表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
141/977

141.私、魔物じゃないですから、その見解には異議があります!

おかげさまで、前話が【日間恋愛異世界転生/転移ランキングBEST300】に入りました。

応援してくださった皆様のおかげです。ありがとうございます。

また、溜まっていた誤字脱字修正をいたしました。

いつもご報告ありがとうございます。





「なにか、本題に入る前に酷く疲れた気がします」

「その気持ち、よく分かります。……多分、嫌でもその内に慣れるかと思います」


 ヨハンさんの同情の目というのか、哀れみの目というのか、むしろ同類を歓迎する様な目にも見える気がするのは気のせいでしょうか?

 とりあえずコッフェルさんとは一度、徹底してお話しですね。

 やりたい事は分かりますが、本人の了承を取らずに、色々と裏で手を回しすぎです。

 この間の様に一刻程度で終わらせてはあげません。

 え? しますよお説教。 当然じゃないですか。

 必要なら実力行使も覚悟です。

 とにかく、此処であの人の事を、これ以上話題にあげても終わりませんから、話を切り替えましょう。


「今日、私が此方に来たのは、私がお世話になっている学院の書籍棟の管理者から、仕事の依頼がありましたが、双方にとって潤滑に話を進めるため、此方の商会の名と顔をお貸し戴こうかと思い立ったからです」


 いくら私が魔導具師だと言っても、やはり未成年である私では説得力がない。

 ヴィーのおかげでドゥドルク様の名が出たので、それなりに話は進みやすいとは判断しているけど、やはりもっと説得力のある仲介人がいた方が、向こうも安心するだろうとも思っている。

 そこで何時かのコッフェルさんの言葉を思い出して、商会の名を利用出来るのならばと考え、挨拶がてらに来たのだけど、とんだ寄り道が待っていた訳で。


「そういう事であれば幾らでもお使いください。

 そのための商会ですから」


 ええ、大変にありがたい言葉です。

 それで、いくつかの意匠図とサンプルの五連の砂時計を机の上に置く。


「最終的な意匠や大きさは先方が決めるとしまして、まずはこう言った様な物を作るという事で御認識ください」

「ああ、此れですか。

 いえ、時が過ぎ去ったのを知らせる魔導具で、商会長の屋敷で、少しばかり悶着があったと聞いていますので」

「えーと、何か問題があったのですか?」

「お嬢さんが気にする様な事ではありません。

 ごく家庭内の問題なので、…まぁ取り合いが発生したとだけ」


 良い事と思う事にしよう。

 貴族の揉め事に拘っても碌な事はなさそうだし。

 そうそうドゥドルク様と言えば、ついでなのでお願いしておこう。


「今回の件もそうなのですが、書籍棟にしろ、ドゥドルク様の執務室にしろ、それだけの格式に相応しい物となると、私では知識も力も不足しておりますので、何方か良い職人を紹介して戴けたらと思います」

「やはりその辺りは、その道の専用の職人に勝る物はありませんからね。

 此方の方で、腕の良い職人と工房を紹介させて戴きます」


 ついでに工房街を案内してくださると、ええ、それは楽しみです。

 携帯(かまど)の時は、思い出したくもない一件のおかげで、碌に工房を回る事もできませんでしたから。

 あっ、言わないでくださいね、恥ずかしすぎて思い出したくもないんですから。

 名誉なんてとんでもない。名誉か恥かで言ったら、零対百で恥です。

 ええ無断です。私の意思ではないです。しかもドゥドルク様を巻き込んでまでの悪戯です。


「先方との打ち合わせの日を決めた後、お嬢さんの方にお知らせする様に手配します」


 ええ、よろしくお願いします。

 そう言えば、ヨハンさんは言わないんですね?

 いえ、先ほど剣を握ると言っていましたので、私、大抵はそう言った方々には勿体ないとか馬鹿な道をとか言われているので。


「ああ、その件ですか。

 優秀な魔導士には魔物の討伐を、確かにそう言った考えが無いと言えば嘘になりますが、主観の違いですね。

 お嬢さんの場合、放っておいても趣味で魔物を狩られるので、そういう考え自体が該当しないと思っていますから」

「それは誤解です。

 美味しいお肉の魔物は別ですけど、私、自ら魔物を狩りに行く事はあまりないですよ。

 大抵は襲われて仕方がなくです」

「では、なぜ魔物が出る様な山奥まで?」

「未踏地って、いっぱい美味しい食べ物が採れるんですよね。

 動物も山の恵みも」


 ええ、しかも効率よく採れるんです。

 採り過ぎる心配もあまりないですし、誰かに採られてしまう心配も少ないです。

 邪魔してくる魔物は追い払うか、狩っちゃえば良いだけなので。


「……コッフェル殿が、ヘンテコなお嬢さんだという意味が、よ〜く分かりました」

「が〜〜んっ! 初対面の人にまで言われた!」


 私そんなヘンテコぶり見せましたか?

