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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
101/977

101.新しい服にはステキがいっぱい。…ついでに胸もいっぱい?





「よくお似合いです」

「こうして出来上がった物を見ると一層良いわね。

 白い髪に黒と臙脂(エンジ)の服は、よく映えてお似合いよ、ユゥーリィさん」

「でしょう。これだけ可愛い子だもの、これくらいの物を着ていてもおかしくないと思ってはいたのよね」

「……馬子にも衣装と、いえ、なんでもないです。

 はい素敵な服で嬉しいです」


 ライラさんの両手の指をわきわきと動かすのを見て、言いかけた言葉を慌てて止めて、お礼の言葉へと切り換える。

 出来上がった新しい服は、仮縫いの時の仮糸が外され、より立体感を得た物となり、要所要所にあった刺繍を飾るように、より細やかな刺繍が施されている。

 元は前世の魔法少女をベースにした意匠ではあるけど、使われている生地や装飾によって、何処の貴族令嬢ですかと言いたくなる豪華な服へと仕上がっている。

 これ一着で、前の服が何着買えるのだろうかと、思ってしまう。

 その前の服だって、シンフェリアの領内に暮らす人達に比べたら、それなりに良い服なのに。


「では次を」

「……あのう全部に袖を通すんですか?

 持ち帰れば良いだけでは?」

「駄〜目、私が見たい」

「前回見れなかったんですもの、私も是非とも見たいわ」


 はい分かりました、着ます、着れば良いんですよね。

 だからライラさん、指を動かすの止めてください、見ているだけで擽ったくなりますから。

 運動着に作業着、部屋着に礼服、あと寝巻き。

 ふぅ、これで終わりですね。

 は? これはなんですか?

 いえ、下着なのは見れば分かります。

 まさか此処で着替えろとか言いませんよね。


「もちろん」

「サイズの確認は必要ですので」

「合わない物をつけられては、当店の名前にも響きますので」

「あの、せめて何処か誰もいないところで」

「なによ、以前は森の中で平気で着替えていたんでしょ」

「偶々見られるのと、こうして見られるのとでは全然違います!

 だいたい、下着まで脱いだ覚えはありませんっ」

「大丈夫よぉ、気にしないから」

「私が気にしますっ」

「あっ、此方の方でなら、着替えるところは見られませんので」


 うん、よかった良識ある店員さんで。

 あとラフェルさん、なんで笑ってるんですか。

 もう良いです。とっとと終わらせますから、覗かないでくださいね。

 うん基本的なキッズブラのような物で良かった。

 流石に、シンフェリア領と違って、それなりに下着の意匠は進んでいると思うけど、やはり其処は其処、時代的にも技術的にもそれなりと言うところだし、やはり女性用品があるとないのとでは、衣装的にも変わってくるのだろうと思う。

 あれ? コッチもですか? 基本的には同じサイズでは?

 夜用……ですか。あのう寝苦しいのはちょっと。

 いえ、先ほどのも前の物ほど圧迫感はなかったです。

 ああ、ちゃんとしたサイズと、そうでないとでは大きく違って、キツイのは勿論の事、緩ければ楽と言う物ではないと。

 そして夜用のは寝苦しくないように作られているから、慣れれば大丈夫ですか、……あのう私ぐらいのでも関係あるんですか?

 ……私ぐらいからは必要だと、…分かりました。


「はぁ、…やっと終わりました」

「あら、まだもう一着残っているじゃない」

「でもあれって、基本的に色違いですから、別に着なくても」

「もちろん、見たいわね」

「……分かりました」


 もう此処まで付き合ったのだから、最後まで付き合います。

 ええ、どうせこれが最後ですから。

 そう言う訳で、これで良いですよね。

 ええ、お付き合いしていただき、ありがとうございます。


「そういえば、ゆうちゃん。

 これに魔法石を嵌めるとか言ってなかった?」

「そのつもりですよ。

 魔法石も既に作り終わって鞄の中に入れてありますし」

「ねえライラ、なんの話?」

「ほら、この服の此処とかに小さな台座があるでしょ。

 そこに魔法石を嵌め込んで魔法を付加した上で飾るんですって。

 この子、魔法石を宝石みたいに加工できちゃうから。

 ゆうちゃん鞄の中にあるなら見せてあげたら?

