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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
135/977

135.混沌としたのは見た事もない料理? それとも魔導具?





 窓際にヴィー達の手土産の花を飾ってから、改めてテーブルと料理を互いに囲む。

 一室に八人もいるけど、もともと広い部屋だし、寝台も収納の魔法の中にしまってあるため余裕はある。

 椅子の数はないので、山で取ってきた太い木を適当に丸太にして椅子代わり。

 豪快だなと笑われたけど、一応クッションはその上に置いてあるし、座面だけは魔法で加工してあるので座り難くはないはず。


「「「「「「「かんぱーい」」」」」」」


 先ずはヴィー達のお別れと、今後の活躍を祈って乾杯。

 コッフェルさんを除く男性陣は、まずは一杯目だけは赤ワインで、私達女性陣は果実水で。

 ええ、基本的に未成年ですからね、当然です。

 魔除け厄除の意味を込めて互いにコップを打ち鳴らして、よく冷えた飲み物で互いに喉を潤す。

 その後、チーズフォンデュとバーニャカウダの食べ方の説明だけして、あとは適当に談笑しながらの食事会。

 ええ、皆さん、串焼きとサラダ以外は、どれも此れも食べた事ない物ばかりらしく、興味津々です。

 あっ、コッフェルさん、お酒はその瓶までですよ。

 酒の進む料理ばかりで殺生って、お目付役という名目なんですから当然です。

 その代わりにお土産は用意しておきますから、我慢してくださいね。

 

