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第48話 発火

 王太子とセリアの婚約の儀から三か月後、公爵家の会議室に家令のパトリスと数名の書記官などが集まって農地検地の状況について会議を行っていた。


「ということは、ミカラス地方以外はほぼ検地が終わったということになるな」

「はい、パトリス様」


 パトリスの言葉に、商人出身の若き書記官カインが、澄んだ声で答えた。


「それにしても、カインの提案がこうもうまく行くとは……」


 三か月前、ミレーヌに叱責されたパトリスはすぐ部下と対策会議を行った。その際に、カインが、検地を五名ほどの小集団を十団編成し、それぞれ競わせ、進捗が早いグループに報奨金を出すことを提案した。その策は驚くほどの成果を上げ、公爵家の領地の約九割の検地が完了していた。


「いえ、ミレーヌ様が導入した徴税官の報奨金制度を真似しただけでございます」


 カインの謙虚な言葉に、パトリスは満足げに頷いた。商人出身のカインは、既成観念に拘らない柔軟性があり、レベッカにその才覚を見出され、彼女の薫陶を受ける機会も多かった。公爵家に仕える者たちの働きは、今やミレーヌの合理的精神に染まりつつあった。


「あとは、ミカラス地方だけか……地主たちの説得はどうなっているのかな?」

 パトリスの問いに、白髪が目立ち始めたヨハン書記官が、疲労を滲ませた声で答える。

「芳しくありません」


 ミカラス地方は、元々異民族が治めていた土地であり、公爵家の封土となってから七十年程度しか経過していないことから、公爵家の意向に反する風土が強い。


「やはり、私が出向くしかないか……」

「失礼ですが、ミレーヌ様に許可を頂く必要があるかと」


 カインが答える。彼は、レベッカから「主の命令に反して独断で行動するな」と厳しく教えられていた。


「では、皆どうすればよいと思う?」


 パトリスの問いに、会議室は沈黙に包まれた。地主の反発を前に、彼らはこれまでの成功体験が通用しないことを悟っていた。その膠着した空気を切り裂くかのように、書記官助手が慌ただしく扉を開けて飛び込んできた。


「大変です! ミカラスの地主や農民が多数集まって、検地の反対を口々に叫びながら、代官の屋敷を取り囲んでいるとのことです! すでに、検地をしていた者たちが襲われたという報告も……」


 報告を聞いたパトリスの顔から、一瞬で血の気が引いた。他の書記官たちも顔色を変え、ざわつき始めた。彼はまさか、事態がここまで悪化しているとは思っていなかった。ミカラスで生じた騒乱は、もはや文官に手に余る問題となってしまった。


「それでは、もはや反乱ではないか」


 上ずった声を上げたパトリスに、カインが冷静に答えた。


「パトリス様、すぐにミレーヌ様にご報告を」


 最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。

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