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僕と異世界姉妹が魔女の黙示録へ送る復讐譚  作者: ワタナベジュンイチ
第四章:双子花に捧ぐ命
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第四章 3:初依頼

 アシュリーとギオンの関係がそこはかとなく明らかになった次の日の朝。ユウトはレイナ達と三人で朝食を食べている時に、思い切った提案をした。


「お一人で傭兵の仕事を?!」


「……うん。一人でやってみたいんだ。オルジアさんは、僕の力量に合った適切な仕事を与えてくれるって言うし……」


 レイナはスープの皿がひっくり返るんじゃないかと思うくらいテーブルを叩いて立ち上がり


「ダメです!!危険すぎます!!私もお供します!!」


 と珍しくユウトの提案に大反対の意思を示した。ローシアも驚いたが態度には示さなかった。


「待つんだワ。レイナ。話は聞きましょう。」


「でも!」


「いいから。ユウトにも考えがあってのことなんだろうから。まずは聞くことが先なんだワ。」


 ユウトは、この話をするとすごい剣幕でレイナが止めると想定していたので驚きはしなかった。ローシアも認めるかまではわからないが話を聞いてくれるだろうと予想していたので、ここまでは想定通り。あとはローシアを説得すれば良いはずだとユウトは昨日の夜にシミュレーションしていた説得を始めた。


「僕の深緑の力は、まだまだ全然出せていないんだ。レイナとミシェルを助け出したあの日の夜の力に比べたら、遠く及ばないんだ。」


 それはレイナも感じていた。鬼気迫る程の怒りで騎士団長エオガーデをまるで人形のように屠った力を基準に考えると、まだ足りないという感想は否めなかった。


「だから、もっと自分の力を試したいんだ。レイナ達と一緒に動いてると、どうしても甘えてしまうような気がして……」


「フン。つまり私達が甘やかしてると言いたいのかしら?」


「いや、そうじゃないよ。僕が二人にとって大切な鍵になる存在……全てを知る者って事はわかってる。だから、無理はさせることができないから、守ってくれているんだってわかる。」


 確かにそうだとローシアは頷いた。ユウトがもし命を落とすことがあれば姉妹の悲願は達成できない。ユウトに少しでも無理だと思う事は、試しにでもさせることができない。


 結果的にティア2の仕事をこなすにしても、ユウトは雑用のようなことばかりを頼んでいるし、人を脅かす魔物の巣を潰すときには基本的に戦闘で前に出る事はない。場合によっては遠くにいることもある。これはユウトの持つ力を信じていないと言い換えられる。


「だから、もっと力をつけるために、ミストドァンクで自分一人で今の力に合った依頼とかをこなしたいんだ。」


「私は反対です! もしユウト様に何かあったらと思うと……」


 レイナはやはり熱りたって反対した。だがローシアは腕組みして目を閉じてユウトの話を聞き、考えていることを理解していた。


「落ち着くんだわレイナ。ユウトの言う事は間違っていないんだワ。」


「お姉様……」


「過保護にしているつもりはないワ。でも、ユウトがそう感じるのは、アタシたちが無意識にユウトを守るよう考え、行動していたからだワ。ユウトが今の状況に物足りなさを感じているのなら、まだまだ成長できる余地があるということなんだワ。」


 ローシアは理解を示したが、レイナは食い下がる。


「私達が受ける依頼でも、もう少しユウト様のできることを増やしたりする事で補えるはずです!お一人で行動されるなんて……」


 ローシアは、ユウトに対してあまりにも過保護なレイナに、どこか母親のような雰囲気がでているようで、聞こえないように鼻で笑う。


「レイナの言うことも間違ってないんだワ。」



「そうですよね! なら……」


「でもアタシはユウトのやりたいことを尊重するワ。」


「……お姉様……」


「アンタ、考えてもみなさい。エドガー大森林で、あんなに弱っちかったユウトがこんなにも力をつけて、この世界で生きていくために何をしなければならないか、しっかり考えた結果なのよ? ユウトだってレイナが考えるような事は考えて、それでも一人でやりたいと言っているんじゃないかしら?」


