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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
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107.新たな出会い? いえ将来の私象です。





 …む…わ…ん、…む…わ…ん。

 …も…わん、…も…わん。


 うん、やっぱり気のせいじゃない。

 十五メートル程先で行われている的当て、それに参加している十数人程の少年少女達から、魔法を放つ度にそんな揺らぎを感じる。

 私が子供の頃に感じていたアレに比べれば、酷く弱々しいし揺らぎの幅も不規則だけど。

 

「……たぶん、魔力に関係する事なんだろうけど」


 …むわんっ、…むわんっ


「何を見ているのかしら?」


 後ろから掛けられる言葉に、私は首を傾げる。

 前方の子達に比べて感じる強い揺らぎに、見なくても誰なのかは分かる。

 何故なら、先ほど感じていた一段と強い揺らぎ方だから。

 だから余計に、この揺らぎを不思議に感じる。


「うーん、なんて言うか。

 変な揺らぎみたいのを感じるから何なのかなって、うん貴女からも強く感じるし」

「……呆れた。貴女そんな事も知らないの?」


 どうやらかなり呆れられる程、基本的な事らしい。

 そしてありがとうございます。そう言う物だと教えてくれた事を。


「ええ、だから何なのかなぁと思って観察してたんです」

「……はぁ……、本当に知らないのね。

 あと、先程は貴女の的を吹き飛ばしてしまって、ごめんなさい。

 少し苛ついていたものだから」

「別に構いませんよ。

 おかげで興味が持てる事を発見できましたから」


 うん、少なくても目の前で行われている光景を、只管単純作業で行うよりは余程充実していると言える。

 そう言う意味では、後ろにいる彼女には感謝かな。

 あと初見の印象とは裏腹に、結構良識のある子の模様。

 自分の非を認め、すぐ謝罪する事が出来るのは高位の貴族ほど難しいと聞くし。


「貴女に魔法を教えた人は、そんな事も教えなかったのね。

 そちらの方に呆れたわ」

「ああ、いませんよ、そんな人」

「え? じゃあ独学で、……なら納得いくわ」


 私の魔法は、本と前世の知識からの独学。

 多分そういう所が原因で、この世界の人達の魔法から、少しだけズレているのだろうし、コッフェルさんにヘンテコ呼ばわりされているのだろうから、今更驚きません。

 ただ教えてくれた人というと、多分アルベルトさんになるのかもしれない。

 私にとって、魔導具師の基礎はアルベルトさんが残した本や日誌から得た物だからね。

 コッフェルさんからも色々教えてもらっているけど、やっぱり私の基本はアルベルトさんだと思うし。

 あっ、思考が脱線した、今は魔法の基礎の話だった。


「貴女が感じているそれは、他人の魔力よ。

 魔力が強い人ほど強く、そして深く感じる物なの」

「……ああ、それで貴女からは強く感じるんですね。

 納得しました」


 うん、今まで比べられる他人がいなかったから、分からなかったのだと思う。

 他人が魔法を使うのを見て……。

 それを側で感じるようになった事で……。

 やっと他人の魔力と言う物を感じるようになれたのだと。

 うん、これは是非とも鍛えたい感覚。

 もしかすると空間レーダーで感じていたのはこれかもしれないし、もしかすると全く別のもので、組み合わせる事ができるかもしれない。


「そういう貴女からは全然感じないけどね。

 普通の人と一緒よ」


 昔はこうやって自分の魔力の揺らぎを感じていたけど、魔力制御をきちんと身につけてからは揺らぎはほとんど感じなくなったし、常態化を身につけてからは感じた事はない。


「そうなんですか?

 でも、それって気持ち悪くならないんですか?」

「何が?」


 私の言葉に意味が分からないという表情をする。

 うん、いつの間にか、私の横にまで来ていた。

 それはともかく、どうやら気持ち悪くなるのは私だけみたい。

 そういう意味では色なし(アルビノ)である私は、人としてだけでなく魔導師としても欠陥品なのだろう。

 もっとも、今はなんともないので気にしていないけどね。


「いえ、此方の勘違いだったようです」


 しかし、こうして隣に並んでみると、よく分かる。

 はっきり美人と言えるけど、あどけなさを残した顔からは、私と同じか少し上ぐらいだろう。

 何より一番に気が付いたのがこの落差、おそらく四十センチ近くはある

 私は病気と薬の後遺症のためか、年齢の割に小柄で、どう贔屓目に見ても百四十は届いておらず、実際は百三十を超えたぐらいだと思う。

 そう考えると、彼女の背は百七十センチはあるはず。

 