「こういう食べ方あるんだ。

 この暖かいタレって、下の魔導具もいるの?」

「別に無くても良いですよ。

 なるべく余熱が残る厚い器に入れて、冷めちゃう前に食べちゃった方が美味しいだけです」

「こっちのチーズのスープに漬けるやつも美味しいわね。

 パンに溶けたチーズを掛けるのはあるけど、逆の発想はなかったわ」

「小麦を少し入れないと分離しちゃいますけどね。

 後これは白ワインと牛乳をベースにしてますけど、牛乳だけでも良いし、蒸留酒でも風味が良いと思いますよ」


 やっぱり女性陣は、味の次に調理方法に目がいくらしく、調理方法を聞いてきたりするので、今後はそういった会話が出るかもしれない。


「まさか内臓がこんなにも旨いとは」

「パンにも合うよな」

「ガレットの具にして上からチーズを掛けても合いますよ」

「それは美味そうだ」

「二人とも今度作ってくれよ」

「やーよ、さっき作り方を聞いてみたけど、かなり面倒だもの」

「たまには兄さんが作ってよ」


 多分、これが一番手間暇かかっている料理だし、前世のお店の物と違って、本当に何も処理されていないため、最初の処理と臭み取りは慣れていない人には厳しいかもしれない。

 それにある程度の量を作らないといけない類の料理だから、収納の魔法の持っている私はともかく、お店や大家族でないと処理にも困るかも。


「ヴィー様、これ、見た目がアレですが、噛みちぎった時の脂がなんとも」

「確かにアレに似ているが、それを言うか普通?」

「別に良いじゃないですか、オークの指に似ているぐらい」

「……そう言えば、そっちにも似ていたな」 


 ……ヴィーは一体何を連想したのだろうかと思いつつも、ボイルしたベーコンをチーズに浸けて食べる姿は、非常に美味しそうにしているので突っ込まないでおく。

 ちなみに、オークは薄い本に出てくるような女性の天敵のような魔物ではなく、単に豚とゴリラを足したような魔物。

 ジッタが言うように、丸々としたゴツイ指をしているんですよね。


「腸詰と塩漬け肉の燻製は日持ちしますので、良かったら持っていってくださいね」

「ちなみに、どれくらいの日持ちが?」

「調理方法や保存の仕方にもよりますが、半月から一月は保ちますよ」

「そんなにも」


 この世界にはまだないみたいだけど、ソーセージもベーコンも基本的には保存食。

 塩や漬け込むタレや加熱時間が十分なら、冷暗所に置いてあれば、それくらい余裕で持つはず。


「と言うことは、状態維持を掛けた糧食箱なら二、三ヶ月は保つか」


 そこへコッフェルさんが興味を持ち出したのか、話に食いついてくる。

 確かに、魔導具の糧食箱ならそれくらいは保つと思うけれど、お肉だけ其処まで保存を伸ばしても仕方がないと思う。

 やはりキチンとお野菜とかの保存性を伸ばさないと、栄養バランスが偏って身体を壊しかねない。


「そう言えばユゥーリィ、糧食箱といえば、台所の奥にあった箱もそれなの?」

「似た様な物かな、失敗作だけど」


 ラキアが言っているのは、飲み物類が冷やしてあった大きな箱。

 最初はライラさんへの結婚祝いの家具として、冷蔵庫を作ろうとしたのだけど、私がよく使っている熱を操作する魔法は、どうにも魔導具では出来ない事が発覚。

 いくら魔法陣を思い浮かべようとしてもボヤけてしまう。

 魔法自体は、消費する魔力もすごく少なくて便利なんだけど、できない物はしょうがない。

 物質を構成する電子を直接干渉する魔導具は便利な反面、凄く危険な物になりかねないので、そのほうが正解なのかもしれない。

 そう言う訳で、既存の氷の魔法と風の魔法を使って冷蔵庫を再現。

 ついでに保存性を高めようと、状態維持の魔法も組み込んだのだけど、これが大失敗の原因。


「冷えるまでの工程にも状態維持が掛かっているから、既に冷えた物を入れないと意味がなくなっちゃったのよね。

 おまけに、冷却の魔力も思った以上に消費するし、動力源の中型の魔石では、それなりの魔力を持った人が、数日ごとに魔力補充をしないといけないと言う欠点つき。

 保管という用途のみでみれば、状態維持の魔法との相乗効果もあって、物によっては半年近くは保つようになるとは思うんだけどね。

 そう言う訳で日用品と言うには、ほぼ遠い物になっちゃたのよ」

「成功していたら、夢の魔導具だったわね」

「この(かまど)の魔導具もそうだけど、一家に一台は欲しいよね」


 流石は女性陣、台所に立つことが多いためか、失敗した魔導具の利便性の素晴らしさをよく分かっている。

 日々の生活の中で、食材を腐らせて駄目にしてしまうほど、悲しい事はないですもんね。

 邪魔なので、もうしばらくして良い案が浮かばなければ、処分するつもり。

 ……ん、糧食箱?


