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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
145/977

145.この太くて長い逞ましい黒棒を、そっと手で包んで。





「よし、完成〜〜♪」


 出来上がったそれを、両手で持ち上げてから、改めて外観を確かめる。

 形としては四角い薄い弁当箱かな。

 もう少し意匠に凝ればと思われるかもしれないけど、今回は機能的な試作機なので問題なし。


 魔導具:封印せし深闇穴。


 私の部屋の入り口に取り付けてある、オートロックの魔導具の改良版です。

 前のは魔力の固有波長を鍵にしていたので、理論的に治癒魔法の使い手なら、固有波長を真似て解錠できてしまうという欠点があった。

 そこで魔力の固有波長以外に、物理的な鍵の機構を付けて使用した物も合わせて、コッフェルさんを通して商会に登録していたのだけど、それだと治癒魔法の使い手が鍵師の技術を持っていたら意味がないので、私的には色々工夫して、物理的な鍵を魔導具的な物理鍵に置き換えてみました。

 と言うのも、この世界の既存の鍵って、凄ぶる簡単な構造だから、鍵師でなくても構造さえ分かっていれば、力場(フィールド)魔法で開けられてしまえれる様な簡単なもの。

 私だったら、二つ合わせても一分も掛からず開けられる自信があるけど、これなら私でも無理だと言える。

 仕組み的には携帯(かまど)に使われている魔力の流れる量を一定にする魔法石の技術の応用。

 光石の九色に必要な魔力量に合わせた、小さな九種の魔法石。

 いくら魔力を流しても一定の魔力しか流れない性質を利用して、鍵の面に埋め込め、鍵本体側にも同じ配列に埋め込み、鍵と受け側の配列が合った時のみ解錠出来る仕組み。

 鍵はやや大きくなってしまったけど、六芒星を描くように配置した魔法石なので、九の六乗分ものパターンがあるので、通常の解錠技術では相当の時間を掛けなければ不可能に近いし、配置その物を変えれば、さらに複雑化する。


「あっ、今ぐらいでは、あまり乱れずに済むようになったわね」

「あれだけ普段から騒がしくされていたら、流石に慣れますわ」


 私が作業している後ろで、魔力の体内循環鍛錬をしていたジュリの成長ぶりに、素直に称賛の声をあげるのだけど、素直でない反応が返ってきてしまう。

 でも、ここ一月で、だいぶ滑らかに流れるようになってきたと思う。

 魔力の紐は、相変わらず丸太並みに分厚いけど、そこから溢れ落ちる魔力の粒子は減ってきている。

 こうして、魔力の体内循環鍛錬していても、……ジュリ、もう少し頑張ろうか。

 身体の前側は減ったと思ったら、背中側からは相変わらず只漏れじゃない。


「タガの緩んだ水桶じゃないんだから」

「普通は漏れる物ですわ」

「私は漏れないわよ」

普通(・・)の魔導士は漏れる物なんです」


 うん、偉く普通を強調する。

 前は自分は天才だと言わんばかりの態度だったのに。

 いった何が彼女を此処まで変えたのだろうか。

 あれはあれで、味のあるキャラだったのに。


「それでも漏れ過ぎ」


 今のジュリの漏れ出ている魔力を百だとしたら、他の学院生の魔導士の子達は五、六十ぐらい。

 普通の魔道士の方は直接会った事ないから分からないけど、コッフェルさんが六ぐらいかな。

 ……まぁ前が百三十ぐらいだったから、成長したと言えば成長しているのだけど、背中から只漏れしている分を身体の前ぐらいにすれば、七、八十ぐらいにはなるはず。


「魔法の実技での発動回数が増えている事を見ても、成果が出ているのは分かってるでしょう。

 その漏れさえ何とかするだけで、あの教官が何時か言っていた火炎魔法を百発どころか、倍の数だって簡単に達成できます」

「貴女は相変わらず問題外扱いされてますけどね」


 ジュリはそう言うけど、私はまったく気にしていない。

 あの教官に認められたいとは思わないし、認められたら認められたで碌な事にならなさそうだもの。

 それに、商会のヨハンさん達から私が魔法の実技講習を受けている事に、あまり良い顔をされていない。

 主な理由としては、戦災級の魔物の群れを単独で狩れる実力のある私には時間の無駄なので、その分を魔導具の開発か他の勉強に回して欲しいとのこと。

 あと、羊の群れの中に角狼(コルファー)がいるような物だから、想像するだけでも落ち着かないって、酷い想像だと思いません?

