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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
115/977

115.光石と刻まれた想い。





「教えて貰えるかしら」


 手を引っ張られ強引に連れて行かれたのは、座学などを行う建物の裏手。

 前世で言う所の校舎裏に連れ込まれたという状況で、よく昔の漫画で見かけるシチュエーションでもある事を思い出す。

 え? 私。今から此処でシメられるんですか?

 それともカツアゲ?

 あまり、お金ありませんよ。


 どんっ!

「違うわよっ!人聞きの悪いっ」


 壁ドンですか。

 もしかして私、口説かれているんですか?

 でも、アレって、相手を逃げ場がない状況に追い込む事で冷静な判断を失わせるというか、相手に媚びを売る事で助かろうとする生存本能の表れで、ふとした時に相手に冷静に戻られてしまう危険な手ですよ。

 暴力的で脅迫的な手段を使う人間だって。


「知らないわよそんなのっ。

 と言うか、貴女、分かっていて揶揄(からか)っているでしょ」

「いえいえ、せっかく得難いシチュエーションに遭遇したので、せめて空気を楽しんでみようかと」

「それって貴女の妄想に、無理やり私を巻き込もうとしているだけと言わないかしら?」

「ジュリエッタさんの都合に巻き込まれているのだから、少しくらい良いじゃないですか」

「そうね、その事は申し訳なく思うわ」

 

 何か話を始める前に酷く疲れた顔をする彼女に、お疲れですかと聞くと、何故か誰のせいよと怒られてしまう。

 少なくても今の状況は、彼女のせいだと思う。

 そして何か色々と吐き出すように、深い溜息を吐いてから、真面目な顔で……。


「貴女のあの魔法、教えて欲しいのよ」

「……はい?」


 何か妙な事を言う。教えて欲しいも何も、彼女達の前で見せたのは只の火球魔法。

 【風】属性との融合魔法の方と言うのなら分からなくはないけど、子供の頃以降はあまり使った覚えはない。


「あれ、火球魔法(ファイアー・ボール)でしょ。

 そのやり方を教えて欲しいのよ」


 どうやら聞き違いではないようだ。


「教えるも何も、薄く結界で包んで周りから圧力を掛けるだけですよ」

「だけって」

「そう言えば、結界は使えます?」

「盾の魔法よね。

 それぐらいは一応はね、基本だから」


 そう言って私は、空間に水魔法でバケツ一杯分の水を呼び出し、薄く張った結界で覆って見せる。

 基本はこれと一緒ですが、此れは此れでコップが手元にない時に、使ったりすると便利なんですよ。

 そこに力場(フィールド)魔法で周りから圧力を掛けてやるだけ、普段使う火球魔法と同ようにパチンコ玉サイズにまで圧縮してやってから、結界の一点に穴を開けてやると、其処から凄い勢いよく水が糸状に吹き出す。

 あっ、手をやっちゃ駄目ですよ。指が斬れちゃいますから。


「火球魔法の良い所は、結界で包む事によって火炎魔法をそのまま維持し続けるより、魔力の消費が抑えられる上、威力が跳ね上がる事です。

 後は結界を解き放って威力を解放するも、圧縮された火炎魔法の膨大な熱で対象を貫通させる事も、その瞬間まで切り替える事が可能なので、戦略的に幅が広がります」


 水魔法の圧縮は物質である分、火魔法の圧縮に比べて難しいけど、火魔法に比べて安全に練習できる。

 私の場合は、ぶっつけ本番で出来たけど、此処にいる人達はそれなりに練習した方が良いと思う。

 魔力制御が、私の子供の頃より苦手みたいだからね。

 そう言えばミレニアお姉様が火種魔法を使えるようになったのって、今の私ぐらいの時だったとか言っていたっけ。

 もしかすると、普通はそうなのかもしれない。

 そう思って聞いてみると、彼女は十歳になる前くらいから使えるようになったとか。

 其れでも早い方らしいので、なるほど魔力制御が未熟なのも納得です。

 あー、大丈夫ですか?

 まだ放心気味ですけど、話、聞いてます?


