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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
150/977

150.またもや王都へのお誘い、プロポーズですか? 





「予定ですか?」


 今日の魔力鍛錬に一息入れたところで、同じく一息入れたジュリが私に夏の予定を聞いてくる。

 この学習院には夏に長めの休み、前世で言う夏休みがある。

 理由としては、親元を離れた学院生が、この学院にいるのが原因で果たせなかった貴族としての義務を果たさせるため、と言うのが名目。

 実際その通りの貴族の子女もいるけど、大半は文字通り夏休み。

 私としては迷惑な期間でしかないけど、やるべき事や、やりたい事はあるので、そちらに集中しようと思っている。

 ちなみに冬休みがないのは、場所によっては冬は雪や寒さで危険なため、その道中で事故に遭う危険があるためで、冬季にこの学院が新入生を受け付けないのもそのためらしい。


「基本的には、通常の休みと同じ日の繰り返しです。

 一応は、遠出を少しくらいしようと思っていますけど、具体的な予定は無いですね」


 せっかくだから、もっと南に降って、海まで空間移動できるようマーキングを増やしたい。

 見聞を広めたいのもあるけど、海の幸が恋しいですから。


「そのう……、一緒に王都に行きません?」

「王都ですか?

 興味はありますけど、一ヶ月は厳しいですね。

 書籍棟の工事の件もありますし、携帯(かまど)の改善要求が上がってくるかもしれないし、この機会に色々試しておきたい事もありますから」


 王都と言うぐらいだから、色々な食べ物が集まるし、工芸品もたくさんあって見応えがあると思うけど、やはり流石に一ヶ月以上は厳しい。

 ジュリは一ヶ月と言ったけど、王都まで乗合馬車で半月ほど、往復だけで一ヶ月掛かる。

 実際王都を見て回ろうとしたら、更に七日は必要だろう。

 夏休みは二ヶ月近くあるとは言え、殆どそれで夏期の長期休暇を使い切ると言うのは、どうかと思ってしまう。

 私だけなら十日で王都まで行って、帰りは空間移動の魔法という手も可能だけど。ジュリがいる以上は、そう言う訳にもいかない。


「ジュリの故郷は確か王都の方でしたよね?

 偶にゆっくりと、親に甘えてくるのも良いかと思いますよ」


 私にはもうできない事だから。

 それでその話は終わりだと思っていたのだけど。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

【商会:女神の翼】



「コッフェルさん、こんなところに呼び出してどうしたんです?」

「こんな所ってな、一応は、俺は此処の相談役だからいてもおかしくはねえぞ。

 まぁ、今回は俺が相談しに来たんだがな」

「現役時代から、相談という名の強要が殆どでしたけど」


 商会の一室で、コッフェルさんの言葉にヨハンさんが茶々を入れる様子から、当時から、よほど無茶を言われてきたのだと思う。

 そしてコッフェルさんもその自覚があるのか、ヨハンさんを睨みはするけど、それ以上は口にはしない。


「まぁいい、嬢ちゃん、王都へ行くのを断ったんだって?」


 一瞬、なんの事か分からなかったけど、王都へ行く話と言うと、ヴィーとジュリの件しかなく、ヴィーの時はコッフェルさんの目の前で断っているので該当しない。

 残るはジュリしかいないのだけど、こうしてコッフェルさんが知っているという事は……。


「よく彼女が相談しましたね。

 あんなにコッフェルさんを怖がっていたのに」

「怖がっていたのは俺じゃねえっ、ありえる未来にだろうが」

「それを子供のジュリに押し付けたのは、コッフェルさん自身ですけど。

 まぁ王都に行く件を断ったのは事実ですよ。

 仕事もありますからね」


 少しばかり遠回しなジュリの強引な手にイラッと思いながらも、それだけの理由があるのかもしれないと、コッフェルさんに話の続きを促す。


「仕事なぁ。

 ヨハン、嬢ちゃんが夏の休暇を取れん程も仕事があるのか?」

「いいえ、書籍棟の工事の件は、前もって魔導具部分を完成させておいてくだされば、お嬢さんが必ずしもいる必要はありませんし、講義棟の方も納期は春までなので、かなり余裕があります。

 またお嬢さん個人が受けられている服飾の方も先日納めたばかりと聞いていますので、次の納品まで三ヶ月はありますし、書籍の方も確認したところ、余暇の方を優先して欲しいと答えがありました」

「俺の方もそうだな、あれだけ徹底して開発したからな、改善要求はそれらしい物はまだ一件もねえ。

 つまり数ヶ月単位での様子見状態だ」


 つまり、ジュリに付き合って王都に行けと?

