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僕と異世界姉妹が魔女の黙示録へ送る復讐譚  作者: ワタナベジュンイチ
第四章:双子花に捧ぐ命
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第四章 21:鬼が出るか蛇が出るか

 リオスを先頭にして、ユウト達は神殿前の階段で、両脇にずらりと並ぶ衛兵達に鋭い視線を受けながら上る

 衛兵達の敬礼の奥には、冷たく刺さるような視線が並んでいて、ユウトはあまりの視線の圧に身を縮めていたが、すぐ後ろにレイナがいて、そっと背中に手を当てた。


「大丈夫ですよ。そばにおりますから。」


 と、レイナの優しい言葉がユウトの耳にかろうじて届く大きさで聞こえた。


 レイナの手は震えていた。


こんな時までレイナに気を使わせてしまった事を悔やみ、すぐに胸を張って前を向いた。


――まだ何も始まってないんだ……こんなところですくんでどうするんだ! 気合い入れろ!――


 視線を弾き返すように、ユウトは颯爽と階段を踏み締めた。

 


 神殿前には、白いローブを纏い、火を灯したランタンを持った神官がずらりと横に並ぶ真ん中に、白いローブに金色の装飾と、大きな輪が頂点についた一際目立つ錫杖のような者を持った老人が一人いた。


 エミグランの眉がピクリと動く。


 ――大神官……いつのまにかこんなに悪趣味になってしもうたのか……


 リオスは一度も振り向かずに大神官の前に辿り着くと、深々と礼をして「お連れしました。大神官様」と告げると、リオスはユウト達に振り返って大神官の右後ろに下がった。


 エミグランがミシェルの手を引いて大神官の前に歩を進める。


「大神官殿、お出迎え感謝するよ。」


 大神官は一度軽く頷いて


「遠路ご苦労様でした。此度の儀式は他にも参加者がおられますのですこしお待ちいただけますかな?」


「ほう? 珍しいの、儀式に参加者とは……」



「もう間もなくお越しになるでしょう。」


大神官はまた軽く会釈をして口を閉じた。


ギオンは衛兵達を視線で牽制し、エミグランとミシェルに襲いかかる者が現れてもすぐに身を挺してでも守るように、わずかに踵をトントンとリズムを取るように浮かせて、力がすぐに地面に伝わるように立っていた。


 階段の方の衛兵達の頭の動きが、エミグラン達から階段の下の方に向くと、敬礼が波のように始まった。


 階段から二人の人物が上ってくると、ギオンは踵を上げるのをやめてしっかりと踏み締めた。



一人はヤーレウ将軍、もう一人は騎士団長シャクナリだった。


 二人はエミグランの前まで歩み寄ると、ヤーレウ将軍が深々と頭を下げた。


 シャクナリは一行を見渡して、ユウトに視線が合うと、なぜかウインクしてきた。


 驚いて少し首を傾げると、途端にレイナの殺気が右後方から感じ、振り返ることなどできずに固まってしまった。


 ヤーレウ将軍はエミグランを鋭い視線で睨みつけると


「護衛に騎士団長の一人、シャクナリがお供いたします。」


 ヤーレウ将軍から紹介されたシャクナリは


「シャクナリです。どうぞよろしくね」


 と遅上がりのイントネーションで簡単に挨拶を済ませると、ヤーレウ将軍はエミグランに歩み寄る。


「……あまり無茶はされない事を勧めますぞ。」


釘を刺すように小さく、鋭く警告すると、エミグランは含み笑って


「わしはこの二百年の間、一度も無茶などしておらんよ」


 と小首を傾げてヤーレウに返した。

エミグランの言葉で辺りに緊張が走る。



 戒厳令を発動し、誰も民間人がいないヴァイガル国内で、ほぼ全ての衛兵が城門から神殿に集まって、道を作るように並んで数の力を見せておけば、例えエミグランであっても大人しくなるだろう

