132.騎士見習いと魔法少女。
ほんの十メートルほど先に離れて、木剣を此方に向ける事なく、先端を斜め前に下げる独特の構えを取る二人。
おそらく剣を打ち合わせるための構えではなく、避わしてから一瞬で距離を詰め、攻撃に移るための構えだと、魔力眼の魔法で覗き見る魔力の流れと重心の置き方から判る。
そんな緊張を解すためか、ついつい余分な事が脳裏に浮かぶ。
例えば、今日の朝食は作り置きのクッキーと牛乳で済ますしかないかとか、予想以上にハードだった早朝鍛錬と、あまりにも偏ったルールのため、始まりが思った以上に遅れてしまったから、それは仕方ないけど、せめてヨーグルトぐらいは食べる時間は欲しいかなとか。
それが良かったのか悪かったのかは分からないけど、初手の起こりだけは見落とさずに捉える事ができた。
「っ!」
と、言っても魔力の流れで分かっただけで、ほぼ予備動作なしに左横合いから放たれたジッタの投擲に、半ば反射的にブロック魔法を展開。
だけどジッタの放った投擲したナイフは、あっさりと此方のブロック魔法を貫通、……しきれずに地面に落下する。
ブロックの中にブロックが入っている多層構造のブロック魔法。
今のは三層構造になっている内の二層目でもって、弾く事が出来たようだ。
狩猟や採取中での魔物との接触、その経験から得た防御の要の答えの一つがこれ。
魔力を込めた只管に硬い盾一つより、同量の魔力で多層構造にした方が盾に粘りが出る。
僅かな段差が威力と衝撃を殺す役割を成している、強固な積層構造の盾。
相手の実力以前に、魔導具の方が怖いと言う直感が、対魔物用の盾を展開させたのだけど、どうやら正解だったようなんだけど、……これって刃を潰していないのではっ!?
シュ、シュ、シュ、シュっ!
驚く暇もなく、今度はヴィーが両手を使っての投擲!
しかも数は、とっさには数えれない程の数っ!
予備に予め作っておいたブロック魔法を、私と投擲されたナイフの間へと割り込ませると同時に更にブロック魔法を追加する。
鬼畜なルールにより同時展開数が制限されている以上、一つも無駄に使う訳にはいかないけど……。
投擲されたナイフの魔導具の中で、とりわけ魔力の濃度が高い二つの前に更に展開。
「ちっ」
ヴィーの放った大量の投擲ナイフに意識が向いた瞬間を狙って、身体強化の魔法を使って一気に間合いを詰めたジッタの木剣が、下から弧を描いて左脇腹を狙って襲いくる。
此方も身体強化をかけた左足でもって地を蹴り、ジッタから距離をとって難を逃れようとするものの、そこへ同じく身体強化を使って一気に距離を詰めたヴィーの袈裟斬りが襲ってくる。
速いっ!
でも此れくらいなら避わせるっ。
ブロック魔法を私とヴィーの木剣の間に挟み入れながら、地面を蹴り付け、
「っ!」
ヴィーの木剣が一瞬だけ白い膜が覆い、ブロック魔法ごと私を斬り……伏せれず、ヴィーの手にした木剣は横へと滑ってゆく。
その間に私は地を蹴った足を、空中へと浮かせた別のブロック魔法に足を掛け、そのまま後ろ後方へと空高く飛び上がる。
ヴィーの白い膜が覆った木剣を、横へと滑らかせたのは、ブロック魔法の形状が齎せた結果。
私の使うブロック魔法の形状は、通常の長方体のブロックと、球体のブロックの二種類。
ヴィーの木剣は、球状のブロックに刃が滑って行っただけの事。
今のは運が良かっただけね。
球体のブロックに当たったのは、唯の偶然でしかない。
そして空中で宙返りをしながら、右手に持つ弓矢を二人に向けようとした所で、そう言えば今日は手にしていない事を思い出し、そのまま宙を回りながら足が下に向いた所で、ブロックをもう一つ作って足場にし、二人から距離を取るために、更に後方へとブロックを蹴りつける。
のだけど、いちいちブロック魔法を消すのが面倒くさい。
盾の魔法の同時展開数制限ルール、彼方此方で足を引っ張るなぁ。
しゅしゅっ!
流石、魔物と違って、人の動きを読む事に関しては、同じ人が一番優れている。
此方が距離を取ろうとしたのを最初から読んでいたのか、二人は地面を蹴り付け、私へと間合いを詰めながら、それぞれの手にする木剣を左右から振るってくる。
ががっ!
