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僕と異世界姉妹が魔女の黙示録へ送る復讐譚  作者: ワタナベジュンイチ
第三章 : 帰国
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第三章 27 :帰国

「メイドがいながらこんなに散らかせるなんて、もはや才能よね。」


 と、ローシアが悪態をついてしまうほどユーシンの部屋は足の踏み場もないほどに散らかっていた。

ユウトはローシアと別の可能性を考えていた。


「いや……でもこれは……」


「……私も、きっとユウト様と同じ考えだと思います……」


 ユウトとレイナは、部屋を散らかして片付けないたぐいのものではなく、何かが暴れた残骸のように見えて、それはきっとユーシンだろうと思っていた。


「そうかしら? まあいいんだワ。さっさと済ませましょ。」


 と、ローシアは踏み場のない部屋の中をドカドカと気にする事なく入っていった。


「ローシア……すごいね……」


 部屋の主は昨日の晩に殺されたと言うのに無神経に見えるローシアは



「……今回の一件に絡んでいた人間なのよ。生きていても結局はどうなっていたか。」


 ユーシンはアルトゥロに操られて屋敷内部から今回の騒動を引き起こした張本人だ。生きていたとしてもお咎めなしにはならないだろうし、乗っ取られたことが判明すればこの屋敷にいる事も許されないだろう。


 最悪、アルトゥロの毒牙が抜けないものであれば、エミグランの判断で亡き者にされていたかもしれない。


 いずれにしてもユーシンにはもう会えなかった可能性をローシアから遠回しに言われた形になり、自分の考えの浅はかさを指摘されたように感じた。だが、ローシアの指摘は現実的であることは疑いようもなかった。

 これから自分達を陥れようとした敵の調査だ、と気持ちを入れ直した。


「レイナ……僕たちも入って探そう。」


 気持ちを入れ直したユウトの顔が凛々しく見えたレイナは、ユウトに自然と引かれるように共にユーシンの部屋に入った。


 ローシアはすでにベッド周りを詮索し始めているようで、ワインの瓶を持っていた。

 枕元に置いてあったその瓶を持ってじっと見ていた。動かないローシアを不思議に思ってユウトから声をかけた。


「ローシア、何か見つかった?」


「……ええ。想像以上にアルトゥロは自己主張が激しいんだワ。」


 何を言っているのかわからない二人にローシアは瓶を持ってきてユウトに渡した。

 レイナはユウトの背中から覗き込むようにして瓶を見てすぐに気がついた。


「この模様は……!」


 瓶にはラベルが貼られて、真ん中にあの魔石と同じ模様があった。模様の下にはワインの名前らしくそのラベルの中では一際大きな文字が書かれていた。


「レイナ、このお酒の名前わかるかな? 文字はまだ読めないんだ。」


 ユウトがレイナに言うと


「アルトゥロ、と書かれています。」


 あまりにもそのままな回答で、大きく目を見開いてその文字をじっと見つめた。


「これが、アルトゥロって書いてあるんだ……」


 その文字を形として忘れないようにユウトは脳に叩き込むように何度も繰り返して英単語の綴りを覚えるようにアルトゥロと小さく繰り返しながら記憶した。


 ローシアはあまりにも大胆に証拠を残している事に呆れていて、ベッドに腰掛けてユウトの様子を見ていた。


「明らかにそこまではっきりと残すなんてね……まるで見つけて欲しいと言わんばかりなんだワ。」


 ユウトは思いついた疑問をローシアに尋ねた。


「でも何故なんだろう……アルトゥロはヴァイガル国にいることの情報はきっと掴んでいたんだよね、エミグラン様は。」


「多分そうね。あの国にいることは知っていたはずね。アンタの力を目覚めさせる事も急いでいたと言われていたし。遅かれ早かれこんな事が起こりうることは予想していたのかもね。」



「僕がこの世界に来た事を知れたのは、ローシア達以外だとエミグラン様達なのはわかるけど、アルトゥロはどうやって知ったんだろう……」


 ローシアは、言われてみればと顎に指を立てて考え込んだ。初めて会った時には、すでにユウトが全てを知る者だとわかっていたかのように、使者を使って襲わせて無理やり深緑の力を目覚めさせた。あの時には全てを知る者が顕現したと知っていなければおかしい。


