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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
113/977

113.力が無いフリをするのも、楽ではありません。





 何人もの魔導士が放つバスケットボールより大きい位の火炎魔法が、音もなく次々と幾つもの的の中心付近へと命中している中で、一人だけ一際大きな火炎魔法が、鋼鉄製の的に当たり、その表面を溶かしてゆく。

 私も五十メートルほど離れた的に魔法を当てるフリ(・・)をしながら、それらの様子を眺めながら、観察から得た答えを脳裏の中で纏めて行く。

 魔力の波の振幅が大きい魔導士ほど威力が高い傾向がある反面、命中率が悪い傾向にある。

 先程ひと際大きい火炎魔法を放っていた学院生のジュリエッタさんは、魔力の波の振幅が大きい割には、命中率が良い方ではあるが、これはたぶん彼女の努力と才能の賜物なのだろうと思う。

 彼女程ではなくても他の魔力の波の振幅が大きい者は、火炎魔法が的の中心から大きく外れていたり、的その物に掠りすらしていなかったりしているからね。


「……こんなに大きい的なのにね」

 

 直径一メートルほどの円形の的で、中心を軸に幾つもの段があって、術者にどのあたりに当たったか見やすくしてあるため、基本的に中心に当たるほど長持ちする作りになっている。

 おそらく鍛造ではなく鋳造だろうから、そこまで頑丈ではないだろう。

 少なくても、私の火球魔法に耐えられるとは思えない。


「ほいっ」


 そんな訳で、今度はパチンコ玉ほどの火炎魔法に見せかけた火球魔法を三つ、同時に発せられた小さな火球は、大きく螺旋を描きながら的に近づき、その直前で的の中心部に当たる瞬間、火球魔法を消し去る。

