110.下着の押し売りと、お祝いの品。
「確かに受け取りました、此方にサインを」
ズレ防止用のテープの騒ぎの騒動の元となったお店の店内で、服飾ギルドの方に施工に使う専用の魔導具を納品確認をしてもらう。
ええ、この名称で間違い無いですよ。良い名称でしょ。
渇いた笑みの意味は聞きませんので、よろしくお願いします。
テープの名称を決めてから製造方法を売れば良かったと、今更ながら悔いてます。
コッフェルさんが勝手に話を進めてしまいましたから、今更とやかく言いませんけどね。
はい、金板貨二枚を確かに受け取りました。
「でも、何故わざわざ服飾ギルドではなく、此方のお店で?」
「ユゥーリィ様は、自分の着る服には無関心と聞きましたので。
此方に足を運んで戴ければ、此方の店の者が随時アドバイスをさせて戴ける環境を御提供出来ると思いまして」
「……ちなみにその話は何方から?
ああ以前に来た時の私達の会話からですか、そう言われれば思い当たる節があります。
それで話は変わりますが、こう言うのって作れますか?」
そう言って以前に書いた下着の衣装図を服飾職人の方に見せる。
ええ、私用でなく、この間一緒に来ていた方用のを、お世話になったのでプレゼントしよう思いまして。
ええ、なかなか良いでしょう。
作りがいがある衣装だと、ええお褒めありがとうございます。
なるほど、こっちをこうした方が、より魅力的ですね。
そうですよぉ、若い方の方は婚礼の予定がある方ですので、なるべく上品かつ清楚な感じでお願いいたします。
あっ、そっちは関係ないので、……いいえ、作る予定はないです、ただの遊びで書いた物ですからね。
あっそれですか?
上としたと別れるようになっているんですよ、例のテープで離脱着可能で用途で切り替えです。
軽めのひらひらが、可愛いですよね。
「作りましょう。作らせてくださいっ」
「本当に、ただの手遊びなので」
「意匠料を払いますので、使わせてください」
「……そこまで言うのであれば、どうぞご自由にお使いください」
確かに私向けには書いたけど、使う事など欠片も考えずに書いた意匠だから、実際に使うとなると似合うかどうか考えると恥ずかしい代物。
だけど自分が使う訳ではないのなら、なんら問題はない。
ええ、そう言う事でお願いしますね。
がしっ。
あの何か?
採寸って、なんのですか?
下着のって、別に私のは頼んでませんから。
あっ、私限定の永久サービスの下着ですか、……いえ、私にはそんな可愛いのは。
似合うからじゃなく、手を、手を離してください。
「……うぅ、抵抗しきれませんでした」
「出来上がりましたら、お届けに参ります」
「……しかも受け取らないと言う逃げ道すら塞がれました」
「マイヤーソン様方から、少々強引にしても宜しくお願いしたい、と言付かっておりますので」
「……納得です。
もしかして、此処を私専用のギルドの受付にしたのって」
「ユゥーリィ様の事をよしなにと」
ええ、更に色々と納得です。
私を心配する気持ちは分かりますが、少し過保護だと思います。
え? 以前採寸の時に履いていた下着が限界近い物だったのを見れば、誰でも心配になるって、別に穴は空いてませんでしたよ。
……そう言う問題じゃないと。
あの、そんな涙ぐまなくても、別にお金がない訳ではないので。
……お金が有るのにああ言う状態だから心配になると。
すみません、根が無精者なので。
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「そう言う訳でライラさん、何故か同情された挙句に泣かれました」
「そりゃあね、ゆうちゃんみたいな子が、身につける物にあれだけ無関心だとね。
私も洗濯の時に、もう少し気をつけて見ておくんだったと反省しているのよ」
食料品の買い出しの後、ライラさんが経営する書店に顔を出したのだけど、何故か二人して反省の言葉を出す事になってしまった。
いえ、原因は私に有るんですけどね。
「私としては安心かな。
ゆうちゃんが、数ヶ月毎に顔を出すように約束させられたのは」
「顔を出せば出すだけ、赤字を生む事になると思うと」
「それ以上に、ゆうちゃんのおかげで儲けているんだから、問題ないでしょ」
「まだ物になると限った訳ではないんですけどね」
「なるわよぉ。これ、調子が良いもの」
あれから、ずっと試用ですか。
あれ? でも作ったのって三つでしたよね?
