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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
108/977

108.だから徹夜は駄目ですってばっ!





「ほう、さっそく知り合いが出来たと」

「知り合っただけですけどね。

 あと、なんで私、此処で手伝わされているんです?」

「そりゃあ猫の手も借りてえからに決まってるだろうが」


 買い出しついでに、他人の魔力感知の事についてコッフェルさんに聞きに寄ったら、掴まりました。

 ええ、強制労働です。

 終わるまで帰さないと脅されています。


「人聞きの悪い事を言うな、ちゃんと日暮れ前には終わる量だろうが」

「……私のやる量と、コッフェルさんの量がおかしいと言っているんですが」

「年寄りと若けえもんを一緒にするな。

 嬢ちゃんならいけるだろうが」


 まぁ、やりますけどね。

 ただ面倒なので同時進行でやりますけど。

 え? これですか? ただの複数同時進行ですよ。

 最初の頃と違って、今は型に嵌め込むだけなので、これくらいの事はなんとか。

 ほらっ、こうして右手と左手を別々に動かすのは難しいですけど、同時に同じ事をやるのは、それほど難しくないのと一緒です。

 まぁ両手の代わりに、魔力の手を五組同時に動かしているだけですけどね。


「『組』って時点でおかしいわっ!」

「そうですか? ただの慣れの問題ですよ。

 さぁ、サクサクとやっちゃいましょう」


 多少複雑ではあっても、作業その物は同じ事の繰り返しですから、効率よくいかないと。

 疲れるわ、ダレるわ、集中力無くすわと、自分の性格を知っているだけに、自然とそう言う事が出来るようになっただけなんですけどね。


「……まさか昼過ぎに終わるとわな」

「アルミと鉄で各二十個ずつ、後は魔法石ですね」

「そちらは多分なんとかなる。

 流石に身体に堪えるがな」

「……ちゃんと寝てますか?」

「少しはな、今日も寝たのは朝方だ」


 ぷちっ!


「コッフェルさん、そこに座ってください」

「はぁ別に此処でも」

「いいから座ってくださいっ!」



 長い長い、お話合いの末。



「………分かった。

 分かったから、もう勘弁してくれ」

「本当に分かったんですか!?」

「この通り降参する」


 なぜか憔悴しきった顔で、両手を上げて見せるコッフェルさんの姿に、ようやく自分の中の物が治るのを感じると共に、またやってしまったと、後悔の念が押し寄せてくる。

 押し寄せてくるんだけど、取り敢えずこのままだと、きっとコッフェルさんは繰り返してしまいますので、もう少しだけお手伝い。

 なので出す物を出してくださいね。

 なんで、そこでお金を出すんですかっ!

 性質(たち)の悪い冗談を言う元気があるなら、もう少しお話を続けましょうか?

 いいから魔石を出してください。

 それで、今、何個まで出来ているんですか?

 十二個と、なら後二十八個ですね。

 今からなら夕方までには余裕で出来ますね。

 いえ、本気ですよ、こんな事で冗談は言いませんから。


「ふぅ……、後は魔法陣を組むだけなので、お願いします」

「……一体どんな魔力をしてるんだか」

「何事も効率良くです」

「そう言う次元の問題じゃねえ気がするんだが。

 とにかく助かった。帰るなら飯でも奢るぞ」

「いえ、食事はきちんと作って食べます。

 最初からサボり癖がつくと、後が大変ですから」

「まったく嬢ちゃんは真面目だねえ」

「サボる事の怖さを知っていますから」

「違げえねえ。

 あと、十日後の件は頼むぜ」


 十日後と言うのは、コッフェルさんが十年の歳月をかけて開発した、この魔導具のお披露目会の事。

 先方の都合で、今回を逃すと、この話が立ち消える可能性が出てきたため、私もコッフェルさんも色々と無理をしてきたので、きちんと行く末を見守りたいと言うのもあったのだけど。


「自分で言い出しておいて何ですが、本当に私が行っても良いんですか?」

「良いも悪いもオメエさんが言い出した作戦だろうが。

 作戦の本質を知るオメエさんがいた方が、俺としてもやりやすい」


 まあそう言う事なら、遠慮なく参加させてもらいましょう。

 もらいますけど、ところでコッフェルさん、これは?

