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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
148/977

148.アイスクリームって美味しいですよね。





「あぁ〜〜♪ 美味しいね♪

 ボクこんな美味しい食べ物を食べた事ないよ」

「それは用意してきた甲斐があります。

 でも、こう甘くて冷たい物は、頭の中を冷やすのにちょうど良いですよね~」

「……俺にはすこし甘いが、悪くねえ」


 天才美少女家具職人のサラも、その祖父でこの工房の工房長であるグラードさんも、収納の魔法から出した作り置きの、アイスクリームを美味しそうに食べてくれるので、その笑顔分だけ余計に美味しく感じてしまう。

 二人が半分食べ終えたところを見計らって、あらためて収納の魔法から出した蜂蜜を二人の器にソッと垂らす。

 ええ、後半は味を少し変えて食べてみましょう。


「うわぁ、甘くて味が濃厚、なのにちっとも邪魔をしない。

 それに、赤くて綺麗だから色映えもするわよね。

 これ何かの花の蜜?」

「花の蜜といえば花の蜜ですね」

「………っ」


 あと何かグラードさんが、滝のように汗を流してますけど、あそこだけ陽が当たっているから暑いのかな?

 なんにしろ、休憩がてらのティータイムを終了。

 口の中に残った甘味を紅茶で流し込んで、打ち合わせの再開。


「こう改めて見ると、試作品が大分増えましたね」


 見回した魔導具の砂時計の模型は、すでに三十個を超えている。

 砂時計その物は小型とはいえ本物だけど、そろそろ本気で見本品を完成させないといけない。


「なんで、ここまで難航したんでしょうね?」

「本当よね。まだまだ考えたいのに」

「……全部、ユゥーリィさんとサラが原因だと思うがな」


 グラードさん酷い、半分は濡れ衣である。

 私は、砂時計の砂の色を変えてみたら、綺麗だなと言っただけですよ。


「色が変わるなら、やっぱり意匠も変えたいし、組み合わせも考えるとね」


 あと、砂じゃなくていっその事、油や水を封入したオイル時計を提案しただけだし。


「根本的な形が変わるとどうしても、全部やり直しだし、重くなる分強度も必要だからね」


 サラと、ああでもないこうでもないと言いながらも、幾つもの意匠を検討し合っては試作品を作るを繰り返していたら、いつの間にか試作品の数が増えて、時間が過ぎ去っていただけです。

 時間が許すなら良い物を作りたいじゃないですか。


「そうよね、確実に良くなるのを分かっていて、それを無視して作業を進めるのって、職人としては恥だもんね。

 お祖父ちゃん、いつもそう言ってるじゃん」

「……それはそうなんだがな」


 グラートさんは困ったようにガシガシと掻く禿頭を、差し込んでくる太陽の光でキラリと光らせながら、出来上がっている試作品の数とその十倍はある意匠図に、諦めにも似た視線を落とす。

 もう勝手にしてくれと言わんばかりに。

 そして、そんなグラードさんの一部を見て、また思い付いてしまった事が一つ。

 

「オイル時計だと、光石を仕込むと綺麗に見えるよね。ほらっ」

「綺麗っ、凄いっ、幻想的っ! うん、これはまた練り直しね」

「……まぁ良いが、実寸だと光石だと無理だろう。

 今、出回っている数も少ねえしな」

「これくらいだと、鏡で囲った輝石か、威力を落とした輝結晶を使えば十分かと」

「そっちはもっと無理だろ。

 今から発注しても納期に間に合わん」

「大丈夫ですよ、シンフェリア製の物は在庫で持ってますから」


 無論、輝石と輝結晶の在庫は持ってません。

 在庫で持っているのは、実家から持ち出していたシンフェリア製の光石で作った大量の輝浮砂です。

 生産地の名前を敢えて出したのは、グラードさんに模倣品を使うのではないですよと安心させるため。

 貴族の施設に使う物ですから、模倣品を使う訳にはいきませんもんね。

 じゃあ私が作るのは模倣品にならないのかと言うと、ギリギリセーフ。

 なにせ開発者ですからね。

 国に献上した事になっている光水晶は、色々と問題はあるけど、私が納める魔導具に輝石や光結晶を使う分には問題ない。

 そもそもそれで問題になるのなら、トレース台の魔導具の時点で問題になっているし、その辺りは確認済み。

 製法さえ洩らさなければ問題ないと、一大生産地から書籍ギルドを通して了承をもらっている。


「なんにしろ、一度彼方さんに見てもらった方がいいな」

「ですねぇ、当初の方向性から大分ズレてしまいましたから」

「だとしてもどれを持ってゆく?」

「いっそ全部持っていって、丸投げしようかと。

 後で、何で見せなかったとか言われても厄介ですので」




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 そうして、シンフェリアに居た頃なら、恒例の葡萄と桃の食い倒れ旅行を行う季節を迎え、砂時計も当初の計画通りの物を作る事が決まり、既にサラが製作に入り始めているので、作業は順調だと言える。

 おまけに他の意匠の砂時計も、何故か中型サイズの物を各講義を行う部屋への設置依頼が商会の方に上がっていたりとか。

 理由は、……まぁ、講義時間をかなり大幅に超過したり、逆に半分しか行わなかったりと、迷惑な講師がいるからとしか。

 そして、その頃には……。


 ひゅごっ!

