第四章 2:お見舞いの定番は特効
引っ越しの依頼をオルジアに事情を説明し、貴族会特別任務になる聖書記のことなら仕方ないと断りの了承を得て、急ぎエミグラン邸に戻った。
ドァンク街の外にあるエミグラン邸は、ドァンク街をでて、ヴァイガル国方面に少し進み、南側にある林の道を抜けると見える大きな鉄格子の門をくぐり抜けて、襲撃事件で破壊された庭園の修繕に務める作業者たちを横目に通りすぎると、林の中にある建物にしてはあまりにも立派……というよりも、西洋建築でありながら、荘厳な雰囲気を造りで余すことなく見せつけるエミグランの屋敷の正面入口に着く。
入り口ではタマモがいつものようにしっぽの手入れに勤しんでいた。
ユウトは無心に毛づくろいするタマモに声をかけた。
「ただいま。」
「お! 兄ちゃんたち!おかえりなんだ!」
毛づくろいの手櫛を止めずに満面の笑みをユウト達にみせるタマモ。
「エミグラン様は部屋にいるのかな?」
「うん!兄ちゃんたちを待ってるぞ!」
「そっか、わかった。ありがとね。」
入り口でタマモが毛づくろいする日は一日晴れる。ユウトの観察でわかった事で、動物的カンなのかまではわからないが外れたことがないため、今日は一日快晴かと空に少し視線を向けてから屋敷の中に入っていった。
エミグランの部屋に向かう三人は言葉をかわすことはなかった。聖書記儀式の再開は、ローシアとレイナは初めてカリューダの黙示録に近づく機会を意味する。
忌み憎しむ対象を初めて目撃できる機会が迫ってきている事に言葉が出る雰囲気は皆無だった。
重々しい空気の中、広い廊下を三人が静かに歩く。
突き当りの角を曲がればエミグランの部屋がある。
ローシアが、わざとらしく聞こえるほどのため息をついて
「いよいよね。」
と誰に言うともなく低い声でそう言うと
「ええ。私達の悲願……いえ、魔女にまつわる者達の悲願がようやく……」
これまで誰も成し遂げることができなかった、黙示録の破壊。
魔女無き世界の構築するための第一歩を踏み出すために姉妹はここまでやってきた。
人生を捧げてより良い世界とするため、過去を断ち切るための試金石だ。過去の因縁を断ち切るスタートラインに、念願叶って立てる。自然に振る舞うほうが無理だろう。
破壊の鍵になる『全てを知る者』のユウトも、二人の緊張感が伝播して手に汗が出てきた。
――僕が……二人のために必ず成し遂げる……出来ない言い訳はもうしないんだ……――
逃げてばかりだったユウトは今一度気持ちを入れなおす。
エミグランの部屋の前に到着して、ローシアは一度深呼吸をした。
そして、ドアをノックする。
奥から扉越しに「入れ。」と聞こえてからローシアがドアノブに手をかけて扉を開いた。
中ではエミグランが応接用のテーブルの側で凛とした佇まいで立っていた。
「ご苦労。好きなように座るが良い。」
素っ気ない言い方で促すと、三人はそれぞれエミグランを囲うように座った。
まずは挨拶のつもりでローシアが近況を伺う。
「貴族会の代表に復帰して忙しいのかしら?」
「フフフ、珍しいのぅ。お主がそんなご機嫌を伺うようなことを聞くとは。」
図星を的確に指摘されたローシアは我に返った。待ちに待った知らせは待ち望んでいたものとエミグランは知っているからだ。
ただ立っていたエミグランにする問いではなかったと反省したが、耳が熱くなっていて顔が赤くなってしまったかと顔を背けた。
またエミグランは含み笑いしたが、ピタリと止めて話し始めた。
「聖書記の最終儀式の日程が決まった。五日後にイクス教神殿地下じゃ。」
ついに待ちに待ったその日が来たと正式にエミグランから告げられると、姉妹の顔は少し明るくなった。これまで黙示録がどんなものなのかさえ知らなかった二人。
目に見えなかった自分たちの目標がようやく見えたのだ。もう少しで手が届くまできたと言葉で伝えられると、喜びは自然と顔に出た。