「背、高いんですね」

「ゔっ、人の気にしている事を」

「あっ、すみません。でも、そういうつもりではないですよ。

 背が高くてスラリとした手足ですから、将来は格好いい女性になるだろうなぁと思って」

「そうね、そう言われるのなら、悪くないわね。

 貴女も将来は、美人で可愛い女性になりそうね」

「美人はともかく、可愛くて胸の大きな大人には夢見ますね」

「……」


 何でそこで横を見るんですか。

 私のお姉様もお母様も、貴女より凄いですから、その希望はまだあります。

 あっ、横を向いたのは冗談ですか、夢は見るためにあると、ええ良い言葉ですよね。


「それにしても貴女みたいな小さな子まで来るなんて、此処どうなっているのよ」

「……あの、私、幾つに見えてます?」

「えっ、八、いえ九くらい?」


 今、言い直しましたよね?

 それでも今までに言われた事のない年齢ですよ。

 そう言う訳で真面目にどうぞ。


「もしかして十?」

「冬の初めに十二になった所です」

「嘘っ!?

 私と半年しか違わないの」


 ええ、だから私も背の違いに驚いたんです。

 え? ちゃんと食べてるのかって、食べてますよ。

 量は少ないですけど、そういう体質なだけです。


「ふふっ、互いに背は気にしている訳ね、正反対だけど」

「そうみたいですね。

 でもそちらの方がマシですよ」

「何でよっ、これでも昔から目立って困っているのよっ」

「でも高いと言っても男性に比べたら、けっして高いとは言えないですし」

「あのねえ、比べる相手がおかしいでしょう」

「子供の頃は椅子に座るのも一苦労で」

「……」

「ベッドに登るのも、階段を上るのも」

「……そうね、低い方が問題よね」

「ええ、分かってくれて嬉しいです」


 もっとも、踏み台としてブロック魔法を身につけてからは、関係なくなりましたけどね。

 ええ、これは言いませんよ、せっかく勝ち得た同情の視線ですから。

 まぁ、それは冗談ですけどね。


「あれ? でも今くらいならあまり関係がないのではありませんの?」

「あっ、気が付いた」

「もう、なんなのよ貴女はっ。

 見かけとは随分と違う性格なのね」

「見かけと違って繊細な性格なんです」

「どう見ても逆でしょっ」

「まぁ、こんな色なし(アルビノ)ですから、自然と図太くもなリますよ」


 どうやら、私の言った事が面白かったのか、一緒に戯けて見せたのが可笑しかったのか、彼女の綺麗な笑い声が、小さく私の耳に響いてくる。

 そうして一頻りり笑い終えたあと、綺麗だけど、それ以上に優しげな笑みを浮かべ。


「おかしな子ね。

 ああ、名乗り遅れてて御免なさい。

 私はジュリエッタ。ジュリエッタ・シャル・ペルシアよ。貴女は?」

「ユゥーリィです。よろしくお願いします」

「……そう、私みたいな家の人間には名乗りたくないと」


 私の言葉に一瞬だけ眉を顰めたあと、冷たい眼差しを向ける彼女に、念のため誤解だと言っておく。

 名乗るべき家名が無いだけの話だと。


「……ごめんなさい、勘違いしたわ」

「いえ、私みたいな人間が、此処にいる事自体がおかしな話ですから。

 それに私が家名を名乗らない理由を、キチンと言わなかったのが原因です」


 相手が家名を名乗ったのに、自分は名前だけでそれ以上は名乗らない。

 ケースバイケースだけど、それは貴族社会において相手の家を蔑む事。

 一応、名前は呼ばせてはあげるけど、貴女とはそれだけの関係でしかないという拒絶の言葉であり、家の格が違うから相手にはしないと言う意味になってしまう。

 私としては、変な詮索はされたくないし、もう名乗る資格がないので名乗らなかっただけなのだけど、彼女の冷たい眼差しで、ギリギリで思い出せたから助かった。

 お母様達の淑女教育に感謝です。






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