第36話『千弦の誕生日になった。』
「もうすぐ千弦さんのお誕生日だね、お兄ちゃん」
「そうだな」
午後11時55分。
千弦の誕生日まであと5分になった。今は俺の部屋で結菜と一緒にいる。
この後、午前0時になって千弦の誕生日になったら、結菜と俺はLIMEで千弦に誕生日を祝うメッセージを送る予定だ。翌日が休みの日は千弦は日付を越えても起きているし、実際にそういう時間帯に連絡をしたこともある。なので、千弦の迷惑になってしまうことはないだろう。
LIMEの千弦とのトーク画面を開いて、
『千弦、17歳の誕生日誕生日おめでとう!』
というメッセージを作り、午前0時になるのを待つ。……今は午後11時57分か。あと3分か。
早く午前0時にならないだろうか。日付が変わるのがこんなにも待ち遠しいのは初めてだ。
スマホの時刻を見て結菜と雑談しながら、そのときを待つ。
そして、
『0:00』
「なった!」
「なったね!」
7月13日、土曜日。
千弦の17歳の誕生日になった。その瞬間に、俺はさっき作った祝福メッセージを千弦に送信した。
「おっ」
俺がメッセージを送った瞬間、相手がメッセージを表示したことを知らせる『既読』のマークが付いた。もしかしたら、千弦も俺のように何分か前からこのトーク画面を開いて、自分の誕生日と俺のメッセージが来る瞬間を待っていたのかもしれない。
「どうしたの、お兄ちゃん。声出して」
「メッセージを送った瞬間に既読が付いたから声が漏れた」
「そうだったんだ。千弦さん、トーク画面を開きながらお兄ちゃんからのメッセージを待っていたんだろうね」
「そうだろうな」
その姿を想像すると……可愛いな。
『ありがとう、洋平君! 17歳になりました!』
というメッセージが届いた。文字だけど、千弦の嬉しい気持ちがはっきりと伝わってくるよ。千弦の嬉しそうな笑顔が頭に思い浮かぶ。
誕生日になった瞬間にお祝いするのっていいな。
「千弦からありがとうって返信きた」
「良かったね。……あっ、あたしにもお礼の返信きた。嬉しい」
「良かったな」
「うんっ」
結菜は嬉しそうな笑顔で頷いている。
――ブルルッ、プルルッ。
と、何度もスマホが鳴り、七夕祭りに行ったときの人がメンバーのグループトークにメッセージが送信されたと通知が何度も届く。
通知をタップすると、
『千弦ちゃん、17歳のお誕生日おめでとう!』
『千弦、17歳の誕生日おめでとう! 生まれてきてくれてありがとう! パーティーで会えるのを楽しみにしてるわ!』
『17歳の誕生日おめでとう、千弦! 琢磨君達と一緒にパーティー行くね!』
『藤原、誕生日おめでとう!』
『藤原さん、お誕生日おめでとう。17歳の1年もいい1年でありますように』
星野さん、神崎さん、吉岡さん、琢磨、山本先生から千弦に向けて誕生日を祝うメッセージが表示された。5人はこのグループトークに送ったか。千弦との関わりが深くて誕生日パーティーに参加する人達がメンバーだし、こちらに送るとみんなでお祝いできていいかもしれない。あと、琢磨達も起きていたんだな。
「彩葉さん達、グループトークにお祝いメッセージを送ってるね」
「そうだな。誕生日パーティーに参加する人がメンバーだからかな。あと、グループだとみんなでお祝いできていいのかも」
「それは言えてるかも。じゃあ、あたし達もこっちにメッセージ送ろう!」
「ああ、そうしよう」
二度目のメッセージになるけど、祝福のメッセージだから二度目でも千弦に喜んでもらえるんじゃないだろうか。
『千弦、17歳の誕生日おめでとう!』
『千弦さん、お誕生日おめでとうございます!』
俺と結菜はグループトークにも、千弦に向けた祝福のメッセージを送った。
すると、俺の送ったメッセージを既読した人数が増えていき、すぐに最大人数である『既読7』となった。そして、
『ありがとうございます! みんなに祝ってもらえて嬉しいです!』
