第38話『千弦の誕生日パーティー』
お昼になり、果穂さんと孝史さんが作ってくれたお昼ご飯を食べた。ちなみに、メニューはナポリタンにコンソメスープ。どちらもとても美味しかった。
お昼ご飯を食べてから少しして、
「千弦ちゃん、17歳のお誕生日おめでとう!」
ロングスカートに半袖のブラウス姿という装いの星野さんがやってきた。星野さんにおめでとうと言われた千弦はとても嬉しそうにしていた。その様子を見て、胸がとても温かくなった。
星野さんも来たので、誕生日パーティーの準備を始める。
千弦と星野さんと果穂さんはパーティーで食べる料理やスイーツを準備し、俺と孝史さんはパーティー会場となるリビングのセッティングや飾り付けを担当する。また、孝史さんは誕生日ケーキを受け取りに行く。
また、俺も孝史さんも一応料理はできるので、自分達の担当する仕事が終わり次第、料理作りやスイーツ作りに加勢することになっている。
千弦と星野さんと果穂さんがエプロン姿になり、みんな可愛かったので、準備を始める前に3人のエプロン姿の写真を撮らせてもらった。その写真は千弦と星野さんのスマホにLIMEで送った。
孝史さんから、去年までの千弦の誕生日パーティーの写真を見せてもらい、それを参考にしながら孝史さんと一緒にリビングのセッティングや飾り付けをしていく。孝史さんとパーティー絡みの雑談をしながら、ソファーを移動させたり、家の中から集めたクッションを並べたり、『HAPPY BIRTHDAY』のガーランドや風船などを飾ったりする。孝史さんと喋りながらだったので結構楽しくできている。
たまに、キッチンの方を見ると……千弦と星野さんと果穂さんは和気藹々とした様子で料理とスイーツを作っている。見ていて癒やされるなぁ。あと、千弦と星野さんが料理をするところを見るのは今日が初めてだ。2人とも慣れた感じがして上手だ。また、
「洋平君、味見してくれるかな?」
と、千弦達から味見をお願いされることも。
パーティー会場作りの方は特に問題なく終わったので、途中から俺と孝史さんも料理やスイーツ作りに加勢することに。
女性陣3人の指示を受けて、料理やスイーツ作りをしていく。4人と一緒に料理やスイーツを作るのは初めてだし、4人と喋りながらだったので結構楽しくできた。
夕方に料理やスイーツは全て完成した。パーティー目前の午後6時15分に、パーティー会場のリビングにあるローテーブルに料理やスイーツ、誕生日ケーキの配膳が終わった。種類は多いし、パーティーに参加するのは10人なのでかなりの量だ。また、誕生日ケーキはかなり大きいので存在感を放っている。
配膳が終わると、千弦と星野さんがリビング全体の風景と、配膳されたローテーブルの写真を撮った。
「配膳も終わって準備完了だね。今年は10人分だからいっぱい作ったよ」
「こんなにたくさんの人が来るパーティーは初めてだものね、千弦」
「うんっ。みんなで料理やスイーツを作るの楽しかった! 今年は洋平君も一緒だったし」
「そう言ってくれて嬉しいよ。俺も楽しかったよ。料理やスイーツ作りはもちろん、会場作りも」
「私も楽しかったよ、千弦ちゃん」
「お母さんも楽しかったわ」
「父さんも楽しかったよ」
「みんなも楽しくて良かった。一緒にパーティーの準備をしてくれてありがとう! お疲れ様でした!」
千弦はニッコリとした笑顔でお礼と労いの言葉を言った。
誕生日パーティーの準備、結構楽しかったな。文化祭の準備をしたときと似た感覚だ。誰かと一緒に協力して何かを作り上げるからかな。来年以降も千弦の誕生日パーティーの準備をしたい。
――プルルッ。
スラックスのポケットに入れてあるスマホが鳴った。なので、スマホを確認すると……遊園地や七夕祭りに一緒に行った人がメンバーのグループトークに、結菜が新着のメッセージを送ったという通知が。
通知をタップすると、グループのトーク画面が開き、
『洲中駅で早希さん、琢磨さん、玲央さん、飛鳥さんと会えたので、今から千弦さんの家に行きますね!』
という結菜のメッセージが表示された。
また、グループトークにメッセージが送信されたため、千弦と星野さんもスマホを見ていた。
「結菜ちゃんからメッセージ来た。これから5人で来るんだ」
「そうだね、千弦ちゃん」