 やはり漠然とあるものを狙うより、こう言う狙う箇所がある的は操作がしやすい。

 次は六つに挑戦、動きの速い魔物相手なら、これくらいが現実的かな。

 五十は軽くできる自信はあるけど、牽制目的には良いかもしれないけど、魔物相手ではあまり意味が無い。

 勝ち目がないと感じれば真っ先に逃げ出してしまうだろうし、穴だらけにしてしまっては価値も無くなってしまう。

 互いに真正面で狩り合えるからこそ、此方の攻撃が当たる可能性が出てくるため、数があれば良いと言うものではなく、一撃必殺の方がよほど可能性がある。

 それが、趣味の狩猟で魔物に出会う度に得た私の答え。


「こらっ! お前はそんな小細工するより、威力を上げる事に集中せんか!」

「数で補おうと思いまして」


 何か教官が言っているけど、適当あしらっておく。

 それに威力は十分ありますよ。真面に当たれば鉄の的は簡単に貫通するだろうし、炸裂させれば的を半融解させられるだけの威力がね。

 同じ魔力消費量なら、昔やった風魔法との融合魔法なら、それこそ跡形もなく消せるだろうけど、共にやりません。的がもったいないですから。

 相手にしてられんとばかりに背を向ける教官ですが、これでも意外に良い事を教えてくれる人ですよ。

 魔導士ではなく、前線経験者でどういった時に、こういう魔法の援護が助かるとか、実体験を基にした事を教えてくれますから。

 まぁ……、やらされる実技内容は、どう考えても褒められた内容ではないかな。

 実際、やらされている内容については、他の生徒達からの評判は悪いから仕方がない。

 その辺りは教えられるような魔導士の数が少ないし、威力があるから実戦形式と言う訳にもいかないだろうからね。

 相手にキチンと当てると言う、攻撃魔法の基礎の基礎と思えば悪くはない。


「随分と器用な真似をするのね」


 先程より大きく、しかも火球の間隔を簿妙に空けてた六つの火球が、的に当たる直前に次々と消えて行く中、後ろから声をかけてきたのは、先程名前を挙げたジュリエッタさん。


「休憩ですか?」

「ええ、流石に魔力が減ってきましたから」


 額に浮かんでいる汗からして、それなりに疲労している事が分かる。

 以前にコッフェルさんが言っていた通り、おそらく彼女も魔力切れに近い状態なのだろうと思う。

 彼女の使っていた的を見れば、地面に溶け落ちているので、つい先ほど感じた一際大きな魔力の揺らぎは、最後とばかりに的に止めを刺しての事だろう。


「貴女の疑問には答えたけど、私の疑問には答えてくれないのかしら?」


 別に疑問と言うほどではないし、答える程の事でもないと思うけど、拒絶する程の事でもない。

 複数の魔法を放つのは、両手を同時に使うような物で慣れれば、今ぐらいの事はできるし、間隔や速度が微妙に違うのは、相手に避け難くするための工夫だと答える私に……。

 

「そっちじゃないわ。

 どうして的に当たる直前に、態々魔法を消しているのかと聞いているのよ」


 気が付かれた事に驚くも、周りには聞こえないように、声を潜めてくれた事は感謝しつつ、彼女の聞きたがっている答えを示して見せる。

 私の放ったパチンコ玉サイズの火炎魔法に見せかけた火球魔法は、まっすぐと的に向かってゆき、やがて的の中心を貫通させる。

 火炎魔法を圧縮して表面温度が上昇しているため、ぶ厚い岩をも何の抵抗もなく貫通させる私の火球魔法は、幾ら鉄であろうとも、たかが数センチ程度の厚さでは盾にすらならない。


「的がもったいないじゃないですか。

 それに圧縮した魔法を炸裂させるのも消すのも、時期(タイミング)を操作すると言う意味では同じです」

「……ぁ、貴女、…何者?」

「あっ、内緒でお願いしますね、目立ちたくはないので」


 ええ、こんな所で下手に目立って、前線に行けだなんて言われたら、断るのが面倒ですからね。

 少なくとも私は、人と人が殺しあう場に行きたくないし、そんな度胸はない。

 せいぜいが趣味の狩猟で、野生動物や魔物を狩る程度しかない。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 本日の講義を終えた後、書籍棟で調べ物と言うか、使えそうな素材はないかなぁと、今日も本をひっくり返す勢いで本を捲っては、気に留めた個所を纏めた内容を帳面に書き写す作業を繰り返していると。


 ぴかっ、ぴかっ。


 砂時計が落ち切った合図の赤い光が数度灯る。

 以前の砂時計では、やはり砂が落ち着た事に気が付かない事が何度かあったので、改良を加えた改良版砂時計。

 実家に居る時に溜め込んでいた輝浮砂から作った、小さい輝結晶と小さな魔法石を砂時計の中央部の凹み部分を覆うように固定させ、周りに迷惑にならないように、斜め上下にしか光が向かないようにしてある。


 魔導具:試しの砂時計(改)


 ぅ〜ん、……真の方が良かったかな?

 まぁどっちでも良いけど、この改良によって、前ほど気が付いたら砂時計の砂が落ち切っていたと言う事はなくなった……かな?

 うん、疑問形なのは、これでも数度遣らかしたからだけど、かと言ってこれ以上となると音を出すとか、周りに迷惑を掛ける仕様になるので、私が気をつけるしかない。

 それはともかく、少し休憩してから、もう一時間ぐらい頑張るかな?


「随分と面白い物を持っているね」


 でも、そろそろ、出汁やスープのベースの作り置きをしておきたいしな。

 お風呂の換気や湿気対策も考えたいし、書き溜めた原稿の印刷もそろそろしないと読者離れが起きてくるかもしれない。

 次の休みは、コッフェルさんに職人ギルドの方に、携帯(かまど)の生産の説明に行ってくれと頼まれているから、こう見えても意外に忙しい。


「あの、聞いている?