「……同時に使うって、どれだけ難しいか。

 ただでさえ魔法を的まで持って行くのに集中力がいると言うのに」

「前も言いましたけど、右手と左手で違う事をするような物ですよ」


 思い返すと私も最初は苦労したなぁ。

 そう思いながら、収納の魔法から光石を数個程を取り出す。

 ミレニアお姉様のおかげで、此れで色々な練習ができた。

 だから今度は私の番かもしれない。


「光石ですけど、私は此れで練習しました。

 こんな感じで」


 両手の指に挟んだ幾つもの光石を、順番に光らせたり消したりして見せる。

 慣れれば足でも出来ますし、体から離れた場所の物を同じようにできれば、火球魔法も簡単に出来るようになってますよ。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「と、言う事がありまして」


 約束の日に、コッフェルさんの所に顔を出して、先日あった事を話してみる。

 どうやら、一般的な魔導士は十二歳前後で突然と使えるようになるらしく、私みたいな六歳ぐらいから使える人はまず居ないし、いても普通は死んでしまうらしい。

 制御できない魔力が身体を侵して。

 その事に、私もその運命を歩む一人だったのだと、改めて実感する。


「それにしても光石とはな、とんだ盲点だ。

 確かに言われてみれば、魔力制御の基礎練習には打ってつけだな」


 光石による魔力制御の練習は、身近にありすぎて分からなかった。

 それくらい光石は、人々の生活の中に溶け込んでいたのだと。

 そしてこれからは、光石の成分を使った照明がとって変わって行くのだと。

 移り変わって行く事に寂しいと思う反面、嬉しくも思ってしまう。

 そして良いなぁとも。


「しかも、八色あるとはな。

 五色までは確認されていたが、目の前で見せられたら、信じねえ訳にもいかねえか」

「……大きい光石でやれば、確認しやすい事だと思うんですけど」

「普通は、そんなでかい光石でやろうだなんて誰も思わねえぞ」


 私が子供の頃から使っている、両手で持つぐらいの石を収納の魔法から取り出して見せるのだけど。

 コッフェルさん曰く、この大きさを使う事が有り得ないらしいし、そもそもこの大きさの光石が出回っていないらしいけど、子供ならではの柔軟な発想と言って欲しいものです。

 それはともかくとして、本日の本来の目的をさっさと済ませてしまいましょう。


「じゃあ、確かにお手紙をお預かりいたしますが、本当はコッフェルさんが行くのが一番だと思うんですけど」

「嬢ちゃんの方が詳しいからな、一番、適任だと思うだけだ。

 まぁ、しっかりと頼むわ」

「別に良いですけどね。

 せっかくなので、工房の方も見学させて貰えたらと思います」

「ああ、嬢ちゃんそういうの好きだからな」

「ええ、憧れます」


 私には到達できない場所だから、余計に憧れてしまう。

 幾つもの工房が集まった地区の真ん中にある職人ギルド。

 きっと色々な職人の方がいるのだろうなぁ。

 職人の手で作り出されて行く品々を見るのは好きだし、それを作る姿を見るのも楽しい。

 無論、使われている工具や治具も、創意工夫がされていて、どういう使われ方をして、どういう意図でもって、こういう形をしているのだろうかと、想像するのも実は結構楽しいんですよね。

 そう想いを馳せながら、軽い足取りで向かったにも関わらず、工房を一つも見もせずに戻ってくる事になるとは、この時は欠片も思いませんでした。




『 戦ってくれている人達に、

  せめて温かい食事を届けたい。

    食べさせてあげたい。

           ユゥーリィ』


 見本に持っていった魔導具の底面に、いつの間にか刻まれていた言葉。

 それを見た時、どれだけ頭の中が真っ白になった事か。

 ええ、本当に!

 人の名前と言葉を勝手に刻むだなんて、一体、何を考えてるんですかっ!?

 腹を抱えて笑ってないで、人の話を聞いてください!

 無茶苦茶恥ずかしかったんですからっ!

 いいから、アレ取り消してくださいっ!

 私では、取り消させてくれないんですから!

 無理って、何でですかっ!?

 ……侯爵様が気にいった文言で、直筆の命令書だから、取り消せれるのは本人だけだから、説得するなら自分じゃなく、侯爵様に向かって言えって。

 無理に決まっているでしょうっ!!


 人の必死な苦情を他所に、心底面白そうに腹を抱えて笑っている、目の前の老人を、今ほど苦々しく思った事はないです。

 全く、こんな取り返しのつかない悪戯をして、本当に何を考えているんですか!

 ええ、コッフェルさんがそう言うつもりなら。私にも考えがあります。

 今日はじっくりと、とことん分かり合えるまで話しましょうか。

 徹夜禁止も今日ばかりは解禁です。






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