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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
118/977

118.書籍に狩猟、趣味は大切ですよ。でも、人助けは趣味ではないですので遠慮させてください。





「いいわねぇ、今回も力作だわ」

「力作って、ライラさん原稿を盗み見てたじゃないですか」


 気兼ねなく印刷できる環境になったため、半年以上も空けて作った新刊をライラさんが営む書店に持って来たのだけど。

 今、言ったような理由で感激される程ではないと思う。

 私としては未完成の原稿を読まれて、不本意ではあったけどね。


「やっぱり端々が違うわよ。

 余韻に余裕があると言うか、感情移入しやすいと言うか。

 あと原稿には無かった挿絵が在る無しも大きいしね。

 最近は、ゆうちゃんの真似をしてか、挿絵をいれる著者も出てきたのよ」


 なるほどと思いつつ、中には挿絵に凝りすぎて増産出来なかったり、挿絵と言うか画集になってしまって肝心の話が薄かったりと、本末転倒に陥った著者もいるとか。


「そう言えば新しい生活はどう?

 上手くいっている?」

「ええ、おかげさまで充実した毎日を送ってますし、知り合いも増えました」


 本当に知り合い程度だし、アドルさん達も親しくはあっても友達とは言えない。

 ジュリは……、時折部屋に来て魔力制御をしては、夕食まで食べて行く事はあるけど、なんと言うか野良猫に時折餌をあげている気分。

 ちゃんと材料費も貰ってはいるけど、そんな感じ。


「良かったじゃない」

「ライラさんと程、仲良くなれそうにはないですけどね」

「これからよ、同年代の友達って言うのも大切なのよ」


 うん、ライラさんの言う事は分かる。

 ただ私にとって、同年代の親友と言うとエリシィーになる訳で、彼女以上になれるとは思えない。

 ただ、年上のお姉さん的友情は譲らないけどねぇ、と楽しげに言ってくれるライラさんの言葉に、少しだけ楽になる。

 きっと気楽に作りなさいと言っているのだと思う。


「うーん、そうなんだけど、基本的に脳筋な人ばかりで」

「のうきん?」

「考え方まで筋肉で出来ているような人達の事なんだけど」

「ああ、しょうがないわよね。

 家を継げない、コネで士官もできない、そんな貴族の子女が身を立てようと思ったら、一番手っ取り早いのが、武勲を立てたりする事だからね」


 言いえて妙な言葉ね、と感心してくれてはいるけど、実際にはそこまでは脳筋ではない。

 普通に会話できるし、この世界の年齢相応の子供達の価値観を持ってはいるけど、学院全体が武力至上主義、魔法の威力至上主義な風潮がある事には違いない。

 私が知っている中になるけど、特に魔法の実技の教官は、その傾向が強い代表格と言える。


「そういう意味では爺も脳筋よね。

 お金と立場に物を言わせて事を進める辺りなんて」

「コッフェルさん、また何かやったんですか?」

「ゆうちゃんも、聞いていているかもしれないけど、新居の件でね」


 なんでも彼氏と言うか、将来の旦那様が住んでいる場所の辺りと言うのは、此処から真っ直ぐと通うには、治安的に不安のある場所を通るのが一番近道らしく、ライラさんは平気でそれをやる。

 だけどそれはまだ明るい昼間の話で、夕方の薄暗くなった時間帯に出歩く事に不安を覚えたコッフェルさんが、そんな必要が欠片もない場所に新居を用意した挙句、この領地の領主と親友の立場である本人自ら、領主の紹介状を持って、相手の家に事情説明と説得に行ったらしい。

