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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
131/977

131.模擬戦? むしろ虐めなので、そのルールはあんまりですっ!





「お待たせしました。ヴィー、ジッタ。

 それとコッフェルさん、今日は朝から何しに来たんです?」


 ヴィーとジッタとの挨拶もそこそこに、まさか本当に酒の肴に見に来た、とか言わないですよね? と言う意味を込めて視線を送ると。


「立会人をしてやろうと思ってな。

 嬢ちゃんは魔導士だからな、あまりにも情け無用な酷ぇ攻撃をしたら、相手も死んでも死に切れんだろうしな」

「殺しませんっ! ただの模擬戦です! 人を一体なんだと思ってるんですか!」

「あのなぁ、昨日、俺が言わなきゃ、嬢ちゃんどんな手で仕掛けていたか言ってみろ。

 たぶん此処にいる連中、全員が引くぞ。

 あとな、嬢ちゃんは狩りの腕はともかく戦闘は素人だ。

 何かあった時のために、俺みてえな大人がいた方が良いと思ってな」


 ゔっ、前半の件に関しては突っ込みたいけど、後半は全く持ってその通りなので、何も言えないかも。

 一応は私もヴィーも手加減はするだろうけど、何があるか分からないのが模擬戦なわけで、緊急事態の可能性はゼロでは無い。

 ただ立会人となれば、私一人で決める訳にもいかないので、当人に確認をしなければいけない。


「ヴィーはそれで構わないでしょうか?」

「元魔法使いで有名な魔導具師でもあられるコッフェル殿なら、私めの様な若輩者のために立会人をして戴くなど、不満どころか光栄です」


 ん……?

 何か聞きなれない言葉もそうだけど、えらくヴィーが礼儀正しい対応をコッフェルさんにしているような。

 確かにコッフェルさんは、優秀な魔導具師だとは思いますけど、基本的に偏屈で意地悪でお酒の大好きな酔っ払い爺ですよ。

 口の悪さとは裏腹に、親切で優しい人ではありますが。


「あのなぁ、もう少し心の中で思っている事を隠しやがれ。

 あと、ルメザヴィア殿、あまり口の軽いのは感心いたしませんな」

「失礼いたしました」


 そう言えば、以前にどこかの組織に居たとか言っていたから、その事だろうか?

 あの時は、あまり突っ込んで欲しくはなさそうだったので、敢えて深く考えなようにしている。

 借りがあると言うのもあるけど、私も突っ込んでほしくない事がある身だからね。

 とにかくコッフェルさんの立会人の件はさておいて、問題はヴィー達なんだけど。

 防御力よりも速度優先の革鎧は、魔力眼の魔法を通して見ると、魔導具による何らかの魔力付加を掛けた高価な代物。

 しかも魔力の流れからして、この手の鎧の魔導具は、刻まれた魔法を一定回数を使ったら終りの使い捨ての魔導具で、しかも鎧としての能力もガタ落ちになると言う、お金持ち様専用の防具。

 おまけに、十本近くの投擲用のナイフまで装着されている状態で、当然ながら此れも何らかの魔導具。

 他にも隠れていて詳しい事は分からないけど、魔導具らしい反応が全身の彼方此方に見られる。

 どう見ても模擬戦と言うより、このまま魔物討伐に出れる程の装備。

 せめてもの救いが、手にした剣が対戦用の木剣って事だけど、此れもしっかりと魔導具だったりする。

 せめて相手に怪我をさせないための能力だと良いのだけど、此処までの装備をされているのに、そこだけ安全装備と思えるほど私は豪胆でもないし、ヴィー達の気迫から楽観視できない。


「あのう、…ヴィー、昨日の事を怒ってます?

