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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第一章 〜幼少期編〜
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15.教会でお茶会、お勉強はついでです。




 あれから数日、色々と考えたけど、やっぱりそれ等を選べる覚悟はできない。

 できないけど、今後の方針だけは決めた。

 そのためには、今まで以上に頑張らないといけない。

 たくさん、たくさん多くの事を覚えなくちゃいけない。

 魔法も練習ではなく訓練のつもりで、それから先ずは体力をつけないと。

 あと体調管理、これを一番気をつけないと、……もう寝込んでいる余裕なんてないから。

 でもとりあえずは、今、頑張っている事に集中。


「ようこそお待ちしておりました」

「本日も、どうかよろしくお願いいたします」

 

 今日は教会で行儀見習いと言う名の社会勉強ではあっても、貴族の令嬢である私は教会の人のように働く訳では無い。

 実際に行儀見習いの一環として、清掃や草木のお手入れ等はするけど、それは表面的に見栄えのする内容で対外的な喧伝。

 本当の意味で大変な事はエリシィーや小母さんのような方達や、修道士の方がやられている。

 私のような貴族の令嬢や商家の息女向けには、神学や礼儀作法の他に、世界の在り方を学び、教会の福祉活動の広告塔等をこなす。

 まぁ最後のはともかくとして、普通はそんなところ。

 私は領主の令嬢という立場を利用して、薬学や簡単な医療技術を学ばせてもらっている。

 治癒魔法は一応見学だけはさせてもらえるのは、教会と言うより神父様のご好意なのだろう。


 【聖】魔法。


 漫画やゲームの世界では有名な魔法。

 この世界でも、神に使える神官が多く使い、祝福を与えているらしい。

 でも、別に魔法的資質が絶対と言う訳ではないみたい。

 魔法の使えない人間が、教会で長い修練の果てに身につける者が一定数いるらしく、それが教会に更なる権力を与えているそうだ。

 ただ、そう言う神官の治癒魔法は打撲や火傷、切り傷や裂傷の治癒がメインで、せいぜいが骨折まで。

 しかも日に数回程で、それ以上となると魔法的資質を持っている者の方がより強力な治癒魔法を数多く扱えるそうだ。

 そう言う意味では私にも身に付けれる可能性はあるけど、そこはそこ、やはり教会にとっては飯の種なので、いくら領主の娘でも、神の家の子たる教徒ではなく、信者でしかない私には教えてはくれない。

 