 そこまで細かい事情は知らなかったけど、どう聞いても……。


「……ほぼ脅迫ですよね」

「……権力の乱用とも言うわね」

「でも、不満ではないんでしょ?」

「不本意ながら、嫁姑関係に欠片も気にせずに新婚生活を送れると思うと、心の中で諸手を挙げて喜ぶ自分が居るのを自覚しちゃってるからね」


 その後、携帯(かまど)の魔導具に刻まれた文言の件を含めて、二人で悪口で盛り上がったのは、コッフェルさんの普段の行いの結果と言えると思う。

 ええ、物凄く楽しかったです♪




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 ゼンマイ、タラの芽、ウド、フキ、コゴミ、コシアブラ、ワラビ、春菊、ケール等々の春の恵みを大量ゲット。

 そろそろこれ等も終わりの時期なので、その前に来れて良かったと、つい頬が緩んでしまうのも仕方ない事だと思う。

 薬草や山草も結構の種類を採れたし、あとは少しお肉系が欲しいかな。

 今日の目的には採取がメインなので成果としては十分だけど、最近、私の部屋で夕食を食べていく人がいるから、食材の消耗が激しい。

 別にその事そのものには何も思っていないけど、若者らしい食べっぷりと、美味しそうに食べる姿に、少しだけ羨ましく思えてしまうだけ。


「ただ、この時期の四つ足系の大半は味が落ちているから、狙うなら鳥系か」


 そう思って、空間レーダーの魔法で探して見ると、それらしい反応を発見。

 距離として三キロと少し遠いけど、全速を出せば間に合うかもしれない。

 なんにしろ、これで駄目なら、今日は帰るだけと心に決めて、駆け抜けた先。

 

「くけっ」

 ペンペンペンっ!

「くけけけけーーーー」

 ペンッペンッペンペンっ!


 うん、ペンペン鳥の(オス)(メス)に向かって必死に求愛行動中でした。

 二つの硬い翼をペンペン叩きながら、声高に求愛している(オス)の姿に対して、(メス)であろうペンペン鳥は……見事なまでに無関心を決め込んでいる。

 (オス)のペンペン鳥は、今までで見た中でも、かなりガッチリとした個体だと思うんだけど、(メス)的には琴線に触れる物ではないみたい、……うん、哀れ。


「この位置と(メス)の警戒具合から、ブロック魔法で罠を仕掛けるのは厳しいか」


 なら素直に体格の良い(オス)は諦めて、小柄の(メス)狙い。

 だって、(オス)より(メス)の方が美味しいんだもん。

 そういう理由で(オス)(メス)かで言ったら、(メス)一択です。

 (オス)要りません。


 弓に(つが)えたのは、お父様から頂いた矢でも、コッフェルさんに頂いた素材から作った魔物用の矢でもなく、魔弾。

 と言っても、威力と特殊効果を狙った魔法石で作った魔弾ではなく、鉄とミスリルの合金製で、込められた魔法は飛距離と速さを強化した程度の狩猟用の通常弾でしかない。

 その通常弾に魔力を限界まで込めて……。

 

 プシュッ!


 サウンド・サプレッサー音の様な、小さな音とは裏腹に弓矢(ボウガン)の先端からは、吹き出た空気の圧力が、周りへと四散してゆく。

 魔銃の部分はまだ慣れていないため、狙いが甘いけど何とか仕留める事が出来た。


「くけーーーっ!」


 その事に喜ぶ間もなく、(オス)のペンペン鳥は襲撃者に対して逃げるのでもなく、風の魔法を全開に翼に乗せ、此方の方に突っ込んでくる。

 愛する者を奪われた報復なのか、それとも縄張りを冒す侵入者を排除しようとしたのかは判らない。

 予想外の出来事に、私は慌てて咄嗟に体に張っている結界を強化し、なんとか難を遣り過ごす事が出来た。

 今のは危なかった。

 獲物を仕留めた後で油断していたと言うのもあるけど、結界を強化していなかったら今頃身体に穴が開いていた。

 あと、咄嗟に身体を横へと避けため、当たり軸がズレていたのも大きい。

 結果的に(オス)のペンペン鳥は結界に対して斜めにぶつかり、その勢いから大きく弾き飛ばされて木に激突。

 