 それほどヘンテコ呼ばわりする様な事をした記憶ありませんよ。

 ……結構していると。

 えーと、どの辺りです?

 ……ほぼ全部って、笑っていう事じゃないです。

 すぐに、皆んなしてそう揶揄(からか)うんですから。

 ……揶揄(からか)っているのは事実だけど、ヘンテコも事実と。

 酷いっ!




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

【ヨハン・コットウ視点】



「……ふぅ〜」


 客人を見送った後、深く椅子に座り大きく息を吐き出す。

 そこへ見計らった様に、廊下を歩く音が響いた後に、ノックもせずに見知った顔が部屋に入ってくる。


「お客さんは帰った様だが、印象はどうだった?」


 アルフォンス・レギット、現役時代からの同僚だが、互いに法衣伯爵家の次男だった事もあって気が合い、友人と呼べる間柄ではあるが、何の因果かこうして再び同僚として働く羽目になるとは、商会の話が持ち込まれる前には思ってもいなかった事。

 かつての上司であり領主でもある人間から、力を貸せと言われて、半ば強制的にこの男と共に商会を立ち上げさせられたが、その原因となった片割れが、今しがた帰った所だから気にはなるのだろうな。


「多少騒がしくはあるが、表面的には見た目通りの優しいお嬢さんだ」

「ほう、そのわりには酷く疲れた顔をしているが」


 疲れもするさ………。

 あの糞爺め、ほぼ何も話さずにあの少女を此処にやったのだからな。

 現状を説明するのに、冷や汗ぐらい掻くというもの。

 いくら恩もあり尊敬もしているが、竜を扱う様に扱えと言われて、疲れない訳がないし、そんな事を言われれば恨み言の一つも言いたくもなる。


「見た目通りの中身ではないのは確かだな」

「あの爺いが入れ込み、ドゥドルク様が力を貸すんだ、そうでなければ俺達は只の道化だ」


 少し話しただけだが、頭の回転の速さと察っしの良さは、あの年齢にしては良すぎると言える。

 受け答えに関しても、田舎の男爵家の者が受けられる程度の教育で得られる物ではない。

 むしろ年相応に見える部分がなければ、話していて未成年の子供である事を忘れそうになるほど。


「年齢や出身を考慮しなければ優秀ではあるが、今は(・・)それだけとも言える。

 基本的には善良なお嬢さんだ」

「基本でない部分は?」

「聞いている通り化け物だな」


 大凡あの少女の見た目と、心優しい性格からは正反対と思える言葉。

 正直、それがあの少女への俺の印象だ。

 むろん、それがあの少女の魅力を削ぐ様な物ではないと判断もしているが、それを忘れてはいけないと、戦場や諜報部で培った俺の勘がそう言っている。

 

 ぱさっ。


 目の前の男、アルの座る前の机に一対の靴下を投げ置いて、少女が目の前であっという間に新商品を作り出した事を話してやる。

 滑り止めの加工だけでなく、靴下そのものも、生地から形状変化の魔法で作り出した事を。


「はぁ? 冗談だろ?」


 俺も目の前で、その光景を見せられていなかったら、きっとそう返答していただろうな。それくらい、生地の形状変化は難しく、あくまで理論上の技術でしかない事を知っているからだ。

 俺もアルも前線を退いた後は、魔導具の武具関連の管理部門を経てから諜報部に回ったから、それ相応の知識はある。

 しかも履き心地を確かめている間に、もう一足分を作られたから、まぐれだと言う線はない。

 まぁ疑うんなら、履いて確かめてみれば良い。

 効果も素晴らしいぞ。

 

「それは良いが、何か生暖かいんだが?」

「ああ、さっきまで履いていたからな」

「もう一足の方を渡せっての」

「商品見本だからな。未使用の方が良かろう?」

「ちっ、正論だな」


 ブツブツと文句を言いながらも、履き心地を確かめる同僚を他所に、少女がここ数ヶ月で開発したであろう魔導具やその関連の数と、目の前で思い付いたとばかりに、新たに滑り止めの靴下を作り出す少女の姿に、コッフェル殿の助言通りに少女は放っておくのが一番と言う事に納得ができるし、正直、その方がありがたい。