「それで、アタシ達が呼ばれたのは、護衛と破壊のどちらかしら?」
顔はまだ緩んでいたが、目的を果たすためには心は冷静にと言い聞かせながら、エミグランに尋ねた。
「フフフ……まあそう急かせるな。まずは護衛じゃ。当日はお主たち三人に行ってもらう。」
ローシアは三人と聞いて、ユウトのも行かせるのかと少し驚いた。
「全てを知る者も一緒にってことかしら?」
「いかにも。行ってもらう。彼の国はまだすべてを知る者が顕現しているとは考えておらん。それに、全てを知る者自身も力をつけてきておるからの。問題なかろう。」
それでもローシアには懸念があった。
「アルトゥロがいたら……どうなるのかしら……」
ローシアは、エミグランの前で口にするのも憚られる名前を口にして顔色を伺った。
エミグランの後継者だったイシュメルとユーシンを殺した張本人。ヴァイガル国で暗躍していて、ユウトを誘拐したアルトゥロがいても不思議ではない。
だが、エミグランは意に介さぬように、問題なかろうと答えた。
「あやつは表には出ぬよ。儀式は問題なく終わるじゃろう。」
アルトゥロの行動を、まるで見抜いて知っているように言うエミグランに、何故とも聞けず話を続けた。
「黙示録の破壊はどうするつもりかしら?」
「無論、もし機会があれば狙う。破壊してしまえばワシの目的も達成し、お主たちの悲願も叶う……じゃが問題はまだあるの。」
ローシアはすべて承知だったようで、両手を広げておどけるような仕草を見せた。
「やっぱり壊し方がわかんないつて事ね。」
「……うむ。こればかりはわからん。じゃが、お主たちを護衛に、特に全てを知る者を同行させる意味は言わずともわかるじゃろう?」
ユウトは以前、黙示録を破壊できるのは全てを知る者とエミグランが言っていたことを思い出す。
「僕が黙示録と接触する事自体が初めて……何が起こるか想像もつきません。」
ユウトはイシュメルが命を落としてから、ローシア達と共に傭兵としての仕事をこなしていた。深緑の右腕の力は絶大なものだが、扱うユウトがまだエオガーデと対峙した様な力までは発揮できていないと感じていた。
一人ではまだおぼつかない動きをしてしまうこともあるが、自分を守れるくらいの力を手に入れるよう励んでいた。
最近は、鍛錬のおかげで意図的に右腕に深緑の力を宿すことができてきていたが、ユウトの感覚ではまだまだあの夜の力までは出ていない実感がある。
そんな自分が黙示録を壊すことができるのか全くわからなかったし、自信もなかった。
エミグランもユウトの目覚ましい進歩には気が付いており、弱気なユウトを励ます言葉で密かに檄を飛ばす。
「まずは第一歩を踏み出すためにも、お主と黙示録が一度接触する必要がある。その機会がやってきたという事よ。破壊できればわしも姉妹もこれ以上の結果はない。そうならないとしても得るものはあるはずじゃよ。」
得られる最高の結果とは、黙示録の最後の記述で
『大災の名を拝してなおも全知全能たる全てを知る者を待つ。この大地と異なる世界より現れる全てを知る者こそ世界救済のかの汝。顕現される日より世界が歓喜と祝福で溢れ始める。』
のことだろう。
ユウトはこの世界に現れてから、身の回りで起こる事を思い出してみて、歓喜も祝福もないと思っていた。平和どころか、ヴァイガル国とドァンクの関係は最悪を突き進み、貴族会のイシュメルとユーシンは、全てを知る者を狙っていたアルトゥロの手にかかって死んでしまった。
最悪の状況の中で五日後の聖書記の儀式が終わったら、以降はどのようになるのか見当もつかなかった。
少なくともローシアたちの救済は、黙示録を破壊する事で達成されるが、ユウトはそれが正しいのかさえわかっていない。
ローシアたちは救いたいし、目的を同じ立ち位置で立ち向かいたいと思っている。だが、黙示録の破壊で本当に世界は救済されるのか……