「そういえばコッフェルさん、此れってコッフェルさん関係の方で使えます?」

「使えるもなにも、無茶苦茶使えるわっ!」


 あぁ、やっぱり。

 開発コンセプトは全く違うけど、結果的に出来た物は、糧食箱の強化板みたいな魔導具。

 箱が断熱性を求めて特殊な加工を施しているけど、その分強度も上がっているから、軍用品としては申し分ないはず。

 おまけに核となっている魔法石が駄目になっても、魔法石を取り替えれば、箱自体は再利用可能な様に作ってある。


「予め冷やしておくと言う手間は掛かりますけど、生野菜もそれなりに保つと思いますよ。

 実際に、どれくらい保つかは試してみないと分かりませんけど」

「軍の兵站部からしたら、夢の魔導具そのものだろうが」

「私からしたら失敗作の残骸ですけどね」


 失敗作には違いないけど、コッフェルさんの方で使える様なら使って貰えばいい。

 図面ありますから、渡しておきますね。


「あのなぁ、こう言うのを、あっさり渡すんじゃねえっての」

「え〜、でも軍の需要なんて、私一人で応えられる訳ないじゃないですか。

 それにそっち関係は、あまり関わりたくないですし」

「それもそうだがな、もう少し相手を見て渡せって言ってるんだ」

「え? 別にコッフェルさんなら信頼してますよ。

 時折意地悪ですし、酷い悪戯をしかけられますけど。

 ええ、携帯(かまど)の一件は忘れてませんから」


 チクリと嫌味は言っておくけど、信頼しているのは本当のこと。

 普段お世話になっているし、今回の事も色々と心配を掛けているみたいで、今日もお店を早く畳んで来てくれているし。

 コッフェルさん、悪ぶってはいても、基本的に優しい人なんですよね。

 この間も新しい商会も紹介してくれたし、私にとって使い道の無い魔導具の作り方ぐらい渡しても問題はない。


「あーくそっ、分かったから人を善人みたいに言うんじゃねえ、やりにくいだろうが。

 此奴は例の商会を通して、嬢ちゃんに良い様にしておく」

「別に気にしなくても良いのに」

「俺が気にするんだよっ。

 ついでだ、この部屋のドアの魔導具、アレも嬢ちゃんさえ良かったら教えてくれ。

 アレは軍だけで無く、政の方でも機密関係を運ぶのに使える」


 うーん、確かに魔力の固有波長を使った鍵の魔導具ですから、そう言う意味では使えますけど、自分で作っておいてなんですけど欠点もあるんですよね。

 治癒魔法の応用で、魔力の固有波長を真似できれば、開けれてしまえると言う欠点が。

 その事を説明すると、コッフェルさんは呆れた様に。


「あのなぁ嬢ちゃん、本人もいない所で他人の魔力の波長に合わせる、そんな器用な真似できる人間がこの国に何人いると思っているんだ?」

「言わないだけで、いるかもしれないじゃないですか。

 せめて今まで通り、鍵との併用が望ましいと思いますよ」

「それもそうだな、何にしろ欠点を知った上で使える魔導具だ」


 欠点を知った上でなら構いませんけど、でも運搬って形状変化の魔法で箱の横から抜き取れるのでは?

 ああ……、魔力を弾く金属があるわけですか。

 もしかしてオリハルコンですか?

 ……そんな超希少金属使えるわけがないと、形状変化の魔法を邪魔をする加工を施すだけの物と。

 なるほど、勉強不足でした。

 有効活用される場所があるなら、どうぞ使ってください。

 ええ、こっちは利益が多少入ってくるなら、製法の販売で全然構いませんが、以前の服飾ギルドの時の様な悪どい価格は止めてくださいね。


「ああ、アレか。

 そう言えば、商会の方が製法を買い戻したぞ、白金板貨三枚で」

「はっ?」

「利益供与と市場の保護だとさ。

 商会の持ち主の貴族の名前があれば、真似する連中の乱立が防げるからな。

 ちゃんと服飾の方にもメリットが多い話だぞ。

 オメエさんに払った金額を取り戻せた上に、上位貴族の保護とギルドに従わねえ馬鹿どもへの睨みにもなる。

 まぁ利益の幾らかは、商会やオメエさんに払う事にはなるが、向こうとしては二つ返事だったらしいぜ」


 すみません、意味が分からないんですが。

 ああ、滑り止めの手袋の件で軍用品として関わるから、ある程度は管理する必要性が出てきたと。

 製法はもちろんの事、材料のままでの国外への持ち出しとかされたら困る訳ですね。

 そう言う事なら分かりますが、私への利益供与は必要ないのでは?

 私としては製法を販売した事になっている訳ですし。

 ……売買そのものがなかった事になり、アレは開発費の一部という事になったと。

 あのう、其処に私の意思って、一欠片も入ってませんよね?

 ……テープ関連で私に発言権はないって、まだ有効だったんですかアレ。


「基本的には、規約さえ守れば、向こうは今まで通り自由に作って売買できる。

 作る方も売る方も、ギルドに納める分を商会に納めるだけになっただけだ。

 ギルドとしては全体の売り上げが上がって、貴族達に良い顔ができればそれで済む」

 

 それでも服飾ギルドとしては、面白くないのではないだろうかと思いつつ、今度、こっそり聞いてみようと心に決める。

 既に手を回している可能性もあるけど、しないよりはマシだと思う。


「それはそうと、ヴィー達は此れからどうされるんですか?」


 コッフェルさんと商会の件はさておいて、今日の主役はヴィー達なのでそっちを優先。

 あまりホストがゲストを蔑ろにするのは、よろしくないですからね。


「落ち着いたら、ジッタと共に国の騎士団への入隊が決まっている」

「凄いじゃないですか、国の騎士団と言ったら花形職ですよね。

 おめでとうございます」

「君さえ良ければ、見に来てみるかい?」


 うーん、国の騎士団に興味がないと言ったら嘘になるけど、私が行っても何もできる事がないし、行ったとしてもお仕事の邪魔になるだけなので、遠慮いたします。

 それに、そんな暇があるなら、まだまだ此処で勉強しないといけないし、体を鍛え直さないといけないですからね。


「……そっか、それは残念だ」

「……ですね」


 そんな残念がらなくてもと思う。

 生きてさえいればいつか再会する事もあるでしょうし。

 ん? コッフェルさん、分かってねえなって何がです?


「それはそうと、この間の魔導具って、凄く意味が無くないですか?

