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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
142/977

142.高級店だったんですね。知りませんでした。

七夕なので、本日だけ、七月七日七時に投稿。





「あー、すみません。

 一見さんお断りの店と言う事を忘れていました」

「そう言う事でしたら、別に良いですけど。

 彼処って、確か王国南西部で一番有名な魔導具師のお店、と言う噂を聞いた事がありますけど、どう言ったお知り合いなのかの方が気になりますわ」

「一番頑固で、偏屈な人のお店って事ですよね?」

「一番優れた魔導具を置く高級店としてです!

 どんな一番だと思っているんですか!」


 商会に行った翌々日に顔を出したジュリに、案の定の展開があったみたいなので、まず謝罪をするのだけど、別の意味で怒られてしまう。

 あと、どう言った知り合いも何も、元々はお肉屋さんの紹介でしかないのだけど、今はそれなりの付き合いのある人ではあるかな、大変に困った人でもあるのだけどね。

 時間があるのなら、今からさっさと行ってしまいましょうか?




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「おう、嬢ちゃんか。

 またガミガミと言いに来たとか言わねえだろうな?」

「ガミガミと言われる覚えが、まだあるんですか?」

「んなもん最初からねえってんだ」

「いろいろと手順をスッ飛ばすからです」


 まったく、あれだけ話し合ったのに、少しも反省してくれません。

 コッフェルさんはコッフェルさんで信念があってやった事ですから、そう簡単には折れないとは思ってはいましたけど、こうも平気な顔をされると溜め息が出ざるを得ない。


「ん? そっちの嬢ちゃんは、確かこの間の」

「先日は紹介も無しに失礼しました」

「おう、アレはコッチの嬢ちゃんが悪い。

 俺も信念を持ってこの店を開いている以上、一応は筋を通すべきだからな」

「此処が一見さんお断りの店だって事を、すっかりと忘れてました」

「テメエぐれえだ、此処でそこまで図々しいのは」


 ジュリをコッフェルさんに学友と言う事で紹介してから、このお店のルールを忘れていた事を謝罪しておく。

 えー、しておくので銀貨一枚は勘弁してあげてくださいね。

 あっ、今日限りなら、私の知り合いって事で問題なしと。

 じゃあせめてのお礼に洗い物しますね。

 どうせ溜め込んでいるでしょうし。


「嬢ちゃんから話は聞いている。

 魔力制御の鍛錬に使う光石だったな」

「ええ、できれば十個ほど欲しいのですが」

「銀貨一枚だ」

「え? その、価格だと」

「ふん、今の相場はどうせにわか相場だ。

 俺ん所はそんな物は関係ねえし、在庫も豊富だ。

 嬢ちゃんが世話になっているなら、この程度の物を売る事に問題はねえ」


 洗浄魔法で溜まっている洗い物をしていると、そんな話し声が聞こえてくる。

 この店はかなり殿様商売で、売るか売らないかは店主であるコッフェルさんが決めており、気に入らない客には幾ら積まれても売らないのが、コッフェルさんの商売スタイル。

 コッフェルさん曰く、腕の未熟な人間や、胡散臭い人間には売らないだけらしいですけど、その基準で言えば、ジュリは未熟な人間に部類するはずなのに、口は悪いけど相変わらずコッフェルさんは、なんやかんやと優しい人だと思う。

 よし、洗い物終了。

 台所に残っていた生ゴミは、結界に包んでから灰も残らない温度で焼却。


「作り置きですけど、夕食を置いておきましたので、忘れず食べてくださいね」

「いつも悪いな」

「いい加減に人を雇ったらどうです?」

「ふん、一人者の気楽さが良いんだよ、嬢ちゃんには分からねえだろうがな」


 全くもうこの人はと思いつつも、幾ら魔導師がボケにくいと言われているからって、限界があると思うんですけどね。

 あと十年ぐらいは、余裕で大丈夫だとは思いますけど、それはきちんとした食生活さえしていればだと思う。


「はぁ、コッフェルさんの老後を面倒みないといけないのかと思うと、気が重くなります」

「んなもん、誰がさせるかっ!