 それは分かりましたが、何故そこまでして?


「まだ嬢ちゃんが仕事漬けになるのは早えんだよ。

 確かに嬢ちゃんの歳で、休みなど碌に取らずに働いている奴はいるが、嬢ちゃんはもう少し世の中を見て回った方が良い。

 言っちゃ悪いが、嬢ちゃんはまだまだ世間知らずだ、頭でっかちのな」


 まぁその辺りは自覚していますよ。

 私の大半の知識は、書物と前世の記憶ですからね。

 でも、別にそれだけでは王都に行く理由にはならない。

 多くの街を回っても良い訳ですからね。


「他にも理由が?」

「まぁそうだな。

 この間も思ったが、嬢ちゃんは一般的な魔導士を知らなさすぎるから、良い機会だと思ってな。

 王都には色々な魔導士がいるし、この街より会う機会もかなり多いだろう」


 この街にも、それなりに魔導士はいるはずけど、大抵が任務に出ているなりして、あまり会った事がないし、そもそも魔法を使うところを見る機会がない。

 だけど王都には、待機している魔導士も多く、それ以外の魔導士もかなりいるらしい。


「それにな、この間店に来たあの嬢ちゃん、どうやら今年の代表に選ばれたみてえだ」


 国のあちこちにある貴族向けの学習院だけど、互いに競い合わせて質の向上を狙ってか、三年に一度、剣術部門と体術部門と魔導士部門で実力を見せ合う大会みたいの物があり、今年は魔導士部門の年らしい。

 それで、ジュリが魔力が格段と高い上、あの年齢で火球魔法を使えるまでの実力があると言う事で選ばれたらしい。


「そこで行う合同演習には協調性も求められていてな。

 その中の一つとして相棒制度がある」

「共同作戦も取れない人間は、いくら優秀でもいらないという意図ですか?」

「まぁそんなこった」


 あの学院で学べる事は数多くある。

 でもその中で、剣術、体術、魔導士の三つのみなのは、単純に戦力増強を目指した物だから。

 何度も言うけど、この世界は人間ではなく、魔物が生態系の頂点に立っている。

 故に人が人の生活領域を守るためには、魔物を排除するだけの軍事力が必要。

 そして、そのためには軍事行動が出来なければいけない。

 コッフェルさん曰く、魔物の領域で一人で戦うのは、余程の死にたがりか、何処かのヘンテコ魔導士ぐらいらしい。

 私はヘンテコじゃないので、該当はしないと。


「つまりジュリが私を、その相棒制度に選ぼうとしたけど、その前ににべもなく断られたので、コッフェルさんに泣きつくように相談したと。

 そしてコッフェルさん達は、この際に私に見聞を広めてこいと言う訳ですね?」

「話が早くて助からぁ」

 