 ぐぉぉぉぉんっ!


 一気に膨れ上がった火炎が、今度は巻き戻るかのように、中心へとその炎が向い。

 やがて、炎が消え去った後には、鉄製の的は半分程ドロドロに溶け落ち、その周辺の地面ごと焦がした跡。

 そして、辺り一体をを覆う静寂。


 思い思いに火炎魔法を放っていた学生は手を止め、先程の爆炎を放ったジュリや溶け落ちた的を見つめて茫然としている

 ええ、あの口煩い、魔法の実技教官も茫然です。

 ジュリが放ったのは火炎魔法ではなく、火球魔法。

 彼女の歳では、まず出来ない魔法とされているらしい。


 ん〜……、三十五点。


 此れが出来るまでに頑張ったジュリを素直に褒める反面、火球魔法の出来栄えとしては、及第点どころか赤点ではないだけ。

 なんとか火球魔法になっているだけの代物と言える。

 まず、火球に成りきれていないため大分魔力が漏れ出ているし、圧縮そのものも甘い。

 火球を飛ばすための魔力の紐も当初に比べたら、大分細くはなってはいると思うけど、まだ周りの生徒よりも太いため無駄も多い。

 アレだけの魔力を込めていたなら、本来の火球魔法であるなら、鉄の的など全て溶け落ちているはずなのに、威力だけで見てもジュリの全力の火炎魔法の二割増しでしかない。

 でも、火球魔法は火球魔法かな。

 そう言えるだけの、最低限の魔力循環と制御を身につけ始めてきたジュリを見て思ったのが、驚いた事に出力を表す魔力だけでいえば、私よりもかなり高いだろうと言う事。

 今のも、私並みに魔力制御が出来ていれば、私の火球魔法より、二割ほど高い威力が出るはず。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「と言う訳でジュリの火球魔法もどきの成功と、今後の精進を願って、甘い物を作ってみました」


 目の前にあるのは、パフェです。

 生クリームと、アイスクリームにクッキーを砕いて混ぜ込み、飾りにオレンジと洋酒付けの干葡萄、掛けたソースは桃のジュレ。

 何処から見ても立派なパフェです。

 まぁ、私と彼女では食べれる量が違うので、私がミニパフェに対して、彼女は大きめのサイズですけどね。

 カロリーはこの際は無視です。

 どうせ私は、病気のせいか太った事がないですから、これくらいは関係ないですし。


「もどきって、私、あの後教官はもちろん、本部棟に連れてかれて、学院長からも賛辞の御言葉を貰っていたのだけど」

「生徒をやる気にさせるには、必要な事ですからね。

 慢心させないように、相手を見て気を使っては欲しいと思いますが」


 ジュリの今日の火球魔法で、以前より良くなっている点を何箇所か挙げ。

 その後、アレを火球魔法としてみた場合、どこが悪くて、それがどう悪いのかを説明していく。


「火球を安定させるための時間が掛かるのは、現状では仕方ありませんが、いつ暴発するか分からない火球を覆う障壁は不味すぎです。

 倍の時間が掛かっても安定させる事に力を入れなければ、暴発した火球魔法に巻き込まれるのはジュリだけとは限りませんよ」

「そうかもしれませんけど。

 貴女だって人の事言えないぐらいに火球から火炎が漏れてるじゃないですか」


 嗚呼……、ジュリの少し拗ねた言い方に、少し強く言い過ぎたと反省しつつ。

 指先にジュリの言う火球魔法を作り出す。


「確かに、私の失敗ですね。

 周りに合わせていたから誤解を招いたかもしれませんが、これは火炎魔法に見せかけた火球魔法です」


 そう言ってから、火球魔法に被せていた火炎魔法を取り去ると、そこにあるのは赤く輝く真球の火球。

 これが本来の火球魔法です。

 すみません、きちんと見せておくべきでした。

 今度、一緒に街の外に行きましょう。

 人気のないところで、きちんと威力を比較して見せておいた方が良いでしょうから。






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