 それからは使者を使ってユウト達の前に立ちはだかるようになって、昨日の事件だ。

明らかに性急に事が動いている。


「アルトゥロは、ユウトがこの世界に来た事を知る方法があったと考えた方が妥当だワ。人を操る能力を使ったのなら誰かから聞き出したのだろうけど……」


 ローシアが急に下を向いて表情が暗くなった。

レイナも同じように沈んでいたが、その理由はレイナが語った。


「……ユウト様が全てを知る者と知り得ている人は、この屋敷の方々を除けば、ギムレットお爺様達しかおりません。」


 ユウトはこの世界に来て、全てを知る者と知る人を思い出すと両手で充分数えられるくらいの人数しかいなく、さらにいえばこの屋敷の外にいる人たちのみで言うと、知り得る人がいるのはローシア達が過ごしていたドワーフの村しかない事に気がついた。

 


「……そうだ……ギムレットさん達しかいない……」


ギムレットが操られてしまっている可能性が拭いきれない事が姉妹の表情が浮かない理由だとわかると、ユウトも急に不安になった。


「……まぁお爺様なら心配ないはずなんだワ。きっと。」


 レイナもローシアの意見に同意して頷いた。


「私も同じ意見です。」


「……二人がそう言うなら、きっと大丈夫だろうね。」


 ユウトはギムレットと握手した時のことを思い出した。


 二人を頼むと、何も力のないユウトに姉妹の未来を託したギムレットは、姉妹の事を何よりも大切にしてきたはずだ。

 姉妹が危機になるようなことをギムレットから行う事が想像できなかった。

 レイナは意図せず思い出してしまった家族の安否について考えていると、ローシアが見かねて提案した。


「少し落ち着いたら一度くらいは村上に戻ってみるんだワ。」


「はい。久しぶりにビレーお母様とお会いしたいですね。」


 ユウトは二人に見えないように顔を背けた。ローシアはベッドから降りて、首を何度か回し


「……この瓶はエミグラン様に見せるとして、他にアルトゥロに関係するものがないか、ユーシンの人間関係を示すものがないか。探すんだワ。」


「うん。探そう。」


 三人は分かれてアルトゥロの痕跡、ユーシンの人間関係に関連しそうなものを探し始めた。


散らかった床を四つん這いでゴミと何らかの書類や本などを分けるように探すレイナ、ベッド周りを手探りで何かないかをさぐるユウト、デーブルの上なものをゴミと必要そうなものを分けながら確認しているローシア。


誰に言われるでもなくそれぞれが全体をくまなく探し始めた。


 床は派手に散らかっているものの、レイナの整頓力が発揮されて徐々に綺麗な床が見えてくる。

 ユウトは、男が何か隠すとしたらベッドの下だろうと、ベッドの下を手探りで探しているが、何もなさそうだった。


 ローシアはユーシンの執務机の前に立ち、引き出しに手をかけた。

 鍵はかかっていなさそうで、引っ張り出して中を改める。


 すると、一つの引き出しに封書があった。手紙の類がそもそも初めてこの部屋で見つけたので気になったローシアは、封書を手に取って宛先が書いていないかを見た。


「……ふうん」


封書を手にしたローシアが動きを止めて封書を手にしていたところを見ていたレイナが


「何か見つかりましたか?」


 と問うと


「まあね。」


 と封書を机の上に置いた。



 **************





馬車で屋敷の門をくぐり、林道を車内で揺られながら外の景色を見ていたエミグランは一人喋り出した。


「いるのじゃろう? 姿を見せよ。」


「……あらあら、いつのまに私の存在を認知できるようになったのかしら?」


 声と共に現れたのはクラヴィだった。すでに白い布で包まれていた姿から、豊満な身体を見せつけるように水色のスマートドレスでパーティーにでも向かうような出立ちに変わっていた。


「……おぬしの服装は相変わらずじゃの。」


「なによ、文句あるのかしら?」


 エミグランは含み笑い


「ない。もう少し動きやすい方が良い方が良いかもしれんがの。」



「大きなお世話よ。」


 と不機嫌をあらわにしてそっぽを向いた。


「……ドァンク街まではいけぬが、それで良いか?」


「……ええ。お婆様はどちらに向かわれるのかしら?」


エミグランは静かに答えた。


「……案ずるな。すぐに戻る。二人の葬儀もあるのでな。」


「あら、別に案じてないけど。そのお召し物でどちらに向かうか気になっただけよ。」


「黒はわしの好きな色じゃよ。とは言え、相手は驚くかも知れんがの。」


 と含み笑うエミグランを訝しげな目線で見るクラヴィは、大きくため息をついた。


「それで、私の次の仕事はあるのかしら? 」


「……ほう? 随分と忙しく動きたがるのじゃな。」


「当たり前よ。私のユウトちゃんがとんでもない目にあっているのに。グズグズしていられないのよ。」

 