なるほど追加の試作品が届いた訳ですね。
いえいえ、何日も着替えもせずに使っているだなんて、失礼な疑惑は持ってませんよ。
そんなこまめに洗濯する性格でしたっけ? と思っただけです。
花嫁修行には余念がないのは、秋の祭りの時に式が決まったからと。
ライラさん、おめでとうございます。
はい、式には喜んで参加いたします。
御招待して戴き、有難うございますね。
そういえば、お祝いの品ってどんなもので良いんでしょうか?
今のところ考えているのは、白角兎を雌雄一頭ずつと、ペンペン鳥を雌雄三羽ずつ程ですが、このために取っておきました。
「豪華すぎっ! どこの貴族の婚礼の祝いよっ!」
「元手は無料ですよ」
「……ゆうちゃんに掛かると、超高級なお肉も、雉子や鹿扱いに聞こえるわね」
「そっちも有ると如何にもお祭りって感じで良いですね。
三十ずつほど狩っておきますね」
前世で書店の店長と言うと、一般市民に思えるかもしれないけど。
この世界の書店の店長と言うのは、貴族などの裕福層を相手にする高級店。
親戚であるラフェルさんは、書籍ギルドの支部長だし、子爵家の夫人でもあるので、ライラさんは貴族の親戚筋とも言える。
大叔父であるコッフェルさんにしても、魔導具師として魔導具も名も売れており、下手な貴族よりも資産はあるとかないとか。
そんな一族が集まる結婚式が、普通の庶民と同じような結婚式とは思えないので、さぞかし、派手な式になると思う。
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「そう言う訳で、身一つで良いと何故か怒られました」
書店を後にした後、明日の打ち合わせも兼ねて、コッフェルさんにライラさんの式の件を相談してみました。ええ諦めていませんよ。
「あいつとっては、オメエさんは可愛い妹みてえなものだからな、気軽に参加して欲しいと言うのが本音なのだろうな」
「私としてはライラさんに凄くお世話になったので、せめて式を盛り上げれるようにお力になれたらと思っているんですが」
「まぁ、その辺りは嬢ちゃんの思う通りにすれば良いんじゃねえのか。
ラフェルの奴にも言っておくから、彼奴に相談しながら用意してやってくれや」
言っている事は丸投げですが、確かにラフェルさんなら、ライラさんの親族として適切なアドバイスをくれそうです。
私には生憎とこの世界のその手の一般常識がないので、コッフェルさんの言葉は、ある意味一番適切なアドバイスなのかもしれませんね。
「確かに少し遣り過ぎかもしれんが、嬢ちゃんの狩猟の稼ぎからしたら、決しておかしくはねえな」
「ちなみにコッフェルさんは、どんな物を贈る予定ですか?」
「俺か? 俺はもうほとんど贈ったようなもんだ」
「早いですね」
「早くしねえと、間に合わねえからな」
「それで結局は何をです? 参考にしたいので」
「ああ、新居だ。
あの店の裏と、その周り三軒分を買い取ってな」
何やら解体工事をやっていると思ったら、コッフェルさんが原因でしたか。
でもどうやって? 確か三軒とも住んでましたよね? もしや強引な事は、……していないと、金に物言わせたと。
相場の五倍の立退料で喜んで、明け渡してくれたと。
お祝いの品に縁起の悪い真似はできないですよね。
すみません失礼な事を言ってしまって。
でもこれって、ちっとも一般的なお祝いの品じゃないですよね?
ああ、ライラさんの亡くなったお母様の分も含めてですか。
「俺の読みが正しければ、その頃には嬢ちゃんが顔を出すだけで、両家にとって良い話になるだろうがな」
また、意味不明な事を言う。
もしかしてお姉様の時みたいに、人をフラワーガールにでも使うつもりでいるのかも。
でも、私ぐらいの歳の子のフラワーガールは、流石に聞いた事ないですので、例え話があっても全力で断りますけどね。




