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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
138/977

138.あなたとの思い出は、とにかく美味しかったわ。





「いらっしゃーい。

 ゆうちゃん、色々と聞いてるわよぉ〜」


 十日ぶりぐらいに会うライラさんは相変わらず綺麗で、私に向けてくれる笑みは凄く嬉しいと感じてしまうのだけど……。


「それはそうと、色々ってなんですか?」

「色々は色々よ。

 言うなれば、ゆうちゃんの活躍の類ってやつかな」

「凄く気になる言い方なんですが」

「うーん、全般的には良い事ばかりよ」


 全般的でないのなら、良い事ではない事もあると言う事ですよね。

 言われなくても、幾つかは身に覚えがあるので、それ以上は突っ込みませんが。

 そう言えば、例の下着関係ですけど、何か変わった事はありませんでしたか?

 いえ使い心地でなくて、お店の方とかの対応とかで。

 はぁ、特に気がついた事はないと。

 いえ、どうもコッフェルさんと言うか、関連の商会が無茶をやったみたいなので、気になって何か聞いていないかなぁと思いまして。


「大丈夫よ。

 あの人自身は無茶苦茶だけど、そう言う事にかけては慎重で隙のない人だから。

 逆に言うと身内と認識した以外の人達に関しては、言動はともかくとして、表向きには結果を残しているのよね」

「……ある意味、性質(たち)が悪いですね」

「そうなのよね。身内が幾らそれが事実であろうと悪口を言っても、社会的信用だけはあるから、此方の言う事は信用されないのよね」


 本当に性質(たち)が悪い。

 なのにある意味コッフェルさんらしいと思うと、納得できてしまうから余計に腹が立つ訳ですよね。

 基本的には良い人なのは、間違い無いんですけどね。

 言動がアレなだけで。


「「……はぁ」」


 ええ、お互いに溜め息が出ます。

 そう言う意味では、コッフェルさんに身内と判断されている事に、素直に喜んで良いのか、それとも嘆くべき事なのかは、少しだけ迷ってしまう。


「まぁあの爺いのアレなところは諦めるとして、お茶でも飲んでく?」

「ええ、できれば久しぶりに、ライラさんと話したいです。

 たくさん話したい事もありますから」

「そう、私もゆうちゃんの話聞きたいかな」


 と、その前に、本題を済ませておきましょう。

 ええ、本だけに。


「……ゆうちゃん、今のはあんまりよ」


 そう思うならスルーしてください。

 なんなら、このまま持ち帰ります。


「冗談よ、冗談。

 ゆうちゃんの本、多くの人が楽しみにしているんだから」

「残念、実は今日は全く違う種類の本です」


 そう言って私が収納の魔法から取り出したのは、何時もの本よりも倍以上もある大きさの本。

 一応、それでも本の大きさとしては、よくある大きさの部類。

 冊数も、印刷である事を誤魔化すために、少なめにしてある。

 