 そんな話、あるはずがない。

 ジュリが代表に選ばれたのも、コッフェルさんに相談したのも本当だろう。

 じゃあ、そのために見聞を広めてこいと言うためだけに、大の大人達がここまで手配をするかと言われたら、するかもしれないけど、それが当てはまる相手とは思えない。

 ヨハンさんは伯爵家現当主の弟さんだし、ラフェルさんも旦那さんが子爵で、平民上がりの珍しい貴族。

 コッフェルさんも、基本的には貴族を相手にしている人達ばかり、そんな人達が口裏あわせて、そのためだけで動くはずがない。


「建前上は分かりました。

 それで、目的はなんですか?」

「やっぱ分かるか?」

「分かります」


 多分だけど、ちょっかいを掛けてくる人達が、最近になって急に止まった事と関係するかもしれない。

 ただそれを態々口にして教える必要はないし、間違っていたらこの二人を相手だと、そのままミスリードされかねない。

 あくまで、アレの事でしょ、と知ったかぶりに笑みを浮かべて見せるだけに止める。


「まぁ罠だな」

「仕掛けた方か、仕掛けられた方かはともかく、キッカッケを作りたいと?」

「まぁそんな所だが、実際はそちらは囮りでな、別途に動きたい事がある」


 そんな事だろうと思いましたよ。

 街中で私を拐おうとしたり、狩猟に向かう私の後を追ってきたりしていた人達が、急にいなくなった。

 学習院の外では空間レーダーの魔法を用いて、ある程度私の周りの人の動きは見張っていたため大体の動きは分かっていた。

 なので私を拐おうとした人は、人気のない所に誘い込んで逆に捕縛。

 そして狩猟で街の外に出た私を追ってきた人達は、……何もしませんよ。

 単純に身体強化で駆ける私に、追いつけずに置いてけぼりになっただけです。

 空間レーダーの魔法で、待ち伏せも丸分かりなので直前で回避です。


「ジュリの選考の件は?」

「どちらだろうと関係はねえな」


 そうやって正攻法では駄目だと判断したのだと思う。

 だから、学習院の夏季休暇と今年が魔導士部門の大会である事を利用して罠を張る。

 私とジュリが仲が良いのは、調べればすぐに分かる事だからね。

 問題は私を囮りにしている間、裏でコッフェルさん達が別個に動くために、ジュリを巻き込もうとしている事。

 私自身は自業自得なので問題はないけど、ジュリはなんら関係がない。

 私達の勝手な都合に、巻き込んではいけない相手。


「彼女を巻き込む件は?」

「仕方ねえ事だ。

 それにな、あの嬢ちゃん自身、彼方側である可能性も否定できん。

 あの嬢ちゃんの意思とは関係なくな」


 仕方ないと切り捨てるコッフェルさんの返事に腹が立つけど、魔物の討伐等で軍事作戦を行って来た人達に何を言っても無駄だと思うし、この世界はこう言う世界だとも納得出来てしまえる自分に苛立ちを覚えてしまう。

 今はそれよりも気になるのが、その後に続いた言葉の真意。


「どうせ嬢ちゃんの事だから、あの嬢ちゃんの家の事なんぞ聞いていないんだろうから、ヨハン、説明してやれ」

「また嫌な説明を人に押し付けて。

 お嬢さん、彼女、ジュリエッタ・シャル・ペルシアの実家であるペルシア家は、経済的にかなり困窮しておりまして」


 ジュリの実家は王都近郊に住む法衣貴族の子爵家で、ジュリの祖父が事業に失敗。

 多額な借金がある上、ジュリの父親がそれをなんとかしようと、役職上の機密を金銭に交換。

 そんな事が何時までも続く訳がなく。

 結果、何とか解雇は免れたものの、罰金と役職を下げられ、信用も失墜。

 利子を払う事すらままならなくなり。


「借金を減らすために、彼女は売られたそうです。

 結婚を控えた、とある貴族の男性の練習相手として」


 ギリッ。


 目の前の景色が狭く、暗くなる。

 自然と拳を固く握りしめ、頭に血が上ってゆく。


「相手はそれなりの貴族の嫡子なので、花街の娘は論外として、家にいる侍女や家政婦達では、今後馬鹿な事を言ってきかねない。

 貴族の生娘で金で済むならと、かなりの口止め料を込めた金額だったみたいです」

「……彼女はまだ子供なんですよ。それを……」

「誰も彼も、嬢ちゃんや、嬢ちゃんの父親ほど強くはねえって事だ」


 コッフェルさんが、優しくそして哀れみの込めた声が、私の感情が爆発しそうになるのを押し止める。

 此処で私が暴れたところで、起きてしまった事は変えられないと。


「十二の誕生日に、両親にお祝いしてくださる家だと連れ出され、その後は、屋敷に返される事なく、態々離れたこの土地のあの学院に連れて来られたそうです。

 あそこの費用も生活費も、全て先方からですので、せめてもの償いと言うか自己満足でしょうね。

 それ相応の支援はしてやったと言う。

 もっとも書類上はその一月以上前に、彼処にいる事になっていますから、事実の揉み消しが主な目的でしょう」


 知らなかった、ジュリにそんな過去があったなんて。

 そんな彼女に、私は両親に甘えてこいなどと、なんて酷い事を言ってしまったのだと悔いる。


「問題は、彼女がその事で両親を恨んでいる節がないという事です」

「……それは、どういう事ですか?」

「嬢ちゃんと一緒だ。

 生まれ育った家を出ようとも、親を想って大切にしているって事だ。

 たとえ、売られた事実があろうともな」

「おそらく苦しい生活の中でも、精一杯の愛情の中で育ったのでしょう。

 そして、同時に御両親の苦労も見てきた」


 私はどうだろうか?

