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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
129/977

129.腹黒老魔導具師と、ヘンテコ魔導具師。





「それで結局、両方とも引き受けたって訳か」


 商品棚に隠れるように配置された、店の奥の作業台でなにやら作業している老魔導具師のコッフェルさんの言葉に、当たり前だと返事する。

 侯爵家の当主であり、しかもこの地の領主でもあるドゥドルク様に、見本のお下がりなどお納め出来る道理などない。

 たとえ本人が良いと言っても、世間的に許されない。

 そう言う意味では、高位貴族は貴族で苦労があるのだと思うけど、だからと言って社会的慣例を率先して破る勇気はないし、それが出来るほど親しい関係でもない。

 庶民の中で出来るのは、せいぜい目の前にいる老魔導具師ぐらいではないだろうかと思う。

 そんな訳で、ドゥドルク様と親交のあるコッフェルさんに、ドゥドルク様の趣味や、部屋に置かれた調度品の格式のレベルなどを、ヴィーとのお茶会の後に慌てて聞きにきた訳だけど。


「使えればなんでも良いと思うぞ。

 あいつ自身は様式美より実用性を好むからな」


 そうかもしれないけど限度と言う物があるし、ヴィーから聞き出した用途からすると、私室ではなく主に執務室。書類関連の仕事をする際に置いておきたいとの事。

 確かに実用品かもしれないけど、様式美も求められる場所。

 私やヴィーが個人的に使うような物の様にはいかない。

 だからこそ、こうして聞きに来ているのに、この老人は自分の感覚で喋らないで欲しい。


「そう怒るな。

 嬢ちゃんが言いてえ事は分かるが、なにせ時間がねえ」

「時間?」

「前に言ったろ、半年ほど王都の方に行っちまうってな。

 納めるなら、明日か明後日にでも渡しちまった方が良いくらいだ」


 うぎゃ〜〜〜っ!

 本気で悲鳴を上げたくなる。

 可愛い悲鳴じゃなくて申し訳ないけど、そんな余裕など欠片もない日程。

 無理です、そんな短期間でドゥドルク様の好みを調べ、更には部屋の調度品に合う品格の意匠を考え、出来ればその意匠図をお付きの執事の方辺りに確認してもらって、そこから製作に入るなんて真似が出来る訳がない。


「そう言うこった。

 とりあえず実用性重視という事で作って、使い心地を知って貰った上で、改めて納めるという形にしておけば良い。

 なんなら俺が持って行ってやっても良いぞ、周りに俺からだと思わせておけば、誰も文句なんぞ言わねえだろうしな」


 いえ、流石にそれは私の代わりに、コッフェルさんが影口を叩かれると言う事になるのでできません。

 魔導具で叩かれる影口は魔導具を作った人間であるべきですから。


「真面目だねえ。

 黙って俺のせいにしておけば良いのに」


 コッフェルさんだって、自分の作った魔導具が使いやすかったとか、使いにくかったとか、もしくは役に立たなかったかなんて言葉は、きちんと受け止めたいですよね。言いがかりの物は別としてですが。


(ちげ)えねえな」


 とにかく時間がないので、今回はコッフェルさんの言う通り、試用と言う事でヴィーに渡したのと同型の物を、……もう少し真面な装飾にした物を今日にでも作る事にします。

 逆に言うと、此方に戻られた時に、それ相応の品格のある物を作れる様になっておかないといけないと言う事なんですけどね。

 貴族向けの装飾品を扱う職人を紹介してくださると、何時も何時も有り難う御座います。

 こんな胃の痛い思いをするのも、全部ヴィーが悪い。

 せめて話が来た時に、直ぐに話を持ってきて下されば……大差ないかもしれないけど、心理的余裕が多少は生まれたかもしれない。

 こんな事なら明日の早朝鍛錬での模擬戦は、遠慮なくぶん殴れます。


「はぁ? なんでそんな事になっているんだ?

 オメエさん何やった?」


 いえ、ちょっとばかしありまして。

 書籍棟での思いもがけない商談の話中に爆弾発言と言うか、トンデモ依頼を持ってきたヴィーと、その後のお茶会で詳しい事を聞き出したのだけど。

 ドゥドルク様の依頼は、世間話の雑談の上の事とはいえ、私が魔導具を渡した日にあった事だと。

 ヴィーの時に、私があまり乗り気では無かった事も話してあって、何かのついでの時と言う話になったらしいのだけど、何処をどうしたら、見本品のお下がりで良いやと言う発想になるのか。