 どうせ付ける訳だから、隠すような物でもないんでしょ?」


 ライラさんの言葉に仕方ないなと思いつつ、鞄の中から加工した魔法石が入った袋を取り出す。

 袋の中に幾つもの小さな袋が入っており、各服毎に別けて入れてあるのを、机をお借りして、混ざらないように少し間隔を開けて広げて見せる。


「これが魔法石? 凄いわね。

 よく見ると透明度が高過ぎるから変だと思えるけど、ぱっと見では見分けがつかないわ、それに少し荒いけど、見た事もないカッティングね」


 さすが、ギルドの支店長をしているだけあって、宝石を見る目がある。

 魔法石と宝石の違いを簡単に見分けただけでなく、あくまで素人仕事でしかないカッティングに見せかけた形状変化の荒さにも直ぐに気がつくなんて。

 今度から型を作って、型の中で形状変化をさせた方が良いかもと、改善策を考えながら、簡単に魔法石に付加した魔法を説明していく。

 無論、内緒にしたいものは省いているし、ラフェルさん達もそれ以上は突っ込んでこないので、此方としては助かる。


「じゃあ、帰ってから取り付け作業が待っていたのね。

 それは早く帰りたがる訳だわ」

「別にそう言う訳ではないですよ。

 それに取り付け作業と言っても大した事ではないですし」


 単純に、興味のない物の買い物に長時間付き合いたくないと言うのと、着せ替え人形にされたくないと言うだけの話です。

 そもそも魔法石の取り付け作業も、魔法石と台座が出来ていれば、私やコッフェルさんのような魔導士には大した話ではない。

 まだ綴じたままの小さな袋から、それ用に前もって配合していた物を一摘みだけ取り出した手で、魔法石を本来つけるべき台座に押し付ける。

 多分、そんなふうに見えたと思うけど、魔法石は台座の溝の中にしっかりと嵌まり、更には魔法銀(ミスリル)と銅の合金が、台座の縁と魔法石の境界を覆うようにして、魔法石と台座をしっかりと固定させる。

 特に装飾に拘る必要がないのなら、もともとある台座の意匠に合わせて良いだけの話なので、特段難しい事ではない。


「ね、すぐでしょ」

「……叔父が入れ込むわけね。

 そんな事より、そんなに直ぐに出来るのなら、完成した服を見てみたいわね」

「別に構いませんよ、どうせやらないといけない事ですから」


 そうして一つ一つ、盤上に碁石を置くように、魔法石を台座の上に置いてゆく。

 基本的に指示してあった大きさの台座なので、特に問題もなく魔法石は新しい服に要所要所彩ってゆく。

 それにしても、流石は職人さんの仕事だと思う。

 なんら不自然ではない位置に、自然とありながらアクセントになるように配置されている上、台座への細やかな細工も素晴らしい。

 後からの注文だったにも拘らずに、最初から此れありきの意匠にすら思える程の出来栄えに感心しながら、最後の魔法石を入れ終わる。

 流石に下着と寝巻きには入れませんので、そんな残念そうな顔をしないでください。

 大体、魔法石みたいな硬い物なんて付けたら、邪魔になると思いますよ。

 えっ魅せる時には良いアクセントって……、そう言う大人の会話はいいですから。

 少なくても私には必要ない話ですし、そんな魅せるような相手なんて、未来永劫来ないので不要です。

 もったいないって、意味が分かりません。

 とにかく終わりましたので、帰りましょう。

 え? まだ早いって、もう終わりましたよね。これ以上なにを?

 もう一度って、一通りって、それこそ意味不明なんですがっ!

 完成した服は人が来て初めて完成するって、その意見には賛成ですけど、私以外でお願いします。

 あの全体を見直して調整の必要があるかもしれないって、そう言う前提で台座がつけてありましたし、お願いしてあったと思いましたが。

 ……あくまで前提は前提と。

 分かりました、半端な仕事はできないと言う職人さん達の意見には従います。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「……やっと終わった」