 確かにこうして今もお父様達の事は敬愛している。

 では、もし彼女の立場だったら?

 相手の男と家を憎みはするだろうけど、多分、お父様やお母様を恨めないと思う。

 もしそうだとしたら、選びたくて選んだのではなく、貴族社会の中で断れないが故の苦渋の決断だったのだと、両親を擁護しないとは言い切れない。

 お父様とお母様が、如何に私を愛してくれたかを知っているから。

 私は彼女じゃないから、そんな想定にはなんの意味もない。

 それこそ自己満足の想像でしかないもの。


「問題は、まだペルシア家の借金は残っており、相手がそれを利用する事は十分に考えられる事です。

 生憎とコンフォード家とは派閥が違う上に接点もないため、援助を名目にした懐柔は厳しく、効果も定かではないので」

「あと、あの嬢ちゃんの父親は、信用を失っていると言うのも大きい。

 このままだと、よほど擁護する貴族が付かん限り、貴族落ちは免れんな」


 一番良いのは、力のある貴族と縁を結ぶ事。

 でもそれが出来るのであれば、ジュリが売られる事はなかっただろうし、今のジュリをそういう貴族が縁を結ぼうとする事はない。

 未亡人とか言うのであれば、第三夫人、第四夫人、最悪の選択肢として愛人であるならば、可能性はゼロではなくても、そう言う経緯があったのなら、ペルシア家の家格では可能性はゼロと言っても良い。

 言い方は悪いけど、彼女は傷物。

 だからこそ、彼女はあんなに必死になって自分を磨いていたんだ。

 家の再興のためには強くなるしかないと、何時だったか忘れたけど確かにそんな事を言っていた。

 当時は聞き流していたので、すっかり忘れていたけどね。


「でも、だからと言って」

「最終的な判断は嬢ちゃんに任せるが、俺の勘では、たぶん白だな。

 嬢ちゃんを疑心暗鬼にさせる事が目的なら、俺等に情報を流せば済むだけで、態々金と力を使って無理やり仲間に引き込む危険を犯す必要はねえ」


 間違っていたら、自分を恨めと言わんばかりのコッフェルさんの言葉に、少しだけ頭が冷える。

 ジュリの過去やジュリの実家の事には同情はするけど、今の私とジュリには関係がない事。

 ジュリとは、そんな事など関係なしに知り合って、仲良くなったのだから、私が勝手にジュリの過去を知って、勝手の同情して、勝手に悩むのは、今まで私に知られまいとしてきたジュリに対して失礼な事でしかない。

 そしてジュリに向こうの手が伸びていようが、伸びていまいが関係ない。

 要はジュリにそんな真似をさせなければ良い事だし、向こうがジュリを巻き込もうとするなら、私が守れば良いだけの事。

 そう、私は自分勝手な人間だから、自分の都合にジュリを巻き込むだけの事。

 その責任は、誰にでもない私にある。

 それだけだ。

 どうせ事態は動いてしまっているしね。


「では、ジュリはどちら側でもない者として話を進めます」

「覚悟は決まったか?」

「ええ、簡単な話でした。

 どういう形であれ、私が彼女を守りきれば良いだけの事です」

「ふん、嬢ちゃんらしい」


 とりあえずそれは良いんですけど、つまりこれは商会側の都合でもあると言う事ですよね?

 それなら、私が留守の間で頼みたい事がありまして。

 ……構わないと、快い返事を、ありがとうございます。

 では、不在の間の発酵食品の管理お願いしますね。

 ええ、味噌と醤油という名の大切な物です。

 私にとっては、紅皇蜂(クレムゾン・ビー)の蜂蜜より価値のある物ですから、しっかりとお願いしますね。






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[一言] 「あと、あの嬢ちゃんの父親は、信用を失っているというのも大きい。このままだと、よほど擁護する貴族が付かん限り、貴族落ちは免れんな」 貴族落ちじゃなく、平民落ちじゃないの?
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