「準備できてるって返信しておくか」
俺がそう言うと、千弦と星野さんは「そうだね」と言った。
『分かったよ、結菜ちゃん! パーティーの準備できてるからね!』
『みんなでたくさん料理やスイーツを作ったよ。待ってるね』
『雨も降っているし気をつけて。千弦達と一緒に待ってるよ』
千弦、星野さん、俺はそれぞれそんな返信を送った。
千弦と星野さんが見ているので、俺が送ったメッセージはすぐに『既読2』となる。ただ、既読した人数のカウントは見る見るうちに上がり、程なくして最大である『7』に。
結菜達5人からは『了解』の旨の短いメッセージや、そういった文言の文字付きのスタンプが送られた。
結菜達がもうすぐ来るのもあり、俺達はリビングで雑談した。
グループトークでメッセージをやり取りしてから数分ほどして、
――ピンポーン。
インターホンが鳴った。時間からして結菜達だろう。
千弦はリビングにあるインターホンのモニターの前まで行き、応答ボタンを押す。
「はい。……あっ、結菜ちゃん」
やっぱり、インターホンを押したのは結菜達だったか。
『こんばんは、千弦さん! 玲央さん達と一緒に来ました!』
「待ってたよ。すぐに行くね。……結菜ちゃん達だった。洋平君達も一緒に行く?」
「ああ、行くよ」
「私も行く」
「お母さんも行こうかしら」
「父さんも行くか」
「分かった。じゃあ、みんなで出迎えよう」
俺達5人はリビングを出て、玄関に向かう。
千弦は玄関を開けると、そこには結菜、琢磨、吉岡さん、神崎さん、山本先生がやってきた。
結菜は半袖のワンピース、琢磨はTシャツにハーフパンツ、吉岡さんはジーンズパンツにノースリーブの縦ニット、神崎さんは襟付きのノースリーブのワンピース、山本先生はスラックスにノースリーブのVネックブラウスとみんな涼しげな装いだ。
結菜達が来て、これでパーティーに参加する10人が全員集合だ。10人全員で「こんばんは」と挨拶する。また、山本先生と孝史さんは初対面だったので、
「初めまして。藤原千弦さんの担任の山本飛鳥と申します。お世話になっております」
「初めまして。千弦の父の孝史と申します。娘がいつもお世話になっております」
と、かしこまった挨拶をしていた。そして、
「千弦さん! 17歳のお誕生日おめでとうございます!」
「17歳の誕生日おめでとう、千弦! 生まれてきてくれてありがとう!」
「お誕生日おめでとう、千弦!」
「誕生日おめでとう、藤原!」
「藤原さん、17歳のお誕生日おめでとう」
結菜達は笑顔で千弦に向けて誕生日を祝う言葉を送った。星野さんのときにも思ったけど、こうしてお祝いの言葉を言うところを見ると胸が温かくなる。
「ありがとうございます!」
千弦はとても嬉しそうな笑顔でお礼を言った。そんな千弦の反応もあってか、結菜達は嬉しそうな様子に。
「さあ、みなさん上がってください」
『お邪魔します』
結菜達5人は藤原家に上がり込んだ。
10人でパーティー会場であるリビングに入る。
ローテーブルに置いてある料理やスイーツや誕生日ケーキを見てか、結菜達5人は「美味しそう」「凄い!」と言った声を上げる。そのことに千弦や星野さんや果穂さんは喜んだ様子になっていた。俺も3人ほどではないけど、料理やスイーツ作りをしたので嬉しい気持ちになった。
また、リビングの飾り付けについても褒めてくれた。飾り付けは孝史さんと俺がやったのでより嬉しい気持ちに。
「全員来ましたし、パーティーを始める前にみんなで写真を撮りませんか?」
と、千弦が提案した。俺達は快諾して、スマホ立てを設置した千弦のスマホを使って全員で撮影をした。その写真は千弦にLIMEで送ってもらった。
写真撮影が終わった後、クッションに座ることに。どこのクッションに座るかは自由だけど、
「洋平君。隣同士で座りたいな」
「うん、もちろんいいよ」
「ありがとう!」
千弦の希望で俺は千弦と隣同士で座ることになった。まあ、千弦が言わなくても千弦の隣に座ろうと思っていたけどな。
千弦と果穂さんと孝史さんで、全員分の飲み物を用意する。未成年はアイスコーヒーやアイスティーやコーラ、大人の果穂さんと孝史さんと山本先生はワインだ。当初、山本先生は、
「お酒は好きですけど、生徒の家ですし……」
と遠慮していた。ただ、