と、衛兵の誰しもがそう思っていた。


 約二百年ぶりの戒厳令に衛兵達は気合いも十分だった。もしいつでもリオスが『捕らえよ!』と声をかければ一斉に飛びかかり、命に換えてもエミグランを捕える覚悟があった。


 今もエミグランの発言は、ヤーレウ将軍を愚弄したとみてもおかしくない言動だった。血気盛んな衛兵なら飛びかかってきたかもしれないが、誰も動かなかった。


 全員が一同に、エミグランの異様さを感じ取っていた。


 大神官は一度、錫杖を上げて地面を突いた。


「では、参りますぞ。」


 大神官は神殿に振り返り歩き始めると、ランタンを持つ神官達は大神官を追うように二列になって進む。


 

神官の列が神殿に向かう最中、エミグランはリンを視線で呼んだ。


気がついたリンはすぐにエミグランの側に近づくと、耳打ちをした。


リオスは、神聖な場で耳打ちをするエミグランのわずかな動きですら見落とさぬように睨みつけていた。


 リオスの視線を気にしながら、エミグランの話を聞いて頷いたリンは、「わかりました」と言って、ミシェルの手を握り「私と行きましょう。ミシェル」と優しく促して神官の最後尾について歩き始めた。

 

 ミシェルは少し恐くて泣き出しそうな顔をしていたが、手を繋いでいることに少し安心感があって、勇気を振り絞って、リンよりも少しでも後ろからついて歩き始めた。


 ユウトはローシアとレイナに挟まれるように、リンの後について歩き出す。

 ローシアもレイナもユウトが無事に黙示録に辿り着けるよう何があっても守り切る。言葉交わさずとも二人は同じ思いを持ってユウトの左右に並んでいた。

 



次いでシャクナリが三人の後を追うと、エミグランが白檀扇子を取り出し広げて口元を隠し、歩き始めた。


 後衛にリオスとなった。


残された衛兵とヤーレウ将軍に、不穏を告げるように風がすり抜けていくと、神殿にリオスが入って消えていくのを見送って、ヤーレウ将軍は神殿を背にして階段へ向かった。




 神殿内は、ミシェルもローシアも一度訪れたことががあったが、儀式のためなのか明かりを最小限まで落としていた。窓にはカーテンがひかれていた。


 ユウトが思わず


「昼なのに暗いね……」


 とレイナにこっそりと問いかけると「ええ。」と返ってくる。


 先頭から錫杖を鳴らす大神官はまだ歩みを止める様子はなく、おそらくまだ歩かなければならないとわかった。


「それにしても暗くして歩くなんて悪趣味だと思わん?」


 後ろから大胆に声をかけてきたのはシャクナリだった。普通の喋り方が神殿に響いたように感じてユウトは思わず竦んだが、耳元で


「女の子二人も連れて、ボクはモテモテなんやねぇ」

 

といたずらっぽく囁かれると、レイナが割って入った。


「……離れなさい」


 静かに怒りをあらわにするレイナの顔は見えなかったが、声色から血管が浮き出ていることは容易に想像できた。


「あら……ごめんなぁ、気を悪くせんといてや?」


 とあっけらかんと謝ったが


「にしても、こないに暗くしてる理由をアンタ達はわかる?」


 シャクナリの喋り方が癪に触ったローシアは、眉を顰めてシャクナリに振り返った。


「……アンタ……アタシ達をバカにしてるのかしら?」


 意外な答えが返ってきたらしく、シャクナリは目を丸くさせた。


「ごめんなぁ? てっきり緊張しているのかと思ってなぁ……余計なおせっかいやったねぇ。」


 ローシアとレイナはユウトを押し出す形で前に行かせてシャクナリからユウトを遠ざけると


「本当に余計なお節介なんだワ。儀式前に随分と不躾なのね。」


 毒を含めた物言いだったが、シャクナリはそれがおかしかったらしくクスクスと笑う。


 ――このシャクナリって女……まったくつかめないわ……何を考えてるのか……――


 ローシアはレイナに目配せして、『気をつけて』と視線で伝えると、レイナは頷いて小さく詠唱を始めた。


 だが


――マナが……集まらない……


詠唱は自分の持つマナを呼応させて自然界ののマナを集めるために行う。術が使えるレイナは詠唱を始めたが、マナが集まる気配は全く感じられず、それどころか自分のマナでさえ呼応させる動きを感じなかった。


