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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第八章 〜親としては新米だけど頑張ります編〜
1001/1024

1001.今年の冬こそのんびりと過ごしたい。






「雪が降ってきたようですわね」

「積もらないと良いけれど」


 ジュリとエリシィーの言葉に視線を上げて窓の外にやると、まだ昼間だというのに白い物がチラチラと舞っているのが見える。

 今年は少し遅め初雪ね。


「そう? 確かに降ると大変だけど、降らないとそれはそれで大変だもの。

 積もり過ぎたり、まったく降らないなんて事でなければ、私はそれで良いと思うけどなぁ。

 どうせブツクサ言っても天候が変わる訳ではないんだもの、嫌な物と捉えるんじゃなくて季節を楽しむ事を考えれば、憂鬱な気持ちも少しは楽になるわ」


 私は雪が降ると少しだけワクワクする。

 たった今、雪が積もると大変だと言っておいてどうかと思うけれど、こればかりは性分だから仕方がない。


「ユウさんのああ言う所、年寄り臭いですわね」

「昔から妙に達観した所があるのよね。

 子供っぽい所がある反動かしら?」


 こらこら、そこの嫁さん達、ちょっとその反応は酷いんじゃありません?

 季節毎の情緒を楽しもうと言っただけよ。

 詩の中にだってよく使われる題材なのに、私がそれに似たような事を言うと、何故そういう反応になるのか。

 いえ、中身がオジさんだから、そう言うのが滲み出ているだけかもしれないけど。


「雪が積もれば、それだけ雪下野菜が美味しくなるじゃない。

 お鍋にしても、シチューにしても、ボイルにしても、今から楽しみだわ」

「確かにアレは美味しいですわね」

「直ぐに食べ物に発想が行くあたりは、やはりユゥーリィらしいと言えばユゥーリィらしいわ」


 寒い冬の中で耐えたお野菜は、凍らないように糖度が増して美味しくなる。

 数年前から村でやっていて、今や村人達にとって大切な収入源にもなっているのよね。

 高速交通網が発展していないこの世界だと、私の収納の魔法と空間移動ありきの商売ではあるものの、出荷量がそれほど多い訳ではないし、高いと言ってもお野菜だから元の単価が知れている。

 なので、殆ど知り合い向けの贈答用に近い売買。

 幸いな事に村の作物は当初から収穫量を目的としたものではなく、品質を上げるための農法だった事もあって、同じ品種であっても余所の土地よりも美味しく育っている。

 そんな美味しく育っているお野菜の中でも、更に美味しくなるのが雪下野菜よ。

 貴族のお野菜の嫌いお坊ちゃんお嬢ちゃん達も、美味しそうに口にして笑みを浮かべると、大変の評判のお野菜です。

 前世だと雪下野菜のブランドって、二〜三倍が精々の価格だったけれど、この世界だと流通の関係もあって、雪の降らない地域では手に入らないため十倍百倍は当たり前で、時期と物によっては千倍を超える値段を先方から付けてくる事もある程。

 そもそも冬は寒くなる前に収穫物は全て収穫し、冬越しの支度として加工してしまうのが殆どだもの。

 雪で保管する事を知っているのは、ごく一部の冬の寒さが厳しい地域ぐらいじゃないかな?

 知らないけど。

 でも冬の新鮮なお野菜は催し用に需要が高いから、貴族って見栄っ張りだから高くても出すのよ。


「ユゥーリィがそう言う事を言うから、なんとなくクリームシチューが食べたくなったわ」

「そうですわね、チーズたっぷりのグラタンも良いですわよ」


 二人ともまた太るわよ、と言ったら拗ねられてしまうので口にはしない。

 皆んなの口を肥えさせたのは私だからね、何処かで全体の栄養摂取量を調整すれば良いでしょう。

 献立の調整を考えつつも、私は冬と言ったらやっぱりお鍋や豚汁かな〜。

 そうなるとエリシィーのリクエストの翌日に、うそ〜〜〜っ、と言うくらい大量の大根おろしを用いたミゾレ鍋で、お口の中もスッキリでヘルシーな料理。

 ジュリのリクエストのチーズたっぷりのグラタンの翌日に、全体の量を減らしつつ、お野菜たっぷりの豚汁を主役に置けば食物繊維も多く取れるし、味が濃い事もあって満腹感を得られやすい。

 あっ、豚汁には酒粕を入れれば味に深みが出る上に、整腸作用もあるから重い食事が続いた後には最適ね。

 ただ、酒粕入りは好みが分かれるから、少しだけにしておかないと。


「ユゥーリィ、何か楽しそうね」

「そう?」

「笑みが浮かんでいますわよ」


 かもね、皆んな美味しそうに食べてくれるから作り甲斐があるし、やはり好きな人が喜んでくれると嬉しい。

 特に嫁達が自然と口にした料理を、今後の献立にどう組み立てようかって考えるのはね、夫としての楽しみと言いますか。

 美味しそうに食べてくれる表情を想像するとね、こう、ウキウキするのはある意味幸せの証なんだろうね。


「他にも雪が積もらないと、雪室が空になって困るでしょう。

 雪が降ってくれるおかげで、食料を腐らせずに美味しく貯蔵出来るのだもの。

 そのおかげで乾燥野菜や加工品ではなく、春まで美味しい生野菜を多くの人が食べられるようになったのよ」


 収納の魔法があるからと言って、行政において個人の能力に頼り切るのは間違っているし、魔導具を用いた氷室にのみに頼り切るのも何かあった時には恐い。

 だから魔導具による氷室以外にも雪を使った雪室、そして年中地熱が安定している洞窟等を利用した地下貯蔵庫と、領政として正・副・予備の三系統で別けて食料の長期保管を運用している。