 老後の事なんぞ、とっくに手は打ってあるわ」

「あっ、一応は自覚があったんですね」

「オメエなぁ…」


 どんな手を打ってあるかは知らないけど、今度ライラさんかラフェルさんあたりに聞いておこう。


「えーと、お二人は御親族か、御師弟の間柄で?」

「この人と親族って……流石にそれは」

「それは俺のセリフだっ。

 オメエみてえな可愛げの無い奴、誰も弟子に取りたがるものか」


 ジュリの言葉に、流石に眉を顰めてしまう。

 ええ、ライラさんとラフェルさんには申し訳ないですけど。

 此処まで人騒がせな人と、親族と言うのは出来れば全力で遠慮願いたい。


「あのなぁ、そこの嬢ちゃん。

 コイツとは腐れ縁の仕事仲間だ」

「仕事…、仲間…、ですか?」

「なんだ、嬢ちゃん知らなかったのか?

 コイツ、こんなチンチクリンだが、魔導具師としても結構稼いでいるぞ」

「チンチクリンは余分です。

 あと別に態々言う事ではなかったので、言ってないだけです」


 この人はチンチクリンだのヘンテコだの。

 よくもまぁ、平気でそんな言葉が出てくるものです。


「しかし、ごく普通の魔導士見習いの嬢ちゃんを見ると、ホッとするねえ」

「私がごく普通じゃないみたいに聞こえますが?」

「嬢ちゃん、毎朝ちゃんと鏡見ているか?」

「酷っ! 流石に身体的特徴を言うのは反則です!」

「そっちじゃねえわ!

 今のは俺が悪かったが、普通じゃない自分を自覚しろって意味だ!」


 ええ、知っています。

 毎朝鏡を見ているかと言うのは、この世界の諺で、自分を見直してみろと言う意味ですからね。

 知らない訳ないじゃないですか、知っていて自虐ネタを振っただけです。

 あれ? どうしたんです盛大に溜め息を吐いて。


「……なぁそっちの嬢ちゃん、この嬢ちゃん、普通に見えねえよな?」

「色々な意味で個性的なのは確かですね。

 魔法の使い方は確実に変ですが」

「ジュリまでっ!」


 せっかく此処を紹介したと言うのに酷い裏切りである。

 今度の夕食にはジュリの嫌いなピーマンを使ってあげますね。

 ジュリでも食べられるようなピーマン料理ってあると思うんですよ。


「そのう……、失礼ですが私って普通ですか?」

「ああ? 普通だな。

 確かに魔力はかなり強えようだが、それだけだ。

 まぁ、それ以外は年相応とも言うな、せいぜい精進するこったな」


 ああぁ、ジュリがショックを受けている。

 コッフェルさん酷いですよ、ジュリは此れでも学院では有望株なんですから、そんなふうに言われたら、ショックを受けるじゃないですか。


「魔力の波を見る限り、現場では使い物にならんレベルだ。

 幾ら才能があろうが、見習いの中で優秀だろうが、現場で使い物にならねえ限りは俺からすれば評価外でしかねえ」

「言い方っ!

 私と違ってジュリは繊細なんですから、もう少しなんとかしてください!」

「おう、自分が図太い事を自覚してたか」

「何を今更、図太い事は否定した事はないですよ。

 一応は、かよわい女の子ですよ、とは言ってましたけど」

「ぐっ、コイツは」


 よし、今日も言い合いに勝ちました。

 これで勝率七割を超えたはずです。


「まあいい、そこの嬢ちゃん。

 まともな魔導士になりたきゃ、この嬢ちゃんに魔力制御を鍛えてもらうんだな。

 今のままじゃ、使い捨ての魔導士にされるのが落ちだぞ」


 コッフェルさん曰く、魔力が強いけど、そこそこ程度の腕しか持たない魔導士は、いざと言う時に使い捨てにされる事があるそうです。

 より多くの兵を生かすために、そう言う役目を押し付けられる事が。

 数十の兵達より、魔導士一人を脅威と感じる魔物が、まず排除する相手と認識する習性を利用して。

 ましてや女性魔導士は、男性魔導士より、そう言う役割を命じられる可能性が高いと。

 他にも……、肉食性の魔物の大半が、柔らかい肉を好む事から。


「魔力が強えからこそ、馬鹿が指揮をすると戦力を見誤って、その責任を押し付けるんだよ。

 逆に普通ぐらいなら、そんな事は滅多にねえんだがな。

 幾らか生き残るか、全滅するかってだけでな」






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