「好きなら遠慮なく呑んでください、飛鳥先生。それに、今は休日のプライベートな場ですから」
「本日の主役の千弦がこう言っていますし、是非呑んでください。私も山本先生と一緒に呑みたいです!」
「呑んでもらえたら嬉しいです」
「……分かりました。では、ワインいただきます」
と、藤原家のみなさんの言葉を受け、山本先生もワインを呑むことになったのだ。休日のプライベートな場だし、ここに住んでいる藤原家のみなさんがいいと言っているからお酒を呑んでいいんじゃないかと俺は思う。
ちなみに、俺はアイスコーヒーにした。
また、孝史さんは着火ライターを使って、特大の誕生日ケーキに刺さったローソクに火を点けた。ちなみに、刺さっているローソクは大きいローソク1本と、小さいローソク7本だ。大きい方が10歳で、小さい方が1歳を表しているのかな。
それから程なくして、全員がローテーブルの周りにあるクッションに座った。
座っている場所は俺から時計回りに神崎さん、吉岡さん、琢磨、孝史さん、果穂さん、神崎先生、結菜、星野さん、千弦だ。ちなみに、俺と千弦の正面に孝史さんと果穂さんがいる形だ。
「全員が揃いましたし、パーティー開始の6時半も近いので、そろそろ千弦の誕生日パーティーを始めましょうか。千弦、いいかしら?」
「うん。いいよ、お母さん」
「分かった。では、これから千弦の17歳の誕生日パーティーを始めます!」
果穂さんが元気良く誕生日パーティーの開会宣言をする。俺達参加者全員で「パチパチ」と拍手をした。
さあ、いよいよ千弦の17歳の誕生日パーティーが始まった。
「まずはみんなで千弦に『ハッピーバースデートゥーユー』を歌いましょう!」
果穂さんは楽しそうな笑顔でそう言った。さっきも開会宣言をしていたし、果穂さんは千弦の誕生日パーティーの司会担当なのかな。
「毎年、パーティーを始めるときは歌うんだ。それで、ローソクの火を消すの」
「そうだね、千弦ちゃん」
「そうなんだ」
そういえば、うちでやる誕生日パーティーでも、パーティーを始めるときは『ハッピーバースデートゥーユー』を歌って、ローソクの火を消すなぁ。誕生日パーティーの雰囲気作りにもってこいなのかも。
果穂さんの指示で、孝史さんがリビングの照明を消す。今の時期だとまだ日の入りの時刻ではないけど、雨が降っているので外から入る光はあまりない。なので、リビングの中はローソクに灯された火の温かい灯りで照らされている。美しい光景だ。
「名前の部分は『千弦』にしましょう。それでは歌いましょう。せーの!」
果穂さんの合図で、千弦以外の9人で千弦に向けて『ハッピーバースデートゥーユー』を歌う。
この曲は誕生日の定番曲なので、家族の誕生日とか、小学生の頃は友達の誕生日パーティーでも歌ったことがある。ただ、今回は千弦という恋人の誕生日なので特別な感じがした。
歌い終わると、俺達は千弦に向かって『おめでとう!』と拍手を送る。
「ありがとうございます! 嬉しいです!」
千弦はとても嬉しそうな笑顔でお礼を言った。ローソクの灯りに照らされた千弦の笑顔はとても可愛くて美しかった。
「さあ、千弦。ローソクの火を消して」
「うんっ!」
ふーっ、と千弦はケーキに刺さっているローソクの火を消していく。
肺活量が結構あるのか、千弦は一度長く息を吐く中で8本全ての火を消すことができた。
全ての火を消した後、リビングの中は再び拍手の音が鳴り響いた。
孝史さんが照明を点けて、リビングの中は再び明るくなった。
「それでは、乾杯をして、料理やスイーツや誕生日ケーキを食べましょうか。乾杯の音頭は本日の主役の千弦にお願いしてもいい?」
「うん、いいよ」
千弦は笑顔で快諾した。乾杯の音頭を担当するのも毎年恒例なのかもしれない。
これから乾杯をするので、俺はアイスコーヒーが入ったマグカップを持つ。
「今年も誕生日パーティーを開いてもらえて嬉しいです。17歳になりました。洋平君、彩葉ちゃん、玲央ちゃん、早希ちゃん、坂井君、結菜ちゃん、飛鳥先生、来てくれてありがとうございます。こんなにたくさんの人が来てくれて嬉しいです。それでは、みんなでパーティーを楽しみましょう! 乾杯!」
『乾杯!』
俺は千弦や神崎さん、星野さんなど座っている場所が近い人を中心にマグカップを当てた。
