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【完結】【コミカライズ決定】売られた令嬢は最後の夜にヤリ逃げしました〜平和に子育てしていると、迎えに来たのは激重王子様でした〜  作者: やきいもほくほく
五章 愛されすぎではないでしょうか

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49/50

④⑨


ミリアムの体からは大きな炎がぶわりと吹き出した。

それは以前の彼女からは想像できないほど大きな力だ。


だが、それだけ。


ミリアムにとっては大きい力なのかもしれないが、公爵家で火属性を使う人にとっては普通かそれ以下のことだろう。

シルヴィーはミリアムの魔法に違和感を覚えていた。


(この感覚……まるでこれから消えてなくなってしまいそうな最後の……)


シルヴィーは魔法について改めて学ぶ機会をもらっていた。

アデラールの働きかけもあり、珍しい魔法属性も育てていけば強大な力に繋がることもわかった。

そこでシルヴィーも己の魔法について、使い方の幅が広まり、魔法の伸ばし方を学ぶ機会を得ていた。



「君はこの会場を燃やす気なのかい?」


「…………え?」


「皆の迷惑だ」



ジュッ、という音と共にミリアムの火は消えてしまう。

それから子爵夫人を含めて水浸しになっている。

どうやらアデラールが水魔法を使ってミリアムの魔法を消したようだ。



「僕が見る限り、最後の灯火という感じがするけれど……もう君の力は尽きてしまうんだね」


「最後……? そんなわけないわっ」



どうやらシルヴィーの予想は当たったようだ。

ミリアムは何度も魔法を使おうとしているようだが、先ほどのような大きな火が上がることはなかった。

彼女の魔力がどんどんと小さくなっていくのを感じた。


貴族で魔法を使える者同士の結婚が推奨されている理由。

それは片親が魔法を使えない者の場合、遅かれ早かれ魔法は消えてしまうからだ。

魔法による争いを防ぐために女神様が慈悲を与えたのだと習った。

ミリアムはたまたま遅れていただけで、今の魔法で完全に尽きてしまったようだ。



「遅かれ早かれ君の魔法は消えるだろう。例外はない」


「こ、こんなことって……! ありえない、ありえないわっ」


「父上、やはり貴族間で知識の差があるのは問題ではないでしょうか。魔法学園の設立を急いだ方が。正しい知識を得られずに勘違いして生きていくのは可哀想ですよ」


「うむ、そうだな」



取り乱すミリアムを横目に、アデラールが国王と話を進めているのを、王妃が咳払いすることで収める。



「……っ! わたくしの愛するシルヴィーとホレスを貶めるなんて、消し炭にしても足りないわ。今すぐに消えてちょうだい!」



マリアの吐き捨てるような言葉に騎士たちが動き出す。

頭を押さえて項垂れるミリアムとは違い、子爵夫人はドレスからナイフを取り出した。

騎士たちがすぐに捕えようとするが、彼女は一点を見つめたまま走り出す。


彼女がナイフを向ける先。そこにはシルヴィーの母、ミーシャの姿があった。

どうやらミリアムとは違い、彼女の怒りの矛先は母だったようだ。

レオナール公爵が母を守るように前に立つ。

しかし騎士たちが取り囲もうとした瞬間、母には刃が届かないと悟ったのだろう。

自分に刃を向けたことで、騎士たちもぴたりと足を止める。



「来ないでっ……! あの女を殺せないなら私はっ」



刃が首に食い込んでいく。

これでは火魔法も水魔法も雷魔法も役には立ちそうにない。

祝いの場でこのようなことは許されないが、彼女は最初からこうするつもりだったのだろうか。

このまま誰も子爵夫人を止めることはできないと思っていた時だった。



「えいっ!」



かわいらしい声と共に突風が吹いた。

不意をつかれたのか、子爵夫人は一歩後ろへと下がる。


水が染み込んだ絨毯に足を取られたのか、彼女は尻もちをつく。

そのおかげかナイフが手を離れて転がっていく。

再びナイフを手にしようとするのを見たシルヴィーは、ミリアムの髪についていたリボンを利用して彼女がナイフをとれないように手首を拘束する。



「──イヤアアァァアァッ!」



絶叫する子爵夫人の口を騎士たちが塞いだ。



「本当なのに。嘘じゃない嘘じゃない嘘じゃないわ……こんなのってありえない」



壊れた時計のように、そう呟き続けているミリアムと共に外へと引きずっていく。

悲鳴が消え、彼女たちが姿を消した。



「母上といっしょにやっつけました!」


「……ホレス」



ホレスの天使のような笑みは母へと向けられていた。

シルヴィーとホレスを包み込むように会場が歓声と拍手に包まれる。

ホレスも自分が褒められているとわかっているのだろう。

今までの訓練の成果を発表できたことで誇らしげに胸を張っている。



「騒ぎを収めたホレスに感謝を」



アデラールがホレスを抱えると、さらに大きくなる拍手。

マリアは拍手をしすぎて目眩を起こしたため、慌てて椅子へと座る。

彼は反対側の手でシルヴィーの肩を抱く。

シルヴィーもアデラールの手に手を重ね添えて、彼を見上げながら頷いた。

貴族たちが集まる場でホレスの力を示せたことは大きいだろう。

パーティーはホレスの活躍で大成功をおさめた。




* * *



「母上……!」


「ふふ、ホレスったら泥だらけよ?」



シルヴィーはホレスの顔についた泥を拭う。

中庭ではリサの子どもたちと思いきり遊ぶホレスの姿があった。

その遊び方は褒められたものではないが、たまにはいいだろう。

ベンチに座りながら彼らの様子を見守っていると……。



「僕の女神は今日も美しいね」


「アデラール様……!」


「シルヴィーのそばを片時も離れたくないよ」


「……あはは」



今日もアデラールは熱烈なアピールをしてくる。


パーティーから一カ月。

毎日忙しくてあっという間に過ぎていくが、こうして愛のあふれる日常を過ごせるのはとても幸せだ。



あの後、レンログ子爵夫人とミリアムは騒ぎを起こした罪や不敬罪で投獄。

ミリアムは自分が正しいと思い込んでおり、話にならないそうだ。

『アデラール殿下は騙されている。わたくしが魔法で救ってあげないと』

魔法が使えなくなったことすら受け入れられていない。

心が壊れてしまったのか、牢の中でずっと喋り続けているらしい。

それにミリアムは領民のことを魔法で傷つけていたようで、さまざまな罪状が加わり公開処刑となるそうだ。


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― 新着の感想 ―
この頁で2つの事で興味が湧きました。 1つは、攻撃魔法が使えないヒロインなりに子爵夫人の暴挙を止める魔法を幾つか考えるがどれも無理と思っていた所、息子が容易く風魔法を発動させ、自殺を食い止めた点です。…
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