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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
134/977

134.お別れ会しませんか? ええ、ついでですけどね。





「ヴィー、これをドゥドルク様に渡しておいて頂けませんか?

 まずは使い心地をお試しになって、王都からお帰りになられた後、改めてドゥドルク様に相応しい物をお納めいたしますと」


 収納の魔法から取り出した木箱をヴィーに渡す。

 木の表面には滑らかな革が張られ、箱の中にベルベッドに包まれた、三つの砂時計の魔導具が収められている。


「真ん中の物が、ヴィーに渡したのと同じ時間で、小さめの物がその半分。

 逆に大きめの物は倍の時間で作ってあります」

「それは使い分けれるから助かると思うけど……ところで、この台座は?」

「ドゥドルク様のお好みも分かりませんし、準備できるだけの時間もありませんでしたので、明らかにお試し用と分かるものをと思いまして」


 ヴィーの時と違って、ガラス製の本体部分を保護するための台座と柱には、装飾が施してある。

 今の私には、侯爵様に相応しい物は作れないし、おそらくこの先も作れないと思う。

 もしお気に入りになられるのであれば、台座と柱の部分は専用の職人に外注を出す事になると思うけど、今回はその時間が無いため、自前で用意しなければならない。

 そのため格式のある装飾は諦めて、ヴィーに説明したように明らかに違うと言えるものを用意した。

 半端なものより、いっそ思い切ってと言う発想です。


 ペンペン鳥

 白角兎(ホワイト・ラビット)

 剣牙風虎サーベル・ウィンド・タイガー

 

 台座の小さい順に三つの魔物が、かなりディフォルメした可愛い姿で掘り込んである。

 むろん、目には色をつけたガラスを埋め込むと言う細かい芸当ぶり。

 我ながら会心の可愛さです。


「……ドゥドルク様が此れを使われると?」

「コッフェルさんから実用性があれば、納得される方と聞いていますので、取り敢えず繋ぎ用の物です。

 王都からお帰りの際には、きちんとお好みや、お部屋の調度品に合わせた物を用意いたします」

「どれどれ、……また凄い意匠の奴を作ったな。

 だが、まぁ悪くねえんじゃねえか、此れならアイツはともかく、嫁さんや孫娘達が欲しがるだろうしな。

 そうなったら、アイツもこの話はなかったと言う事には出来ねえだろうから、悪くねえ戦略だ」


 別にそう言うつもりじゃないんですけど。

 こう言う癒し系の意匠が、別に執務室にあってもおかしくはないと思う。

 うん可愛いよね。


「そう言えば、ヴィーとジッタは何時頃立たれるんですか?

 できれば送別会の一つでも開きたいのですが」


 短い間とは言え、こうしてそれなりに仲が良くなり、拳を交えた仲なのだから、せめてそれくらいはしてあげたい。ええ、漢の友情と言う奴です。

 もっともそれは此方からの一方的な思いで、向こうはなんとも思っていないかもしれないし、上位貴族の一員として、それなりに付き合いもあるだろうから、こうしてお伺いを立ててみる。


「それは、お食事のお誘いと受け取っても宜しいので?」

「ええ、素人料理ですが、軽くお話ししながらでもと」

「ユゥーリィー大胆〜」

「まさかのユゥーリィから」


 ん、何か後ろでセレナとラキアが勘違いしているみたい。

 確かにこの世界は、女性からお誘いを掛けると言うのはあまり無いけど、無い訳じゃない。

 だけど、そもそも話の基準が違うし、そう言う状況を私から作り出すわけがない。


「そう言う訳で、アドルさん達もよかったら是非。

 普段お世話になっていますので」

「……」

「……ヴィー様、残念ですね」


 飯代が浮いただの、女の子の手料理とか喜ぶアドルさんとギモルさんとは裏腹に、何やら呆れ顔をするセレナとラキア。

 あと後ろで何かヴィーが落ち込んでジッタが慰めているようだけど、私としては半分はアドルさん達への普段のお礼と、此れからも宜しくと言う意味でのお食事会なので、ヴィー達の送別会は、半分ついでと口実だったりするんですよね。

 口実に使うことは申し訳ないと思うけど、別れを惜しんでと言う気持ちはしっかりとあるので、お別れ会を開きたいと言う思いに嘘は無い。


「では出立の前日である、四日後の昼からで如何でしょうか?」


 己が主人の予定を把握しているジッタの言葉に、予定より早まったのだと思いつつ。

 そんな良い日を良いのだろうかと思う。

 ヴィーやジッタくらいの上位貴族や、その整った容姿だと、それなりに別れを惜しむ人達や女性がいると思うのだけど。

 そう思うからこそ、駄目元でお伺いを立てたと言うのに。


「ヴィー、ジッタ、もしかしてお別れを惜しんでくれる、お友達や女性がいないのですか?」


 ボッチの私が人の事は言えないけど、それだけに二人が心配になってしまうし、つい哀れみの声にもなってもしまう。

 確かに一年の留学みたいな事を言っていたけど、それでも一年も此処にいたら、それなりの付き合いもあると思うのだけど。

 