 ローシアの言う事は当たっていた。ユウトは決して深緑の力に甘んじているわけではない。姉妹と共に行動すれば、きっとレイナが言うようにユウトに任せる事は増やしてくれるだろう。

だが、うまくいかなかったらレイナは必ず助けてくれる。その安心感はとてもありがたいが、もっと成長する為には一度離れる必要があると結論づけたのだ。


「僕が本当に役に立てるようになるには、まだ力をつけたいんだ。二人の悲願のためにどれだけ力をつけても邪魔になるものじゃないって思ってさ。」


 ローシアは、ユウトが自ら黙示録の破壊に向けて何をするべきかを考えてくれたことが嬉しかった。この提案はユウトの思いを尊重すべきだと考えた。


「あと四日で黙示録とご対面するチャンスまで、ユウトが成長する事は決して悪くないワ。レイナの心配する気持ちはアタシもわかる。でもユウトの気持ちも尊重してあげるんだワ。」


 レイナは二人の話の途中から、俯いてワナワナと震え出し、そして駆け出して食堂を出て行った。

 その様子に驚いたユウトは「レイナ!」と呼んだが声は届かなかった。


ローシアは深くため息をついて頭を小難しそうな顔で頭を掻く。


「レイナ……どうしたんだろう。」


 ローシアは物分かりの悪い二人が惹かれ合うとこうも面倒なのかと、呆れたように首を振った。

 

「レイナは何よりもアンタが大切なのよ。下手したらアタシよりもね。」


 それはユウトは身をもって理解していた。


「僕は……まだ信用されていないのかな……」


「違うワ……アタシも言い過ぎなところはあったけど、あの子はアンタを一人にさせないって強く思ってるんだワ。でも、アンタが強くなるには一人でやらなければならないことも必要とわかってんだワ。」


「なら何故あんなに怒るんだろう……」


 ローシアは大きなため息をユウトに聞こえるようについた。


「アタシの口から言うのもアレだから控えるワ。少し時間置いてレイナに会ってやって。」


 ユウトは狐に摘まれたような顔で首を傾げる。ローシアは二人の意思疎通がうまくいっていない事はレイナに一因があると、長年姉妹で共に生きてきたので理解していたが、肝心のユウトも同じレベルで自分の気持ちをうまく伝えられない人間だと今ようやく理解した。、


 ――前途多難だワ――


ローシアは食後のバニ茶に口をつける前に、またため息をついた。



 **************



 ユウトは一人でドァンク街に来るのは初めてだった。いつもレイナが共にいたし、深緑のチカラが思うように出せるようになってからは、自分の身は自分で守れるくらいの自信はあったので、ようやく一人で行動できることが感慨深く、見るものが全て新鮮に見えた。


