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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
116/977

116.偶には愚痴ぐらい言わせてください。あと相談と。





「まったく、困った人よね」

「本当ですよ」


 トレース台の魔導具の改良版の試作品の返事を聞きに来がてらに、書籍ギルドの支部長であるラフェルさんには申し訳ないけど、先日のコッフェルさんの件について愚痴らせてもらう。

 ああ言う叔父を持ったのを、不幸な運命と思って諦めてください。

 ええ、一通り話したら、それなりにスッキリしますから。


「それで結局は謝罪の言葉は口にしてはいても、最後までニヤニヤと笑っていたんですよ。

 誠意の欠片も感じません」

「まぁ、ああ言う人だからね。

 でも、あの叔父の事だから、決してユゥーリィさんを揶揄(からか)う為だけではしてはいないと思うから」

「その辺りは信じてますよ。

 偏屈で、素直じゃなくて、変な所で意地っ張りで、意地悪ですが、本当の意味で悪人ではありませんし、基本的に優しい人だって事はね」


 むろん、今回の件もコッフェルさんなりの考えがあっての事だろうと信じられる。

 でも確実に半分は、面白がってと言うのも信じられる人だから、感情を収めようがなくて困る訳で、我ながら困ったものです。

 なら、全部最後まで理由も述べずに、人の怒る顔を見て楽しそうにしているコッフェルさんが悪いと言う事で収めましょう。

 ああ、愚痴るだけ愚痴ったら少しスッキリしましたので、これで先日の件は忘れましょう。

 ええ、無かった事にします。

 例え見えたとしても見えなかった事にします。

 私の精神衛生上、それが一番ですから。


「それでは大人になれない困ったお年寄りの話は置いておいて、ライラさんのお祝いの件で少し御相談が」


 ライラさん本人は、何も気にせずに用意もせず(・・・・・)に来てほしいと言ってはくれていますが、私自身はお祝いしたいですし、子供ではあってもそれなりの収入もある以上、それ相応のお祝いの品を贈りたい。

 別に見栄とか義理とかではなく、アレだけお世話になったお礼もあるし、何より仲の良い友人として祝いたいと。……私みたいな子供が生意気なとは思うんですけどね。

 そんな私の相談に、ラフェルさんは優しい目をして。


「ライラの気持ちも分かるのよね。

 あの娘としてはユゥーリィさんを妹のように可愛がっているからこそ、余計に気を使わせたくないし、純粋な気持ちだけで祝ってほしいと言う気持ちはね。

 あの娘、色々と冷静に見える癖に、結構夢見がちだから」


 うん、それは知っている。

 貴族や裕福層を相手にした商売である以上、相手が何を求めているかを的確に見抜かないといけないし、一人で商売をしている以上は、それなりに嫌な事も見ざるを得ない。

 でも、読んでいる本は……うん、可愛いんですよね。

 きっと見えてしまうからこそ、癒されたいのかもしれない。

 そういう気持ちは分からないでもないし、そう言うライラさんだからこそ助けられた事もある。


「でも、家としては、ユゥーリィさんの立場を考えると、それに相応しい祝い事をして貰えると助かるのも確かなのよね」

「立場って、私は未成年で、学院生ですよね」

「確かに表向きは、家名もないのに貴族の学習院に籍を置く学生よ。

 でも魔導具師としての立場は、内々に評判は上がっているのよ。

 私やライラが所属する書籍ギルドだけでなく、服飾ギルドもそうだしね。

 そう言う力を持つ貴女と、それだけの祝いをしてくれえう程の密接な関係だと、相手の家に思わせておけるのは大きいのよ。

 あの娘の今後の立場を考えると、そういうのが一つでも多いと助かるのよね」


 ふとライラさんの結婚後の立ち位置を考えると、結婚後も今まで通り店を続けると言っていたし、しかも新居は店の裏側。

 傍から見たら、どう見ても婿養子状態なのだけど、婿養子ではなくライラさんが向こうへの家への嫁入り。

 ライラさんの店を続けたいと言う想いと、コッフェルさんの用意した嫁入り道具と言う名の新居もあるから……、どう見てもライラさんが相手を尻に敷いて、我儘を言っているように見えちゃいますよね。


「つまり遠慮なくやっちゃっても問題ないと」

「そうねと言いたいけど……叔父が新居を用意しちゃった件もあるから、一応はどんな物を用意するかだけ教えておいて貰えるかしら?」

 

 そうですよね。

 貴族や豪商ならともかく、結婚祝いに新居をあの大きさで贈るだなんて、普通は無いですよね。

 コッフェルさん、上位貴族と付き合いがあるから、その辺りの感覚がマヒしているのかもしれない。

 その点、私の考えているのは、元手での掛からない自らの手で得た物ばかりですから、手作り用品と同等です。

 私ぐらいの年齢の子が仲の良いお友達に贈るのに、相応しい品々です。

 多少肉々しいので、秋の山の実りや黒白のトリュフ等も探すつもりですが、どうですか?

 

「ある意味、伯父と同類よね」

「酷っ! 普通ですよっ。

 普通にお金の掛かっていない心の籠った贈り物ですよ。

 それをお金に物を言わせた贈り物と、一緒にしないでください」

「何気に貴女も酷い事言うわね。

 叔父の件は、まったくその通りだから否定はしないけど」


 人に酷いと言いながらも、自分も肯定しているのだからラフェルさんも大概だとは思うけど、其れは其れ、此れは此れなので、今は放っておく事にして。


「そうね、貴女の言う事ももっともだし、なに一つ間違ってはいないわ。

 でも相場を考えるとね」


 ペンペン鳥や雉や鹿等はともかくとして、白角兎(ホワイト・ラビット)は、秋口では倍近く値が上がっている上、お祝いの席用で雌雄揃っているとなると、更に五割は値が上がるため、白角兎だけで金板貨一枚になるらしい。

 御祝儀価格と言う奴ですね。


「でも元手は無料(ただ)ですよ」

「……そうね」

「心を込めて、自らの足で搔き集めた品々ですよ」

「あの子の事を想ってと考えると、嬉しい限りの事だわ」

「では何がいけないんです?」

「言っている事とやっている事は、少しもおかしくないのに、普通の人の枠に収まらない所が、叔父と同類と思う所なのよね」


 やっぱり酷いですっ!

 私、あの人達程、捻くれてませんよ。

 魔導具師イコール捻くれ者というのは偏見です。

 あっ、そう言う意味じゃない。

 あと、今言った範囲の祝いの品なら、ギリギリ問題ないと。

 そうですか、それならば良いです。

 あれ? 何か誤魔化された気も。


「とにかく、消えモノばかりと言う点では救いがあるわね。

 参加者全員が共犯にできるもの」


 今、随分と物騒な言葉が出ませんでした?

 気のせいですか?

 皆んなで美味しい物を食べれて幸せになれるから、不平は出にくい贈り物。

 ええ、美味しい食べ物は人を笑顔にしますからね。

 あと、問題が起きても全部コッフェルさんに押し付けるだけと。

 良いのかなぁと思いつつも、昨日の事を思い出すと、少しも問題ないように思えてしまうなら、不思議ですよね。


「じゃあ今、言ったような目録で頑張ります」

「ほどほどで良いわよぉ。食べきれなかったら勿体無いから」


 確かに勿体無いですよね。

 美味しく食べれる量が一番ですから、ほどほどが肝心ですよね。

 本当は収納の魔法を利用した、保管庫の魔導具でも出来ればいいんですけど、【時空】属性の持たない魔導士や、普通の人が使うには無理があるし、核となる一級品の魔石が手に入らない以上は、断念せざるを得ないですよね。






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