 その中で雪室は冷えすぎない程度に温度が安定している上に、湿度が適度に保たれるため、根菜類はゆっくりと熟成するためより甘くなりやすく、葉物野菜も葉が枯れにくい状態で保存出来るので、大変に重宝する。

 規模が全然違うけれど前世で例えるのなら、氷室は冷凍庫、地下貯蔵庫は冷蔵庫、雪室はチルド室といった感じ。

 まぁどれも魔法を用いずに大規模のものを幾つも作ろうとしたら、物凄い手間と時間とお金を費やさないといけなくなるため、普通の地下貯蔵庫でさえあまり一般的には普及していないのが現状だったりする。

 その点、私の領地は私がいるから、魔法でちょちょいのちょいで。

 個人の能力に頼り切るのは良くないと言っても、それはそれ、(便利な魔法は)これはこれ(使わないと損)


「って、この書類、丁度港街の方の雪室の雪の搬出と搬入の人足募集の結果報告書だわ。

 どうやら今年も定員を超えての応募があったようね」


 エリシィーからの報告に、有り難い事だと返事をする。

 例年からの観測でだいたいこの期間と目処は付けてはいるものの、やはり天候次第の仕事内容だから、どうしても作業予定日は変動してしまいやすい。

 日当はその辺りを多少考慮しているとは言え、不確定な予定の仕事は安定した仕事に比べたら、人が集まりにくい仕事だもの。


「集まってくれた人達に出す温かい食べ物の手配は?」

「うん、大丈夫。

 子供達が付いて来ても大丈夫な量を準備出来ると書いてあるわ。

 数字的にもおかしくはないから、あとは当日の様子ね」


 子連れであっても参加しやすいように条件を緩めてはあるから、その辺りの匙加減が微妙なのよね。

 足りないのは勿論いけないけれど、事が食料の貯蔵に関係する内容だから、尚更に余らかせるのも宜しくない。


「という訳で、ユゥーリィの視察も入っているから、忘れないようにね」

「……私、必要?」

「必要よ」


 現場に顔を出して、作業している数人に一言二言声を掛ける仕事にヤル気が出ない。

 ただ、食糧の確保と貯蔵は領としてお仕事なので、大勢の人が顔を出すのであれば、領の顔である私が足を運ぶ事で領主は領民の生活に気を配っていると知らしめて、領民に安心してもらう狙いがあるのは理解してはいるの。

 でも実際に親身になって港街を運営している、港街の幹部達の誰かで良いんじゃねぇ? とも思っているのよ。


 じぃーーーー。


 エリシィーが疑いの眼差しを送ってくる。

 きっとあれだ、私が面倒くさがって、理由を付けては逃げようとしていないか、と思っている視線に違いない。

 これが恋人としての熱い視線ならいくらでも耐えられるし、むしろ嬉しいのだけれど、どんどんと冷たい感情が含まれてくる視線を喜べるほど、私は変態ではないので黙って頷くしかない。


「……分かったわ」

「そう、なら良かった」

 ふにっ。


 エリシィーが私の頭を抱えるように撫でてくれる。

 ついでにその豊満で弾力のある胸に、ポテッと頭を置かせてくれる。

 うん、今日もこの柔らかな感触が素晴らしい。

 しかもちゃんとエリシィーの良い香り付き。

 つい頭を擦り付けたくなる。


 すりすり、むにむに。

「……もう」


 やるけどねっ!

 嫁の胸に甘えて堪能するのは夫の特権っ!

 オッパイの貴賤はないとは言っても、この攻撃力は無視する事など出来はしない。

 はふぅ〜〜〜〜〜っ、幸せ♡

 よし、面倒いだけのお仕事に、ちょっとやる気が出てきた。


「エリシィーさんの、ああ言う所は凄いですわね」


 胸部装甲の威力なら、ジュリも負けずに凄いからね。

 ただジュリの場合、ちょっと露骨というか強引なところが多いから私が引くだけだし、ジュリが相手だと甘えるのではなく、甘やかしたい気持ちが強いのも大きい。

 そういう意味では、ジュリは損してはいるとは思うけれど、その代わり全力で甘やかせるときは甘やかせる。

 少なくともエリシィーは恥ずかしがって、人前で平気で『あ〜〜ん♡』をやってくるほど強心臓ではないので、そこはお互い様だとは思う。

 ちなみに私もエリシィー同様に強心臓ではない、ただ、求める嫁が可愛いから付き合うだけ。


「その頃には、別邸の人達も治療が終えて引き上げているはずだから、ライラさん達をお迎えできる準備が出来るわね」


 港街の別邸には王妃様からの依頼で、肌の古傷の新治療に対する二回目となる集団治験の患者の方達が泊まられている。

 二回目は一回目の反省を活かして、特に目立った失敗例はなく、寧ろ対策が功を奏しているという点が新たな成果と言える。

 だから治療そのものは順調で、あと半月も経たずに別邸での経過観察も終えて王都に送れるだろう。

 冬だと王都に送っても帰れない人達がいるけれど、帰れない人に合わせるのも王都や王都周辺に屋敷がある人には申し訳ないので、そういう人達には王都邸で春まで滞在してもらう予定。

 王都邸の使用人達の練習にもなるので、互いに益のある話だし、大抵の貴族は街屋敷もしくは親戚筋が所有する屋敷があるので、本当に困るのはごく数人程度なので問題は最小限に留まる予定。


「その件だけど……、春まで残りたいって相談が多いのだけど」


 え?なんで?

 普通、早く家に帰りたいものじゃやないの?

 と言うか、婚約や結婚式が近いから早く治したいからこそ、王妃様を巻き込んでの集団治験要望だったはずよね?









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