 後、これまでにあった、ちょっとしたイラッって思う出来事の数々もあって、思わずアイアンクローをカマしてしまった。

 身長差があるため、足場にしたブロック魔法が消えるまでの三秒間程ですけど。

 コッフェルさんに分かる様に身振りを交えながら話すと、ええ、呆れられました。

 まぁ当然でしょうね。

 暴力ごとが嫌いと言っている私が、いくら此方の立場を考えない言動で人を困らせたり、側から見たら変質者的行動で、私だけでなくアドルさん達を困惑させたり、角狼(コルファー)の件でやりたくもない殺戮をさせられたり、挙げ句の果てにドゥドルク様の件があったとはいえ、少し短絡だったとは思いますよ。

 その辺りは反省はしています。

 あと女の子らしくないのは、今更なので文句は聞きません。


角狼(コルファー)の件だけで十分に殴る権利はあるが。

 その坊ちゃん、避けようともしなかったのかと思ってな」


 いえ、しましたよ。

 それより先に私が反応しただけで。

 つい先日、開発したばかりの魔法が役に立ちました。

 身体強化の魔法には力場(フィールド)魔法による操作型身体強化の魔法と、魔力投入型の身体強化の魔法とあって、一般的には後者が殆どらしいのだけど、私は後者は相性が悪いのか巧く操作できず、前者を使っている。

 ただ今回開発したのは、魔力投入型の身体強化を体の一部分、つまり目の強化魔法を応用した魔法。

 単体では相性が悪いためか、遠くの霞んだ景色が、少しだけハッキリ見える程度だったのだけど、空間レーダーの魔法と、闇属性の影の魔法、そこに魔力感知と、多重複合魔法を調整して行った結果、魔力感知を視覚化できる魔法が出来た。

 厨二的発想をするなら、魔力眼と呼べるこの魔法。

 利点は相手の魔力の流れを見抜けるだけでなく、誰しも弱いながらも魔力を持つこの世界では、魔力の流れで、相手の動きが僅かに先んじて分かる事。


「……ヘンテコだ、ヘンテコだと思っていたが、そこまでヘンテコだったとは」

「が〜〜〜んっ! ヘンテコって三回も言われたっ!

 幾らなんでも人の努力をヘンテコ呼ばわりするなんて酷いです」

「五月蝿っ! ヘンテコなもんはヘンテコだ。 少しは自覚しやがれ!」


 どうしてこの人は、こう言う人を傷つける事を平気で言うのだろうと思うけど、半分は冗談で言っていると分かっているので、此方もそのノリに乗っかかる。

 ええ、こう言うコミュニケーションは大切です。

 とにかく、その事でプライドが傷付いたのか、本気で手合わせして欲しいと言われ。

 私も遣り過ぎたと反省はしていたので、仕方ないので一度だけと。

 ただし、此方はその手の教育を受けた事の無い身なので、手加減はして欲しいとだけお願いはした。


「それで、どう戦うつもりんだんだ?」


 そりゃあもちろん、遠くから拳くらいの透明なブロック魔法で袋叩きで。

 幾ら素早かったり、魔力感知で迎撃されても、数百個のブロック魔法で囲む様にぶつければ避け切れるものではありませんから。

 ええ、殴るくらいの威力の魔法なら、それくらいの数は余裕ですよ。


「……オメエな、幾ら何でも外道すぎるだろう」


 でも魔法無しで私が戦っても、きっと瞬殺されるだけです。

 それはそれでヴィーが、かよわい年下の女の子をフルボッコにすると言う外道って事になりますから、同じ外道になるなら私が外道になります。

 そもそも、剣士と魔導師士の模擬戦って成り立つのでしょうか?

 もっとも剣士と言っても、ヴィーは身体強化とか使えるので、他にも隠し球を持っているかもしれませんが。


「広範囲型の魔法を使わなきゃ、普通はそれなりに成り立つんだがな。

 嬢ちゃんの場合その気になりゃ、基本魔法ですら、一度に全体攻撃で二回攻撃しますって感じだな」


 失礼な、威力を上げなければ五回はいけます。

 それに魔物にはその威力では、何ら意味のない攻撃ですけどね。

 私がよく狩るペンペン鳥ですら、高圧縮のブロック魔法で自爆させるわけだし。

 人が素手で殴る程度の半端な威力の攻撃魔法など、何十発当てようが魔物には効かない。

 それがこの世界を君臨する魔物の脅威である部分。


「とにかく話の流れからして、その坊主は接近戦を望んでるだろうから、それくらいは応えてやらねえと、また再戦を申し込まれるだけだぞ」


 それは面倒くさい。

 つまり拳か蹴りで決着をつけろって事ですね。

 でも相手は練習用とはいえ剣を持っているのに、狡くありません?