また、本日の主役である千弦はパーティーに参加している全員とマグカップを当てるためか、マグカップを持ってクッションから立ち上がっていた。
さてと、料理やスイーツや誕生日ケーキを食べるか。
料理は玉子焼きや唐揚げ、ハンバーグ、シーザーサラダなど、スイーツはクッキーやマカロンなどいっぱいあるから迷うなぁ。
「おっ、この唐揚げ美味えな!」
「良かったね、琢磨君! 玉子焼きも美味しいよ」
「あたしも玉子焼きを食べたわ。甘くて美味しいわよね!」
「美味しいよね!」
「このハンバーグとても美味しいですっ」
「私も食べてみるわ。……ジューシーで美味しいわね、結菜ちゃん」
「美味しいですよねっ」
「ええ。あと、そっちのクッキーも美味しいわよ」
迷っていると、琢磨と吉岡さんと神崎さん、結菜と山本先生のそれぞれの会話が聞こえてきた。美味しいからか、5人ともいい笑顔になっていて。千弦と星野さんと果穂さんが作っている様子を見ていたし、俺も途中から作るのに加勢したので嬉しい気持ちになる。頬が緩んでいくのが分かった。
「みんなに美味しいって言ってもらえて嬉しいですっ」
「私も嬉しいです。千弦ちゃんや果穂さん達と一緒に作りましたし」
「そうね。みなさんに美味しく食べてもらえて嬉しいわ」
「僕も嬉しいよ」
「俺もです」
俺と同じ気持ちだからか、千弦達4人は嬉しそうな笑顔になっていた。そのことに胸が温かくなった。
「ただいま」
全員とマグカップを当てた千弦はそう言って、自分の座っているクッションに座った。
「おかえり、千弦。……千弦、何を食べたい? 俺が取って食べさせたいな」
「ありがとう! じゃあ、せっかくだし、誕生日ケーキをお願いしてもいい?」
「了解」
俺はまだ手つかずの誕生日ケーキを適当な大きさに切り分けて、千弦のお皿に取る。また、『ちづるちゃん』とチョコペンで書かれ、『おたんじょうびおめでとう』とプリントされているチョコレートのバースデープレートも取った。
フォークでケーキを一口分切り分けて、千弦の口元まで持っていく。
「はい、千弦。あーん」
「あ~ん」
みんなからの視線が集まる中で、俺は千弦に誕生日ケーキを食べさせる。
ケーキが美味しいのだろうか。千弦は「う~んっ!」と可愛い声を漏らしながら、ニッコリとした笑顔でモグモグと食べる。可愛い。17歳になって俺の1つ年上の女性になったけど、小さな子供のような可愛らしさがある。
「ケーキ美味しい! 洋平君に食べさせてもらったから、今までで食べたケーキの中で一番美味しいよ!」
千弦はとても可愛い笑顔でそう言ってくれた。そのことに幸せな気持ちで心が満たされていく。
「良かった。幸せだよ」
「うんっ。私も幸せな気持ちです」
「そうか」
俺は千弦の頭を優しく撫でる。すると、千弦は「えへへっ」と声に出して笑い、柔らかい笑顔を見せてくれる。
「良かったね、千弦ちゃん」
「うんっ! 凄く嬉しいよ、彩葉ちゃん!」
星野さんに向けて、千弦は満面の笑顔でそう答えた。凄く嬉しい気持ちにして、この素敵な笑顔を弾き出せたのかと思うと、彼氏としてとても嬉しい気持ちになる。
「ねえ、洋平君。洋平君にも何か取って、食べさせたいな」
「分かった。じゃあ……玉子焼きをお願いできるかな」
「うんっ!」
千弦はローテーブルにある大皿から玉子焼きを一切れ取り、俺のお皿に乗せた。
箸で玉子焼きを一口サイズに切り分け、俺の口元まで持っていく。
「はい、洋平君。あ~ん」
「あーん」
俺は千弦に玉子焼きを食べさせてもらう。
この玉子焼きはふんわりとしていて、甘味がしっかりとした味わいだ。とても美味しい。
「とても美味しいよ、千弦」
「ふふっ、良かった。嬉しいよ。玉子焼きは私がメインで作ったから」
「そうか。本当に美味しいよ、千弦」
「ありがとう」
千弦はニッコリとした笑顔でお礼を言った。千弦の笑顔なのもあって、口の中に残っている玉子焼きの甘味が強くなった気がした。
それからも俺達は料理やスイーツや誕生日ケーキを食べたり、みんなと談笑したりしながら誕生日パーティーを楽しむ。
時々、千弦と俺で料理などを食べさせ合うことも。その場面を星野さんや神崎さんにスマホで撮影されることもあった。
千弦はたくさんの笑顔を見せている。そのことに幸せな気持ちを抱くのであった。