「まずは、この最初の一冊はライラさんに受け取ってもらいたくて」


 ライラさんに渡した一冊は、原書中の原書で、ぜひともライラさんに受け取ってもらいたい物。

 そしてその中身は、ライラさんとの思い出の数々。

 半年にも満たなかったけど、ライラさんとの楽しかった日々。

 おそらく私の中で一生残るであろう日々の一部が、書き記された本。

 それを書き記して、ライラさんに渡したかった。


「これって」

「ええ、ここで一緒に食べた料理のレシピの数々です」


 少しだけそれ以外も入ってはいるけど、基本的には今言った通りのもの。

 料理が少しだけ苦手なライラさんの力になれたらと、日々書き溜めていた物を整理した物です。


「あなたって子は」

「ああ、ライラさん、私、別に泣かせたいわけでは」

「いいのよ。こう言うのは。

 もう、本当にこの子は、もう……」


 カウンター越しに私を抱きしめ、涙声混じりに、私のお礼の言葉を言ってくるライラさんを、私もぎゅっと抱きしめる。

 ライラさんと過ごした日々を抱きしめる様に。

 滲む視界をよそに、ライラさんの温もりを感じながら、愛しき日々を抱きしめる。

 だって、ライラさんの優しさがあったからこそ、私の今があるのだから。


「本当に、もしゆうちゃんが男だったら、惚れてたわよね」

「式を予定にしている人間の言葉じゃ無いですよ」

「いいのよ、もしもの話だし、あの人もゆうちゃんを相手に嫉妬なんてしないわよ。

 むしろ嫉妬するぐらいなら、ゆうちゃんを超えてみなさいと嗾けてやるわ」


 そんな事を言いながらも、きっとこの後で延々と惚気話が始まるんだろうなと、その事をこっそりと覚悟しておく。


「でも真面目な話、ゆうちゃんが男だったら、物凄い優良物件よね。

 狩猟の腕はもちろん、魔導士で、魔導具師としても才能豊か、どう転んでも一生御飯に困る事はないわよね。

 しかも家事も上手くて、面倒くさいと言いながらもこまめで気が利くし、子供も好きみたいだしね」


 そう言えば、前世でも似た様な事を言われたなぁ。

 結局は、隙がなさ過ぎてつまらない男、とか言われて散々だったけど。

 他の男の所に走った彼女の言い訳を信じるなら、何でも自分より出来て、それがプレッシャーだったとか。

 当時の私としては、彼女の期待に応えたかったのと、彼女の笑顔が見たかっただけの結果だっただけに、随分と落ち込んだ覚えがある。


「あの人も、もう少し気が利くと素直に甘えれるのに。

 ゆうちゃんもそう思わない?」


 結局、その後は文句を言いながらも、彼氏さんの惚気話が延々と続くのだけど、すいません、ライラさんの旦那様になる予定の人、未だに一度も見た事もないんですが。

 ええ、紹介された事ないですよ。

 いえいえ、無理に時間を作らなくてもいいですよ。

 私としてはライラさんを幸せにしてくれる人なら、それだけで十分です。

 えっ、だって、私の方が嫉妬してしまいそうですもの。


「もう、ゆうちゃん可愛い〜。

 私がゆうちゃんをお嫁にもらいたいぐらいだわ」

「うぷっ ライラさん、胸が… 息が…」


 ええ、ライラさんの凶悪な胸に鼻と口が塞がれて、意識が遠くなりかけます。

 しっかりと固定されている分、両腕で固定されたら逃げ場がないです。

 新しい下着のおかげで、肩こりが減ったと。

 窒息しかけた身としては、返答し辛いのですが。


「でも真面目な話、彼、今忙しいみたいなのよ。

 大口の注文が入っているらしく、夏に入る前には納めないといけないんですって」

「ふーん、大変なんですね」

「上手くいけば、もっと大口の契約になるらしいから、今が頑張りどきらしいわ」

「じゃあライラさん、ここは美味しい料理の差し入れでも」

「え〜〜、でも、あまり仕事の邪魔をするのもね」

「いえいえ、片手で摘まめる物で、日持ちする物なら喜ばれやすいですよ」

「なるほど、流石はゆうちゃん。

 それでお勧めは?」


 ここは良いお嫁さんである事を、アピールする絶好の機会とばかりに、本に書いたページをめくり、さらに口頭で簡単なアレンジポイントを伝える。

 ええ、下手にオリジナル要素を入れるより、あくまで基本に則った料理の方が失敗はないです。

 式を上げる前に、伝説は作りたくはないですよね?

 冒険心は、一人の時だけか、結婚後にお二人の時だけにしておきましょう。

 相手の家族を巻き込むのは悪手です。


「……ゆうちゃん、遠回しに私の料理の腕信じてないでしょ」

「いえいえ、信じているからこその助言です」

「……何気に酷いわね」






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