 狼や大狼でなく、魔物の角狼(コルファー)に例えるあたり悪意を感じる。

 大体、あの講義を受けたからこそ、魔力感知を身につける事ができたし、ジュリとも知り会えたのだもの。


「その分、体術の教官からは、少し体力がついてきたって、言われているから問題なし」


 何やかんやと、体術の教官は面倒見が良いと思う。

 私が未熟過ぎて、専門的な事を教えられない段階だから仕方ないけど、その分、体力と筋力の基本メニューは私が飽きないように、毎回きちんと考えてきてくれている。


「それはそうと、少しばかり貴女の変な噂を聞いたのだけど」

「ん? どんなの?」


 ヴィー達の事を勘違いした噂がまた流れたのかと思ったのだけど、どうやら私が男子学生達を誘惑して、玉の輿を狙っているとか。

 うん、前世が男の私が玉の輿を狙うだなんてありえないし、男子達を誘惑した覚えは欠片もない。

 そもそも、騎士団に入るために故郷に帰ったヴィー達や、早朝鍛錬で付き合ってもらっているアドルさん達はともかくとして、男子学生だと、座学の講義の合間に軽く話すぐらいでしかない。

 それ以外だと、商業の講義で商談や交渉の模擬練習の時に話すぐらい。

 私、基本的にボッチですからね。


「ないない。

 そもそもお互いに対象外でしょう。向こうも、私もね。

 こんな(なり)だし、平民だから物珍しがって話し掛けてくるだけよ」

「そう言えば、前にそんな事を言ってましたわね」

「そう、私は結婚なんて考えられない。

 男の人は嫌いと言う訳ではないけど、そう言う風にはどうしても見れないから」

「私は嫌いですけどね」


 ジュリは時折、エリシィーと同じ事を同じ表情で言う。

 物凄く暗い瞳をして、何かを言いたいのをグッと我慢している様な顔で……。

 でも、けっしてその理由を話そうとはしないし、私も人の事が言えないので聞こうとは思わない。

 彼女の心に、土足で踏み込む勇気が無いから。


「じゃあ向こうから話してくるんですの?」

「ええ、取り留めのない話ばかりだけど、話事態は面白いから、適当に楽しませてもらってはいるかな」

「……はぁ、……それが原因ね」

「別に普通に話しているだけだけど。

 そりゃあ偶に遊びに行かないかとか、食事に誘われるけど、そこまで付き合う義理はないから断ってはいるけど」

「……確定ね」


 ジュリ曰く、表向きには上位と中位貴族以上の子女のみが入る事が出来るこの学習院に、私みたいな平民がいるだけでも浮くのに、男子生徒と楽しそうに話しているだけで面白くないと思う人達がそれなりにいるらしく、中にはその誘いを断る事自体が不敬だとして許せないと思う人もいるらしい。


「うわぁ……面倒臭い人達」

「貴女も追い払うのが面倒だからって、適当に話を合わせているのが原因でしょ」

「バレてたか」

「流石にね。

 だって貴女、自分から話しかける性格じゃないでしょう。

 心をそれなりに許した人ぐらいでね」


 うーん……、別にそう言うつもりはないんだけど。

 話かけづらいのは確かかな。


「そのうちに嫌がらせとか始まるかもしれませんから、今のうち対処しておいた方が良いですわよ」

「あー、それなら結構前に、それらしい事はあったかな」

「え? な、なんで、その時に言ってくださらないんですか」


 ジュリは憤慨してくれるけど、実際には本当にたいした事ではない。

 別にロッカーとか置いてある荷物は無いので、そう言う関係の嫌がらせは不可能。

 この部屋も鍵を換えてからは、入られた様な形跡はないし、そもそも大切な物は全部収納の鞄か魔法の中なので、部屋の中には金目の物などないに等しい。

 よくあったのが、座学の時は座る場所が決まってはいないけど、同じ場所に座る事が多いので、席に着こうとした机に、口にするのも憚れるような言葉が大量に書かれていたり、ナイフか何かで傷だらけになっていたり、椅子がびしょびしょに濡れていたりしたぐらい。