「ユゥーリィさん、お疲れ様」


 最後に黒の普段着の微調整を終え、ようやく終わった事に対して安堵の息を吐く。

 ええ、疲れました。

 何がって、着せ替え人形と玩具のように構われる事です。

 お世辞はいいですから、無理して言う必要ないですと思いつつも、相手にしないわけにはいかないので、もの凄く気を使います。

 この辺りはボッチ生活の長い私にとって、苦手とする事なので中々慣れそうにはない。

 そう言う訳で、もう疲れているので元の服に着替えずに、このまま着て帰ると言う意見にも、素直に頷いてしまうのも仕方がないこと。

 あっ、帰りは馬車じゃなく、食事をしてから歩いて帰ると。

 目立ちそうなんですが……、あっ、今度行くところの詳しい話があると、分かりました。

 そうだ、忘れるところだったと、鞄の中から取り出した袋を店員さんに向け。

 

「これ、以前にお話ししていた物です。

 今、着けている物とは違いますが、魔導具師でなくても制作できる物を作ってみました」

「…えっ? 本当に作っていただけたのですか?」

黄色壁大ヤモリイエロー・ビック・ゲコーという魔物の皮を素材にした物を、レース生地の裏に貼り付けてあります」


 ヤモリと魔物と言う言葉に、ビクリと反応する店員さんに仕方ない事だと思いながら、袋の中から、ある特殊な処理をしテープ状に加工した物を取り出す。

 黄色壁大ヤモリは、主に崖を生息地にした大型犬サイズのヤモリの魔物で、猟師でも狩れるくらいの強さの魔物。

 比較的生息域も広く、数多くいる理由が人に害があまり無いのと、肉が美味しくなく、素材としても利用価値があまり無いため、狩ってもあまり稼げないので、増えすぎて問題が起きない限りは放置されている魔物らしい。

 そんな魔物の皮を素材としたこのテープは、コッフェルさんから紹介してもらった本の知識と、コッフェルさんの助言を元に開発した素材で、接触抵抗が非常に高く、見た目的には極薄のフェルト生地に近い物。

 しかも前世のシリコンとは違って、肌に張り付くように止まる癖に、その生地の触り心地はサラサラしていると言う優れものの素材。

 このテープを止めたい場所で、服と肌の両方に掛かるようにしたり、服の生地裏に貼り付けてあげれば、ズリ下がり防止になる。

 何より、このテープの凄い事は、先ほども言ったように素材さえあれば、魔導具師でなくても作る事ができる事。

 テープの特性上、生地とテープの貼り付けに少しだけ魔力を必要するけど、その問題も魔導具と魔力持ちの方がいればクリアできる。

 ええ、この小さい魔法石を嵌め込んだ棒で、こうして生地とテープを重ねた上から魔力を意識しながら流してあげさえすれば、魔導具の方がやってくれます。

 ええ、こうして触っていると柔らかいですけど、普通の人がテープを切る時は金切りバサミが必要なぐらい頑丈なので、針は通りません。


「黄色壁大ヤモリは、数も多く弱い魔物なので、入手はそれほど難しくはありませんから、私のような魔導具師に頼む事に比べたら安価に、しかも簡単に大量に作れるのが特徴です。

 ただ皮膚への長時間の接触は、それほど確認していませんし、耐久性もどれほど保つか未確認の物でもあります。

 一応は、私自身が三日ほど着けてみて問題は出ていませんが、多くの人に確認して貰った方が良いとは思います。

 人によっては合わずに、カブレるなどの問題が出る可能性もありますから」


 そんな私の説明を聞きながら、試作したバンドや、テープを肌に着けたりと試している店員さんや職人さん達。

 ええ、腕に当てて横に引っ張っても、多少の伸縮性で伸びますが、手が引っ張られるくらいなんですよ。

 かなり使えそうですか、それは良かったです。

 でも、試験は十分にしてくださいね。

 そんな抱き着かなくても、感謝の気持ちは伝わりましたから。

 嬉しい感触ですが、大きいので窒息しそうです。

 やっぱり此処まで大きいと大変なんですか?

 そうですか大変ですか。

 羨ましい悩みだと思いますが……、なってみると、それなりの悩みがあるんですね。

 きっと私も将来は悩むんでしょうね。

 なんで皆さん其処で目を逸らすか、生暖かい目で見るんですか?