 言うなればマナが【眠っている】感覚だった。


おかしな感覚をローシアに告げようとした次の瞬間、ミシェルの叫び声が、神殿内を甲高く響き渡った。

 突然の叫び声にローシアが動揺し、声の方に振り返ると、大神官がユウト達の方に振り返っていて、神官の一人がリンの腕を掴んでいて、もう一人がミシェルの腕を引っ張って大神官の後ろに引きずっていた。


 リンはスリットに手を入れていたが、異次元の扉が開かないらしく後手を取り、ミシェルと引き剥がされていた。


「――ぐぁっ!」


 ユウトは背中から蹴飛ばされ、鞭打ち気味に首がしなって前のめりに倒れ込む。


「――ユウト様!」


 レイナが手を伸ばしてユウトに駆け寄ろうとしたが


「動かんといてくれるかなぁ?」


 シャクナリの手には、ツメが刃になっている鉄甲と革で出来ているグローブを装着して、鉄のツメをローシアとレイナの頬の柔肌に突きつけていた。


 途端、カラカラと滑車が回る音が天井から聞こえると、石壁がシャクナリの背中側に落ちてきた。


 激しい音とともに、シャクナリより後ろにいたエミグランとリオスが孤立した。


神官達がローブを脱ぎ去り、リンの方に振り返ると

、剣を抜いてギオンをまとめて取り囲み、リンとミシェルに剣を向けた。


「……やはり罠か!」


 ギオンは背中にかけている大きな両手剣に手をかけると。


「動くと誰から死ぬか、お犬さん、アンタが決めてくれるかなぁ? ウチは誰でもええんやけど。」


 シャクナリの両手は、姉妹の首元に刃を突き立てていた。ギオンは両手剣の柄の近くで止まって震えていた手を下ろした。


「……くそ!」


「……ふふん、ええ子やね。」


 ユウトは目眩がして景色が揺れていたが、右手に集中して深緑の力を呼び起こす。

 


 ――頼む! 来てくれ!――



「オイ!動くなこのガキが!」


 神官に扮装していた衛兵の一人がユウトの背中を蹴飛ばすと、ユウトの背骨がミシッと鳴り、空気がほとんど吐き出され咳き込み倒れ込んだ。


「ユウト様!」

「ユウト!」


 姉妹がユウトに声をかけるとシャクナリは眉を顰めた。


「動くなっちゅーのは、喋るなとも言えるんやで? そない喋りたいんやったら、二度と閉じられへんようにしたろか?」


 と、両手人差し指の鉄のツメを姉妹の口元に突き立てて、わずかに刺した。

 二人ともに口元にから一雫の血が垂れると、ギオンは


「……くそっ……」


「お犬さんも、大人しくしとるんやな。うちは衛兵の一人二人殺されても構わんけど……何人殺してもうちはやることはかわらへんし、構わずやるよ?」


 柔らかい物言いに棘のある言葉がささる。この状況を覆そうと命がけで戦おうが、何も変わらない。シャクナリは、ここの衛兵がすべて死のうがやる事をやると明言したのだ。


 無駄な抵抗になると判断したギオンは、一度大きく鼻息を鳴らしてから、息を整えた。

今、事を急いても良い結果は生まれない。機会は熟してから得るべきと、これまでの経験からひとまずは矛を収めた。


 と、落ちてきた石壁からものすごい衝撃音が響いた。


「……わぉ! 隣は大暴れしているみたいやねぇ。」


ギオンは思わず壁に向かって駆け出しそうになった。

 

「エミグラン様……!」


ローシアとレイナはシャクナリの隙を探り続けていたが、さすが騎士団長というべきなのか、突きつけられた鉄のツメが緩むことはなく、身動きが取れなかった。


大神官が錫杖で地面を突きながら、倒れていたユウトの側にやってきた。


ユウトは大神官を見上げると、朗らかな笑顔で見つめていた。


 次の瞬間、ユウトの側頭部を錫杖を振りかぶって叩き上げた。


「――!!」


 イクス教の大神官が暴力?


