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クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。  作者: 桜庭かなめ
本編

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第49話『雷を怖がって』

 5月16日、木曜日。

 昨日の放課後はバイトがあって俺は勉強会に参加しなかったけど、今日は千弦達との勉強会に参加している。

 ただ、今日は一昨日の6人だけでなく、結菜も参加している。結菜の通う中学は来週の木曜日と金曜日に中間試験があるため、1週間前の今日から部活動が禁止となった。火曜日に俺達6人が勉強会をしたのもあり、結菜から「あたしも一緒に勉強したい!」とお願いしたのがきっかけだ。俺はもちろん、千弦達も快諾して結菜が参加することになった。

 また、今日の勉強会の会場は千弦の家だ。ここになったのは、結菜が、


「千弦さんのお家か彩葉さんの家、玲央さんの家で勉強したいです。あたし、3人の家には一度も行ったことがないので……」


 と言ったのがきっかけだ。3人の家には吉岡さんも行ったことがないそうで大賛成。それもあり、今日は千弦の家で勉強しようと決まったのだ。

 千弦の家に来たとき、初めて来た結菜と吉岡さんは興奮。母親の果穂さんと挨拶したとき「可愛いお母さんっ!」と大興奮。また、琢磨も「ここが藤原の家かぁ」と感心を寄せていた。

 千弦の部屋で、千弦の部屋と客間にあるローテーブルを囲んで、今日の授業で出された課題をしていく。

 ちなみに、座っている場所は月曜日とちょっと違い、俺から時計回りに琢磨、吉岡さん、神崎さん、千弦、星野さん、結菜だ。俺は1人で座っており、正面には神崎さん。千弦と星野さんと結菜が3人並んで座っている。

 今日も俺は琢磨や吉岡さんを中心に勉強を教える先生役になっている。

 また、結菜は座っている場所が近い俺や星野さん、千弦にも質問していた。結菜に頼られるのは嬉しいし、星野さんや千弦に勉強を教えてもらっている姿を見ると微笑ましい気持ちになった。星野さんと千弦が普段よりも大人っぽく見えて。

 勉強を教えてもらったのもあってか、休憩に入るとすぐに、


「お兄ちゃんはもちろんですが、彩葉さんと千弦さんも分かりやすいです。ありがとうございます!」


 結菜は星野さんと千弦にお礼を言っていた。俺以外にも分からないところを訊けて、分かりやすく教えてもらえる人がいるのは結菜にとって心強いんじゃないだろうか。

 結菜のお礼に星野さんと千弦は、


「いえいえ。結菜ちゃんの力になれて嬉しいよ」

「そうだね、彩葉。結菜ちゃんに教えるのが楽しいよ」

「楽しいよね」


 と、結菜に優しい笑顔を向けながら言ってくれて。結菜に勉強を教えるのを楽しいと思ってもらえて良かったよ。

 結菜の兄として俺も星野さんと千弦に、


「結菜に教えてくれてありがとう」


 とお礼を言った。すると、2人は「いえいえ」と穏やかな笑顔で言ってくれた。

 結菜はみんなと仲がいいし、分からないところを教えてもらえるから、試験対策の勉強会は結菜が参加することがこれから何度かあるかもしれないな。

 休憩を挟みつつ勉強会を進めていると、

 ――ゴロゴロ。

 と、遠くで雷が落ちる音が聞こえてきた。また、その直後に、

 ――ザーッ。

 という雨音が聞こえてきて。雨が降ってきたのか。

 窓から外を見てみると、空が結構暗くなっており、雨が降っているのが見える。そういえば、今朝の天気予報で、晴れるけど、夕方になると局地的に雨が降るって言っていたっけ。その時間帯は大気の状態が不安定で雷が発生するところもあると。どうやら、洲中市はその局地的な地域になってしまったようだ。

 俺は雷が平気だけど、結菜が苦手なんだよな。今くらいの鳴り方なら大丈夫だけど、近い場所に落ちたら結菜は凄く怖がる。だから、どうか近くには落ちないでほしい。

 おっ、外がピカッと光った。


 ――ドーン!

『きゃああっ!』


 光った直後に物凄く大きな雷鳴がして、それと同時に女子全員から悲鳴が上がった。その直後に結菜が俺のことをぎゅっと抱きしめ、俺の胸に顔を埋める。


「ううっ、怖いよ……」


 結菜は体を震わせながらそう言ってくる。今の音はかなり大きかったから、結菜が怖がるのも無理はない。


「今の雷鳴は大きかったなぁ……」


 そう言い、結菜の気持ちを少しでも落ち着かせるために、俺は結菜の頭を優しく撫でる。

 今の雷鳴はかなり大きかったし、地響きもした。かなり近くに雷が落ちたのだろう。ただ、今も部屋の照明は点いているので停電にはなっていないか。


「今の雷は凄かったよなぁ、洋平」

「ああ。ここまで大きな雷鳴を聞くのは久しぶりだ」

「そうだなぁ」


 琢磨は落ち着いた様子でそう言う。琢磨は中学の頃から雷が平気だったな。ちなみに、琢磨は吉岡さんのことを抱きしめており、胸に顔を埋めている吉岡さんの頭を撫でている。

 部屋の中を見渡すと、神崎さんと星野さんが怯えた様子で千弦の腕にしがみついている。神崎さんはここから見ても分かるくらいに体が震えていて。千弦もビックリした様子になっており、顔色がちょっと悪くなっている。


