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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
137/977

137.愛人へのお誘い? そんな相手はドブ川を見る目で見ますよ。





「はぁはぁ……」


 送別会の翌日。

 ヴィー達は、おそらく今頃はこの街での最後の食事をして、出立の準備に忙しくしていると思われる頃、私は例によって、自分の体力の無さを恨めしく思いながらも、なんとか今日も早朝鍛錬を乗り切れた事に、僅かな達成感に満足して緑の絨毯に寝転がっている。

 体力が尽きて倒れた、とも言いますけどね。


「はぁはぁ、……まだ、全部は…、はぁはぁ…、無理……て…言ったのに、はぁはぁ…」


 鬼教官達です。

 ……え? 早く体力つけて、時間的余裕ができた分、自分達の相手ができる様になって欲しいって。

 無理に決まっているじゃないですか。

 私なんて体力つけたって、瞬殺ですよ瞬殺。

 別口で魔法有りで相手にして欲しいって、……自殺志願ですか?

 ああ、身体強化のみですか。

 体力をつけた時の練習にもなるからと、そう言う事なら良いですけど。

 何時ぞやみたいに寸止め出来ずに、あらぬ方向に曲がってしまいました、とかは勘弁してくださいね。

 あっ、最低限の防御魔法は良いと。

 それって寸止めなしで、私を袋叩き前提での話とも取れるんですけど?