だけど、読んでいたのは私も同じ。
宙を飛びながら、新たに作った強化ブロック魔法が二人の木剣を弾き飛ばしている間に、私は地面を強く蹴り付け、二人の間をすり抜けて、今の危機を脱する。
「ふぅ」
流石に体勢の反対側に抜けられたら、すぐさまの追撃は不可能。
力任せと言うか魔力任せに地面を蹴り付けながら、今度こそ二人から距離を開けて息を吐く。
頭の中で二人の実力を修正し、身体強化に廻す魔力の密度を上げる。
厄介なのは、此方の結界であるブロック魔法を切り裂く魔導具。
どこかで見たような能力な気がするけど、あれでは木剣の意味など関係ない、真剣と同じだ。
それならば最初から本物を使ってくれた方が、此方としてはやりやすかったけど、もしかすると此方の油断を狙っての事なのかもしれない。
魔導具の投擲ナイフは、ジッタがまだその胸に複数、ヴィーの胸にも二、三本残っている。
下手に距離を開けておいても、今と同じ様な事をやられるだけか。
(コッフェルさん、流石に防御オンリーで、ブロック魔法の同時展開の最大個数の制限はきついですよ)
心の中で、不満をコッフェルさんにぶつけてやる。
模擬戦開始直前に加えられたこの条件が、かなり私の戦略の幅を削っている。
弓矢、ブロック魔法、身体強化魔法、攻撃魔法の四つが私のメインの兵装と言える。
そのうち二つを封じられ、防御の要のブロック魔法も制限が在っては当然と言えば当然の事。
どんな罰ゲームだと言いたくなるクソゲールール。
このまま逃げに廻っても、技量に関しては相手の方が圧倒的に上の二人がかり。
いくら身体強化の魔法の出力が此方の方が上とは言え、いずれは追い詰められるのは目に見えている。
そもそも逃げるにしろ躱すにしろ、そんな技量が私にはない。
だっ!
今度は此方から地面を蹴りつけ、二人へと迫る。
技量がないのなら、単純に出力勝負!
相手の懐に飛び込む私に向かって振るわれる剣の軌道上に、魔力任せのブロック魔法を展開。
そのまま二人の間を再び擦り抜けかけた所へ、同じく魔力任せで地面を蹴り空中へ。
想像通りに動かせる操作型の身体魔法の特性を使って、無理やり身体を天と地を入れ替え、空へと向かってブロック魔法で足場を作り、今度はその足場を使って地面へと跳ぶ事で再び体勢を入れ替え、そのまま今度は横へと跳ぶなど、三次元的な動きで相手を翻弄する。
相手の剣の間合いに入るギリギリの内側で、魔力任せに縦横無尽に数度飛び交った後、再び距離を取ります。
こんな奇策が、何時迄も通用する相手ではないからね。
当然、二人からしたら、距離を取り終わった機会を逃すわけもなく、再び幾本もの投擲ナイフが襲ってくる。
でも、もうそのナイフの怖さは分かっているし、その対応方法も。
ビシシッ!
下から吹き上がる大量の水に、ナイフの一群が呑まれると共に、一瞬にしてそのまま凍りつく。
受けるのがダメなら、包み込んで掴んでやれば良いだけの事。
いちいちブロック魔法で受け止めるより、魔力は消耗するけど此方の方が手っ取り早い。
攻撃魔法は禁止ではなかったのかって?
