第114話 王軍対公爵軍
騎馬隊が雨天にも関わらず一斉射撃で壊滅したカッツー王国軍であったが、後続の兵を散開させ、ミレーヌの陣に殺到する。多少の損害はかまわないとの判断を下したモラン将軍は、大軍の優位性を利用して、相手を押しつぶすつもりであった。
肉薄した王国軍に対して、ジャックは射撃を止めさせ白兵戦の用意をさせる。そんな最中、王国軍の右翼側、森の端に潜んでいた集団は、その光景を冷静に観察していた。
「銃声止みました」
「手筈通りだな」
副団長のレジスの言葉に頷いたゲオルクは、剣を抜き傭兵たちに向かって言い放った。
「今回、生きて帰れたものは、金貨十五枚支給するとのお達しだ! 皆、生き延びろよ」
その場にいた、百名程度の男たち全員が、剣を抜き笑みを浮かべながら、面前に掲げた。ゲオルクが王軍に向かって走り出すと、男たちも追随する。こうして声なき小集団は、王国軍の右翼に突撃していき、戦いは第二幕が開いた。
「右翼から敵兵! 突撃してくるぞ!」
ゲオルクたちの軽装の傭兵が猛然と突っ込んでくるのに気が付いた兵は声を上げ、数百の兵が即座に応戦の構えをとった。
敵ははわずか百人程度の小集団であり、数の上でも優位であり誰もが圧殺できると信じていた。その思いは、一分も立たずに砕け散った。彼らは、近づくものはすべて切り捨てる災厄のような存在であった。ゲオルクたちは、敵の右翼から中央の指揮系統を寸断するように、凄まじい勢いで突っ切っていく。
モラン将軍の軍は、ミレーヌの陣にたどり着こうとするタイミングに側面から奇襲を受け、再び大混乱に陥った。それも、わずか百名程度の兵に。兵士たちを散開させたことで、突破されやすくなったことも裏目にでていた。兵士たちは、災厄の集団を恐れるように、逃げてしまい統制を完全に失ってしまう。
ジャックは、ゲオルクたちが中央から左翼部隊を突っ切ったのを確認して再度命令する。
「射撃再開! 叩き潰せ!」
ジャックは銃撃兵を前進させ、混乱して密集した敵の隊列に向けて、容赦ない銃弾の雨を降らせる。そして、彼は、敵の大混乱が戦機とみると、銃撃隊や騎士たちに全面攻勢を命じた。ミレーヌの兵士は、みな軽装であり、フルアーマープレートを着込んだ王軍に比べ、防御力は劣るが、機動力に富み、全員が果敢に攻めていく。銃撃隊も銃剣を仕込んだ銃を槍のように使って血みどろの白兵戦を繰り広げた。
一方、ゲオルクの部隊は敵陣を突き抜けた後、再び方向転換し、逃げ惑う敵を容赦なく横から殺戮していった。
モラン将軍は、軍の崩壊を防ぐため、逃げることなく指揮を続けた。しかしながら、ゲオルクたちの中央突破により、指揮系統も分断された将兵は、ジャックの軍に攻め込まれ、混乱の境地に至った。
モラン将軍は、軍の崩壊が避けられないと悟り、撤退の号令を出そうとした。すると、銃を持ったミレーヌの兵たちがモラン将軍の前に現れた。彼の護衛の兵士もほぼなく、彼は剣を抜いた。
「我が名はオレリアン・モラン! 騎士の誇りにかけて、一騎打ちを……」
彼が口上を叫んでいるその途中で、後ろから数名の兵士が銃剣をモラン将軍の首や脇などアーマーの可動部の隙間に差し込んだ。
「卑怯な……」
彼は、その口から大量の血を吐き出し、堪らず膝を突き、そのまま崩れ落ちた。セリア王妃の元で栄達を極めようと考えたモラン将軍の生涯はヴェルシーの地で終わった。
王国軍の被害は、死者一万五千余、負傷者三万以上、逃亡したと思われる行方不明者一万以上という悲惨な状況であり、ミレーヌの損害は死者六百程度、負傷者二千四百余であった。こうして、ヴェルシーの戦いはミレーヌ軍の圧勝で終わった。
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