 血統的には、約束された勝利の胸(エクスカリバー)なんですから、そうなる未来を想像しても何ら不思議ではないはずですよ。

 ふむ、そういえば、こう言う製品って前世でもあった記憶が。


「これ、胸当てに使うと楽になるかも」

「ユゥーリィさん、その話、詳しく知りたいわ」

「ゆうちゃん、お姉さんもその話ぜひとも聞きたいかな」

「「「私共も、ぜひ」」」

「……あの、皆さん目が怖いんですけど」

「今のゆうちゃんには、分からないかもしれないけど、本当に苦労しているのよ。

 少しでも楽になる可能性があるなら、ぜひとも聞きたいの。

 ……それとも、ゆうちゃんは身体に聞きだされたいのかな?」

「だから、ライラさん、その手は止めてください。

 別に只の思い付きですから、そんな大した事じゃないです」


 実際、手をワキワキと動かすだけで実行に移す事はないとはいえ、見ているだけで身体がむず痒くなるから止めて欲しいです。

 別に本当に大した事じゃないですよ。肩に負担が掛かりすぎるから、このテープで胸の下と横からも支えれるようにしてあげれば、大分負担が分散するかも知れないと思っただけで。

 あの、ライラさん、いきなり何故脱ぎだすんですか?

 えっ、今からですか? いえ、肌への影響確認が。……私の肌が大丈夫なら大丈夫って、どういう理屈ですか。

 いえ、やりますけど。

 それにしても巨乳の上に美乳とは、彼氏さんが羨ましいですね。

 今はそう言う事は良いと、そうですねライラさん、惚気が始まると長いですから、こちらに集中しましょう。

 別に指をワキワキした事に対する報復ではないですよ、気のせいです。

 とにかく、こう胸の下の生地の所と腋の下にですね。あと此処にも。


「凄いわっ、これ物凄く楽だわっ。

 しかも縦や横に揺らしても、ズレないなんて」

「ユゥーリィさん、私のもお願い。

 ええ、身をもって試してみたいの」


 凄い脱ぎっぷりですね。

 しかも分かってはいたけど、ライラさんより凄いし。

 いえ、何がとは言いません。

 ただ年齢を感じさせない程に美麗だと。

 はいはい、やりますから。

 あっ、其方もやりたいと、じゃあ、此方が終わったらテープを渡しますので練習を兼ねてどうぞ。

 本当に皆さん凄いですね。

 ええ、脱ぎっぷりの事ですよ。

 でも眼福です、いつかはこうなって見せます。

 あれ、ライラさんとラフェルさん、その下着は?

 ああ、ついでに私のと一緒に頼んであったんですね。そちらもテープを所望ですか。

 テープと魔導具は彼方に渡しましたので、彼方の方でどうぞ。

 私は此処で皆さんの胸……、いえ試着の様子を眺めていますから。


 そんなに肩への負担が少ないのなら、肩の布を細めにする事も出来ますね。

 それに胸当ての形状と強度を研究して行けば、肩当の布が不要な物も出来るかもしれませんね。

 ええ、ナイトドレスとかで、肩や鎖骨を見せたい御婦人にとかですね。

 そうなると色々意匠に凝れるようになって、綺麗な物や可愛い物が出来ると思いますよ。

 極端な話で言うなら、形作るだけなら前と横だけで全面にテープを張れば、紐無しでも行けるでしょうね。

 寄せて上げてる事も可能でしょう。

 ええ、引っ張るモノがあればですので、私には無理な話ですけど。


「テープがもうないわっ、ゆうちゃん」

「試作の試作ですので、それほど数は作ってませんよ」

「叔父の所には?」

「そこまで在庫はないと思いますよ。

 めったに使わない素材らしいですし、業者向けの商会に行けば少しは」

「ウチの者で買いに行かせますので、場所と紹介状を書いていただければ」

「……はぁ、今回限りの代理購入と言う事なら、いけると思いますけど」


 書いた手紙を託された店員さんは、店長さんの買い占めて来いと言う激励をその背中に受けて、ラフェルさんから借りた書籍ギルドの馬車と共に、猛スピードで駆けてゆく姿を見送りながら、きっとこの後の予定など関係なく、試作用テープを作らされるんだろうなぁと、諦めにも似た気持ちで溜め気を吐く。

 ただ、例えそうだとしても此れだけは言っておきたい。


「今回だけですからね。

 あとは自分達で作ってくださいね」


 ええ、一日中テープ作りで潰される未来も、過労死する未来も御免ですから。






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