 木剣であの効果の魔導具って、使い道がいまいち分からないんですが」


 私を油断させるためにしては、お金が掛かりすぎる話し。

 二本の内一本はぶち折っといて何だけど、コッフェルさんのお店を参考にすると、一本当たり金貨一枚は軽くするはず。


「アレ等は試作品でね。

 どれ位威力が上がるかの試験用だった物をお借りしてきたんだ」


 斬った時に武器の素材で斬ったのか、魔導具の能力で斬ったのかを区別するため、敢えて木剣で作った代物らしい。

 でも、木で作ろうと鋼で作ろうと、魔導具としての寿命が変わるだけで、威力そのものは変わらないはずだけど。

 それに投擲ナイフは、木ですら無く本物だったし。

 ああ、重量がないと、真面に飛ばないからですか。

 そういえばそうですね。


「オメエさんが、群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)の爪を使って、思いつきで作った奴を木剣に組み込んだ奴だ。

 以前に嬢ちゃん自身が試作品を幾つか作っただろうが。

 気がつかなかったのか?」

「無茶苦茶に危険じゃないですか!」


 横合から捕捉してくれるコッフェルさんの言葉に、思わず叫んでしまう。

 あれ、鉄塊ぐらい簡単に貫通する威力があるんですよ。

 そんな凶悪な威力のある物を、木剣に仕込んで模擬戦に使ってくるだなんて誰が思いますか。

 え? 防いでおいてよく言うって、防ぎますよ危ないんですから。

 でもそう思うと、其処まで威力が無かったって事なんですかね。

 ……鋼の剣を切断できるだけの威力はあると。

 ヴィー、騎士になろうとする人間が、女の子相手に何を向けているんですか。

 私、魔物じゃないですよ。


「言い訳させて貰えば、寸止めする自信はあったからであって、決して君が化け物じみていると言う訳じゃないから。

 それに絶対に防がれると思っていたしね」


 寸止めはともかくとして、今、チラッと本音が漏れ出ていませんでしたか?

 それに防ぐって言っても、誰かさんの課した無茶ルールのせいで、私、結構必死でしたよ。


「……ヴィー、本当の事を言ってください、私って何に見えているんですか?

 魔物ですか? 化け物ですか? それともそんな危険な剣を向ける程怖い女の子ですか?」

「それは誤解だ。前にも言った通り、女神さ。

 死に瀕する私達を救ってくれた、戦いの女神」


 ……ゔっ、何でそう言う気恥ずかしい事を、そんな笑みで言えるのだろうか。

 やっぱり上位貴族の男性は、そう言う教育を受けているのだろうとつくづく思う。

 流石の私も、其処まで正面切って言われると恥ずかしくなる。

 しょうがないので、今回は誤魔化されてあげる事にします。

 これ以上その件に突っ込んでも、今以上の事をこの男なら言い出しかねないですから。


「つまり騎士道より、強さを求める戦闘狂なんですね」


 ええ、これくらいの意趣返しはさせてください。

 誤解って言っても、その側面があるからああいう発想になったのでしょうし。


「そういえばジッタは、騎士団に入っても従者のままなんですか?」

「ええ、入隊すれば同僚という事になりますが、それ以前に私はヴィー様の従者ですから。

 それと、分を弁えない失礼な言葉を許されるのであれば、生涯の友でもあります」


 ジッタの、それが誇らしいという言葉に、良いなあと思ってしまう。

 そういう心から信頼できる親友との関係に、心が温まる気がします。

 ええ、そう言う訳で、ヴィー。

 せっかくジッタが貴方を想って、とても良い事を言ったのですから、私が貴方を戦闘狂と思おうが思わないが、どうでも良い事じゃないですか。

 えっ、其処は取り消してあげてくださいって、まぁせっかく良い言葉が聞けたので、ジッタの言う通り戦闘狂の言葉は取り下げさせていただきます。

 ええ、ジッタの言う事ですから。


「ジッター」

「ヴィー様、誤解です。

 そう言うつもりはないです」


 うん、何か不穏な空気を感じるから、この部屋でそう言う空気は勘弁してもらいたい。


「じゃあ、ジッタはヴィーを支えられる様に、色々と頑張らないといけませんね。

 ヴィーも、ジッタの頑張りと献身ぶりに、応えられる様な人にならないと。

 私もお二人に負けない様に頑張りますね」


 ええ、お二人が此れからも互いに手を取り合って、歩んでいく事を祈ってますよ。

 え? 何か変な意味が含まれていないかって、なにがです?

 親友同士そして、主人とその従者として、共に力を合わせて進まれるんですよね?

 ええ、その通りなら良いんです。

 心の底から、お二人の今後のご活躍を祈らせて戴きますよ。






2020-06-30 誤字脱字修正

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