第21話『水をかけ合って』
これからプールに入るので、俺も千弦もスマホを更衣室のロッカーへと戻した。
スマホを戻すだけなので、俺と千弦が更衣室から出てくるタイミングはほとんど同じだった。
「じゃあ、屋内プールに行くか」
「うんっ!」
俺達は手を繋いで、屋内プールへと向かう。今はお互いに水着姿だから、こうして手を繋ぐこともちょっとドキッとする。
屋内プールに入ると、まずは正面にあるウォータースライダーの青いコースが目に入る。とても大きくて存在感がある。
スイムブルー八神の屋内プールはとても広く、流れるプールとレジャープールという大きな2つのプールを中心に、学校にもあるような25mプール、小さな子供でも安心な浅いプールといった様々なプールがある。流れるプールとレジャープールを中心に、老若男女様々な人達がプールに入って遊んでいる。
また、屋内プールの端の方にはサマーベッドがズラリとたくさん並んでいる。サマーベッドで横になってゆっくりしている人達も見受けられる。
「2年ぶりだけど、変わらず立派だなぁ、スイムブルー。お客さんがいっぱいいるのも変わらない」
「人気の屋内プールだもんね。それに、多摩地域では一番大きな屋内プール施設らしいし」
「そうなんだ。まあ、これだけ色々なプールがあるし、流れるプールやレジャープールは大きいもんな。ウォータースライダーもあるし。サマーベッドでは休めるし。人気なのも、多摩地域で一番大きいのも納得だ」
「そうだねっ」
実際、これまでスイムブルーに遊びに来たときは楽しめたもんな。今日は千弦と一緒に遊んで、スイムブルーでの楽しい思い出を増やしたい。
「入口近くにいるあのカップル、美男美女だね!」
「黒い水着の男の人と、水色のビキニの女の人のこと? あの2人お似合いだね!」
「いいなぁ、あの男。可愛くてスタイル抜群の彼女がいて……」
「手を繋ぐほどの男と一緒じゃなかったら声を掛けてたぜ」
「あの黒い水着の男の人、かっこいいよね。金髪のイケメンで……」
「うんっ。あと、恋人らしき女の人もいいよね。美人でスタイルも良くて憧れるよ……」
「背も高いもんね。あたし、あの女の人なら何をされてもいい……」
などといった、俺達のことを話していると思われる話し声が聞こえてくる。
周りを見てみると……男女問わず俺達のことを見てくる人が何人もいて。水着姿の千弦はかなりいいからなぁ。可愛いしスタイルの良さもよく分かるし。まあ、聞こえてきた内容からして、俺に注目している人もいるようだけど。
「俺達、注目されてるな」
「そうだね」
「俺達のことはカップルだと思われていそうだし、俺が一緒にいるから可能性は低いと思うけど……水着姿の千弦はとても魅力的だからナンパされるかもしれない。そういったことがあったら俺が助けるからな。4月のときみたいに」
俺は千弦のことを見つめながらそう言った。俺達が深く関わるようになったのは、千弦が男達からナンパされることを助けたことだった。しかも、その男達がとてもしつこかったのもあり、ナンパされているときは怖かったと千弦は言っていたから。
「ありがとう。もし、ナンパされたら、あのときみたいに助けてね」
千弦はニッコリとした笑顔でそう言ってくれた。
「分かった」
俺がそう言うと、千弦の口角がさらに上がったのが分かった。
千弦が笑顔でいられるためにも、ナンパはもちろん千弦に何かあったらすぐに助けたいと思う。
「洋平君。軽く準備運動しようよ。デートだけど、プールで体を動かすんだし」
「そうだな。怪我とかしないためにもやるか」
怪我をしたり、体を痛めたりしてしまったら、プールデートを楽しめなくなってしまうだろうから。
他のお客さんの迷惑にならないように、屋内プールの端の方に移動して俺達は準備運動をすることに。
俺は体育の授業で毎回やっている準備運動をする。千弦と向かい合いながら。