ローシアたち以外の人達は、本当に歓喜と祝福で満たされるのか……
ユウトは、自分がきっかけとなってこの世界に祝福が降り注ぐことは想像できなかった。
「どうした?全てを知る者よ」
ユウトの心中を慮るエミグランは、口元に笑みを浮かべて尋ねた。
「い、いえ。黙示録の最後の記述のことを思い出していて……自分が本当にこの世界を変えるほどの力があるのか、まだ実感がなくて……」
「そうじゃな。わからぬものかもしれぬ。普通に生きていれば、まるで伝記の主人公のような事を言われておるように思うじゃろうな。」
「はい……」
「じゃが、本来ひとりのニンゲンの力は、多くのヒトに影響を与える力を持っておるものじゃよ。大多数のニンゲンはそのことを知らずに寿命を迎える。年齢を重ね老いて病に伏せて寝込み、体が衰えて立ち上がることもできなくなってようやく後悔するものじゃよ。自分はまだ何か残せたはず、何か出来たはず……とな。」
「後悔……ですか……」
エミグランは深く頷いた。
「お主の場合は特に荷が重たいかもしれぬ。しかし、お主にしかできないことじゃ。生きていて誰かを幸福にできる目標が明確にあり、立ち向かえる環境が整っておる事のほうが奇跡なのじゃよ。」
ユウトの目を見据えて続ける。
「大多数のニンゲンは、そんな環境もなく、生きる目的もわからず、そして仮に見つけた目的も理由をつけて行わない事を選択し、死んでゆく。それが当たり前だと思っているのじゃ。諦める事は現実を見る事と、誰かに言われたことを鵜呑みにして、心の奥底に封印することを選択するのじゃ。それが正しいのかもよくわからないままに。」
「僕は全て明らかになっているということですか。レイナ達やこの世界の人たちを幸せにする方法が……」
「そうじゃ。幸福は他人から享受されるもの。誰かの行動が自然と他の誰かの幸福につながる。お主の場合は、誰に与えるものかが目に見えておる。故に、責任を感じるのも仕方のない事……しかし、やらなければならないことも明確に見えておる。お主だけにしかできないことがの。」
黙示録の破壊で世界が祝福に包まれる……にわかに信じがたい話ではある。しかし、もし本当に黙示録の破壊で世界中に祝福が訪れるのであれば、目的が明白でユウトにもわかりやすかった。 あとは信じることができるか否かだ。
目に見えてやることがはっきりしているのであれば、ユウトの答えは一つしかなかった。
「わかりました。やってみます。行って確かめてきます。」
理想的な回答にエミグランは満足したように笑顔で頷いた。
「良い顔じゃの。じゃが、本来は聖書記の護衛じゃ。ゆめゆめ忘れるではないぞ?」
「はいっ!」
ユウトの力強い返事は、姉妹の重圧で沈む心を浮き上がらせ、二人ともリラックスした顔に戻った。
「わしからお主たちにいうことはこれだけじゃが、他に何かあるかの?」
ユウトとレイナは何もなかったが、ローシアが静かに立ち上がり前に出た。
「アタシから聞きたいことが有るんだワ。」
「ほう。良いぞ。聞きたい事を申してみよ。」
ローシアは二人に向き直って
「悪いけどエミグラン様と二人で話したいから、先に出てもらえるかしら?」
レイナに異論はなく、ユウトの方を見ると頷いていた。
「うん。わかったよ」
ユウトとレイナはローシアを残して部屋から出て扉が閉じられた。
その様子をずっと見ていたローシアは、眉間に皺寄せてエミグランに向き直り、問うた。
「黙示録とユウトが接触して、何も起きないのかしら?」
「どういう意味じゃ?」
「前にエミグラン様が言われていた事……ユウトが……命を落とす可能性は無いのか……それを知りたいんだワ。」
ローシアは以前エミグランに言われたことがずっと気になっていた。
レイナとユウトは懇意にしており、もし、本当にユウトの命と引き換えになる可能性があるのであれば今のうちに聞いておきたい。その思いで聞いた。
