第123話 新しい世界
王宮の広間で王国の人事などを聞いた貴族たちは、そのまま残るように通達があった。しばらくして、女王ミレーヌが、宰相のレベッカ、行政庁長官のオーブリー、さらに近衛将軍のフィデールを伴って入室した。貴族たちはすぐに跪いき、新女王に敬意を表した。
ミレーヌは、優雅に玉座に座り、その傍らには宰相のレベッカが控えた。左手には、近衛将軍のフィデールが立ち、ミレーヌに危険がないか常に警戒している。三人から少し離れた場所に立った行政長官のオーブリーが開口した。
「今から、名前を呼びあげた者は立ち上がること。ペロー準公爵、ペシオ侯爵、サティ侯爵、ドロール伯爵……」
総数二百二十六名のうち、百九十八名の名前が呼ばれ、立ち上がった。
「では、参りましょうか」
先導するオーブリー行政長官に導かれて、百九十八名の貴族たちはどこに行くのか分からないまま、広間を出て行った。
彼らは王宮の建物を出て外の庭園に集まった。戦乱で庭園は荒れ果ており、今後復興されるはずであったが、手付かずのままの状態である。中央に東屋があり、オーブリーは貴族たちを導いた。
「この場所でしばし待つように」
と言ったオーブリーが去ると、百九十八名の貴族たちは、座る場所もなく、立ち尽くすだけであった。すると、三百名ほどの銃をもった兵士が彼らの前に現れた。
指揮しているのは新たに任命されたゲオルク大将であった。貴族たちはなぜ兵士たちが現れたのか全く理解できていない。
「練習だといっても手を抜くなよ。外したら居残り練習だぞ」
銃をもった自由兵たちは、指揮官の軽口に全く笑わず真剣そのものに、銃口を貴族に向けた。
「撃て」
ゲオルクの言葉により、銃をもった自由兵たちの銃撃が始まった。貴族たち百九十八名は、なぜ自分たちが銃殺されたのか理由を知ることもなく、東屋に折り重なるように倒れていった。それを見たゲオルクは自由兵たちに、笑顔で語りかけた。
「ご苦労さん。ちゃんと当たったみたいだが、まだ生きてる者がいるから、二射目すぐに用意。とどめを刺すこと。戦場で一番大切な事だから気を抜くなよ」
銃声が庭園に鳴り響き、うめき声が消えた。
◇◆◇◆
一方で、残された貴族たちはみな、不安げな顔をしていた。すると宰相のレベッカが声を上げた。
「聞きなさい、今残ったものは、陛下が能力を認めた者である。今から各庁に配属を命じる。貴族の肩書など一切忘れ、その能力を陛下に捧げなさい」
残った貴族たちは、みな安堵の顔をした。すると、どこからともなく数多くの銃声が聞こえた。レベッカはその音を満足そうに聞く女王を見上げて、そして、残った貴族に言い放った。
「使えない人材は、我が王国には不要ですので随時処分します。なお、今後、年金支給は廃止し、職位に応じた給与のみを支給します。各自わかりましたか?」
皆一斉に、女王ミレーヌに跪き、承諾の意を示した。
◇◆◇◆
女王の執務室。ここはブローリ公爵を射殺した場所でもあったが、誰もここで血が流れたとは思えないほど、痕跡は全くない。血の匂いの代わりに、ユリのポプリの匂いが室内を漂っていた。
ミレーヌは椅子に座りながら、女王のメイド長となったリサが入れた紅茶を嗜んでいた。今日は、リナがめずらしく不在であり、執務室は静寂に包まれている。いつもは勝手に執務室に居座り、ソファーで寝ているリナは、新たな隠し通路が発見されたと聞いて、財宝目当てに調査をしている。ちなみに、彼女は王国の職は不要と言って、友人待遇のまま王宮に住み着いた。
すると、リサが「宰相が面会をしたいとのことです」と言われ「いいわよ」と返事をする。レベッカはさっそうとミレーヌの前に現れ、一礼した。
「陛下、失礼します」
「堅苦しいわね。なにかあったの?」
「いえ、お礼を言おうと思いまして」
「お礼って?」
「とうとうここまで来ました。最初に陛下には私しか配下がいなかった時から比べて、今は女王陛下に。さらに、私に宰相を任命していただきました。本当にありがとうございます」
「レベッカ、私が最初に言った言葉を覚えてる?」
「もちろん覚えております。『世界を変えたくない?』とおっしゃいました」
「そう、世界を変えるのよ。今はこの国だけ奪っただけ。カッツー王国を滅ぼしても、近隣の諸国はまだ健在よ」
レベッカは、自分がこの「クライナイン王国」の誕生に満足し、立ち止まろうとしていたことに気づき、戦慄した。彼女の主人が見ているのは、この国だけではなかった。
「お嬢様……もしかして」
「そうよ。この国だけではなく、この世界を手に入れて、すべてを壊すの。地位や名誉、血筋、性別などで判断する世界から、能力が正しく評価される世界。能力ある者が統治する世界。まだ道は途中。貴女もそれを理解しなさい。そのために宰相に据えたのだから」
「……承知しました」
レベッカは自分の考えが甘いことを痛感し、主人を見上げた。この世界の常識を根底から破壊すると改めて宣言した銀髪の女王は、笑みを浮かべながらアールグレイティーを優雅に嗜んでいた。(第一部 完)
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。
第123話で第一部が完結となります。今後の創作活動の励みになりますので、ぜひ作品へのご評価(下の☆をタップ)や率直な感想さらにブックマークしていただけると幸いです。