 持っている鞄や着ている服には、汚れ防止の魔法が掛けてあるので、インクを掛けると言う類も意味はないし、そもそも身体を薄く覆うように結界を張っているので、直接的な嫌がらせは普通の人間には不可能。


「机や椅子だけでも大概だと思うのですけど」

「ジュリ、私は魔導士で魔導具師ですよ。

 そんな悪戯にもならない悪戯を、悪戯と認識すると思います?」


 ええ、落書きだろうが、滅多切りの傷だろうが机の損傷なんて、何もなかったようにするのに一分もいらない程。

 むしろ如何に綺麗に、まるでなにも無かったように見せるための、良い練習になります。

 水だって一瞬で蒸発させれますし、水以外だって粉になるまで蒸発させてやれば同じ事ですし、形状変化の魔法で移動までさせる練習にもなります。


「……嫌がらせのしがいがありませんわね」

「向こうもそう思ったのか、しばらくしたら無くなりましたね。

 如何に気付かれずに素早くやるかの練習でもあったのに、残念です」




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 そんな訳で次の一般社会学の講義の前に、いつもより少しだけ早めに行って席に座っていると、顔見知りの男子が数人話しかけてきたので、普段通りに適当に話を合わせながら談笑。

 いつもならこのまま講師が来るまで、面白い情報がないかなぁと思いながら彼等の話を聞いているのだけど、今日はちょっとだけ私からリアクション。


「私って一応は魔導士で、少しだけ魔導具も作れるんですけど」

「前にそう言う事を言っていたよね。

 君みたいな子が凄いと思って、できれば今度見せてくれないかな?」


 ええ、そのセリフを待ってました。

 言質を取ったとばかりに話を進め、収納の魔法から黒大理石でできた物を取り出す。

 形状としては、黒大理石の板に、太くて長い円柱が飛び出た物。

 それを敢えて、部屋にいる人達にも見える場所に置いて見せる。


「今のが収納の魔法で、ああやって物を入れておける魔法なんですけど、他にも魔導士で無くても使い手の多い身体強化で」


 ゴキッ!


 身体強化を掛けた右手で、黒大理石の板から黒い円柱部分を、魔力任せに根元から引き千切る。


「それでこれ、一応は大理石で出来ているんですけど、魔法でこんな感じに」


 ヒュオッ!


 引きちぎった黒い棒状と化した大理石を、力場(フィールド)魔法で少しだけ宙に浮かせ、【風】属性の魔法で四つに輪切り。

 

 ギョリリッ!


 ついでとばかりに、それを両手の間に作った結界球の中で、粉になるまで圧力を掛けてやる。


「こんな粉になっても、魔導具を作る時の基礎魔法を応用すれば、こんな感じにできます」


 形状変化の魔法で、引き千切った痕のある大理石の板は、ただの大理石の板に。

 そして粉になった円柱状の大理石は、元通りの円柱状に。

 はい、黒大理石製のコネ台と伸ばし棒の完成です。


「「「「は…、はは……」」」」


 まぁ今のがナニ(・・)を例えていたかは、男子生徒諸君の血の気が引いた顔や、思わずガードした手の位置を見れば、理解して戴けただろうと思う。

 後は仕上げに、後ろの方で此方を見ていられる、女子生徒の皆さんに、にっこりと微笑んで見せる。

 私から、そう言うつもりは欠片もありませんよ、と言うアピールです。

 これでも、まだ私に話し掛けてくるようなら、それは純粋な知り合いとしてでしょうから、私も邪険に扱う気はありませんし、それでもくだらない噂を広げるのなら分かってますよね、と言う意味。




 はぁ、こんなエグイ作戦、ジュリもよくも思いつくものです。

 男性に何か恨みでもあるんでしょうか?






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