エミグランは口を一文字に結んで、ローシアの瞳をずっと見据えた。
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「ユウト様、これからどうされますか?」
「アシュリーのお見舞いに行こうかって思ってるんだ。」
アシュリーはエミグランのメイド兼護衛を担当している。
真面目でよくいえば信念があり、悪くいえば頑固な獣人なのだが、ここしばらくの間、心を打ち砕かれてしまい、自室で寝込んでいた。
しばらくは面会も出来る状態ではなかったのだが、昨日ようやく会話できるまでに回復したと、同じメイドであるリンが朝食を食べ終わった後のお茶を配膳している時に教えてくれたのだ。
事件後にアシュリーが心を打ち砕かれるまでどんな目にあったか、どんな思いであったかはリンやエミグランを通じて聞かされ、おいそれと会いに行ける様な状態ではないと説明されていた。
騎士団長サンズの言いがかりで無数に、永遠に残る矢尻の傷を負い、そして命を賭しても守るべき貴族会の代表とその後継者を目の前で殺された。それがたった一日で起こったのだ。一時は体の傷が残る傷心を乗り越えられるかと思いきや、残酷な出来事を畳み掛けられるように二人の死を目撃して、数日間は喋れる状態ではなかった。
あまりにも残酷なものを見せられたアシュリーのことは、レイナにしても心配していた。
「そうですね。私もアシュリーの事は気になります。二人で行ってみましょう。」
レイナもユウトの優しい提案にすぐに乗っかり、アシュリーの部屋に向かった。
アシュリーの部屋に二人で向かっていると、ユウトはここ最近の屋敷の様子に違和感があった。
「レイナ……」
「はい?」
「なんか……何故かわからないけど、屋敷の中の雰囲気変わってない?」
「雰囲気ですか?」
レイナは周りの様子をじっと観察し、確かに何か仄暗いイメージがあった。その原因はわからないが、ユウトの言わんとする事はなんとなくわかった。
「……確かに、なにかこう明るくないというか……」
「やっぱそう思うよね? なんなんだろう……」
屋敷の中が明るくないのは物理的に光量が足りないわけではない。
いつもと変わらない屋敷の中の雰囲気が暗い事が、二人の共通認識としてあった。
「……考えすぎかな?」
「警戒する事は悪いことではございませんわ。ユウト様がしっかりと周りの変化を感じられる様になった事は確かな成長です。」
「そ、そんな大袈裟な……」
レイナは、ユウトの昏睡状態から目覚めてからというものの、寝る時以外はずっとユウトのそばにいた。今日までユウトの成長を間近で実感していたレイナの言葉に嘘偽りなくお世辞でもない本当のユウト評だった。
だから、レイナは少し寂しくなった。
「……さあ、アシュリーの部屋に着きますよ。」
レイナは沸いた寂しさを振り切って、逞しくなったユウトに優しく微笑んだ。
ユウトがアシュリーの部屋の扉をノックすると、中から返事が聞こえてきた。
「入ってもいいかな?」
どうぞ、と返事が聞こえたので扉を開けて開けた。
「……おじゃま……しま……」
部屋の中に入ると一瞬にして言葉を奪われた。
レイナは目を丸くして驚き、そして感動に包まれる。
「すごい……なんですかこれ!!」
部屋の中には、所狭しと言わんばかりに色とりどりの花が咲いていた。
テーブルの上や床一面に、アシュリーの枕元には、花で作ったカゴの様なものまで。
花屋でもこれほどに取り揃えるのは至難の技だろうと思えるほどに、アシュリーの部屋は色とりどりの花々で一杯だった。
まるでアシュリーが、童話に出てくるような花畑に眠る姫様のように見えた。
部屋の中は花の香りで充満し、レイナは夢見心地に幸せそうに目を閉じて香りを嗅ぐ。
「いい匂い……」
「す、すごい花の量だね。お見舞いでもらったの?」
ユウトがベッドで半身を起こしているアシュリーに尋ねると、顔を赤くして俯いて
