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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
121/977

121.私、変じゃありません、変と思う人が変なのです。






 予想外の出来事のせいで狩猟に時間が掛かったのと、角狼(コルファー)の角をお土産にコッフェルさんの所に加工方法を聞きに行ったお陰で、大幅に帰宅時間が遅くなってしまった。

 おかげさまで、午後の休憩時間ぐらいには帰っていると伝えていた、ジュリエッタことジュリを部屋の前で待ち惚けをさせてしまった訳で、慌てて謝罪の言葉と共に部屋の中へと入れてあげる。

 もっとも、ドタバタしていてジュリが来る事を忘れていたと言うのが真相なんだよね。

 コッフェルさんの所に寄らずに帰っていれば、間に合ってはいたはずだから。


「ごめんねー、光石は今から出すから適当に始めておいて」

「そうさせてもらうわ」


 必要以上に、帰りが遅れた理由などを詮索してこない彼女の性格には、ある意味ありがたい。

 今回みたい約束していたのに、急用で遅れて帰ってきた事があったけど、その時も自分の都合に付き合って貰っているからと言って、余計な詮索はしてこなかった。

 その代わり、強引な時は強引だけどね。

 取り敢えず、狩猟に行ってきたから、手洗いとウガイをしっかりして、部屋着に着替える。

 え? ジュリがいても気にしませんよ。

 いつぞやの服屋さんのように注目されているのならともかく、別に下着まで脱ぐわけでもないし、彼女も気にしないでしょうしね。


「此処、置いておきますね」


 作り置きのハーブティーを冷たい水で薄めた飲み物を、近くの作業机の上に置いておく。

 苛立った精神を鎮めるのに一役買う効果があるので、実は私が飲みたかったりするだけ。

 ええ、狩りでなく慣れない戦闘で、自分の事ながら苛立っている自覚があるから、揉め事防止効果と、サッパリした飲み物で鼻に付いた血の匂いを流したかったのもある。

 本当はお風呂に入りたかったけど、それは後回し。

 たぶん、今それをやると、お風呂の中で自己嫌悪に陥る自覚があるからね。

 なら、こう言う時は美味しい物を食べて、心の中から幸せな気持ちになるだけ。

 そう言う訳で、今日は美味しい物を作りますよぉ~。

 ブロックへと切り分けられたペンペン鳥の切り身をはじめとする食材を、収納の魔法から取り出して献立を考える。

 ペンペン鳥は、今日の獲ったばかりの(オス)のペンペン鳥。

 彼方此方に激突していて痛みが大きいので、いつものお肉屋さんには卸さなかった。

 実際に私以外から持ち込まれるペンペン鳥は、こういった状態の物が多いらしいんだけど、私的には傷物を売り物にするのもと言う思いもあったので、なら折角の命なので美味しく頂く事にした。

 これが(メス)なら、そのまま火を通して塩で勝負なんてできるのだけど、幾ら美味しいとされるペンペン鳥でも、(オス)は僅かなりとも臭みがあるし、肉質も(メス)に比べたら硬めなため、多少なりとも手間を掛けた方が良い。

 逆に言えば調理のしがいがあるとも言う。

 

 肉をトリミングして脂身や筋膜や大きな筋等を取り除き、人数分に切り分けたら筋切り。

 あとは自作のヨーグルトと香辛料とタレを合わせた中に漬け込んでいる間に、別に切り分けておいた肉をバターを溶かした鍋に放り込んで表面を炒めたら取り出す。

 染み出た油で玉ねぎニンジンを炒めてから、別の鍋に休ませておいたお肉と炒めた野菜と水を入れて一煮立ち、香草を鍋に浮かせて、灰汁をこまめに取りながらクツクツと煮込んでいる間に、小粒な新ジャガをロースト。

 アスパラとブロッコリーなどの野菜を下茹でし、アスパラとセロリはレモンバジルドレッシングを掛けてサラダへと変身。

 ブロッコリーは後でシチューに入れるとして、取り敢えず両方とも収納の魔法の中で待機させておく。


「メインはペンペン鳥のソテーとして、シチューにサラダと小粒のパン。

 もう一品欲しいけど、今日は諦めてその代わりにデザートを作るかな」


 もう一度ヨーグルトを出して、蜂蜜とレモンピールとミントと赤ワインをひと匙分、後は薬草として取ってきてあったアロエの果肉を刻んだモノと一緒に掻き回せながら、冷却魔法でゆっくりと冷やしていく。