 最初の試作時に、オメエさんに出してもらっていた魔力伝達紐だが。

 ええ、此方はそうですよね。

 二十メートルが三十メートルになっている所に突っ込みたいですが、そこは利子という事にしておくとして。


「この強化型の方は?」

「試作の試作で死蔵品だから、オメエさんに渡してくれって預かってきた」

「何で預かってくるんですかっ!

 私、もう受け取らないって言ってあるんですよ」

「そんなの俺の知った事じゃねえ。

 受け取っちまったもんは、しょうがねえだろうが」

「しょうがないって……、そう言えば試作品も買い取るって契約じゃなかったでした?」

「ああ、俺が許可したから問題ねえ」

「確信犯じゃないですかっ!

 というか、もはやグルですよねっ!」

「言っとくが、俺は、今、嬢ちゃんに聞かされるまで知らなかったぞ」

「でも、なんとなく予想してましたよね?」

「そいつを実証できるってんなら、俺も折れてやろうじゃねえか」

「くっ、そんな事出来る訳がないと知っていて」

「言ったろ、俺は碌でもねえ大人だってな」

「本当ですよ!」

「けっけっけっけっ」


 まったく、この年寄りはいつか碌でも無い死に方をするのではないかと、本気で思ってしまう。

 コギットさんと言い、コッフェルさんと言い、どうして年寄りは人を出し抜いてまで、こういう事をするのだろうと思ってしまう。

 そりゃあ、二人の善意だって事は分かりますよ。

 でも私は其処までして貰えるような人間ではない。

 散々、此方の都合に振り回してしまっているというのに。

 はぁ……、本当に困った人達です。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「これかな?」


 所代わって宿舎の自室。

 地中レーダーの魔法で探し当てた排水用の配管に、僅かな傾斜を取りながら床下の石の中に掘った排水用の配管を繋げ、念のため接合部分の周りを厚くしておく。

 もうすぐ完全に陽が落ちそうになってはいるけど、構わず作業を続ける。

 見えない箇所をやってしまったら後は比較的簡単で、予め魔法でブロック状に加工してあった石を収納の魔法から取り出し、どんどんとウォークインクローゼットという名の物置に壁として積み上げていく。

 天井まで積み上げたら、形状変化の魔法で一枚岩化。

 これで崩れる事はないし、万が一倒れてきても、壁に当たるので問題はない。

 もっとも床と天井に張り付いているので、それすら起きないはずだけどね。

 後は、片方の部屋を更に二つに分けて、出入口は今度考えるとして、取り敢えず木の板でも立てかけておこう。


「後は湯船をつけて完成」

 

 ええ、作っていたのはお風呂と脱衣所です。

 念願のお風呂ですよ。

 シンフェリア領以来なので、数ヶ月ぶりです。

 材料を買って今夜はお風呂と決めていただけに、コッフェルさんの所で時間を費やしてしまったのが痛かった。

 でもそれくらいの事で、私のお風呂に入りたいという熱い情熱が冷める訳がなく、一気に作っちゃいました。

 ええ魔法を使っても、一時間の作業です。

 湯船のお湯も冷め切らないような時間ですね。

 魔法って凄いと改めて思う。


『改めて思う基準がおかしいわよ』


 うん、きっと彼女なら、こう突っ込んできたと思う。


『『覚えていなさい』だとさ』


 そうコッフェルさんに彼女は託した。

 うん、いろいろな意味はあると思う。

 良い意味でも悪い意味でも、でも、例えそうでも私は何方も受け止めるつもり。

 それだけ彼女を傷つけたし、それだけ彼女との思い出は、私にとって忘れられない大切なものばかりだから。






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