というメッセージが千弦から届いた。こっちにもメッセージを送って良かったな。
「千弦さんにお祝いのメッセージを送れたし、明日は午前中から部活があるからもう寝るね」
「分かった。おやすみ、結菜。部活頑張れよ」
「うん、ありがとう。おやすみ、お兄ちゃん」
結菜はそう言うと、俺の部屋を後にした。
さてと、俺は……もうちょっと起きていようかな。明日は午前中に千弦の家でお家デートをする予定だけど、学校に行くときよりはゆっくりの時間だから。
スマホの画面に表示されているグループトークを見ると……温かい気持ちになれるな。
「……声でも伝えたくなってきたな」
千弦に電話して、誕生日おめでとうと言いたい。できればビデオ通話で。千弦にビデオ通話していいか訊いてみるか。
千弦との個別トーク画面を開き、
『千弦。今からビデオ通話してもいいか? 千弦の顔を見ておめでとうって言いたいんだ』
というメッセージを送った。
すると、すぐに『既読』のマークが付いて、
『うん、いいよ!』
と千弦が返信してくれた。
ありがとう、とメッセージを送り、俺は千弦に向けてビデオ通話をかける。
スマホの画面を見ていると、画面には淡い桃色の寝間着姿の千弦が映し出された。千弦の方も俺のことがちゃんと見えているようで、千弦はニッコリと笑って手を振ってくる。とても可愛いと思いながら俺も手を振った。
「こんばんは、千弦」
『こんばんは、洋平君』
「改めて、17歳のお誕生日おめでとう!」
画面越しに、俺は千弦にお祝いのメッセージを送った。
千弦の笑顔が嬉しそうなものに変わり、
『ありがとう! メッセージでももちろん嬉しいけど、洋平君の顔を見ながら言われるともっと嬉しいよ!』
とお礼を言ってくれた。お礼のメッセージを送ってくれたときも嬉しい気持ちになったけど、こうして千弦の笑顔を見ながら「ありがとう」って言われるとより嬉しい気持ちになれる。ビデオ通話をしたいと言ってみて良かった。
「いえいえ。喜んでくれて良かった」
『うんっ。誕生日になってすぐに洋平君や彩葉ちゃんやみんなからお祝いメッセージをもらって、洋平君とビデオ通話でおめでとうって言ってもらえて。凄く幸せだよ。誕生日プレゼントをもらった感じがするよ』
千弦は幸せそうな笑顔でそう言う。今の言葉が本心であることが分かって。だから、俺も幸せな気持ちになっていって。
「そうか。良かったな、千弦」
『うんっ。明日……もう今日か。凄く楽しみだよ。洋平君とお家デートをして、誕生日パーティーの準備をして、誕生日パーティーと洋平君のお泊まりだから』
「盛りだくさんだな。登校するときにも言ったけど」
『ふふっ、そうだね。盛りだくさんっ』
「俺も凄く楽しみだ。千弦が楽しくて最高だって思える誕生日にしたいな」
『ありがとう! きっとそんな誕生日になる気がするよ。洋平君っていう大好きな恋人がいるからね。それに、彩葉ちゃん達もパーティーに来てくれるし』
千弦はニコニコとした笑顔でそう言ってくれる。俺っていう恋人がいるから、楽しくて最高だと思える誕生日になる気がするって言ってもらえて凄く嬉しい。あと、星野さん達のことを言うところが優しい千弦らしさを感じられる。
「千弦。明日……じゃなくて今日か。午前中から千弦の家にお邪魔するよ」
『うん! 楽しみにしてるね!』
「ああ。俺も楽しみにしてる。じゃあ……おやすみ、千弦」
『おやすみ、洋平君』
笑顔の千弦と手を振り合いながら、俺の方から通話を切った。
明日は午前中から千弦の家にお邪魔するから、寝る前にもう一度お泊まりの荷物を確認するか。
その後、部屋にあるボストンバッグの中を見て、お泊まりするのに足りないものや忘れているものがないことを確認した。千弦への誕生日プレゼントが入っていることも。
荷物とプレゼントが大丈夫だったので、寝る準備をしてベッドに入った。
恋人として、千弦が楽しくて最高だと思える誕生日にしたい。そう思いながら眠りに落ちていった。