 そのまま冷やして固めるよりも、掻き回しながら冷やした方が食感が優しくなるので、このデザートでは大切な作業。


 早作りのシチューだから、コク出しに作り置きのベーススープとトマトピューレで味付け、ついでに此処でローストした新ジャガも投入。

 最初から入れていても良いけど、ローストしたモノを入れた方が香りが香ばしいので、私的には此方の方が好み。

 味を馴染ませるために、もう少し煮込んで完成かな。

 その間に、魔法で真空状態で漬け込んでいたので、早く柔らかく良い香りがついたお肉をゆっくり低温でソテーにして、収納の魔法の中で焼き立て状態で待機。

 後は使いかけの材料をしまう前にと、トリミングして残ったペンペン鳥の屑肉を、細かくミンチ。

 香草、炒めた玉葱、香辛料、パン屑を混ぜてあげれば、あっという間にプチハンバークの種の完成。

 元々ハンバーグって、こう言う屑肉を美味しく食べるための料理だったとか聞いた事もあるし、出来る時に作り置きしておくと、後々楽なんだよね。

 さぁ、今度こそ片付け片付け。

 使い終わった鍋は棚に仕舞い、材料の余りは収納の魔法の中。

 テーブルは綺麗に拭いて食器を用意……。


「……」


 そこで、ふと絡み合う互いの視線。

 台所の入り口で此方を茫然と見ているジュリの視線と、何か用があったのかと思いつつも、そう言えば食事をする時以外に、此方の部屋にジュリが顔を出すのは初めてだなぁと思う私の視線が。


「ジュリ、もうお腹が空きました?

 なら、もう少しだけ待ってくださいね」

「……何か疲れていそうだから、偶には手伝おうと思ったのだけど……」

「思ったのだけど?」


 何かそこで固まってしまったと言うか、天を仰いで見てみたと思ったら、今度は額に手を当てて下を向いたりと、何故か忙しそうに意味不明の行動をとるジュリの行動に、私は心配になってしまい。


「ジュリ、行動が変ですよ?」

「はぁ…、変なのは貴女よ、もうなんなの貴女は」

「が〜ん! 変って言われた!」


 コッフェルさんにならともかく、ジュリまで私を変扱いですか!?

 私そんな変な事してませんよ。

 ごく普通に料理を作っていただけです。

 今日の疲れた色々を、美味しい料理で癒されようと、頑張って美味しい料理を作っていただけなのに、どこに変な要素があると言うんですか?


「本人に自覚がないから、余計に性質(たち)が悪いわね」

「ががーん! 変に拍車がつけられたです!

 酷いっ! 今日は落ち込んで眠れそうにもありません。

 そう言う訳で、そうなったら慰謝料を請求します」

「ショックを受けている割に、言っている事は結構余裕ね」


 いえいえ、本気でショックを受けているんですよ。

 だって、本気で変要素なんて何処にも無いじゃないですか。

 え? 変要素がありすぎて固まっていただけだと。

 不思議ですね、ごく普通に料理をしていただけですよ。


「料理って、窯の火も(おこ)さず、包丁も使わないどころか、両手すら碌に使わずに料理する事を、普通とは言わないと思うけど」

「私達は魔導師ですよ。

 魔法を使って料理をすれば、楽に出来るじゃないですか。

 しかも同時進行で出来て時間の節約にもなります」

「幾ら魔導師でも、普通は料理に魔法なんて使いませんわ。

 と言うか聞いた事もありません!」


 はっきりと断言するけど、本当にそうだろうか?

 こんなに便利なのに使った事がないとは、とても思えないんですけど。

 例えば……。


「火起こしに魔法は?」

「……使うわね」

「水汲みが面倒だから、水魔法で水を出した事は?」

「……水って重いから」

「重い鍋を持つ時に身体強化の魔法は?」

「私はそう言うふうに使った事はないけど、使うかもしれないわね」

「手の届かない棚にある鍋とか取ったり出したりとか?」

「それは無いわね、多分此れからもね」

「くっ、これだから無駄に背が高い奴は」

「この際、背は関係ないですわ!」


 ええ、そうですね。

 流れをぶっちぎられたので言ってみただけ、そしてそんな事など関係なしに流れを巻き戻しです。


「とりあえず使ってますよね、料理に魔法を」

「……ええ、言われてみれば……使っているわね」

「じゃあ何処も変じゃないじゃないですか」

「あっ、それとこれとは別だから、どうみても変だからね」

「巻き戻し返されました!」

「楽しそうね」


 いえいえ、変、呼ばわりされて楽しくはないですよ。

 心の内の動きを表しただけです。

 これで楽しむほど、私、屈折してませんからね。


「普通は、こんな空中で何かを掻き回せるなんて真似は……美味しそうね」

「ええ、今日のデザートですからね。甘くて冷たくて美味しいと思いますよ。

 ……それはそうと、先に食事しにしません?」






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