いえいえ、水の盾であって、攻撃魔法ではありません。
とにかく、これで二人の投擲ナイフのほとんどは奪えた。
普通の対人戦ではあり得ない三次元的な動きで、二人を一瞬だけ翻弄できる自信があったとは言え、私が危険を冒してまで二人に接近戦を仕掛けたのは、あれだけの無理な動きをとった後に距離を取れば、必ず私の姿勢が崩れるとみて、二人は投擲を仕掛けてくると思ったからと言うのと、単純に時間稼ぎのため。
「その歳で騎士見習いの域を、遥かに超えてるのは流石だが、此処までか。
嬢ちゃん時間だ」
コッフェルさんの約束の時間が過ぎ去った言葉を合図に、再び剣を地面に向け、俊敏性を優先した構えをとる二人に、私は少しだけ考える。
正直、攻撃魔法を封じられても、二人を無力化する手段は幾つもある。
故郷でコギットさんとダントンさんの揉め事を止めるために使った音響爆弾の魔法や、風魔法で、突風を発生させて動きと呼吸を一瞬止める非殺傷型の魔法を使う方法。
他にも辺り一帯を耕起魔法で掘り起こし、そこへ水魔法で大量の水を発生してやれば、泥濘で二人の足を封じれる事ができる。
「……でも、コッフェルさんに言われちゃったからな、接近戦で決着をつけろって」
自分に言い聞かせる様に呟く、でもそれは二人への宣誓でもある。
普段、私の無茶振りをブツクサと文句を言いながらも、知恵や力を貸してくれる老魔導具師の期待に応えるためにも、接近戦のスペシャリストを相手に、やりたくもない接近戦を仕掛けますか。
その代わりコッフェルさん、打ち所が悪くて死んだら、化けて出ますからね。
「ぃっ」
小さく呻き声を上げながら手にしたそれを片手に、再び二人に向けて駆ける私に合わせる様に、二人とも此方へと向かってくる。
まずは二人を引き離す。
と、言っても、先程の三次元的な動きは、おそらくはもう通用しない。
所詮は素人の付け焼き刃、直線的な動きでしかないため、きっともう動きを読まれるだろうからね。
まったく、魔導士に攻撃魔法禁止は条件が厳しすぎ。
きんっ!
そう空気が震えるほどの、長大な多重障壁の結界の壁を、ヴィーとジッタの間に張り、二人を分断。
話は逸れるが、魔力というのは三つの意味がある。
一つ目は魔力容量。
水で例えるのなら貯水量を表わし、魔法の回数や持続時間に影響する。
二つ目はそのまま魔力。
水圧と同じで、これは魔法の威力や溜め時間に直結する。
そして、三つ目は、蛇口の大きさを表す魔力許容量。
一度に操れる魔法が、一つであろうが百であろうが、その魔力の総量が魔力許容量を超える事はできず、その中でやりくりするしかない。
そしてこの結界障壁は大きくても、常態化している魔法分を残して、ギリギリまで使った結界障壁。
だから、二人の持つ魔導具の剣やナイフでも数秒は保つはず。
どうせ攻撃魔法を封じられているなら、その分を二人の分断に使っただけの事。
もっとも、魔力の固有波長の干渉で数秒しか保たないのが、この世界の結界魔法全般に言える欠点。
シュッ!
鋭い踏み込みと共に、外側から振るわれるジッタの木剣。
魔導具による白い膜はないけど、その分、鋭さと速さ増した木剣の狙いは私の左腕。
くっ、速いっ!
驚きの声を心の中で叫ぶほど、ジッタの踏み込みも振るわれる剣速も、今まで見せた事がない程に速い。
自身の身体強化の魔法に加え、鎧に仕掛けられた魔導具の能力でブースト⁉
魔力眼の魔法から得られる情報からそう推測できるけど、それを判断するだけの時間はない。
私は私で、仕掛けるしかないのだからっ。
間に合えっ!
ぐっ。
ジッタの振るわれる剣が腕もろとも、私の左腕に当たる瞬間に止められる。
いや、正確には止めただけ。ジッタ本人の意思ではなく私の意思でもって。
何時の間にか、ジッタの剣を持つ腕に絡み付いている糸、その糸は私の左手から伸びている。
その糸の正体は私の髪の毛数本を、形状変化の魔法で長く縒り合わせた物。
髪の毛は私の体の一部分のため、魔法銀以上に私の魔力を流し反応してくれる。
そして私がジッタに仕掛けたのは、操作型の身体強化の魔法。
ただし、動かすためではなく拘束するための魔法として。
魔力の固有波長の干渉によって、拘束できるのは一瞬だし、身体から切り離した髪の毛では、魔力の出力に耐えられない。
だけど、その一瞬で十分。
すでにヴィーとジッタを分断していた魔力障壁は解除しており、その分を自分の身体強化に上乗せし。
ゴスッ!
ジッタの身に付けた鎧の上に叩きつけてジッタを十メートル近く吹き飛ばす。
その時の右手に伝わる確かな感触と共に、流石だと思う。
力加減はしたとはいえ、此方の想定より軽い感触は、とっさに後ろに飛んだ証。
でも、それで再び立てるほど軽い感触でもない。
そしてそれを確認するほどの時間もない。
シュシュッ!