「一息、入れましょうか」

「はい」


 教会の奥にある一室での薬草学の話に区切りがついたところで、神父様の提案を素直に受け入れる。

 これは私と言うよりも、神父様の方が一息入れたいからだ。

 人に何かを教えるというのは、学ぶ側からは分からない程神経を使うからね。

 その事を前世の経験から知っている私は、素直に神父様を労いたい。


「エリシィーも、一緒にお茶をしましょう」

「そうしなさい」


 私の言葉にエリシィーは、視線を一瞬だけ神父様に向けて、その許可をもらう。

 今日の私はエリシィーの友達ではなく、一応は教会のお客様なので、これもしかたがない事。

 用意されているティーポットに手を伸ばし掛けるエリシィーを止め。


「今日は私に淹れさせてください」


 と言ってもティーポットの中は、事前に煎れられて茶葉を出された状態なので、本当にカップに注ぐだけ。

 それを敢えて私がやるのは、言葉通り神父様を労い感謝を示す意味があるから。

 無論、私がやるので魔法で冷め切った紅茶を温め直す訳だけど。

 やがて部屋の中に紅茶の香りが広がって行く。


「ふぅ…、美味しいですね」

「いえ、煎れてくださったのは、小母様ですから」


 神父様の言葉に思わず苦笑する。

 この世界の紅茶は、一般的に流布しているレベルの物でも、香りがとても豊かで味も澄み切っている。

 きっと前世の世界とは全く別の品種なのだと思う。


「いやいや、私も王都に長く居ましたが、ユゥーリィ様のような魔導士の方はおりませんでした」

「そうなのですか?」

「ええ、普通は沸騰させてしまいます」

「それは、紅茶を煎れる時には便利そうですね。

 私ではとてもそこまでの威力は」


 ええ嘘です、勿論やれますよ。

 でも使う機会があまりないのと、目立ちたくないのでやらないだけです。

 ちなみに紅茶を温めると普通は渋みが出てしまうが、魔法で温める分には何も問題はない。

 もっとも、神父様の言うとおり沸騰させてしまえば、その限りではないけどね。


「いや、普通はお茶を煎れるのに魔法を使わないと思うわよ」


 はむはむと可愛く香草入りクッキーを食べていたエリシィーが突っ込んでくる。

 どうやら、魔法で紅茶を煎れる事は、魔法使いの中では一般的ではないらしい。

 ちなみにこの【魔法使い】という呼称は一般的に使われてはいるものの、公式的には王宮付きの【魔導士】の事を指すらしい。

 公職についている人達以外の、魔法を扱う人達を【魔導士】と呼ぶみたい。


「ええー、結構、便利ですよ。

 高位の方々なら一言だけで、お付きの方が直ぐに煎れたてのお茶が、ってのありそうなんですが」

「はははっ、流石にそれは」

「ないない。

 お茶を煎れさせるために魔法使いを雇うだなんて、どれだけ贅沢なのよ」


 二人に、全力否定されました。


「じゃあ、見えないところで自分用に」

「魔法の無駄遣いにしか聞こえないんだけど」

「ない訳ではないでしょうが、あまり聞きませんね。

 エリシィーさんの言葉は口は悪いですが、その余力はとっておかねばならないと言うのが実情でしょう」

「うーん、そうでしょうか?」


 最初は大変だったけど、慣れればそうでもないし、御湯を沸かしたり温める程度であるなら、魔力そのものはそう必要としない。

 まぁ、いくら魔力消費量が少ないと言っても使い過ぎれば、いざと言う時に魔力が足りなくなるって事なのだろうけど。

 他の魔法使いの方達って、普段からそんなに魔力を必要な状態なのだろうかと思ってしまう。


「私などは、小さな怪我などは、なるべく医療の方で済ますよう心掛けております」

「……そうですね、私の考えが至らないばかりに、失礼いたしました」

「いえいえ、私めはこれが役目ですので。

 ユゥーリィ様は今までどおり、御自身の思うままにお使いになられれば良いかと」


 たしかに神父様の言う通りだ。

 いくら治癒魔法を扱えると言っても、魔力には限界があるし、無駄遣いをして重傷者が運ばれてきた時に魔力切れを起こしていました、では手遅れになってしまう可能性が大きい。


「そうそう、今まで通りで良いんじゃないの。

 派手な攻撃魔法なんて、ユゥーリィには似合わないし」

「確かにその通りですね。

 優秀な魔法を使う方々は、こう言ってはなんですが軍事力と同義です。

 隣国との戦争などはこの数百年はありませんが、紛争とまではいかない程度の諍いは今でも起きております。

 それに魔物の討伐などもありますから、どうしても力ある方が求められています。

 貴族の方々も、その傾向にあるようですから、その心配のないユゥーリィ様は、御自分のお心のままに使われても宜しいかと」


 神父様の言葉は、言外にお湯を沸騰もさせれない魔法使いは役に立たないと言っている。

 でも逆に言うと、そう言う事のできる魔法使いは重用され、また家においても、長子を差し置いて当主となる事もあると言っている。


「魔導具師と言う方々もいると聞き及んでいますが?」

「大半が歳を召されて前線に立てなくなった方達が、生活のために営んでいるようです。

 それにアレはかなり特殊な技術のようですから、すべての魔導士の方が成れる訳ではありませんので、大半の魔導師の方はそれまでの経験を買われて、どこかの貴族の相談役に収まる事の方が多いそうです」


 なるほど、色々と勉強になる。

 こう言う話も聞けるからこそ、こうして教会に足繁く通っている訳だけど。

 そろそろ今日は終わりかな、あまり長居してもエリシィー達母娘に負担を掛けてしまう。

 私がこうして此処ここにいる間は、彼女達の仕事が溜まっていく一方だからね。


「あと、これ、頼まれていた物」


 私はお暇をする前に、ショルダーバックから数冊の本をエリシィーに渡す。


「すみませんね。

 とう教会には、あまりこの手の本がなくて」

「いえいえ、私が幼い頃に使っていた物ですから」


 中身は子供向けの絵本や子供向けの書物。

 【相沢ゆう】が目覚める前の【ユゥーリィ】が、好んでよく読んでいたジャンルの内容。

 いかにも女の子向けとだけ言っておく。

 神父様がお礼を言ってくるけど、神父様にも頑張ってもらわないといけない。

 実際にもっと頑張って貰うのはエリシィーだけど。


「これで手紙のやり取りもできるようになると良いね」


 文字の読み書きの練習。

 この世界は市民の識字率は悪い。

 教会の福祉活動もあって簡単な単語程度ならば、大半の人は読めるけど、文章や手紙を書くとなると極端に数は減る。

 エリシィーは、神父様に文字を教えてもらえるみたいなので、その助けになればと言う事で、シンフェリア家の書庫から数冊を教会に貸し出す事になったので、これはその一部。

 一応は、家の物だからお父様には了解済みで、貸し出す本は私が選んで良いらしい。

 無論、可愛い甥っ子のアルティアの分は残しておくけどね。

 教会だと普通は聖書から学ぶらしいけど、聖書より興味ある書物で覚えた方が覚えが早いはず。

 エリシィーは、今はある理由があって、遠くの地にいる父親に手紙を書きたいらしい。

 教会の連絡便で手紙を一緒に出せるらしいので、彼女としては必死に学ぶと思う。







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