「い、いや、そうではなく、一応は、別の日に夜会を開いてくれる事になっている。

 できれば君も其処に参加してくれると」

「あっ、遠慮いたします。

 堅っ苦しそうですし、作法も知りません。

 それにそんな所に着ていくような服もありませんからね。

 あっ、ちなみに催促では無いですので、そう言うのも御遠慮させて戴きます」


 私の返事に何かぎこちない笑みを浮かべるヴィーだけど、こればかりは仕方がない。

 上位貴族の子女達の集まる夜会に平民の私が参加って、どれだけ浮きまくった挙句に痛い視線を浴びる事になるか。

 だいたい私の白い髪とか目立つ事を考えたら、むしろ珍獣扱いされることが容易に想像がつくと言うもの。

 ヴィーも私がそう言う華やかで面等な場が、似合うかどうか考えて誘ってほしい。

 まぁ上位貴族の子息であるヴィー達が、私が開くようなお別れ会が似合うかと言うと、まぁ似合わないのだろうけど。


「その代わり、貴族の方達がめったに食べられないような、美味しい料理を用意しておきますね」


 A級グルメではなくB級グルメ、あっ格式も考えたらC級かD級かな。

 とにかく、私なりに美味しいものを、手間暇かけて用意するつもり。

 実は作りたくなっただけ、と言うのもあるんですけどね。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 そうして四日後のお昼頃。


「ぷはっーー、実に美味えな」


 何故か、女子用の宿舎の一室なのに、先に麦酒を片手に始めている老魔導具師。

 一応は私が作り終えた料理を、台所から隣の部屋に持って行ってはくれているけど、招かれざる客人には違いないです。

 あの、今日は若者の集まりであって、コッフェルさんが楽しめるような会ではないと口にしたものの……。


「あのなぁ、嬢ちゃん。少しは世間体を考えろや。

 幾ら女友達もいるからと言って、若い男共を部屋に入れる事の危険性と世間の目を考えりゃ、俺みたいに信用のある大人がいるだけで、妙な誤解と噂ってものを否定できるもんなんだよ」

「信頼のある大人?」


 普段の言動を見ていると、ついそこに疑問に思ってしまう。

 侯爵様の御友人で相談役であり、魔導具師としても有名、それだけ考えれば世間的には信頼のある大人という認識なんだろうけど。


「まぁ、面と向かって怪しい爺いと言う奴は、そうはいねえって事だ」


 ああ、やっぱりその辺りは自覚があったんだと思いつつ。

 本人は二本目の串カツに手を伸ばし、コッフェルさん用に魔法でキンキンに冷やして炭酸増しにした麦酒を一気に喉に流し込んでいる。


「摘み食いは、程々にしておいてくださいね。

 お客様が来る前に料理が減っているだなんて、見聞が悪いですから」

「分かってる、分かってる。

 それにしても見た事もねえ料理ばかりで、来て正解だったわい」


 女の一人部屋に男がいるという意味では、コッフェルさんも同類なのだけど。

 少なくとも、アドルさん達やヴィー達に比べて、どちらが噂が立ちやすく面白おかしく吹聴されるかと言えば、言うまでもない事なんだけど。

 そもそもそんな噂が出たところで、別に私はそういうのを気にしていないし、聞かれればはっきりと否定しますよ。

 四人とも欠片も男として見ていないし、そんな対象にすら見た事もないので、今後も見る事はないって。


「……酷ぇな」

「本当ですよね。

 そんな噂が出たら、ヴィー達に失礼ですよ」

「……」


 こんこんっ、こんこんっ


「はーい、すみませんコッフェルさん、今、手が離せないのでお願いします」


 ドアを叩く音に返事だけをして、対応をコッフェルさんにお願いする。

 理由はどうあれ、無理やり来たのですから、それくらいはしてください。

 勝手に開けて入るだろうって、入り口のドアはオートロックにしてあるので、内側から開けてあげないと入れないんですよ。


「はぁ? おーと?」

「自動で鍵が閉まるドアです。

 あと登録した人でないと、外からは開けられない様にしてあるので」


 あまり客人を待たせるのも悪いので、簡単にだけ説明してコッフェルさんに早く出る様にお願いする。

 その間に私は、料理を大皿に移したりと準備を進める。

 基本的には順番に出す貴族風ではなく、大皿にあるものを思い思いに取って食べる庶民形式風。

 今日、用意したのは、庶人ですらまず食べないと言われるモツのトマトベースの煮込み。

 先程コッフェルさんが食べていた串カツを数種と串焼きも用意。

 携帯(かまど)を使った白ワインと牛乳で解いたチーズフォンデュとバーニャカウダ。

 その二つに使う材料達はお肉やパンやお野菜や果物など様々で、他にもこの世界にはなかった自作のソーセージやベーコンもあるから、きっと喜ばれると思う。

 むろん各種サラダやデザートも用意しており、数種類のアイスクリームはセレナ達の目が輝かせる事は間違い無いと思う。

 とりあえずデザートは収納の魔法の中で待機させておくとして、台所から料理を運ぶために部屋に行くと。


「ユゥーリィ来たよぉ」

「こうして見ると広く見えるわね」

「あれ? あまり女の子らしい部屋では…」

「そういう事を言うなっての」


 ラキア、セレナ、ギモルさん、アドルさんと挨拶してくれるので、此方も料理を片手に笑みと軽い言葉でもって挨拶を返す。

 料理は、見ての通り魔法で運んでいるので、あとは飲み物とコップぐらいです。

 あ、運んでくださると。

 台所の棚にコップ、あと大きな箱の中に飲み物はあるので、お願いします。

 流石はセレナとラキア女の子組は、こう言う時は気が利くと思いつつ、お言葉に甘える。

 そこに新たにノックが聞こえたので今度は私が出迎えると、予想した通りヴイーとジッタの姿が……、あの、これは?


「見ての通り花だけど、部屋を彩る飾りにでもしてくれれば」


 うん、まぁ貴族の男性が手土産に持ってくる物としては定番といえば定番なのかな。

 ただヴィーが片手に持っているならともかく、私が持つと一抱えもあるほどの量に、内心では少しだけ困ってしまう。

 ええ、こんなに飾る様な花瓶なんて、最初からありませんから。

 だって、不要だもの。

 しょうがない、とりあえず水桶にでも入れて飾っておこう。






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