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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
147/977

147.蜂蜜トーストって、至高の味だと思いません?





「はぁ…、はぁ…、おわったぁ〜……」


 雨の日以外は行う早朝鍛錬、最近は全身運動の舞踏(ダンス)も、なんとかフルセットで出来るようになってきたのは、本当にセレナ達のおかげだと思う。

 ええ、体力が尽きてきても、転ばぬように引っ張られたり、押されたりして無理やり走らせられたり。

 ダンスも、セレナとラキアの二人が左右で挟んで、ギブアップを許さない環境を作ったり。

 ええ、もう体力の限界を毎日のように突破させられました。

 普通なら、こんな事をやれば身体を壊すのだろうけど。


治癒魔法(ヒール)


 ええ、これで筋を痛めようが、筋肉痛だろうが治せちゃうから、私に限界だからもう出来ないを許してくれないんですよね。

 実に血も涙もない鬼コーチ達である。

 凄く感謝はしてますけどね……。


「問題は、どうにも動きがギクシャクしているんだよな」

「身体強化している時は、さほど気にならないけど、同レベルがいたらアウトなのは確かだよな」

「咄嗟の時のパターンも決まっているし」

「基本的にセンスないよね」


 うん、ボロクソの評価をありがとうございます。

 すみませんね、いつもこんな素人の私のために真剣に考えてくれて。

 十分にメリットがあるから気にする必要はないって、ラキアは優しいですねぇ。

 回復魔法に何度も助けられたって、ギモル、野生動物を相手にあんな重傷を負って来ないでください、避け損ねて斜面を滑り落ちたのは自業自得です。

 セレナは山菜や薬草の見分け方が、だいぶ分かってきたと言うのは良いですけど、キノコはまだ自己判断で食べちゃ駄目ですよ、一口であの世行きの毒キノコをこの間、籠の中に入れてきたじゃないですか。

 アドルさん、早い動きに慣れてきたって、私、野生動物じゃないですから、猿に例えるのは流石に止めてください、次に言ったら、どうなるか分かってますよね?


「なんにしろ四人とも、まだ魔物の領域には行っちゃ駄目ですよ。

 四人じゃ逆に美味しく戴かれる方ですから、無害級までにしてください」

「「「「普通は行かないからっ!」」」」


 そんな、声を揃えて言わなくても。

 まるで私が普通じゃないみたいじゃないですか。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「確かに初期発注分の残り五十、受け取りました。

 改めて検品させてもらうけど、不具合があったら、その時は宜しくお願いします。

 もっとも、ユゥーリィさんの仕事ならまず問題はないと思うけど」

「お互いの信頼のためにも、やるべき検査はお願いいたします。

 一人での作業と検査には、どうしても限界がありますから」


 書籍ギルド、コンフォード領支部の支部長室。

 ラフェルさんに、初期発注分の残りの魔導具のトレース台を納入しにきたけど、やっぱりこう言う如何にも貴族貴族した部屋は、どうにも落ち着かない。

 一応は私も元貴族だけど、実家であるシンフェリア領は基本的に田舎の山奥なので、此処まで対外的な調度品を揃える必要もなく、そもそも見栄を張る相手も少ない。

 一応、お父様の執務室やお父様の商会の商会長室は、それなりではあったけど、此処とは比べ物にはならないのは確かだし、基本的に私は隣の書庫には入り浸ってはいたものの、其方の方にはあまり入らなかった上に、仕事の関係で入っていた期間も短い。

 更にはコッフェルさんに紹介された新しい方の商会は、偶に顔を出すけどあまり近寄らないようにしているので、なかなか慣れる機会が無いのは本当なんですよね。

 所詮、私は未成年で学生なので、魔導具師として本格的に仕事をしている訳ではないし、あの商会を通すような仕事も、今のところは書籍棟の砂時計だけだし、仕事もさしてないので、貴重な素材を頼むような事もない。