 ユウトは薄れそうな意識の中、両手を床について倒れる事を拒否する。


 錫杖を振り抜いた大神官は、はぁと息を吐いてからまた錫杖を地面につき、腰を叩いて


「大神官たるわしを差し置いて座り込むとは何事かの?」


 とユウトに向けて問う。あまりの出来事にまた目眩がしながらも呆気に取られていると、舌打ちした大神官が、錫杖をユウトの足の甲に突き立てると両手で先端を叩きつけた。



「ぐっ……ああああああ!!」


 叫ぶユウトに大神官は目配せで衛兵にユウトを立たせるように指示をだす。


「信仰もない子どもが偉そうに……イクス様は信じるものしか救わぬぞ。死にとうなかったら立て。」


 ギオンは思わず踏み出しそうになると、大神官は睨みつけた。ギオンが本気を出せば瞬きしている間に心臓を体の上から潰せそうなほどの弱々しい老人が、ギオンの前に立ちはだかる。


「獣人がこの神殿に入るとはの……王の命令ゆえに我慢しておるが、神官達に通った道を掃除させるのが気の毒なくらいじゃ。」


 と詰る。詰られてもギオンは歯を食いしばって我慢していた。ミシェルは目の前の大切な人たちが痛めつけられ、言葉の意味は全て理解できていないが、きっと大神官はひどい事を言っているのだと思うと、拒否と怒りと恐怖がないまぜになって

喉が割れるように泣き出した。


大神官はまた舌打ちをした。


「その子供を泣き声をどうにかしろ! うるさいだけじゃ」


衛兵はミシェルの口を押さえたが顔を振って振り解く。


「はようせい! できぬなら喉を潰せ! 聖書記は腕さえあれば良いのじゃ!」


大神官の指示は人の道を外れていた。

あのリンでさえ、大神官を睨みつけて怒りをあらわにするにしていた。


衛兵は所持していた手拭いをミシェルの口に無理やり突っ込んで、口元を猿ぐつわにくくっ。


 ミシェルの泣き声が小さくなると、大神官はシャクナリの方を見て


「儀式は予定通りわしらのみでやる。あとはここで頼むぞ。獣臭くてかなわん。」


 シャクナリは笑顔で


「はいはーい。よろしくー」


 と軽く返すと、大神官は鼻を鳴らし、錫杖を突きながら暴れるミシェルの口手足を衛兵数名に抑えられ抱きかかえられて、奥に消えていった。


――なんだよ……なんなんだよ……人間の方が明らかにやることが汚いじゃないか……酷いじゃないか……


 ユウトの目の前で起こったことが理解できなかった。




 **************


 エミグランは、目の前に石壁が落ちてきて立ち止まっていた。


「……この神殿は賊を捕まえる仕組みがあったの。当時は賊のほとんどは獣人であると決めつけていたが……」


 エミグランは地面スレスレまでしゃがむと、ちょうど頭があった位置に剣が風を切って横切る。


「フフフ……匂うのう……ワシを殺したい殺気が……」


 立ち上がって振り返ると、リオスは剣を上段に構えてエミグランに振り下ろす。

 捉えた!と思っていたが、するりと横に避けた。


 リオスは間合いをとってエミグランと距離を取った。

 白檀扇子を仰ぎながらゆっくりとリオスに体を向けるエミグランは、この神殿に仕掛けられた罠をすでに感じ取っていた。


「わしが城に作った、マナを無効化する魔石か……この神殿にも仕掛けたのじゃな。」


 と言うと笑いが堪えられなくなったようにエミグランは声を上げて笑い出した。


「何がおかしい!」


「これが笑わずにいられようかね。全く……ニンゲンはいつも本質を見ずに便利だという理由だけで使い、進歩しない……良い例じゃ……」


「黙れ!」


 リオスは薙ぎ払うように一撃を見舞うが、エミグランにかすりもしなかった。


「あの檻の仕組みはの、この世界で最もマナが多い人物を基準にして封じるように設計されておる。つまり対象人物のマナが一定量を越えると使い物にならん」


「だから……なんだと言うんだ!!」


 リオスはマナが使えないエミグランなら相手になると思っていた。シャクナリが昨日【あの忌まわしき物】に設置した魔石の効果は、自分にも影響はあるがエミグランのマナを封じている。