 万が一用って、……せめてヴィー達みたいに絶対の自信があるとか言って欲しいものです。

 ヴィー達と比較するなって、すみません。

 いきなり騎士団に入れるって事は、家柄もそうですけど、相当な実力がないと無理ですからね。

 世間の常識的にはですが、何事にも例外はありますけど。


「それにしてもユゥーリィ、もったいなかったんじゃない?」

「そうそう、せっかくのチャンスだったのに」

「…ん? 何がです」


 セレナとラキアに言葉に首を傾げざるを得ない。

 もったいないも、チャンスも思い当たる節がない。

 ああ、騎士団への見学の件ですか。


「……見学って」

「……分かってなかっただけなのね」

「分かってないって、何がです?」


 セレナとラキア曰く。

 あの場合の騎士団への見学に誘うと言うのは、一緒に王都に行きましょうと言う意味で、言うなればプロポーズらしい。

 うん、ないないっ。

 相手はかなり上位の公爵家か侯爵家の子息ですよ。

 私みたいな庶民相手にあり得ない話ですし、ヴィー達だって家的にそんな事が許されないって分かっているはずです。

 だから、アレは言葉通りの見学のお誘いですよ。

 ほら私って魔導具とか興味あるから、騎士団の使っている魔導具を見せてあげると言う意味だと思います。


「そりゃ確かに身分を考えれば、妻はもちろん側室さえ無理だろうけど、ほら愛人とかある訳だし、ある意味、家とは関係なしに愛される存在って事でしょ」

「それこそあり得ませんよ、私みたいな子供相手にね。

 それに、もしもそうなら、私、心底ヴィーを軽蔑しますから」


 だって、愛人って事は奥さんがいるのに浮気をすると言う事でしょ、

 しかも、この世界の貴族の男性の愛人と言うのは、いつでも切り離しの可能で何ら責任を取る必要のない都合の良い女って事でもある。

 そもそも中身が男である私が、ヴィーをそう言う対象で見る事はないし、応える事は最初からあり得ない。

 むしろ、そんな愛人なんて不遇な立場へと誘っていたとしたら、短いながらも彼と拳を交えて築いた友情は、綺麗さっぱりに忘れる事にする。


「大体、彼の立場なら、それこそ選り取り見取りだと思いますよ。

 家柄もそうでしょうけど、何処の騎士団か知らないですけど、世間的には花形職ですし、むしろ周りが放っておかないんじゃないですかね。

 だから、私なんて問題ありあり物件、あり得ません」


 前世でもそうだけど、私にとって基本的に多恋愛はあり得ない。

 当時の彼女はともかくとして、少なくても私はそうだった。

 今世において、貴族の男性が複数の妻を娶る事は仕方ないと思うし、妻と言う立場を与える事で夫である男性は、基本的に生涯責任を負う事になる。

 故にこの世界の貴族の男性は、こと妻に関しては、けっして無責任な事が許されないと言う側面もある反面、慰謝料さえ払えば、何とでもなる愛人の存在も認められている。

 だからこそ、せめて誰かを愛しているのなら、二人目だろうが三人目だろうが、ちゃんと娶るべきだと私は思う。

 そういう意味では、伯爵家でありながらも、男爵家の次女を正妻として娶ろうとした、何処かの変態幼女愛好家の方が、まだ漢らしいと言える。

 だからと言って受ける気など欠片も無いどころか、全力でお断りではあるけどね。

 少なくとも私はヴィーがそんな無責任な人間には思えない。

 だから、ヴィーが私にプロポーズをしたと言うのは二人の勘違いだし、私もそんな気は欠片もない。

 ええ、男が相手だなんて冗談じゃないです。


「ユゥーリィってそっちの人なのかな?」

「もしそうなら、兄さんお気の毒としか」


 何か二人が言っている様だけど、いまいち聞き取れなかった。

 聞き直してみると、なんでもないと言われるのだけど、……何かそう言う事を言われると余計に気になるのは、人の(さが)なんでしょうね。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「それで、今日はいつにも増して豪華なのね」

「基本的に余り物ばかりですけどね」


 ジュリの言葉に、少しだけ申し訳なく言う。

 お土産用のソーセージとベーコンは、別途に用意してあったと言うのもあるけど、いくら皆んなが若い胃袋の持ち主と言っても、私もそのつもりで用意したため、それなりに余り物が出てしまう。

 流石に串カツとかは持ち帰りやすいだけに売り切れたけど、大鍋で煮たモツ煮やその他はそこそこ残ってしまい、私一人では食べ切るのに数日掛かりになる。

 いくら収納の魔法があるからと言って、同じ物ばかりは食べたくないので、大飯食らいのジュリが来てくれて助かりました。

 いえいえ、ジュリは同年代の女の子に比べて、少しだけ多いだけですよ。

 ほら私とは体格の違いもあるし、それくらいは普通だと思います。

 ただ身体が小さくて食の細い私が食べれる量に比べると、どう見ても三倍はあるので、自然とそう見えてしまうだけです。


「もう、すぐそうやって揶揄(からか)うんですから。

 と言いながら、お肉をこっそりと増やさないでください。

 私だって食べ過ぎには気をつけているんですから」

「魔導士は肥満になりにくいらしいですけど?」

「そんなの迷信です。食べ過ぎれば太るんです」

「少し処分を手伝ってもらおうと」

「その一切れまでですわよ」


 うん、なんやかんやと言って、ジュリは人が良いと思う。

 口調と態度はアレだけどね。ジュリの性格を把握すると、その辺りは逆に可愛く思えてしまうんだけど、たぶん本人に言ったら、顔を真っ赤にして否定するんだろうね。

 そんな様子が容易に想像ができてしまい、ついつい暖かい笑みを浮かべてしまう。


「それにしてもその目、落ち着きませんから、そろそろ解いていただけません?」


 ジュリの言葉に、ああ、またやっちゃったと、慌てて魔法眼の魔法を解く。

 この魔法、相当に相性が良いのか、ついつい掛けていた事を忘れてしまう程にこの魔法は負担がない。

 この魔法のベースである、魔力強化型の身体強化の目だと、そんな事は全然ないのに不思議仕様である。


「その魔法のおかげで、細かい指導を受けれるので、感謝すべきなのでしょうけど、なんと言うべきか、まだ慣れませんわ」


 実はこの魔法、元々は彼女の魔力制御の訓練を、少しでも効率良くできないかと思ったのが切っ掛けで開発した魔法。

 おかげさまで、魔力制御が大きく乱れる度に、それを指摘できる。

 おかしくなっている箇所を指摘してやれるので、ジュリとしてはその度に修正を余儀なくされはするけど、正しい魔力の循環制御を早く身につけれるはず。

 まぁ、それ以外の評判は散々だけどね。

 どうにも金色にうっすらと光る厨二仕様の瞳は、見られていて落ち着かないらしい。

 私としても、この便利な魔法の想定外の欠点に、正直苦笑している。

 だってね、この魔法相手の魔力の流れが分かる利点はあるけど、逆に言うと相手からは私が警戒していますよ、と言う事が、丸分かりの魔法でもある訳だから。


「あっ、そういえば光石ですけど、知り合いの魔導具師の方が、在庫を持っているとの事なので、今度行ってみます?」

「それは助かりますけど、私としては、此処での鍛錬は続けさせてもらいたいのですが」

「ええ、作業しながらになりますけど、それで良ければ」


 私としては最初からそのつもりだったので、彼女のやる気を感じられて、私としては逆に嬉しいと感じてしまう。

 うん、せっかく仲良くなれたのだから、此処(学習院)にいる間ぐらいは仲良くしていたいし、彼女が頑張る気でいるのなら、力になってあげたいと思うくらいに、彼女とは仲が良くなっているつもり。






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