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【完結】【コミカライズ決定】売られた令嬢は最後の夜にヤリ逃げしました〜平和に子育てしていると、迎えに来たのは激重王子様でした〜  作者: やきいもほくほく
三章 波乱の予感

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26/50

②⑥

どうやら爪でジャボを引っ掻いてしまい、レースが破れてしまったようだ。

この後、大切な用事があるようで困っているのだろう。


(レースならわたしが編みなおせるかもしれないわ)


このまま眺めていようと思ったが我慢できなくなり、シルヴィーは声をかける。


『どうかしましたか?』


シルヴィーは泣いている令嬢にハンカチを渡す。それからジャボを受け取って目を閉じる。

そして魔法を使って素早く穴が空いているレースを縫い直していく。

まだ発現して少ししか経っていないため、コントロールがうまくできずに魔力をたくさん使ってしまう。

シルヴィーの額には汗が滲んでいくがなんとか直し終わり、令息に渡すがくらりと目眩がした。


(どうしよう。このままじゃ倒れちゃいそう)


シルヴィーは失態を犯すわけにはいかないと、すぐに屋敷に帰る選択をしたのだ。

どうせ本来、参加できなかったパーティーだ。

この二人が無事にパーティーに参加できて楽しめたらそれでいい。

人の役に立てた誇らしい気持ちと、憧れのパーティーにもっと参加していたかったという悔しい気持ちがせめぎ合う。


なんとか笑顔を作って彼らに背を向けた。

そのままパーティー会場を後にしたのだ。馬車の中で何度も何度も夢のような光景を思い返しては幸せに浸っていたのだ。

回想が終わり、シルヴィーはアデラールを見つめながら瞬きを繰り返す。



「まさか、あの時の令息はアデラール殿下だったのですか……?」


「そうだよ。君は刺繍やレースに夢中で気づいていなかったみたいだけどやっとお礼を言える。ありがとう、シルヴィー。君の優しさに僕たちは救われたんだ。それに……」


「…………?」


「あの時から僕にはシルヴィー嬢しかいないって、そう思ったんだ」



恍惚とした表情でシルヴィーを見つめるアデラールにゾクリと恐怖に似たものを感じていた。

アデラールは言葉通り、本当に十三年もシルヴィーを想い続けていたのだろうか。



「で、ですが……それだけでは」


「シルヴィーは僕の運命の女性だ」



力強く抱きしめられたシルヴィーの胸は高鳴るばかりだ。

十三年前のパーティーも三年前の夜会でも、シルヴィーはアデラールに出会っている。

そう思うと彼との関係も運命だと思えてくる。


それにもう一つ気になるのは、何故このタイミングで姿を現したのかということだ。



「どうして今なのですか? 機会はたくさんあったはずですよね?」


「本当はすぐに君のことを迎えにいきたかった。けれど君のためにずっとずっとずっと……我慢していたんだ」



アデラールの笑顔が恐ろしい。

彼が握った拳は爪が食い込んで白くなっていた。

しかしアデラールがシルヴィーを運命だというのは、ホレスの存在がいてこそではないだろうか。



「そ、それはホレスが……」


「ホレスは関係ないんだ。関係ないんだよ、シルヴィー」


「…………え?」



悲しげに眉を寄せてシルヴィーを見つめるアデラール。



「すぐに迎えに来なかったのは君が苦労して作り上げた居場所を無理やり奪いたくはなかったんだ」


「……!」


「ここで暮らす君はとても楽しそうだったから。その笑顔が見られるなら……このままでもいいと思った」


「……アデラール殿下」


「たとえそこに僕がいなくても君が幸せならそれで……」



この言葉からアデラールはシルヴィーのことを一番に思って、動いていたのだとわかる。

国のためや自分の立場を思うなら、すぐに結婚するべきなのだろう。



「けれどホレスの魔法の発現が予想以上に早かった。これ以上、ここに留まらせることはできない」


「ぁ……」


「これほど大きな力をコントロールするのは大変なんだ。父や僕でないと対処することは難しい。そうでなければ周りもホレス自身も危険な目にあってしまう」



アデラールの言う通りだろう。

ホレスに無理をさせてしまい、あれだけの突風がその場で起こってしまえば大惨事になってしまうに違いない。



「今回はすぐに駆けつけられなくてごめんね。公務があったから……」



アデラールはリサやベンたちから報告を受けて、すぐここまで来てくれたのだという。


(アデラール殿下には感謝しないと……)


シルヴィーは心の底から安心していた。すると不思議なことにどんどんと体の力が抜けていく。

アデラールはそれを予期していたのか、すぐにシルヴィーが倒れないように体を支えてくれた。



「シルヴィー……どれだけこの日を待ち望んだことか」


「…………?」


「今度は絶対に手放さない。僕が君たちを守るから」



アデラールから伝わる温もり。彼に身を任せるようにしてシルヴィーは意識を手放したのだった。



* * *



シルヴィーはハッとして目を覚ます。

ここはどこなのかと確認するために辺りを見回した。

見たことがないほどの豪華なシャンデリア。豪華絢爛な装飾品の数々にしばらく動けずにいた。


意識を失う直前までアデラールと話していたため、ここがどこなのかすぐにわかった。王城の一室ではないだろうか。

ホレスの看病でほとんど寝ていなかったため、安心したのと同時に限界がきてしまったようだ。

自分の場所がわかったところで状況を整理するために深呼吸をする。


あの後、アデラールとともに王城に来たのだろうか。

ここにいればホレスも安心だろう。何かあったらアデラールが対処してくれるはずだ。


(こんなにゆっくりと眠ったのはいつぶりだったかしら)


仕事で朝から晩まで忙しくしていたことや、休みもホレスと遊んでいたことで、こうしてゆっくり寝る暇もなかった。


(よかった……ホレスの熱が引いて……)


シルヴィーが心から安心していた時だった。


コンコンとノックの音が聞こえた。

シルヴィーが反射的に返事をすると、ゆっくりと開く扉。

そこには侍女の格好に身を包んだリサの姿があった。


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