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大人の関係

「えっと、その……君が、『パパ活』を……?」


 あまりに想像とかけ離れた可憐な少女が来たことに、俺は混乱してストレートに言葉をかけてしまった。


「はい、えっと、でも……その、お食事とかご一緒するだけなんですけど、それでもよろしいですか?」


「食事……ああ、そうだね……うん、俺もまだ初心者……というか、今日君に会ったのが初めてなんだ。だから逆にいろいろ教えてもらっていいかな?」


 まだおそらく十代の女の子ということもあり、なるべく優しく声をかけた。

 すると彼女はほっとしたような笑顔を浮かべて、


「はい、よろしくお願いしますね」


 と会釈してくれた。

 彼女が席に着いたところで、店員が注文を取りに来たので、とりあえず二人で紅茶を頼んだ。

 ちなみに、残念ながらこの世界にコーヒーは存在しない……俺が知らないだけかもしれないが。

 個室になっていることもあり、ここで彼女にいろいろ話を聞いてみることにした。


「えっと、ミリアさん、だったね……その名前で呼んでいいのかな?」


「はい、呼び捨てで良いですよ。あと、えっと……なんてお呼びすればいいですか?」


 ここで、俺が名乗っていなかったことを思い出し、「ハヤト」と本名を教えた。


「ハヤトさん、ですね。冒険者さんですか?」


「ああ。一応、三ツ星なんだ」


「へえ、凄いんですね」


 ニッコリと笑顔を浮かべる彼女……ただ、言葉とは裏腹に、あまり驚いてはいない。たぶん、冒険者のランクなど気にしていないのだろう。


「でも、始めたばかりでギルドマスターのシュンさんに紹介してもらえるなんて、ひょっとしてお知り合いだったのですか?」


「いや、そういうわけじゃないけど……まあ、縁があったってことかな」


「そうなんですね……じゃあ、私とハヤトさんが出会ったのも縁、ですね」


 わりと気さくに話しかけてくれる。まったく会話が弾まなかったらどうしよう、と思っていたので、まずは一安心だ。


「それで、さっきも言ったように、まだこのギルドは慣れていないんだけど……先にお手当渡しておいた方がいいのかな?」


 その言葉に、ミリアの表情はぱっと明るくなった。


「はい、そうしていただけると嬉しいです」


「いくらが必要なのかな?」


「えっと、今回は顔合わせでお茶だけなので、0.5でお願いしても良いですか?」


 ここで言う0.5は五千ウェン、ということだ……最初は五千~一万、と聞いていたので、安い方だ……っていうか、彼女、結構慣れてるな……。


 そして俺はシュンから事前に聞いていたとおり、小さな紙袋に入れた五千ウェン銀貨を渡した。彼女は満面の笑顔でお礼を言ってくれた。

 ここでお茶が届いたので一旦話を中断。ちなみにこのお茶の値段は五百ウェン。もちろん、これも俺が支払うことになる。


「えっと、ミリアが『パパ活』を始めたのは、やっぱりお金のため?」


 店員が戻った後、あまり慣れていない俺は、またもストレートにそう聞いてしまったが、彼女は笑顔を絶やすことなく


「はい、今の本業、あんまりお金にならなくて……すごく助かるんです。あ、でも、その……安易な『大人の関係』は望んでいないので、もしハヤトさんがそういうのが目的だったらごめんなさい……」


 申し訳なさそうにそう言う彼女を見て、たしかに残念に思う気持ちもあったが、それ以上にほっとした。


「いや、それでいいと思うよ」


「そう言っていただけると助かります。中には、お断りしてもずっと誘ってくる人がいますので……といっても、私もまだ五人ぐらいしか会ったことがないんですけど」


 たしかに、この容姿ならしつこく誘いたい男の気持ちも分かる……が、ここは紳士の対応をしなければ。


「そっか……ちなみに、やっぱりみんなそういう関係を持ちかけてくるのかな?」


「はい、今までの人は全員……それを断ると、たいてい次は会ってくれなくなります。多くても二回ぐらい。他にもいい女の子、いっぱいいるみたいで……」


 うーん、やっぱり男はそういう目的が多いのか……いかに可愛い女の子でも、食事してお小遣いを渡すだけ、っていうのは無理があるか……。


「そっか……あ、でも俺はもうちょっと会いたいと思うけどな」


「本当ですか? ありがとうございます!」


 彼女にまた笑顔が戻った。


「ところで……本業って、何しているか聞いても良いかな?」


「はい、一応、女優をやってます」


「……女優!?」


 意外な答えに、ちょっと間の抜けた声を上げてしまった。


「はい、といっても、正確には役者の卵、っていう感じですけど……仲間と小さな劇場を借りて、不定期に公演をするっていう感じです。一応、大きな劇場のオーディションなんかも受けようとしてはいるんですが……それ以外は、掃除のアルバイトとか、給仕の仕事とかも時々しています。でも、そうすると練習する時間とかが短くなっちゃって……」


 彼女の容姿で、しゃべり方もハキハキとしていて可愛い声だし、たしかに女優として向いているかもしれないが、それでもなかなか芽は出ていない、ということなのだろう。


 だが、この子、相当良いところまで行けそうな気がする。なんとなく、淡い金色のオーラのようなものが見える気がしてきた。


「それで、『パパ活』なら、短時間でお金を稼げるかもしれない、と思ったんだな……でも、ちょっと危ない面もあるんじゃないかな?」


「そうですね……中にはちょっと怖い人もいましたから、もうやめようと思ったんですけど、シュンさんのご紹介でハヤトさんと会えて、安心しました。凄く優しくて、カッコ良くて、いい人そうですから……」


 笑顔でそう褒められると、お世辞でも嬉しい。


「……それと、もう一つ……『パパ活』を始めた理由があって……」


 彼女は、急に顔を赤らめて、モジモジしたようにそう言った。


「あの……他の人には言ってなくて、ハヤトさんだから言うんですが……実は私の『スポンサー』になってくれる人と出会えればいいな、って……」


 トクン、と鼓動が跳ね上がるのを感じた。

 女優を目指す少女の「スポンサー」ということは……。

 そういう話を、俺も噂で聞いたことはあるが……。


「……それは、その……相応のお金を支援するっていうことなのかな……」


「はい、もちろん、それを望んでくれる方がいらっしゃれば、ですが……あと、私がそうなっても良いかなっていう人だったら、ですけど……そうしている先輩方、たくさんいますし、その、私も覚悟、決めた方がいいのかなって思ってて……」


「……ということは、それは『大人の関係』もあるってこと?」


「えっと……はい……」


 真っ赤になってうつむきながらそう話す彼女を見て、俺の心臓は早鐘を打ち続けていた――。

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