「……はい。お見舞いでいただきました。」
と小さく答えた。
ユウトもレイナも見たことが無い量の花で、ずっと見渡していた。
そしてユウトは気がついた。
「そっか! なんか屋敷の雰囲気が暗いと思ったら、所々に飾ってあった花がなかったんだ!」
レイナも、そういえば、と思い出して手を打った。
「確かに!花瓶が備え付けてあるところに何もなかったです!」
今になってようやくわかった。屋敷から飾られた花がなくなっていたのだ。
「……その、お、お花をいただいて……あまりの量で、お屋敷の花瓶が足りず……備え付けの花瓶まで使ってしまって……」
この部屋に飾られた花の量を見て二人は合点がいった。とんでもない量の花を生けるとなれば、十や二十ではまず足りない。
「それにしても、この花の量はさすが貴族会だね……エミグラン様のお見舞いってすごいね。」
アシュリーは真っ赤な顔をユウトに向け
「いえ! その……」
と何か言いたげにしていた。
構わずレイナが続ける。
「本当に素晴らしいですわ!メイドのためにこんなにも夢見心地の空間を作ってもらえるなんて……お優しい方ですね、エミグラン様は。」
「それは……あの……」
アシュリーはさらに顔を赤くして、扉の方に視線を向けると、何かに気がついて両手で顔を押さえて俯いた。
ユウト達も扉の方に視線を向けた。
まず、花瓶に生けられた花が目に入った。
「え?」
とユウトが呆気に取られた。
花瓶は持ってきていたもので、呆気に取られたのは、その持つ人物があまりにも体が大きい人物で、屋敷に住む者では無いとすぐにわかったし、その人物はレイナに見覚えがあった。
「うそ……」
顔に刻まれた皺と、筋肉隆々な体躯。背中には両手剣ほどのサイズの剣が斜めにかけられていた。
「ギオン……様?」
レイナが呼ぶと、人差し指で頬をかきながら、ゆっくり部屋の中に入ってきた。
「その……なんだ……見舞いには花が良いのでな……」
「これ、全部……ですか?」
ユウトはギオンに尋ねると、小さく頷く。
「某は……花が好きでな。アシュリーが元気になればと思い……」
レイナはギオンのアシュリーという呼び方がすぐに引っかかった。貴族会にまつわる人を呼び捨てにする事はないギオンの性格をそこはかとなく理解していたレイナは、素早くアシュリーに向き直る。
両手を組んでとろけるような眼差しをギオンに送っていたアシュリーは、レイナの素早い動きに驚いてそっぽを向いた。
レイナは感が良い人間では無い。だが、これで気が付かないほど悪くも無い。
いや、気が付かないはずはない。
「もしかして……」
全員の様子を見ていたユウトも何かを察した様で、少し顔を赤くした。
「もしかして……お邪魔だったかな……」
「そそそそそそそそそんなことはございませんわ!ね?ギオン?」
「う、うむ!アシュリーの言う通りであるぞ!そそそそそそそそそそんな、お主たちのアシュリーのお見舞いが邪魔だなどと、は、はは、はははははははは!」
アシュリーの『ギオン』呼びと、呼ばれたギオンの乾いたわざとらしい笑いが決定打となった。
ユウトは、色々と部屋から出るよい理由を模索したが見つからず、ギオンと同じように頬を掻く。
何も良い理由が思いつかないので、心の中を吐露するしかなかった。
「ごめん……お邪魔しました。ホントに……」
「じゃ……!邪魔なことなんてないぞ、うむ。ゆっくりしていくが良い!」
懸命の懸命に気を使うギオンは慌てふためいて両手でジェスチャーらしい動きを見せるがなにも意図は伝わってこない。
明らかに焦りから見える動揺の具現化だろう。
レイナはアシュリーに
「……ごめんなさい。アシュリー……まさかそんな関係だなんて知らなくて……」
と小さく言って含み笑うと
「そ、そそそ、そんな関係って、なんですかー!!!」
今日一番の大きな声が部屋に響き渡った。