「結菜は雷が怖いのは知っているけど、吉岡さん達女子4人も雷は苦手みたいだな」

「そうだな。早希は雷が鳴るとすぐにこうやって俺を抱きしめてくるんだ」

「だって、雷凄く怖いんだもん。音が大きく鳴るのも。ピカッと光るのも……」

「早希の言うこと分かるわ! 大きくなっても雷は大嫌い!」

「あたしも雷大嫌いですっ!」


 神崎さんと結菜は大きな声で反応する。神崎さんは涙目になっていて。2人の雷の大嫌いさがよく分かる。

 あと、結菜は小さい頃から雷が鳴ると、今みたいに俺を抱きしめて顔を埋めたり、しがみついたりしてきたな。ベッドに入ることもあったか。夜中に雷が鳴ると、俺の部屋に来て一緒に寝てほしいと頼んできたっけ。


「私も雷は苦手だよ……」

「私も。小さい頃に比べたら多少はマシになったけど、今の雷はかなり怖いね。ビックリしちゃった」


 星野さんと千弦も雷は怖いか。星野さんは千弦にしがみついているし、千弦も顔色があまり良くないもんな。

 今もゴロゴロと雷が鳴っている。女性陣みんな雷を怖がっているから、勉強するどころじゃなさそうか。


「雷が収まるまでは休憩にしよう」

「それがいいな、洋平。みんなもそれでいいか?」


 琢磨のその問いかけに、女性陣はみんな頷いたり、「うん」と言ったりと賛成の意を示した。なので、休憩することに。


 ――コンコン。

『女の子達の凄い悲鳴が聞こえたけど大丈夫?』


 扉がノックされ、果穂さんがそんなことを問いかけてきた。女子達の悲鳴はかなりのものだったからな。何かあったんじゃないかと思ったのだろう。

 そういえば、ここで千弦とお家デートをする中で、千弦がゴキブリを見つけて悲鳴を上げたときも、果穂さんはすぐに部屋の前まで駆けつけてきたっけ。


「か、雷に驚いただけだよ。女子達みんな雷が苦手で」

『なるほどね。近くに落ちたものね。お母さんもビックリしちゃった』

「そっか」

『早く収まるといいわよね。じゃあ、お母さんはリビングにいるから』

「うん」


 果穂さんの言う通り、早く雷が収まってほしいな。そう思っていると、


 ――ドーン!

『きゃああっ!』


 と、先ほどと同じくらいの雷鳴が鳴り響き、女性陣はみんな大きな声で叫ぶ。また、結菜は雷鳴が聞こえた途端に体がピクッと震え、俺を抱きしめる強さが強くなった。


「ううっ。怖いよ、お兄ちゃん……」

「今のも大きかったなぁ。今、雷雲が通っている最中なんだろうな。直に止むさ」

「そうであってほしいよ……」


 ううっ、と結菜は力のない声を漏らす。


「ね、ねえ。千弦。ベッド借りてもいい? あたし、家にいるときに雷が鳴ると、ベッドに潜り込むから」


 神崎さんが千弦に向かってそんなお願いをする。ベッドに潜る……か。そうすれば、聞こえてくる雷の音を軽減できそうか。


「ああ、いいよ。私のベッドで良ければ」

「ありがとう、千弦」

「あたしもいいですか?」


 結菜は俺から顔を離して、涙目で千弦にお願いする。結菜もベッドに潜ることがあるからな。


「いいよ。結菜ちゃん」

「ありがとうございますっ!」

「一緒に入りましょう、結菜ちゃん」

「はいっ」


 神崎さんと結菜は千弦のベッドに入り、掛け布団を頭まで掛ける。


「ベッドの中、暗くていいですね!」

「そうね。結菜ちゃんがいるし、千弦のいい匂いもするし……これなら雷を乗り越えられそうだわ!」

「あたしもですっ!」


 ベッドの中から神崎さんと結菜のそんな会話が聞こえてくる。2人の声は弾んでいて。千弦のベッドの中……2人にとってはとてもいい環境のようだ。あと、1人ではなく、2人で入ったのが良かったのかもしれない。


「あと、このベッド気持ちいいわ。ふかふかだし。千弦のいい匂いもするし。幸せな気持ちになるわぁ……」


 あぁ……と、ベッドの中から神崎さんの甘い声が聞こえてくる。どうやら、神崎さんは千弦のベッドがとても気に入った模様。雷が近くに落ちた直後なのもあり、千弦のベッドの気持ち良さに幸せを感じているのかも。