 おーい」


 そうそう、書籍ギルドに収める魔導具も、そろそろ作り始めないといけないかな。

 一日に五個作っても半月は掛かる計算だから、この間持っていった改良型の返事待ちとはいえ、基礎部品は作り始めないと。


 ゆさっ。

 びくっ。


 突如として肩を触られ揺らされる感覚に、一瞬だけ身体が強張り思わず振り向きざま。


「あっ、やっと気が付いてくれた」


 強化した腕を振り上げる前に、少し心配げな目と表情をした少年に、自分が反射的にしようとした事を反省し、顔を俯かせてしまう。

 危ない危ない、狩猟の時の癖で、すぐさま身体強化を掛ける癖が、またもや不幸な事故を引き起こすところだった。

 ガイルさんの時と違って、だいぶ冷静に反応できたとは思うけど、一瞬だけとは言え反射的に敵意を見せてしまったのは失敗。

 相手が敵意を見せていないのに、此方から敵意を見せるのは下策だし、相手に失礼な事でしかない。


「すまない、別に怖がらせる気はないんだ。

 返事が無かったから、つい触れてしまった。

 しかしそんな恥ずかしがらなくても、気楽に話してくれていいよ。

 あと、少しだけ話を良いかな」


 うん、何か勘違いしている気がする。

 恥じているのと恥ずかしがっているのは、意味が全く違うと思う。

 あと気楽も何も、相手の事を全く知らずに、気楽もない気がするんですけど。

 それ以前に、どうやら彼が呼びかけている事に、まったく気がつかなかった私も悪い所はあったけど、言い訳を言わせてもらうなら、彼が声を掛けているのは私ではなく、別の人に向けていると思っていたのだから仕方がない。


「私になにか?」


 深い緑色の髪に同色の瞳、一目で美形の部類の少年だとは思える程に整った顔立ち。

 ただ少年と言っても、既に顔や体の作りが大人びてきている事から、私より二つ三つは年上なんだろう。

 あと、もう脛毛が生えてきて、むさくなってきているのだろうなと、どうでも良い事が脳裏に浮かぶけど、今はそれは関係ないので放っておく。


「いや、君の持っているその道具、何処で手に入れたのかと思ってね」


 机の上に載っている砂時計を指して聞いてくる。

 なんでも、何度も夜遅くまで此処にいて付き人に怒られたり、翌朝は眠くてしょうがない時があるとか。

 此処の学習院は、基本的には貴族の各家で溢れた子女達の姥捨て山的な側面があるが、それで自棄になる人間もいれば、受け入れて真面目に頑張る者は当然ながらいるし、中には嫡子かどうかなど関係なく、揉ませる為に敢えて子供を此処に放り込む家もあるらしい。

 話を聞くからに、彼は後者の努力する方なのだろう。


「売り物ではないですよ」

「そっか、せめて何処で手に入れたか、聞いてみてくれないかな?

 かなり、便利そうだから」


 どうやら、彼は私の家から手に入れた物と思われたらしい。

 生憎と家とは縁が切れているので、そんな事は無いのだけど、態々それを言う理由もない。


「いえ、私が作った物ですので」


 むろん、態々黙ってる理由も同じくないんだけどね。


「……君は魔導具師か。

 その歳で勿体無い」


 そんな私の答えに、彼の整った顔立ちが崩れ驚きの表情に染まった顔に、此方の方がよほど人間味があって可愛げのある表情だと思いつつ、やはり世間ではそう言う認識なんだと改めて実感する。

 どの道を選ぶかなんて、個人の自由だと思うんだけど、魔物から生き延びる事が優先のこの世界では仕方がないと言えば仕方が無いのだろう。

 私は自分勝手だから、そんな殺伐とした道を選びたくないし、此方の方が面白いからこの道を選んでいるに過ぎない。

 なんにしろ、もし本当に目の前の魔導具が欲しいと思っているのなら、今のは失言だと思う。

 例え、その意味が分かってはいなくても、その考えからしたら、今の発言は相手を侮蔑する事だから。

 もっとも、私はこんな事で、いちいち怒りはしない以前に、気にはしないけどね。

 

