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ずるい大人

「……けど、支援っていっても、具体的にどのぐらいの金額が必要になるもんなんだ?」


 目の前にいる美少女の思わぬ話にドギマギしながらも、平静を装い、彼女の話に興味を持った大人としてそう語りかけた。


「えっと……相場としては一ヶ月に15~20万ウェンぐらいらしいです。それだけあれば、演劇の練習に集中できますから……」


 ミリアの口から具体的な金額が出てきた……ということは、彼女、本気だということだ。

 しかし、仮に月20万となると、年間で160万。独り身なら、これで十分生活していけるだけの金額だ。


 三ツ星の上級冒険者である俺ならば出せない金額ではないが、しかし、ハンター稼業というものは収入に波があり、仮に大けがをして遺跡に向かえなくなると途端に苦しくなる。


 今までの貯金もあるので、試しに一ヶ月だけ契約して、まだ初々しい彼女とそういう関係になるのも悪くない……と、ここまで考えたところで、自分が悪巧みをしているような気になってしまった。


「……ちょっと待った。そのスポンサーっていうのは、正式な契約なのか?」


「……正式な……契約?」


 彼女は、きょとんとしていた。


「そう。例えば、契約を仲介してくれる見届け人がいるとか、ちゃんとした契約書があるとか、だ」


「……いえ、よく分からないです」


「実際にそうしている女の子も多いんだろう? その人達から聞いていないのか?」


「……えっと……さっき言った相場とかは聞いていましたけど……」


「その人達は、どうやってスポンサーを見つけたんだ?」


「……確か、誰かからの紹介があったって聞いた覚えがあります」


「そうだろう? それなりに身元を保証してくれるような、ちゃんとした形だったはずだ。少なくとも、『パパ活』で見つけるようなものじゃない」


「……でも、シュンさんがハヤトさんを紹介してくれましたよ?」


 ここまで聞いて、悟った……ミリアは、世間を知らない、まだ子供だ……。


「あいつは、俺を『パパ活』の客にするために、容姿が整っていて、礼儀正しい君を紹介してくれただけで、『スポンサー候補』として紹介してくれたわけじゃない」


 俺がそう言っても、彼女はまだピンと来ていないようだ。


「……たとえば、俺が『君のスポンサーになる』と言ったとしよう。そうすると、君はどうする?」


「えっと……ちょっと考えます」


「うん、そうだ。いきなり契約しないのはいいと思う……けど、何度か会って、契約する方に心が傾いたとして……その『契約』っていうのは、口約束のつもりだったのか?」


 ミリアは、ちょっと困惑した表情になっていた。

 俺の口調も、なんとなく説教じみたものになっている……いや、ここは嫌われたとしてもきちんと話をしておかないといけない。


「……そこはあんまり、考えていませんでした」


「たとえば、口約束でスポンサーになるって言って……けど、お金は後払いって言われて、大人の関係になったとして……やっぱりやめた、って言われたらどうする?」


「……あっ……それは……」


 彼女は、はっとしたような表情になった。


「大人はずるいから、そんなふうに騙す奴もたくさんいるんだ」


「……分かりました、少なくとも、そうなるのはきちんと相手の方を見極めて……」


「見極め、か……それが君にできるかな? 例えば、俺のこと、いい人だと思うか?」


「……いい人だと思います。だって、今もこうやって教えてくださいましたから」


「いや、それはまだ早いよ……俺だって、自分がどうなるか確証、持てない。たとえば、本気で君のスポンサーになりたいと思ったとして、ちゃんと一ヶ月分、前払いでお金を渡したとして……それが継続するっていう保証はどこにもない。自分でも分からない」


「えっ……」


 ちょっと驚いたように俺の顔を見つめるミリア。


「君は、スポンサーはその金額でずっと契約してくれる、っていうふうに考えていたんじゃないのか? たぶん、君の先輩達はそういう契約なんだろう。でも、それはその契約が保証される何かがあるはずだ。仲介人とか、きちんとした契約書だとか……口約束だけじゃないはずなんだ。まず、それを確かめてみるべきだ」


 ミリアは、俺の言葉に真剣に耳を傾けてくれた。


「……ありがとうございます。たしかに、ちょっと考えが浅はかでした。そういう契約をしている人に確認してみます。みんな、なかなかどういう人と契約しているかは教えてくれていなかったので……」


「……守秘義務っていうやつか、あるいは、良いスポンサーを紹介したくないのか……どちらにしても、女の子の方もちゃんと考えているっていうことだよ」


「はい、勉強になりました……あ、あと、女の子とは限らないですけどね」


 ……そうなのか?

 あ、いや、ありうるか。若い男が、お金持ちの女性にスポンサーになって貰うってことも……。


「そ、そうか……まあ、分かってくれたなら良かったよ……あ、けど、こうして都度、五千ウェンで食事をするだけなら、まあ大丈夫かなって思う。それなら俺も継続して会いたいって思っているよ」


「はい、それなら私も助かりますし、ハヤトさんのような方なら安心です。なんか、いろいろ忠告していただいて……本当のお父さんのようだと思いました。って、私、本当のお父さんを知らないんですけどね……」


 最後、ちょっと寂しそうに付け加えた彼女。


「……そっか。いろいろあるんだな……」


 あえてその真意を聞かなかった。


「いえ、大丈夫ですよ。今、お父さんのような方に会えましたから」


「……そうだな。『パパ活』だもんな」


「はい、良いパパさんです……これからもよろしくお願いします」


 彼女は、そう言って頭を下げた。

 演劇の世界ではまず最初に礼儀をたたき込まれるというが、彼女もそういうことがあっての礼儀正しさなのだろう。清楚系、癒し系の美少女ということもあり、ますます金色のオーラが輝いて見えたような気がした。


「本当に良かったです。ハヤトさん、まるで金色のオーラに包まれているように見えます。神様みたい……」


 えっ……俺も、彼女の目から、そんなふうに見える?

 よっぽど好印象だったみたいだな……うん、良い娘だ。悪い大人に騙される前に注意できて良かった。


 気がつけば、かなりの時間話し込んでいた。彼女も予定があるだろうし、そろそろお開きにすることにした。


 そして二人で個室を出たときに、今入ってきた大柄な体格の良い男と鉢合わせになった。

 その男は、ミリアを見た瞬間、鬼のように表情を変化させ、それに気づいたミリアが、俺の背後に隠れた。


「見つけたぞ、この女っ! よくも俺を騙してくれたなっ!」


 その男のセリフに、俺は混乱した――。


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