1022.謝罪と新たな魔導具。
丸四日。
それが今回の事件に費やした日数であると同時に、お姉様方をお招きしておいて、その実、ほったらかしにしていた日数とも言う。
「いや、仕方ないだろう」
「領主としての務めの方が優先すべき、でなければ姉として説教していた所よ」
「そうよ、ゆうちゃんが悪い訳ではないのだもの」
と、謝罪する私に対してお姉様達は優しかった。
実際には私達が事態の解決に向けて奔走している間、レイニシア婦人達がお姉様方を飽きないように色々と手配してくれていたのだから、本当に感謝よね。
「普通は見せて貰えない様な所も見学させて戴いた事ですし、私としましては予想以上の収穫でしたよ」
ラフェルさんの旦那様であるハインリッヒ卿はニコニコ顔だ。
受けている報告では、外部の人間には見せていないだけで、別に見せても構わない部分でもあるので、それで喜んで戴けたのなら良かったと思っておこう。
「それにしても海賊行為に遭うだなんて、災難だったわね」
馬鹿正直に言う訳にはいかないから話は誤魔化したけれど、似たような物と言えば似たような物なので問題なし、他国が海賊に置き換わっただけだし、この世界は物騒だけあって海賊その物はそれなりにいるらしい。
ライラさんには言ってはいないけれど、ジュリと彼方此方旅をしていた時なんて、何度野盗と出くわしているから信憑性がある嘘だと言える。
いい加減に慣れたと言っても、流石に今回みたいに国や領主が主導で仕掛けてくる事なんてなかっ……、そう言えばトライワイト王国の件があったか。
あれも国家主導の海賊行為と言えば海賊行為よね。
船と船荷ではなく、港を含む領地ごとと規模が大きいってだけで。
あぁ……、でも当時の第一王子の暴走だったみたいだから、国家主導と言うには後始末をさせられたトライワイト王国の国王が可哀想か。
あの人、結構真面な王様だったもの。
行き過ぎた男尊女卑の風潮を正そうとしていたしね。
今では国にとっては災難だった事態を逆に利用して、国内の女性に対しての考え方をあらためようと頑張っているそうだ。
でも頑張っていると言っても元が酷すぎるから、九十九対一から九対一になれば良い方だなぁと思いはするものの、それでも男尊女卑で在る事には変わらないのよね。
我が家の商会と工場などで働いている現地の人達、絶対に止めない気がするのは気のせいかしら?
「聞いた状況なら、普通は助からないものなんだがな」
いやいやお義兄様、そんな呆れるように言わなくても、そのための魔導具【小人達の囁き】だからね。
でも確かに今回は私の空間移動の魔法があったから助かったけれど、普通なら確かに動けないようにしたら兵糧攻めにあっていただろうし、船長が状況判断を誤って湾を強行突破しなかった事も大きな失敗だった。
執拗な催促さえなかったら、あの港で数日掛けて魔力補充をする計画だったみたいだから、魔力の残量が少なかったという悪条件も重なった結果だと言える。
まぁ次は上手く事態を回避してくれると信じるしかない。
「死者どころか、たいした怪我人も出なかったんだろ?」
そこは幸いな事に口八丁手八丁で、なんとか話し合いに持ち込めましたからね。
伊達に子供の頃から、お母様やお姉様を相手に鍛えてきてはいない。
戦闘になっても勝てた自信はあるけれど、闘わずに済むならそれに越した事はない。
本当、出立前の覚悟は何だったのかというくらいよ。
只、被害がないのは此方だけで……。
「彼方さんは出たみたいですけどね」
そう言って、船に取り付こうとして、海に落ちて亡くなられた方がいた事をお話しする。
勿論、海に落ちて亡くなられた中には相手国の王族関係者がいたかも知れない、だなんて事までは流石に話はしないけどね。
「……海の上で全身鉄鎧って」
「私、よく分からないけど、そんな物を着ていたら、普通は海に落ちたら沈んでしまうのではなくて?」
お義兄様とお姉様は呆れているけど、本当にその通りなんだよね。
上から見た感じ、殆どの人は革鎧か丈夫な布の服だったのよ。
死人に対してあまり悪く言いたくはないけれど、はっきり言って馬鹿だとしか思えない。
「我が家は海でなくても革鎧ですけどね」
「我が家もそうだな。
豊かになったと言っても、領軍全員に鉄鎧を揃えれる程ではないからな」
基本的に鉄って高いからね。
その上、更にお高い金や銀でメッキを施して、金ピカにする人もいる。
あれって良い弓の的だと思うのだけど、幾ら指揮をする為とは言っても根が目立ちたがり屋なんだろうなぁ。
あと、お金の事に関しては言わない。
我が家が使っている革鎧は元手が無料とは言え、革は革でも人災級や戦災級の魔物の皮を使っているため、真面に購入しようと思ったら全身鉄鎧よりも遥かに高価な代物になるらしいからね。
「……」
目を細めたハインリッヒ卿が静かに此方を見ている。
うん、気が付かれているな。
身分差による待遇の差が大きいインシュウシンカン国において、全身鉄鎧を着れるような身分ともなれば、王侯貴族かその縁者ぐらいだもんね。
海賊が着れるような代物ではないし、海の恐ろしさを知る本職の海賊だとしたら全身鉄鎧を纏うなんて馬鹿な選択はしない。
だけど私が言わない事を察して、黙っていてくれているのだと思う。
向こうは最後まで、その事に関して口にしなかったので、たぶん大丈夫だと思うけど、厄介な事にならない事を祈るのみ。
本当、現場に合った適した服装もせずに、勝手に海で溺れ死ぬ方が悪いって言うのに、なんで私が気に掛けないといけないのやら。
「ん?」
そうだそうだ、溺れ死ぬのが悪いの。
そういう意味では我が家も他人の事は言えない。
幾ら軽い革鎧と言っても、重くて水に浮き難い事には変わらない。
こう防水布を筒状にして、その周りを丈夫で柔らかな革で覆い、内部にポケットを作り、そこに魔法石を納れられるようにする。
保護用の革には亀裂が入れておいて、作動したら中身が出る感じで良いかな?