「今のは聞かなかった事にしますが、数個であれば優遇は致しますよ」


 周りに視線をやれば、彼がいたであろう机上には、私と同じように本の山と開かれたままの帳面が広がっているし、よくよく思い出してみれば、何度か此処で見た覚えがある。

 その事に、条件次第では彼の要望に答えても良いと思う。

 ただの冷やかしや興味本位なら、自分の時間を費やしてまで魔導具を作りたくはないけど、本当に真面目に自分を磨いている人間なら話は別、無理のない程度に応援する気持ちが沸かない訳ではない。

 前世今世を含めて、私自身、そうやって多くの人達に助けられてきたのだから。


「すまない、別にそういうつもりでは…」


 どうやら私が言った意味がやっと分かったのか、謝罪の言葉を口にするけど、別に気にしてはいない。

 ただ分かったのが、目の前の彼は、その辺りは見た目通り坊ちゃん育ちで、徹底した教育がされていない。

 無論、地位が高い貴族の家の人間で、そういう教育が必要なかったか、私みたいな例外を想定していない教育だっただけかもしれないけどね。

 あと意外と人が良い事かな。ジュリエッタさんもそうだけど、貴族の子女で素直に自分の非を認めれる人間は意外に少ない。

 特に此処にいる人間はそういう傾向にあるみたいだしね。

 あと聞かなかった事にすると言っているのだから、言い訳はしなくて良いですよ、そのための言葉ですから。

 それと、とっとと条件を示せと言う私の視線をやっと察したのか。


「できれば二つ欲しい」

「……二つ?」

「さっきも言ったが付き人というか、私としては親友のつもりなんだが、そいつにも贈りたい」

「二つぐらいなら構いません」


 それぐらいなら手持ちの材料で出来るし、水晶屑も頼んである分はその内に届くので、そんなに在庫を気にしなくてもいい状態だからね。

 ただ、やはり水晶屑は何処かの悪どい人間が、国中の水晶屑を買い占めしたため、価格が高騰しているため、魔法石を含めて決して安い材料ではない。

 買い占めをするだなんて、本当に悪い人間がいた者です。……考えたのは私ですから因果応報ですけどね。

 とにかく、それを話した事もない人間に、無料で譲るほど私は人間が出来ていないし、労働に対する対価は要求したい。


「二個で銀板貨で二枚」

「それなら前金で」

「ただし、貴方が自分の力で稼いだお金でお願いいたします」


 原価率六割の格安価格。

 あくまで応援したいと言う気持ちの価格。

 単純なようで、中の砂が均一に落ちるように調整しているため、結構手間がかかっており、普通なら四枚は戴くし、コッフェルさんあたりなら、平気で金貨一枚とか言うだろう。

 そして、その差の分だけ条件として付けさせてもらう、私からの課題だ。

 この学園の目的は実態はどうあれ、貴族の子女の自立を促した物。

 当然、それを考えれば、親から貰った金を使うのは当然と言う考えは、自立からは程遠い物。

 私も此処に居させてもらっているに辺り、書籍ギルドに色々と手を尽くして貰ったり、支援して貰っている立場ではあるけど、それ相応の代価は払っているし、そう言う契約をしている。


「じ、自分で稼いだお金以外は受け取らないと?」

「ええ、此処の学院の目的を考えれば当然かと」


 無論、幾らでも嘘はつけるし、私はそれ以上追求する気はないので、あくまで相手次第。

 そしてこの学院は、私が言った事が出来るだけの条件を揃えてくれている。

 気が付くか気が付かないかは、本人次第だけどね。

 もっとも、入学時に貰った書類の中に、あれだけヒントが示されていれば普通は気が付くもの。






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