「慣れこそ最大の敵……か」


 反省し、気を引きしめないといけない。

 そう改めて自分に言い聞かせてから、折角、二匹得た獲物を解体。

 収納の魔法に収めた所で、念のためにと空間レーダーを広範囲に発動してみる。

 以前にこのタイミングで、獲物を横取りしようとした魔物に襲われた事があったからね。

 

「……これってっ」


 考えるより先に体が動く。

 距離にして七キロも先だけど、放っておくわけにはいかない。

 空間レーダーに捉えた反応の中に、人らしき反応が二つ。

 これだけなら幾ら山の奥深い所でも、珍しくはあっても無い訳ではない。

 狩猟する者は私一人ではないし、私ぐらい索敵範囲が広ければ、人里に引っかかる事もある。

 でも、あの辺りは人里近くではないし、通常の狩猟の域の外れにある。

 つまり危険な野生生物がいたり、魔物が領域から外れてしまい、それに遭遇する可能性のある場所でもある。

 そんなところで数十を超える、人以外の大型生物の反応、……この特有の感じって。

 ともかく、どう見ても追うモノと追われる者の反応に、間違いであってほしいと祈るばかり。

 脳裏の片隅で空間レーダーから得られる状況を確認しつつ、必死に身体強化の魔法を操り山中を駆けてゆく。

 体力は、状況を打破する分だけ取っておけばいい。

 そう焦りはするものの、周りは深い山の中のため、そう思うようには速度は上がらない。

 これ以上走る速度を上げれば、幾らブロック魔法で足元を補助していようとも、落ち葉に隠れた穴や沼等の急な変化に対応できないし、木に激突しかねない。


「間に合って、出来れば逃げ切って」


 そう焦りを抑えるように口にしながら、収納の鞄から幾つもの道具を取り出しては、力場(フィールド)魔法で身体の周囲に固定しておく。

 木に激突しないように馬並みの速度で駆けながら、力場魔法で取り出した紐の先端に(おもり)を取り付ける。

 取り出した三つの紐には一つ以外は錘が付いていないため、残り二つは鉄材から形状変化の魔法で作り出した。

 走りながらの即興で作業なので、この際見た目や多少の性能の犠牲は目を瞑る。

 今、求めてるのは一秒でも早くたどり着く事。そして状況を打破できる事。


「捉えたっ」


 まだまだ先だけど、木々の隙間から胡麻粒のように小さく見えたのは、……最悪、


 魔物:角狼(コルファー)


 単体ではけっして強い魔物では無いけど、それは魔物の中ではの話であって、人間にとっては脅威である事は変わらない。

 普通の狼の群れよりも、此奴ら単体の方が遥かに強いし、おまけに此奴等の強さは群れでこそ真価を発する。

 群れによる狩りは、徹底したヒット・アンド・アウェイで組織的に行われる。

 囮りや陽動を使いこなし、自分達は安全に相手の体力と足を奪って行き、その命を確実に狩り取る。

 角狼の獲物として狙われた二人が、生き延びているのは、その狩りの習性状のものなのか、それとも二人が角狼の狩りを上回る腕の為なのか、それは分からないけど、今は一歩でも早く足を進めるしかない。

 排除すべき相手を見定めた所で、弓矢に通常矢と魔法石を使った魔弾を装填しておく。

 一瞬でも早く反応できるために。


「こういう時、攻撃魔法って無力よね」


 下手な広範囲型攻撃魔法では、救うべき相手を巻き込みかねない。

 かと言って小規模の攻撃魔法単体では、小さな子供のキャッチボール程の速度しかでず、弓矢ほど速い攻撃はできない。

 私のように弓矢でもって、速度を出してやるしかね。

 だからなのだろう。この世界の魔導士達は面での攻撃を好む傾向があるみたい。

 そんなの効率が悪いだけだと言うのにね。






没話十話ほど作って消沈していたので、半月ほど筆が止めてリフレッシュ。

やっと再開できたけど、その間にストックが減っちゃいましたから、また頑張らないと。



皆さま誤字報告毎回ありがとうございます。

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