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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第八章 〜親としては新米だけど頑張ります編〜
1011/1024

1011.とある小子爵の旅行記、その肆。





【グラード・ウル・グットウィル小子爵】視点:




 食後の親睦を兼ねた談話室での会話で、平民向けの服飾店【森の紬屋さん】(レ・シルヴァン)が話題になった。

 話題の切っ掛けは、子供達が着ている部屋着がその服飾店で購入した物だからだ。

 【森の紬屋さん】(レ・シルヴァン)は我が領内にはないが、大きな都市には大抵あるらしく、妻が妹が関わっているお店だと知っていた為、使用人を派遣して買いに行かせたらしい。

 態々平民向けの服など買わなくてもと、私も父上も口にしたのだが。


『あら、子供なんて直ぐに大きくなって着れなくなるんだから、部屋着や寝間着ぐらい平民向けの服でも構わないじゃない。

 あのお店の服は思っていた以上に意匠も作りも良くて、ちょっと手を入れれば、我が家くらいの家格なら問題ない出来ですもの』

『君の妹のおかげで金はあるんだ。

 そこで無理に倹約しなくても、品格維持費として考えれば大した出費でもあるまい』

『言ったでしょう、直ぐに大きくなって着れなくなるって。

 着れるのは季節の終わりまでだし、沢山買ったから袖を通す回数は知れているわ。

 そしたら古着屋に回さずに、教会の孤児院に寄付しようと思うの。

 領主の孫が着ていた服を、親を亡くした子供達の為に季節毎に寄付する。

 これも立派なグットウィル子爵家の品格維持よ。

 私の実家はね、孤児達を大切にしていたわ。

 人口の少ない田舎だから出来た事だけど、領主一族が孤児達を大切にする事で、子供達が大きくなって働き出した時、より領地の為に頑張ってくれるようになるの。

 無論、全ての子供達がそうだった訳ではないけれど、グットウィル領ぐらいなら何とかなるとは思うのよ。

 少なくとも、ボロボロのつぎはぎだらけの服を着ずに済む分、孤児達の心は救われるだろうし、風邪も引きにくくなるはずだわ。

 それにユゥラードもグリアラも、そうやって自分が着ていた服が、領民の為になっていると知る事で、領民を大切にしようと思う切っ掛けになるかもしれないでしょう』


 本当に我妻は女神だと、再認識した瞬間だった。

 という訳で、話が出た序でについつい熱く語ってしまった。

 何か妻が私の背中をポコポコ叩いている気がするが、そこがまた可愛い。

 おっとふくれた頬か治まり、目が据わり始めたので、これ以上は危険だ。

 手の平を返すかのように、妻の機嫌を取る。

 ふん、みっともない姿かもしれんが、私の最優先はミレニアなのだ。

 この程度の恥など些細な事でしかないさ。

 平民向けの服飾店【森の紬屋さん】(レ・シルヴァン)について良い顔をしなかったマイヤーソン子爵も、私の話を聞いて教会への寄贈には良いかも知れないと賛同してくれたのだ、妻の偉業の話も無駄ではなかった証拠だ。

 ただ、教会への寄贈や寄進への話が妙な方向に流れ、子爵が義妹の方に顔を向け……。


「そう言えばユゥーリィ殿は教会派でありながらも、教会での炊き出しや寄進に関してはあまり積極的ではないと話をお聞きしておりますが、実際には如何なのでしょうか?」

「アナタ」

「ラフェルさん、構いませんよ。

 実際にその様な噂が流れているのは私も知っておりますし、敢えて放置していますから」

「何かお考えが?」

「いえ、特に。

 事実を確認しようともせずに、単に人の悪評を噂として流したいだけの人達の相手をするのは、あまりにも馬鹿らしく時間の無駄だと思っているだけです」


 中々に辛辣だが、それはその噂の真偽を問われた時に、跳ね返す事が出来るだけの実績があって、初めて効果をなす事。

 その事について私から言及すれば、案の定、義妹は教会派としての施しをしているらしく。


「公表はしていませんが、毎年教会に販売している魔導具など得ている金額、その一部を形を変えて寄進しておりますし、貧窮院でお世話になっている方々へ独り立ちする為の支援などもしております」