 もしそうなら、まずは謝罪をしたいのですけど」

「ああ、昨日の件は私の自業自得だ。

 手段には驚かされたけど納得はしているし、君はちゃんと私が至らない点を一つ一つ説明してくれたからね。

 そういう意味では感謝しているぐらいだ」


 その言葉に嘘はないとばかりに、木の剣を真っ直ぐと地面に突き立て、その剣に誓うかのように、真っ直ぐとその緑色の瞳でもって語り掛けてくる。

 其処は信じて欲しいと。


「ただね、こうも思ったんだ。

 今の私が、君に何処まで通じるのかってね。

 もしユゥーリィが気にしているなら、この仕合でもって応えてくれればいい。

 ()が此れから進む道のために、必要とした想いと共にね」


 彼の語った後半の言葉には、今の私には意味が分からない部分はあるけど、分かる事もある。

 この模擬戦には全力でもって挑んでいる事を……。

 そして私にもそれを望んでいる事を……。

 うん、分かった。

 素人の私が彼の想いに何処まで応えられるか分からないけど、力の限りでもって応えて見せる。

 見せるんだけど……、気になるのはヴィーと同じくフル装備状態のジッタ。

 その事をヴィーに聞く前にコッフェルさんが……。


「この仕合は双方の実力差も考慮し、ルメザヴィア殿とジッタガルド殿の二人掛かりよる二対一の変則試合とする。

 なお魔導士であるユゥーリィ殿は、広範囲型の攻撃魔法はもちろんの事、通常の攻撃魔法を禁じ手とする」

「「「「えっ?」」」」


 あぁ……、やっぱり嫌な予感が的中。

 立会人らしい言葉使いと態度でもってのコッフェルさんの宣言に、素の私の実力を知っているアドルさん達四人は、離れた所で風景と一体化しながらも驚いている。

 ええ、私も驚きですよ、実力差ってなんですか?

 しかも通常攻撃魔法も禁じ手って、酷くありません?

 いえ、確かに昨日それらしい事を聞いていましたけど、あれって例えじゃないんですか?

 流石に文句を言おうとする私に……。


「なお、ユゥーリィ殿はそれらに加え、私が百を数えて合図を送るまで、攻撃に転ずる事を禁ずるものとする」

「異議ありっ!」


 ええ、異議ありです。

 幾らなんでも酷過ぎます。

 攻撃魔法を禁じた上に、更に攻撃する事その物を禁じる模擬戦なんて聞いた事ありません。

 そんなの只のリンチです、公開処刑です。

 コッフェルさん、私に恨みが有るなら有ると言って下さい。

 直せるものなら直しますから、こんな陰湿な仕返しなんて卑怯すぎます。


「そんな陰湿な真似するかっ!ボケッ!

 俺ならそんな真似する前に、正面切って言っているわ!

 それこそ言葉のフルボッコでなっ! 伊達に性格の悪い老人をやっとらんわっ!」

「あっ、自覚あったんだ」

「其処に反応するんじゃねえってんだ。

 いいか、この条件はこの二人の為もあるが、何方かと言うとオメエさんのための条件だ」 


 抗議した私に、コッフェルさんがこの無茶な縛りの理由を説明してくれます。

 この際に、見習い予定とはいえ、騎士の戦い方を見ておいて損はなく、恐らく私の参考になる戦い方だと。

 攻撃魔法を禁じたのも、それを肌で感じさせるためだと。

 百歩譲ってそれは分かるとして……、最初の攻撃禁止は本気で意味が分かりません。

 攻撃を見て肌で感じろも何も、その前に終わったら何にもならないじゃないですか。

 私、確かの狩猟の経験はありますけど、戦闘に関してはずぶの素人ですよ。

 幾ら魔法を使ったって、本格的な戦闘訓練を受けた人間を相手に躱しきれる訳ないじゃないですか。

 コッフェルさんは私の実力を知らないから、そう言う事が言えるんです。


「確かにオメエさんは、戦闘に関してはずぶの素人かもしれねえが、弱え訳がねえだろ。

 今までオメエさんが狩ってきた獲物を鑑みれば、むしろこの二人の方が気の毒ってものだ」


 酷い、なんて偏見だ。

 趣味で狩猟をやっている小娘に何を求めているのか。

 だいたい今まで狩ってきた魔物だって、弓矢を使ってはいても魔法の力押しと言う脳筋戦法ですよ。

 こうなったら、三十秒経つまで、背中を見せて魔力任せで只管逃げ回る戦法を……、うん流石に出来ないよね。

 さっきヴィー達の気持ちに応えて見せると決めたばかりだもの。

 それに、……もうすぐお別れなのだと思うと、この不条理な模擬戦闘も、我慢しようと言う気持ちも沸いてもくる。


「つまり、私が今までの経験を活かして如何に逃げ切り、躱しきるかって事ですね」


 うん、覚悟を決めるしかない。

 この模擬戦を、二人への餞別として。






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