 街の中心部に向けて獣人達が活気良く溢れる通りを歩く。

 出店は途切れるところがあまりないほどに出ており、種々様々なものが売られていた。


「いらっしゃい! そこのニンゲンのにいちゃん! どうだい! 見ていきなよ!」


 突然、雑多な品々を並べている狼の獣人商人に異性のいい掛け声をかけられた。


「えっ?! ぼ、僕ですか?」


「そうそう!僕だよ! そんな可愛い顔してりゃニンゲンの女が放っておかねーだろ!」


 商人は犬歯を剥き出しにして笑顔でユウトの見た目から褒めていく。


「そんな僕にはこれ、どうだ! 紫紺の髪飾り! 意中の人にプレゼントしてやんなよ!」


 商人の手には、紫紺で輝く石のついた髪飾りがあった。髪飾りを覗き込むようにして見ると、太陽の光に反射してキラキラと輝いて見えた。


「……すごい……綺麗な石だ……」


「だろ? キラキラして綺麗な色は外さねえからな!プレゼントにぴったりだぜ!」


「へぇ……そうなんですか。」


「かぁぁぁぁ! そうなんですかじゃねーぞ? 若いうちに好きな女に何かプレゼントするくらいの器量見せとけ!」


 ユウトは渡すとすればレイナだなとすぐに相手が思い浮かんだ、だが


「喜んでくれるかな……」


これまでそばにいて守ってくれた事への感謝を形として何かをプレゼントするのも一つの伝え方だろう。

 だが、今朝のことが引っかかっていた。

受け取ってくれなかったら、これまでのことが無かった事になりそうで、勇気が出なかった。

その様子は顔に出てきたようで、オオカミ商人はユウトの顔を覗き込む。


「どうした?ニンゲンのにいちゃんよ。顔色悪いぞ?腹でも痛くなったか?」


「い……いえ! 僕がプレゼントして喜んでくれるかな……って思って。」


「いいかニンゲンのにいちゃんよ。プレゼントってのは、渡す相手が喜ぶか、それとも台無しにするか、全てタイミング次第だぜ。」


「タイミング……ですか。」


「おおよ!相手のことをしっかりと考えて、どうしたら喜ぶかを第一に考えるんだ。独りよがりが一番ダメだ。相手の喜ぶ顔を引き出すにはどうしたら良いか……それはにいちゃんの渡す相手のことをちゃんと知って、そして渡すタイミングを考えて、ここだ!って時に渡すんだ! 真剣に考え抜いたならきっと気持ちが伝わるぞ!」


「なるほど……」


 狼の獣人にプレゼントの渡し方を学ぶとは思っていなかったユウトだが、言われた事に納得はできた。

 そして、レイナが喜ぶタイミングっていつだろうと考えた。今朝の様子だと、少なくとも今日ではないか、いや、できることなら怒った理由をちゃんと把握した上でレイナの気持ちを一番に考えたタイミングでないとダメだ。怒った理由もわからないのにプレゼントで誤魔化すようなやり方は良くないと思い至った。


 少なくとも、何かプレゼントは用意すべきだ。これまでのことにちゃんと感謝の気持ちは伝えなければ。そして、これからもずっと三人で悲願を達成するまで共に頑張ろうという気持ちをちゃんとわかってもらえるように伝えなければいけない。


 ユウトは、決心して小さく「よしっ」と言うと


「ありがとう!とても参考になりました!」


 と心から感謝を述べた。


「だろ? こう長いこと商売やってると顔見ただけでわかるもんさ!」


 会心のアドバイスができたと人差し指で鼻の下を擦っているとユウトは「またいつか買いにきます!じゃあまた!」と言い残して駆け出して行った。


「お、おいおい! せめて買っていけよ!!」


 とあっという間に人混みに紛れて消えて行った。




 **************



 ミストドァンクについたユウトは、ごった返す依頼が所狭しと貼り付けられたコルクボードの前に、獣人達をかき分けやっとの思いで到着した。


 コルクボードを見上げると、ティアごとに分かれて貼り付けられている。ユウトは4の場所に貼り付けられている依頼を吟味し始めた。


 ざっと見たところ

・小型肉食獣の撃退と罠の設置

・貴重品奪還

・街内警備(貴族会発注)