ヴィーから突き込まれる木剣を、身体強化の速さ任せに避わす。
今までの二対一と違って、余裕を持って避わせる事に安堵し掛けそうになる意識を、強引に引き締める。
どうせヴィーの鎧も似た様な仕掛けがあるはずだし、隠し球を持っている可能性も高い。
そしてジッタと同じ手はもう通用しないだろう。
所詮は付焼き刃の奇策だし、ネタがバレれば、幾らでも防ぐ手立てはある。
とにかく、こうして次々と振るわれるヴィーの攻撃を、ブロック魔法で防いだり身体強化の出力任せに避ける続けるのも、いずれ限界が来る。
ヒュッ。
しかも、不意を突くかのように、横合いから何かが私を襲う。
その正体は、すでに倒したはずのジッタが、地面から起き上がれないままに投げ放ったナイフ。
その攻撃を避ける為に、姿勢を崩ささるを得ない。
こういう咄嗟に避ける動作でも、専用の教育を受けていない私の素人さが出てしまう。
姿勢を崩し、踏み止まらざるを得なかった私に向かって、ヴィーの身体がジッタの時同様に鎧の魔導具の力を借りてブースト加速。
ヴォッ!!
凄まじい迄の速さでもって、まっすぐ振り下ろしてくるヴィーの木剣。
鎧の魔導具と自身の身体強化に力を割いているためか、その木剣に魔導具の魔力は通っていない。
その分の勢いと体重の乗った渾身の一撃。
例えブロック魔法で防がれようとも、気合と力でもって、私諸共に斬り裂いてみせると。
ぢぎっ!
だけど、このタイミングを狙っていたのは私も同じ。
ヴィーの木剣は、剣筋に対して滑り台のように並べられたブロック魔法によって、切っ先を逸らされ地面へと突き刺さる。
魔力眼の魔法に使った物とは別に、更にもう一つ展開している空間レーダーの魔法。
そこから得た情報で、ジッタがまだ諦めていない事も判っていたし、そのタイミングも注意していた。
当然、そうなれば、ジッタの不意打ちに合わせてヴィーが仕掛けてくる事は、素人の私でも読める。
「ぐっ」
全力の攻撃だったのと、球体型のブロック魔法による切っ先の逸れを警戒して、手首と腋を締め過ぎていたのが災いしてか、木剣を振り切ったヴィーの体勢は悪い。
その事にヴィーは呻き声をあげるが、当然ながら絶好の機会を私は逃す気はない。
ブロック魔法を操作し、木剣を結界ごと固定する事でヴィーの剣を封じる。
その状態からの剣の魔導具の発動なら、何ら怖くはない。
ジッタ時の同様に身体強化をした私の拳がヴィーを襲う。
ぎっ!
なのにあろう事か、ヴィーは私が固定した木剣を逆手にとって、腕力だけで剣の柄と鍔を押し出す事で、己が身体ごと後ろへと跳ぶ事で、私の拳を避けて見せる。
ちっ、やっぱり此れも素人の浅知恵だったか。
きっとヴィー達にとって、此れくらいの事など当然なのだろう。
でも、これでヴィーから厄介な木剣は奪えた。
私から距離を取るヴィーとは裏腹に、私はヴィーが手放した木剣を粉砕しておく。
「ヴィー様っ!」
それが、きっと余分だったのだろう。
私がヴィーの木剣を砕いている隙に、ダメージで身体を起こせないジッタが、己が木剣をヴィーへと投げ渡す。
投擲とも思える勢いで投げられた木剣を、いとも簡単に握りの部分を掴んで受け止めるヴィーの姿に、普段、この二人はどんな鍛錬しているのだろうと呆れてしまう。
これで再び振り出しへ戻った。
しかも私は手の内を晒してしまった後。
ただでさえ不利なのに、余計に不利になってしまった状況と言える。
でも、泣き言を今更言っても仕方がない。
虐めと思える不利な条件を受け入れる事を決めたのは私だし、拳でもって決着をつけると決めたのも私だから。
「そろそろ決着をつけないと、講義に遅れるわね」
「俺としては、この時間をもう少し楽しみたいがな」
さて、どうするか?
いい加減にネタの引き出しが尽きてきた。
そもそも、どつき合いなんてものは、自分の狩猟スタイルから懸け離れたスタイルため、即興で出せる策など、たかが知れている。
それにしてもヴィーの目が生き生きしている。
話し方も荒っぽくなってはいるけど、別に嫌じゃない。
貴族としてのヴィーと、騎士としてのヴィーと言うだけの事、どちらもヴィーなのだろうからね。
フォッ!シュッ!