 本業は学生で、魔導具師は副業のようなもの。


「……ユゥーリィさんの稼ぎで副業って、普通はないわよ」

「基本的に、此処と服飾さんの方に直接卸している魔導具だけですし、魔導具師の稼ぎとしては知れているのでは?」

「言っておきますけど、叔父の稼ぎを基準にしたら駄目よ。

 ああ見えても魔導具師としての稼ぎは、国で片手に収まるような人だからね。

 貴女の稼ぎは、今言った分だけでも、平均を遥かに超えているわよ」

「一時収入です。

 ある程度数を作り終わったら、減収するのは目に見えています」

「一時収入じゃない方だけでも、大分あるんじゃないかしら。

 下着、手袋、携帯(かまど)の付属品、他にも結構な数を商会に登録してあるわよね。

 この一月だけでも、かなりの収益だと思うけど」


 ええ、それもあって、彼処には近寄らないようにしているんです。

 アレは私が手に汗水を垂して働いた訳ではないお金です。

 私の中では基本的にはなかった事扱いなので、収益の報告を聞きたくないんです。

 おまけに使わない予定ならばって、何処かの誰かさんの入れ知恵で、資金運用と言って、いつの間にかアルミの採れる鉱山を二つも買っている事になっていますし。

 ドゥドルク様は十、コッフェルさんも三っつと、アルミの価値が高まる前に買収したみたいです。

 私も事後報告で材料の安価な供給のためと言われたら、いいえとは言えず何か資産が勝手に増えているみたいなので、見たくないんですよ。

 絶対に金銭感覚がおかしくなるやつですからね。


「あと狩猟の成果も凄いと聞いているけど」


 それでも商会に偶に顔を出さないといけないのは、趣味の採取や狩猟を妨害するお邪魔虫の処分の依頼です。

 魔物がいるような領域の自然の実りって、味が深くて美味しいんですよね。

 今は初夏だから、ニョキニョキと新鮮な山菜や野草が伸び、子育てに忙しい野生生物に種を運んでもらおうと果実もそれなりに多く実って、色々と採りどきなんですよ。

 色味が良く美味しい物は、秋のライラさんの結婚式の御祝儀用にも取っておきたいので、少しだけいつもより頑張ってはいるのは確かですけど。

 そんな美味しい物を食べている鹿や猪も、当然ながら美味しい訳で。


「あっ、これ、この間行ってきた時のお裾分けです」


 狩猟の話で思い出した。

 十日ぐらい前に行った狩猟で、美味しい物を手に入れたので、その一部をラフェルさんにもお裾分け。

 牛乳瓶大ほどの陶器の小瓶ですけど中身は蜂蜜なので、個人が料理やお菓子に使う分には、充分な量だと思います。

 無論、ライラさんにも既に倍の量をお裾分け済みです。


「これ、二度焼きした白パンに付けると、物凄く美味しいんですよ。

 パンケーキにも合いますし」

「……これ、赤いわよね?」

「ええ、最初見た時はその色に吃驚しましたけど、香りも味も凄く濃厚なんですよね。

 それで一人で楽しむのも勿体ないし、一人や二人で処分できるような量じゃないので」


 魔物:紅皇蜂(クレムゾン・ビー)


 大型犬程のサイズの蜂で、崖に擬態して巣を作るタイプだけど、音響爆弾の魔法で成虫を無効化。

 あとは崖沿い作られた巣を割って中の蜂蜜を半分程を戴いてきました。

 半分と言っても蜂のサイズがサイズなので、ドラム缶数本分ほどもの量があるので、ライラさんの結婚式の時に出る甘味にも使ってもらおうと思っているので、そのお知らせも込みでお裾分けです。

 その辺りの準備は、ラフェルさんが向こうの家と、打ち合わせているみたいですからね。


「……これ一杯で、金貨一枚は軽くするわよ」

「狩猟で偶々手に入れた物ですから、元手は無料(ただ)ですよ。

 そもそも、一つの巣にあれだけの量があると、高価だと言われても実感がありません」


 ええ、ドラム缶サイズで量が取れますから。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「そんな訳でドゥドルク様が、此れの蜂蜜酒(ミード)が好きだと言うので、御口汚しかも知れませんが作ってみました」

「……紅皇蜂の蜂蜜酒と聞きましたけど、ずいぶんと沢山あるように見えますが?」


 なぜか口元を引き攣らせているヨハンさんに、蜂蜜酒にする過程で、酒瓶一本辺りに使っている蜂蜜の量はそれほど多くないのと、色々な味があった方が良いと思い、香辛料や香料のピールを変えた物も作った事。

 味に関しては一緒に作った分を、コッフェルさんに味見してもらったので、問題ないとの事を伝えたのだけど。


「……紅皇蜂の蜂蜜採りも、お嬢さんには意味がない言葉ですね」


 そんな呆れたように言わなくても、それくらいの(ことわざ)は知ってますよ。

 出来もしない夢を見るなと言う事ですよね。

 確かに分かりにくい場所でしたけど、場所が分かったので、時期を見てまた採りに行こうと思います。

 ええ、蜂とその巣の大きさには驚きましたけど、先手必勝で無力化です。

 蜂蜜を半分採られた上に、アレだけ生き残っていたら、栄養が足りずに分蜂どころではないでしょうけど。


「あっ、蜂の子の炒め物や燻製もありますから、よかったらどうぞ。

 白のみなので、コクと甘味があってく美味しいですよ」


 成虫に成り掛けた黒は……、ちょっと見た目的に勇気が要りますし食感も悪いですから、正直に言って食用には不向きです。






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