マナさえ使えないならただのハーフエルフだ。


 それが大きな驕りだった。


 一足で飛びかかると突きの構えに剣を持ち変えてエミグランの胴を狙うと白檀扇子の先端で止めた。

勢いよく突いた衝撃がリオスにのけぞるほどの衝撃が返った。


「ぐっ!! くそッ!」


 胴の直前で、まるで岩にでもぶつかったような衝撃だ。



 エミグランの前に立ち続けるのは危険だと離れようとすると、リオスの首元に白い細長い手が伸びてきた。


 ――まずい!


 エミグランの手が、リオスの鎧の肩当てに指を絡めると、鉄砲水に弾かれて吹き飛ばされるように、落ちてきた壁に軽々と叩きつけられた。


「が……はっ!」


 鎧を着込んでも衝撃のダメージが体に響く。マナの恩恵はないはずのエミグランの動きは、騎士団長屈指の動体視力を持つリオスでさえ捉えることが出来ていない。

人智を超えた身体能力はマナによるものだ。マナの力が身体能力を向上させている。そして、エミグランはマナの動きを見て感じて動いているはずとふんでいた。

マナを使えなくしてしまえば、エミグランの力は落ちるはずだと確信していた。


だが、エミグランはマナの力を使っている。

反応で悠々と避けられるほどリオスの一撃は遅くはない。それが二度も避けられている事実をリオスは認めたくなかった。


イメージしていたエミグランを屠る姿には程遠い攻撃と言わざるを得なかった。


 エミグランは放り投げた方の手を軽く振りながら、コツコツと靴音を響かせてリオスに近づく。


 ――早く……立たねば……!


 リオスは石壁にしがみつき荒れる息も整えずに立ち上がると、中段に剣構えた。


「あの檻の設計は、わしのマナの量を基準にしておる。だから無駄じゃよ。ワシのマナは封じれぬ。」


「……なんだと……!」


「二百年も経とうというのに、こんな仕組みをそのまま使うとは……愚か……ここに極まれりじゃな。」


リオスは絶対に引く気はなかった。命をかけてもエミグランを亡き者にすると誓って城門まで出向き、怒りをふつふつと沸き立たせていた。


 全てはこの時のために。


「黙れ……黙れ黙れ黙れぇ!! 人間を舐めるなよ!! 獣人殺しのエミグラン!!」


 エミグランの顔から、笑みが消えた。

リオスは体を横に回転させながら薙ぎ払うように切り掛かると、エミグランは飛び上がった。


「――!」


 半円に切り裂くように、持てる力全てを使って薙ぎ払い、エミグランを捉えたつもりが空中で避けることは想定外だったが、白檀扇子をたたんで、リオスの頭頂部に振り下ろす。


 辛うじて剣を頭上に横に出して一撃を免れる。

しかし、エミグランの踵がリオスの眉間に叩き込まれると、石壁に後頭部を打ちつけた。


「がっ……」


石壁に背中を預けるように貼り付けられ、リオスの視界にエミグランの顔いっぱいになった。


「――!!」



 これまで、愛情持って大切に育てられ、今日も無事に帰ってくる事を、家の一番広い部屋に置かれたイクス教の祭壇の前で手を組んで膝をついて祈る両親の姿が脳裏に浮かんだ、二人の自慢の息子であるリオス。


 夢であった騎士団長の職に就いて、ヤーレウ将軍の立場向上と、ヴァイガル国の安寧のため、その身を賭けた掃討戦の最中、怒りに身を任せてしまった事で、エミグランの逆鱗に触れてしまった。






「言ってはならぬ事をいうたな? お前」

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