何も良い手が思い浮かばないままに、再び始まるヴィーの猛攻。
それをまた出力任せの身体魔法と、魔力眼の魔法の恩恵でもって、なんと躱しているけど、詰め将棋のように、だんだんと追い詰められている事も実感できる。
厄介な結界を切り裂く魔導具の木剣さえなければ、手は幾つかあるのだけど、
ええい、ままよっ。
ヴィーの攻撃を躱したタイミングを狙って、操作型の身体強化魔法の特性を使って、無理やり体勢を変える。
その事に身体が悲鳴を上げるけど、今は無視してヴィーに向けて地面を蹴りつけ、特攻を仕掛ける。
ブロック魔法を前方に集めて盾とすると同時に、一瞬だけ木剣を受け止めきれれば良い。
でも、この程度の事はきっとヴィーも読んでいる。
だから、地を蹴るのと共に、自分の背中に向けて局地的突風を魔法で発生させて、更に速度を加速。
ブーストを使えるのはヴィー達だけでない。
ざっ!
きっとヴィーなら正面から迎え撃つ、それは思い込みだったのだろう。
私の特攻の意図など意に介さず、ヴィーは横に大きく飛び退り、私の特攻は簡単にやり過ごされてしまう。
背中からの追撃を恐れ、更に地を蹴って距離を取って体勢を直しながら振り向いた私が見た物は……。
ゴォゥッ!
視界を埋めるほどの巨大な火炎が此方へと迫ってくる。
魔法っ!? いえ、火炎魔法を封じた使い捨ての魔導具!
こっちは攻撃魔法を封じて、向こうはありって、本気で狡いっ!
後で絶対にコッフェルさんに文句を言ってやると思いつつ、両目に掛けた魔力眼の魔法が教えてくれる。
この火炎魔法は、派手ではあるけど、ただそれだけでしかない攻撃魔法だと。
魔力の密度も薄く、巨大なだけの火炎魔法。
この程度の魔力密度の火炎魔法なら、ブロック魔法で防ぐまでもない。
常時身体に幕を張る様に張ってある薄い結界を強化するだけで、十分にやり過ごせる。
問題は幾ら魔力密度が薄いと言っても、攻撃魔法は攻撃魔法、その魔力濃度は魔力眼の魔法でもっても、その向こう側を見通せない。
当然、視認など端から無理な話。
だからこそ、私は向かい来る火炎の壁に、自ら走り出す。
だんっ!
魔力任せに地面を強く蹴り付けながら、生身の癖に火炎魔法の壁を突き抜けて、速攻を仕掛けてくるヴィーを迎え撃つために。
ヴィーは目晦ましと、意外性を利用した不意打ちを狙って……。
一方、私は視界も魔力感知も封じられ、ヴィーの狙いも判らなかった。
でも空間レーダーの魔法が、ヴィーが躊躇う事もせずに、真っ直ぐと巨大な火炎の壁に向かって駆けているのだけは知る事が出来た。
なら、条件は五分。
私がヴィーの特攻を私が見破っている事、それを見抜かれてなければ、まだ勝機はある。
ぶわっ!
恐らく勢いをつける為だろう。
身体強化した身体と、魔導具の鎧による強化に任せて、身体強化の魔法でより速く、そしてより高く、火炎の壁を跳び抜けたヴィーの姿は…。
まるで、映画の一幕の様な迫力でもって、その手にした剣を振りかぶっていた。
二階ほど高さから、一瞬で私の位置を確認した。
でも、それは私も同じ。
交わされる視線、そして互いに迎え撃とうと。
ごんっ!
前もって仕掛けておいたブロック魔法の壁に、ヴィーが飛び上がった勢いのままに激突した音が辺りに響き渡る。
魔力の固有波長の影響によって、薄れて行くブロック魔法の壁から、ズリズリと滑り落ちてくるヴィーに向かって、私は右の拳を手加減無しで思いっきり振り抜き、確かにヴィーの顔面横を捉えた。
ぽすっ。
魔力強化を何もしない私の素の力でもって。
軽く首が横に動く程度の衝撃だけど、私的にはスッキリした。
魔力を込めていなくても、思いっきりぶん殴れた事には違いないからね。
「此れで私の勝ちよ、良いわね」
私の勝利宣言に、ヴィーは少し呆けた後、小さく笑った後。
「ああ、俺達の完敗だ」




