためですから。


「そのおかげで、うぅぅっ」

「大丈夫ですよ、ジュリの事は私が守りますから、安心してください。

 それに将来は、対魔物(そっち)方面に進むような事言っていたじゃないですか。

 なら魔物に慣れる絶好の機会だと思いましょう」

 

 こうして喋れるようになっただけ、緊張が解れて来たのだろうけど、……少し無理をさせてしまったかもしれない。

 なら、今日は、せめて美味しい物を作ってあげよう。

 収納の魔法の中に入っている作り置きじゃなく、敢えて目の前で作る事で、日常の生活の匂いをさせる方が、人は安心するものですから。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 くけ~~~~。


 就寝後の静かなはずの寝室にまで、時折、聞こえる魔物の鳴き声。

 此処は洞窟の奥だから、殆ど聞こえてはこないけど、空気穴用の隙間からどうしてもある程度は聞こえてしまう。

 その度にジュリの身体が、微かに震えているのが微かに擦れる毛布の音で分かる。

 どうやら、なかなか寝付けないみたい。

 無理もないか、自分で巻き込んでおいてなんだけど、彼女は正真正銘の十三歳の少女でしかない。

 私のように前世の記憶を持った、中身がオッサンの十二歳のなんちゃって少女とは違う。

 だけど、この世界の成人は前世よりもだいぶ早く、驚くなかれ十五歳で成人扱いです。

 つまり、彼女は後二年で成人となり、希望通りの道に進むなら魔物討伐への道を歩む事になる。

 なら、今の内に慣れておいた方が、より生存確率が高くなるはず。

 むろん、そのためにこの危険なルートを選んだのではなく、単に、私が戦いたくなかっただけ。

 野生動物や魔物相手なら、今日みたいに逃げ続けていれば大抵は諦めてくれるし、諦めてくれなくても力づくで排除はできる。

 でも、相手が人間で最初から私を逃す気が無いのなら話は別。

 何時までもリズドの街で使ったような手は使えないし、もし魔導士が出てきたら、彼女を守りながら戦って、確実に相手を殺さずに済むとは思えない。

 おそらく私の身体が動かないだろうから……。

 怖くて、手加減が出来なくなってしまうから……。

 本当……、私は自分勝手だと思う。

 自分が人を殺してしまうのが怖いから、こうしてジュリを怖がらせてしまっている。


 ぉぉ~~~ん。


 また、洞窟の奥まで聞こえてくる声に、私はそっと収納の魔法からラベンダーのお香を取り出して焚きつける。

 せめて彼女が少しでも眠れるようにと。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 一晩寝て、少し落ち着いたのか、いつも以上に多めに朝食を平らげたジュリに、少しだけ安心する。

 作り置きのコーンスープに、五種の季節の野菜盛りサラダ。

 手作りのベーコンとソーセージを二切れずつにスクランブルエッグ。

 昨日の残り物を挟んだバケットを三個、最後に蜂蜜を少し垂らしたヨーグルトと、私の四倍は食べたと思う。

 彼女曰く、食べて体力つけないと色々と保たないらしい。

 うん実に逞しい精神力だと思う。

 いいえ、馬鹿にしてませんよ。

 純粋に感心し、褒めているんですから。

 だけど、そうして食事を終えて洞窟を出て見上げた空は、かなり陽が昇っており。


「うわぁ~、盛大に寝過ごしましたね」

「貴女が起きないからですわ」

「ジュリの寝顔が可愛くて、つい夜更かしを」

「あぁっ…ぁ、ぁっ、あっ」

「もちろん、冗談ですけど」


 彼女がきちんと寝息を立て始めるまで、見守っていただけです。

 魘されていたら可哀想ですからね。

 だから、そんな顔を真っ赤にして怒らなくても良いじゃ無いですか。

 大体、先に起きていたのなら、起こしてくれても良かったのに、変なジュリ。






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[一言] 「くけ~~~~。」 ジュリの寝言 かと
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