そこは実際使ってみて、変えて行くしかないか。
「ゆうちゃん……?」
「皆様、どうかお静かにお願いします」
何かエリシィーの声が聞こえた気がするけど、身体を揺さぶられないと言う事はたいした事ではないのだろう。
魔法石には空気を一定量発生させるだけなので、浮かぶ魔方陣は簡単な物になる。
ただ、その際に発動条件を刻むとなると、途端に難易度が上がるのだけど、まぁこの程度なら普通の魔導具師でも何とかなるかな。
あっ、そこは魔道回路にしてしまえば良いのか。
魔法を使えない魔道具士が増えてきていると言うから、その方が安価に作れるようになる。
でも、作動性や安全性も変わってくるかもしれないから、一応は両方作っておこう。
発動条件は水に一定以上浸かった場合……、だと大雨の時に困るか。
水に一定以上浸かった上で、更に水圧による圧力を受けた場合にしておこう。
それと手動でも動作可能にした方が良いかな?
でも……、この条件だと、大雨の中で派手に転んで偶々魔導具に当たった場合や、戦闘で攻撃を受けたら御発動してしまう可能性があるのよね。
と、悩んだところで、そこまでは此方は知らない。
一応、誤作動しないように、スイッチを付けておこう。
スイッチの部分は回転式で、途中で塗装の色を変えておけば良く判るでしょう。
こうしてスイッチを入れて、手動で膨らませてみると……。
プシュッ!
ぼんっ!
おっと、一気に膨らみすぎたかな。
勢い余ってか、保護材に使っていた硬革が吹き飛んだよ。
もう少しゆっくりめにしないと、素材に負担が掛かるので出力を抑えめになるように調整。
ぷしゅぅぅ〜……。
うん、こんなものかな?
前世のライフジャケットとは方式が違うけれど、目的を成せればそこは問題ではないし、空気を抜けば魔法石の魔力が続く限り再利用は可能。
魔道具タイプも取り敢えず手動タイプなら安価になるし、適当な仕組みと素材は後で考えるとして、大切なのはこの魔導具が使えるかどうかね。
取り敢えずベルトタイプとベストタイプを作って、領軍の人か港関係者に使い心地を試して貰おうかな?
村の近くの川だと流れが速いから、きっとその方が良いはず。
でもオケアン村なら人工湖があるし……。
ふと、そこで視線が集まっている事に気が付き。
「って、私ったらお客様がいるのに自分の事に夢中になって。
皆んなも止めてよねぇ〜」
つい夢中になってしまった事に恥ずかしくて、顔が熱くなる。
だから何時もの事とか、慰めの言葉にもならないからね。
私が暴走したら止めるのが、使用人の仕事でしょうが。
まったくもう……、いえ、私が悪いんですけど、ぅぅぅ……。
「ところでユゥーリィ様、いったい何を作られたのです?」
お客様の前だから、外行きの言葉を使うエリシィーにちょっとだけ悲しくなる。
だってねぇ、少しだけ遠くに感じてしまうもの。
もうエリシィーは準男爵なんだから、お客様と言っても身内みたいなものだから、言葉を崩してくれて良いと思うのだけど。
「ユゥーリィ様」
はい、拗ねてないで素直に白状します。
お客様を放っておいてまで、作業に没頭した私が悪いのだもの。
「水に落ちたら、沈んで溺れてしまわないようにする救命胴衣よ。
流石に全身鉄鎧を着ていたら沈むかもしれないけど、それならば全身鉄鎧用を作れば良いだけの事だから、先ずは普通に使える物をって事でその試作品」
全身鉄鎧ってタイプにもよるけど、軽い物でも二、三十キロ。
よく漫画に出て来るような派手な全身鉄鎧だと、かるく四十キロはあるのよ。
装甲の厚みや装飾品次第では更にそこから増えて、物によっては六十キロあるので、よく動けるものだと思うものの、それだけ重いので救命胴衣で数百グラム増えた所で大差はないと思う。
まぁ先ずは普通の物の試験を繰り返して、問題がなかった事を確認出来たらになるけど、商品化まで行ったら鎧用の開発は私がやらなくても良いので、いつも通り丸投げ。
もしかしたら、何処かの家が手を挙げるかも。