「炊き出しなどはされないのですかな?」

「被災地での炊き出しならともかく、貧困街での炊き出しなど売名行為になるだけで、費用対効果の薄い事には興味はありませんので」


 開いた口が塞がらないとはこの事だ。

 食べるのにも困っている者への炊き出し行為を、意味のない売名行為だと斬り捨てる行為。

 何日も食べ物を口にしていない者達にとっては、一時であっても腹を僅かに満たせる事は命を繋ぎ、明日への希望の糧になると言うのにだ。

 ただ、本当は我々貴族側も分かっている。

 一掴みのパンとコップ一杯のスープよりも、きちんとした毎日糧を得られる安定した職こそが一番の救いになるのだと。

 しかし座れる椅子には限りがあるし、我々貴族とて用意出来る席にも限界がある。


「先程話題に出た平民向けの服飾店【森の紬屋さん】(レ・シルヴァン)の工房で出た細かな端切れなどは、教会の孤児院にも寄贈しています。

 勿論、途切れた物ではありますが糸も一緒にです。

 流石に針は新品の物を贈ってはいますが。

 そうして贈った端切れであっても、いえ、端切れだからこそ、組み合わさる事で生まれる作品はあります。

 それらは子供達の糧となり、将来を生きる力となります。

 もっともそれで助かるのは、ごく一部の子供である事は否めませんが、私はそれで構わないと思っています。

 最初から全ての人を救うなど、只人たる私に出来はしないのですから」


 そう言いながら収納の魔法から取り出したのは、一枚の見事なタペストリー。

 多彩な布を組み合わせ、糸で以て織りなす模様で描かれたタペストリーは色鮮やかで人の目を引きつける。

 話の流れからして、端切れを組み合わせて作られた代物だろう。


「下布を貼り合わせて綿を中に入れれば、布団にも敷布にもなりましょう。

 そのままでもテーブル掛けにだってなります。

 他にもこういった小物も子供達の発想次第で、如何様にもなります」


 更に取り出したのは、継ぎ接ぎではあるが、それが愛くるしいと感じるヌイグルミに、そのヌイグルミに着せる小物など。

 確かにこれなら、それなりの金額で売れるだろうし、これらを作った者となれば、即戦力になるとして雇用しようとする者も出よう。

 と言うか、普通に我が家の見習い縫い子として欲しくなる。

 ……ぁ、これは義妹が見本の一つとして作った物だと。

 飛び交うあらぬ噂からはとても信じられないが、見た目の姿どおりの女性らしい嗜みと言えるが……、どう見ても妻より上手いのでは?


 ぎゅうぅーーっ!


 どうやら思っていた事が顔に出ていたようだ。

 男は黙って妻の仕打ちに耐えるべきだろう。


「なるほど……、ユゥーリィ殿は大勢は救うが、その実あやふやな効果でしかないものよりも、少数ではあるが確実に救える道を選ぶという訳ですな」

「確実などと言う言葉は好きではないのですが。

 それにやはり本人と周囲の環境次第ですので、言葉を換えれば運次第とも言えます。

 何方にしろ言えるのは私が出来るのは切っ掛けでしかなく、その切っ掛けを活かす活かさないも、その先に繋げる為に更なる努力をするのもその者次第です」

「いえ、それも立派な貴族としての考え方です。

 妻から色々と聞き及んでいましたが、中々出来る考え方ではありませんな。

 当然ながら、それらの記録は付けられておられるのでしょう?」

「ええ、当然の事ですから」

「しかし、そうなると無責任な噂を流している者達ですが、真実が明らかになった時にはさぞや恥を掻く事になりますな」

「無責任な噂を流したのであれば、当然の報いでは?」

「確かに当然ですな」


 なんだろうな……、妻もそうだが義妹の私以上に貴族らしい貴族の考え方に、妻の実家は子供達にどういう教育を施しているのか、本気で気になってきた。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 初日は食事と話を楽しんだが、二日目は家族で街を散策する事にしている。

 と言うのも、魔導具師ギルド長であるコッフェル老魔導士が例の施設を視察するため、義妹が私達を相手にしていられない事情があるのと、マイヤーソン子爵夫妻や書店の女主人、ライラ婦人とその夫は例の図書館を視察を兼ねた見学に行くので、見事に予定がバラバラなためだ。

 特にコッフェル老は国からの正式な命令でもあるため、それをこの地の領主である義妹が最優先させるのは仕方ない事なので、その辺りの事情を汲むのは同じ貴族として当然。

 下手をすれば、国の命令を妨害したと捉え兼ねられない。

 ただ、朝食時にちょっとした遣り取りがあった。


「ぇ、これだけ?」

「後から出てくるのよね?」


 大人達は誰も口にはしなかったが、子供達は素直だけに口にしてしまう。

 確かに夕べは豪勢だった為、次の日の朝を抑えた方が良いという配慮なのだとは思うが、それでももう少しなんとかならなかったのかという朝食の量に、子供達が思いっきり不満を出してしまった事に恥ずかしくなる。


「う〜ん、ユゥラード君もグリアラちゃんも料理を増やしても良いけど、今日は街に出るんでしょう?

 街には沢山の屋台が集まる建物があったり、美味しい料理やお菓子を出すお店もあるのだけど、お腹いっぱいにしたら食べられなくなっちゃうけれど、それでも良いのかなぁ〜?」

「う゛っ、そ、それは……」

「私、美味しいもの食べた〜い」


 なるほど、そう言う事か。

 貴族が屋台で買い食いなどはしたなくはあるが、下級貴族でしかない我が家では然程気にはしないし、旅先で子供達に我慢させるような野暮を言う気はない。

 寧ろそう言う事ならば、この配慮も有り難いというもの。

 しかし、そのような事を口にすると言う事は、味に関してはかなり期待して良いのかと尋ねたところ。


「先日まで多くのお客様が泊まっていましたが、お帰りになられる頃には、体重を気にしておりましたわ。

 それと敢えて名前は伏せさせて戴きますが、非常に尊き方達(・・・・・・・)が視察と称して屋台で売られているものを、立ち食いして廻られた事も在りましたね」


 ぁぁ……、これは絶対に誰かは聞いてはならないし、想像してもいけない奴だな。

 妻もそう思ったのか、思わず二人して遠い目をしてしまった。

 マイヤーソン子爵夫妻も似た様な表情をしていたが、そこは気が付かないフリをしておくのが貴族としての気遣いだ。

 と言う事でグリアラは尊き方って? とか聞かないの。

 ユゥラードを見習いなさい、子供なりに察して全力で視線を横に向けているだろ。

 と言うか、そう言う恐い情報は要らないからな。

 そちらは日常茶飯事かもしれないが、下級貴族でしかない私達にとっては尊き方達の話は毒でしかないと分かってくれたまえ。

 うん……、何か朝から一気に疲れた気がする。






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