「あのお嬢さん、美味しい物が、たくさん採れるからだそうだ」

「ん、何がだ?」

「魔物がよく出る領域に、趣味の狩猟や採取に行く理由がさ」

「頭が、おかしいとしか思えねえんだが」


 普通ならその反応が普通だ。

 だがあの少女にとって、近くに裏山に行く気分でしかないのだろう。

 それを言うだけの実力があるのに、その事を自覚している様子がないのは、ある意味当然だろう。

 彼女にとっては、それが当たり前の範疇なのだからな。


「そうなると、量産向けの試験用の試作品だったとは言え、新式の剣や投擲ナイフを、あっさりと盾の魔法で防いだって言う報告は、本当と見るべきか」

「だろうな」


 並の魔導士の盾の魔法ぐらいなら、あっさりと貫く程の性能がある新式の武具だが、あのお嬢さんにとっては、想定内の威力でしかないようだ。

 実際、コッフェル殿の言葉が確かなら、一番最初の試作品、あのお嬢さんが作ったと言う一番強力な威力を放つ物でさえ、あのお嬢さんが常時張っている結界を貫く事が出来なかったそうだからな。

 そこまで盾の魔法を使いこなす者でなければ、鋼鉄の盾すら紙の様に切り裂く剣牙風虎サーベル・ウィンド・タイガーの爪や、巨岩をも切り裂く深緑王河蟹(エメラルド・クラブ)の水攻撃を防げる訳がない。

 そう言う与太話とも思える話に加え、先日持ち込まれた大量の角狼(コルファー)の遺骸。

 どれも見事なまでに頭部の一部を破壊しており、そうで無い物も素材として必要な部位には何処にも傷はない。

 そんな物を見せられては、彼女の実力を信じざるを得ない。

 彼女の気分一つで、その力が此方に向くかもしれないと思うと、竜を扱う様に扱えと言うコッフェル殿の言葉は正しいとしか言えん。

 まぁ幸いにしてあのお嬢さんは、何処かの二人と違って、良識ある部類の人間の様だから、味方でいる内は大丈夫ではあるだろうし、あのお嬢さん自身、良識的な友好関係を望んでいる様子。


「だがまぁ、あのお嬢さんは、魔導具を作っていた方が似合うと言う意見には賛同だな」


 実に生き生きした顔で魔導具の話をしたり、工房や職人の作業を見学する事を楽しみそうにしている少女の姿は、本当に微笑ましいと言えた。

 本当に物を作ったり、誰かの役に立つ物を作り出すことが好きなのだろう。

 その小さな身体に秘めた実力を思えば、酷くチグハグで老人の言葉を借りるならヘンテコな少女ではあるがな。

 

「まぁお前さんがそう判断したのなら、俺等は仕事をするだけだ。

 奴等、早速、探りを入れにこの街に入り込んだ様だぞ。

 まだ様子見レベルだがな」


 まだ世間に出てはいないと言っても、アレだけの魔導具が、こうも立て続けだ。

 速いだろうと思っていたが早速か。


「保護対象の監視と護衛を怠るな」

「肝心のあの子の監視が、一番薄いと言うのが笑える事実だな」


 その監視も、あの少女を監視しようとする者の監視なのだから、確かに普通ならばあり得ない布陣だ。


「魔導士を相手に、まともに攻める馬鹿はおるまい」


 魔導士を倒すのには不意打ちをするか、同じ魔導士をぶつけるのが常套手段だ。

 並の魔導士でも戦力比で言えば、魔導士一に対して一般兵二十と言われている。

 魔導士同士の戦いとなれば不意打ちは難しく、派手な戦闘になるため街中ではそうそう事が起こしにくい。

 たまに酔っ払ってと言う事はあるが、まず間違いなく面と身元が割れる。

 そして不意打ちや闇討ちに関しては、少女が住んでいる場所的にも襲撃しにくいと言う点もあるが、コッフェル殿曰く、信じられない事に常時三枚の結界を張っているらしい。


 彼女自身、狙われる事を覚悟した上での事だと理解して。






 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

【その頃、ある店内での出来事】



「嬢ちゃん、もう勘弁してくれや」

「いいえ、今日こそは、しっかり話し合いましょう。

 なんで何時も何時も、裏からコッソリとやるんですか」

「そりゃあ嬢ちゃんが嫌がるからだろうと」

「人が嫌がる事をこっそり、やったら怒られるのも当然でしょう!

 済んでしまった事は仕方ないですが、反省と今後のことを考えて、一つ一つ、きちんと話し合いましょう」







明日は七夕なので、朝七時に投稿予定です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