準備運動をしている千弦の姿を見るのは新鮮だ。普段、体育の授業は男女別だし、女子とは別の場所で実施しているから。あと……水着姿だから、時折セクシーな雰囲気になってドキドキさせられる。
「……よし、これで大丈夫だな」
準備運動が終わり、体が温まった。千弦の準備運動姿にドキドキしたのもあるけど。
「私も終わった」
「お疲れ様」
「洋平君もお疲れ様。準備運動だけど、洋平君の前でしたことはなかったから楽しかった。準備運動をする洋平君が新鮮だったし」
「体育の授業は男女で違う場所でやるもんな。俺も楽しかったよ。準備運動をする千弦の姿を見られたし」
「そっか」
ふふっ、と千弦は楽しそうに笑う。
「じゃあ、準備運動が終わったから遊ぶか!」
「そうだね!」
「まずはどこで遊ぼうか? 千弦はどこか行きたいところはある?」
「そうだね……まずはレジャープールがいいかな。これまで、プールに来ると、最初はレジャープールに入って水をかけ合うことが多くて」
「そっか。よし、まずはレジャープールに行くか」
「うんっ!」
千弦はニコッとした笑顔で返事した。
俺達は再び手を繋いでレジャープールに向かう。
すれ違う人を中心に俺達を見ている人もいる。ただ、手を繋いるのもあり、声を掛けてくる人はいなかった。
レジャープールのすぐ近くまで辿り着き、俺達は手を離した。
俺達はレジャープールに入る。
プールの水はそれなりに冷たい。今日も蒸し暑かったので、この冷たさがたまらない。ちなみに、プールの深さは俺のへその下、千弦はへその上あたりだ。
「あぁ、冷たくて気持ちいい……」
千弦は快適そうな笑顔で言う。可愛い。
「気持ちいいよな。千弦と一緒にプールに入れて、プールデートに誘って良かったってさっそく思うよ」
「そう言ってくれて嬉しいよ。誘ってくれてありがとね」
千弦は可愛い笑顔でそう言ってくれた。誘った身として、今の言葉はとても嬉しい。
「いえいえ」
「……じゃあ、さっそく水をかけ合おうか」
「そうだな。ちょっと離れるか」
「そうだね」
周りに気をつけながら、俺達はお互いに後ろに下がった。
3、4mほど離れたところで、俺達は立ち止まる。
「じゃあ、水をかけるね。……それっ」
千弦は両手を掬い上げ、プールの水を俺にかけてくる。
千弦が掛けてきた水は顔を含めた俺の上半身に当たった! 上半身はまだ水に一度も触れていなかったので、結構冷たく感じる。
「おっ、冷たい!」
「ふふっ、当たった当たった」
「じゃあ、今度は俺からだ。それっ!」
俺は千弦のように両手で水を掬い上げて、千弦に向けて水をかける。
俺のかけた水は、千弦の方へと飛んでいき、顔を含めた千弦の上半身に当たった! その瞬間、
「きゃっ」
と、千弦は笑顔で可愛らしい声を上げる。
見事に当たったので、千弦の顔や上半身が水に濡れる。水が煌めくのもあり、今の千弦はいつもとはまた違った美しさがあって。とても素敵で見惚れる。プールに入って、千弦に水をかけてもらって涼しく感じていたけど、段々と体が熱くなってきた。
「冷たくて気持ちいい!」
千弦は爽やかな笑顔でそう言った。本当に可愛い。
「洋平君にかけてもらったから凄く気持ちいいよ」
「ははっ、嬉しいことを言ってくれるな」
「水をかけ合いたいって言ってみて良かったよ。洋平君、もっとかけ合おう!」
「ああ!」
その後も俺達は水をかけ合っていく。
千弦が「きゃっ」とか「気持ちいい」といった可愛い反応をしてくれるから、水をかけるのがとても楽しい。また、千弦が「それっ」と可愛い笑顔で言ってかけてくるから、水をかけられるのも楽しくて。今までに家族や友達と遊びに来たときも水をかけ合うことはしたけど、今回が一番楽しい。
千弦もとても楽しそうだ。俺のかけた水が当たったときや、俺が水にかかって反応したときは特に。
水をかけ合うことで、千弦はたくさん笑顔を見せてくれて。それがとても嬉しかった。