 と、内容を見て、いまの自分ならどれでも出来るかもしれないと思っていた。


「よう! ユウトじゃないか。」


 野太い声がユウトの後ろから聞こえた。

振り返ると、そこには傭兵兼ミストドァンク管理者のオルジアがにこやかな笑顔でユウトを見下ろしていた。


「おはようございます。オルジアさん。」


「おお。今日はどうしたんだ?一人か?」


「はい。今日は前にお話しした通り一人で依頼受けようと思って。」


「いい心がけだ。助かるよ。 それでレイナとローシアは良いって言ってるのか?」


 今朝のレイナが駆け出すところを思い出す.レイナが良いと思っていないかもしれないと思うと、少し悲しさと残念な思いが入り混じって複雑な心境になった。


「ローシアはいいって言ってくれたので……多分……」


 オルジアはすぐにレイナは反対したのだと察した。


「レイナは認めてくれなかったのか。」


「……はい。正直なところまだ信用されていないみたいで……」


「いや、それは違うな。レイナはユウトのティアをあげるように俺に言ってきたんだ。本当に信用されていないなら、危険が増すようなことは言わないはずだ。」


「僕の?」


 と言うと、オルジアは、周りに獣人が依頼を一通り受けてコルクボードの前から捌けたのを見て、紙巻きたばこを巻いて火をつける。

一息で吐き出すと受け付け嬢の猫の獣人が毛を逆立たせて威嚇する。


「っと……あいつはたばこ嫌いだからな、外に行こう。」


 オルジアがユウトの背中を軽く押して、ミストドァンクの外に出た。




外に出ると太陽が少し高くなっているように感じるほど暖かかった。オルジアはたばこを一息で楽しむと話し始めた。


「レイナは元々お前さんの力は過小評価されているって言ってたんだ。お前さんの実力を俺は見てないからなんとも言えないし、特例でティア2にすることもできたんだが、ミストドァンクに特例は出来る限り使いたくなくてな。」


 オルジアはヴァイガル国の傭兵の暗黙の了解である、師事を受けてから傭兵に就くような門戸を狭くする事は避けたかった。

また組織として特例を設けることも同じことと考えていて、適材適所こそ組織運営の要だと考えていた。

 ユウトがヴァイガル国で貴族会に大きな恩を売る大立ち回りをしていた事は知っていたが、それでもミストドァンクでは公平にする。それがこの管理を受けた条件に入っていた。


「僕もオルジアさんの考えには賛成です。だから依頼を受けて実績を残そうと思ってたんですけど……何故レイナはあんなに反対したんだろう……」


 レイナはユウトの実力を知っていながら反対した。その理由はわからなかったが、オルジアは分かっていた。


 力はこのミストドァンクで上位でもまだ子供だな、と鼻で笑った。

 笑った理由がわからないユウトはオルジアの顔を首を傾げて見た。


「いや、すまんすまん。悪気はないんだ。ただ、お前さん達はまだまだ子供だなぁと思ってな。悪口じゃないぞ?」


「……どう言う意味ですか?」


「ふふ、おまえさん、レイナが大好きなんだろうな。」


「だっ……!」


 オルジアの体躯と見た目の渋さから、大好きと言う言葉が出てくるとは思わずどもる。

言われて耳が熱くなったが、否定できない。



「レイナはお前さんが心配なのさ、それは自分の子供のようにともいえるし、まあ恋人のようにとも言えるかな。」


「こっ……!」


 恋人なんてこれまでいなかったユウトは、どもって咳き込む。その様子が余りにもおかしかったのでオルジアは声を出して笑った。



「お前さんが昏睡していた時、レイナはお前さんのお側付きになるって決心したそうだ。俺にユウトのティアをあげてくれって言いにきていた時、そう教えてくれたんだ。」


「レイナが?」


「ああ。ユウトはもっと強い。自分なんかよりも強いから、他の獣人傭兵に正しく本当の実力通りユウトを見て欲しいから、ティアをあげて欲しいってな。」


「そうなんだ……レイナがそんなことを……」


「だが、あいつにユウトのティアを上げることを諦めさせたのは、ティア2になったら上に行くほど人数が少ないから、単独で依頼を受けてもらうがそれでもいいのか?って聞いた時だな。」


「それは、僕の実力では無理なことなんでしょうか?」


 オルジアは、紙巻きたばこの灰を地面に落としてから答えた。


「いや、レイナが言うユウトの評価が本当なら出来るだろうな。一人でもな。」


「だとすると、何故レイナは……」


 オルジアは含み笑って


「レイナの立場になって考えたらわかるさ。お互いまだわかってないんだろうけどな。」


 オルジアの謎かけのような答えにユウトはまた首を捻り、オルジアはまた我慢できなくなって大きな声で笑った。


「そのうちわかるさ。それよりもおまえさんは依頼を受けにきたんだろう?」


「え? あ、はい。」


「なら、受けてもらいたい依頼があるんだ。ちょっとついて来てくれるか?」


 初めて一人の傭兵として依頼を受けて欲しいと言われて嬉しくなったユウトは、満面の笑みで元気よく返事をする。


「よし。いい返事だ。ティア4の依頼だがな。まずは地道に行こうぜ。」


小さな皮袋を取り出して、吸い終わった紙巻きたばこを中に入れて揉み消し、オルジアとユウトはまたミストドァンク内に戻って行った。

 

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