「私、カーテンを閉めてくるよ。そうすれば、雷の光も多少は軽減されるから」


 千弦はそう言って、クッションから立ち上がる。千弦は雷が苦手だし、雷がピカッて光るのを見るのが怖いのもしれない。今はレースのカーテンしか閉めていないし。

 千弦が俺の横まで来たとき、


「千弦。俺がカーテンを閉めるよ」


 そう言って、俺はクッションから立ち上がる。


「大丈夫だよ。カーテンを閉めるくらいだし」


 と、千弦は落ち着いた笑顔で言うけど、雷が鳴っているからかその笑顔は硬い。


「千弦は雷が苦手だし、窓の側に行くのも怖いんじゃないか? 俺は雷が平気だから、俺で良ければやるよ」


 千弦の目を見つめながら俺はそう言った。だからか、千弦の笑顔はさっきよりも少し柔らかくなる。


「ありがとう。じゃあ、お願いしてもいいかな。カーテンを閉めるときに雷が鳴ったら怖いなって思っていたし」

「分かった」


 俺はベッドの側にある窓、本棚の近くにある窓の順番でカーテンを閉める。ただ、本棚近くにある窓のカーテンを閉めたとき、ピカッと光り、遠くでゴロゴロと雷鳴がした。俺がやると言って良かったな。

 2つの窓のカーテンを閉め、自分が座っていたクッションに戻っていく。頼んだ手前か、千弦は俺の座っていたクッションの近くで今も立っていて。


「カーテン閉めてきた」

「ありが――」


 ――ドーン!!

『きゃああっ!!』


 千弦が俺にお礼を言っていたとき、これまでで一番と言っていいほどに大きな雷が鳴る。それもあり、女子達は三度大きな悲鳴を上げた。

 また、俺のすぐ側に立っていた千弦は、さっきの結菜のように俺のことをぎゅっと抱きしめ、俺の胸に顔を埋めてくる。

 雷鳴と地響きに少しビックリした後、千弦の温もりや柔らかさや甘い匂いを感じられるように。こんな状況だけど、千弦に抱きしめられるのは初めてなので、さすがにドキドキする。


「ううっ、怖いよ……」


 千弦は俺にしか聞こえないような小さな声を漏らす。声の高さからして、素に戻って言っているのだろう。また、千弦の体は小刻みに震えていて。


「今の雷も凄かったな。俺もちょっとビックリしたよ」


 そう言い、俺は千弦の頭を優しく撫でる。これで少しでも怖い気持ちが小さくなったり、落ち着いてくれたりすると嬉しいな。あと、頭を撫でることで千弦の柔らかい髪から甘い匂いがふんわりと香ってきて。そのことにもドキッとして。

 部屋の中を見ると、星野さんと琢磨がこちらを見ていた。ただ、千弦がさっき雷が怖いと言っていたのもあってか、星野さんも琢磨も微笑む程度で、千弦が俺を抱きしめているこの状況に何か言うことはなかった。


「……よ、洋平。もう頭を撫でるのを止めて大丈夫だよ。気持ちが落ち着いてきたから……」


 千弦はそう言うと、俺の胸から顔を離す。千弦の顔は頬を中心に赤くなっていて、視線がチラついている。雷が鳴ったからとはいえ、俺のことをぎゅっと抱きしめて顔を埋めていたからかな。王子様モードとはいえ、今の千弦はかなり可愛い。あと、顔が赤くなっているほどなので、千弦から伝わる温もりはかなり強くなっていた。

 千弦の言う通り、頭を撫でるのを止める。すると、千弦は俺への抱擁を解き、一歩後ろに下がる。それまで散漫していた視線を俺の方に定めて、


「洋平。ありがとう。あと、突然抱きしめてごめんね。雷が怖くて」


 と、はにかみながら言った。


「気にするな。怖いって言っていたんだし、全然嫌だとは思わないよ。むしろ、千弦のためになったみたいで嬉しいくらいだ」


 千弦の目をしっかりと見ながらそう言った。それもあって、


「うん。ありがとう、洋平」


 千弦は嬉しそうな笑顔で再度お礼を言った。千弦に抱きしめられた直後だし、今も結構近い距離から笑顔を向けてくれるので、ちょっとキュンとなった。

 俺と千弦はそれぞれ自分が座っていたクッションに戻る。今も雷が鳴っているからか、千弦は星野さんと寄り添う。

 それから20分ほど雷雨が続いた。その間に何回か近くに雷が落ち、その度に女子5人は「きゃあっ!」と声を上げていた。

 雷が収まってから、勉強会を再開する。

 30分近く雷雨で中断していたけど、みんなこの日の授業の課題を終えることができた。

4/29の21時過ぎにサブタイトルを『雷を怖がって』に変更しました。

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