 じゃあ私も武器を持てばって、私の武器っていうと弓矢(ボウガン)ですよ。

 あとは武器ではないですけど、群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)の爪を使った魔導具を、魔力伝達コードの先端に付けた鋼線の魔導具。

 ええ、何方も遠距離攻撃用の得物です。


「分かった分かった、その条件で勝ったら、嬢ちゃんが望む魔導具の素材を分けてやるから、相手に付き合ってやれや、その坊主が不憫でならねえ」


 不憫って、こう言う状況になっている私の方が、よほど不憫だと思うのですが。

 私、一応はかよわい女の子ですよ。


「魔法を使えば、角狼の群れ(戦災級)も逃げ出すがな」


 あのうコッフェルさん、私の事を本気でどう思っているのか、聞きたくなってきたのですけど。


「そうそう角狼(コルファー)といえば、ほれっ預かっていた奴の代金だ」


 何か誤魔化す様に話題を変えられた様な気がしますが、……え?金額間違ってません?

 幾ら何でも多すぎだと思いますよ。

 なにせ渡されたのは金板貨五枚に金貨四枚と、前世換算で五千四百万相当。


「戦災級の魔物である角狼(コルファー)は懸賞が掛っているからな。

 一匹につき銀板貨五枚、あと、あれだけ状態が良い亡骸は素材として高く売れるから、金貨二枚と銀板貨五枚、それ等が十八匹分だ。それくらいにはなるさ」


 そうかもしれないけど、あれは私にとって不本意な狩猟結果。

 それで、こんな大金を受け取るるのは、少しばかり気が引ける……。

 だけどそんな自分勝手な事を言う私を、コッフェルさんは叱りつける様に真面目な声で。


「嬢ちゃんの話だと、それ以外にも跡形もなくなった二十六匹と、嬢ちゃんが助け出した坊主達が倒した二匹がいたって話だ。

 角狼(コルファー)の群れにしては小さいとは言え、そんな群れが人の領域近くをウロウロしていたのが、もし人里に降りて被害が出ていたら、そんな金額で済む話じゃねえからな。

 過去の経験上、人の味と楽な狩りを覚えた奴等は、道沿いを歩み町や街を襲う。

 その金は、それで出たであろう被害の金額の、ほんの一握りに過ぎないが、それを高過ぎだと言う事は、それで被害にあった人達の命が安いと言っているのと同じだ。

 実際、人の命を金に換算したにしては、安すぎではあるがな」


 コッフェルさんの話と、手にした金額の重さに改めて思う。

 どれだけこの世界の人達が、魔物の存在に怯え、そして被害に遭っているかを。

 その魔物の脅威に抗うために、シンフェリアでは、お父様達が節約をしてお金を貯めていた事に。

 そんな中で、私のために貴重なお金を、使ってくれていた両親の愛情を。

 そして、それを裏切ってしまった自分を。


「あと、これからもこう言う事があったら、この商会を通せ。

 信頼もできるし、口も硬い上、色々と便宜を図ってくれる処だ」


 そう言って、紹介状の入った封書を渡してくれる。

 何でも私の事は既に話を通してあるらしく、できれば砂時計の魔導具も含め、私の作った魔導具とかは此処を通して欲しいとの事。

 真面目で丁寧な仕事をするなら、金にはそう煩くなく金払いも良い商会だから、商品を卸す事で借りを作っておけば、材料の仕入れや職人や工房の紹介や仲介など、様々な便宜を図ってくれるらしい。


「俺は其処の商会の相談役にもなっているから、まぁ俺の顔を立てると思って使ってやってくれや。

 今回の角狼(コルファー)も、騒ぎにならねえ様に市場に回してくれたのも、其処だからな」


 今後、私を利用しようとする人達も出てくるだろうから、こういう窓口役の商会を作っておくと、厄介そうな相手は其方を通させたり、無理を言ってくる相手を代わりに何とかしてくれるらしい。

 あと、コッフェルさんが紹介すると言っていた、貴族向けの装飾品を扱う職人も、此処の商会経由で紹介される職人になるのだとか。


「嬢ちゃんの好きそうな、腕利きの職人や工房の様子を見せてくれるだろうよ」


 ゔっ……、それは是非見たい。

 作品を舐め尽くす様に見て、参考にしたい。

 何より、その空気を肌で感じたい。

 





2020-06-24 誤字脱字修正

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― 新着の感想 ―
[気になる点] セリフはきちんと「」で記載したほうがいいと思う。 小説じゃなくて日記みたいになってる。
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