「そうか……じゃが、その前にお主には詫びておかねばならんな。」


「詫びる?」


「うむ。今回の件はワシに非がある。向こうの出方を伺っていた事が仇となった。そなたも苦労をかけた事は詫びるぞ。」


 エミグランがクラヴィに謝る事はそうそうない。クラヴィはエミグランでもコントロールできない今の状況に油断ができないと思った。


 「私に謝る必要なんてないわ。ただ、ユウトちゃんの命を狙う奴はこの私が許さない……と言っても私も後手を踏んでしまったから大きな事は言えないけど。」


「……だが、持って返ってきた成果は大きい。」


「あら、それは私が受けた仕事だから。成果が大きいのは当たり前よ。」


 エミグランはクラヴィの自信たっぷりの返事は、場を明るくする冗談だと受け止めた。事実、クラヴィもエミグランが何も指示が出せないとなると、ユウトどころか、ドァンク自体も危うくなる。

 クラヴィには大切な思い出のあるドァンク街を、一方的に破壊なんてさせないという強い思いがあった。


「……そなたにはまた改めてしてもらう仕事はある。じゃが、今のところは屋敷にいてくれ。少なくとも全てを知る者を守っておってくれ。」


「……それは、今後も私の力が必要ということかしら?」



「無論じゃ。」


 エミグランは即答した。返事に安心しクラヴィは、了解よ。と返事を返した。


 少しして馬車が止まった。ヴァイガル国をへ向かう道とドァンク街に向かう道に分かれていた。


 リンが後ろを振り向いてクラヴィの方を見た。言いたい事はわかっていたので頷くと、リンは馬車から降りてクラヴィのそばの扉を開いた。


「……さてと、私はここまでね。久しぶりにお婆様とたくさん話せて良かったわ。」


 クラヴィの表情は明るかった。嫌味でもなく素直な気持ちで言えたことに自分も少し驚いた。


「これを持っていくが良い。」


 エミグランは手のひらに乗る大きさの袋を取り出してクラヴィに渡した。


「何よ、これ。」


「ドァンクの最高級バニ茶の茶葉じゃ。渡しておいてくれ。姉は茶葉をふんだんに使う飲み方が好きなのでな。もうきれている頃じゃろう。」


「私の行動はお見通しってわけね。」


「……まあの。悪く思わぬようにの。」


 クラヴィはエミグランから袋を受け取って馬車を降りた。


 馬車はヴァイガル国に進路をとった。

分かれ道で見送るクラヴィは、一陣の風に舞いそうな髪を首元に押さえるようにして馬車を見送る。


「……ホント、お互いに口ベタね。」


 と馬車に向けて小さく呟くと、ドァンク待ちの方を向き歩きながら姿を消した。



**************



「リンよ、城門に着いたらワシの名を出しても良い。」


「……はい。」


「案ずるな。何もできぬよ。奴らはの。」


 エミグランはヴァイガル国の城門の前に馬車を進めさせた。二百年ぶりのヴァイガル国への入国だ。

 外を見ると二百年前と変わらず、人々の行き交いが多く活気に満ち溢れていた。


「……変わらんな、この国は。」


貴族会の馬車が見えた衛兵は、城門前に五人立ちはだかった。リンはすぐに手綱を引いて馬を止めた。


「エミグラン様……」


「良いよ。ドアを開けてくれ。」


 リンは身軽に馬車を飛び降りるとドアを開けた。中から黒いドレスを身に纏ったエミグランがゆっくりと降りてきた。

 衛兵の一人がエミグランの前に歩み寄る。


「現在、貴族会の入国は禁じております。お引き取り願います。」


 エミグランは白檀扇子を取り出して顔を仰ぐ


「そなたらの都合は聞いてはおらんのよ。そこを避けるか、亡き者になるか、選べニンゲンよ。」


 エミグランの口角が避けるように釣り上がり、衛兵を威嚇した。


「なっ……!」


 あまりにも一方的な言い方に、衛兵は剣に手をかけた。


「……おぬしらに罪はないが、こちらも罪なき家族を屠られておるのでな、抜いたら容赦はせんぞ。」


この時、リンは禍々しいエミグランのオーラを感じていた。これまでエミグランがリンの前で出したことのない未知なる力がとめどなく溢れる様子に身動きが取れない蛇に睨まれたカエルのように固まってしまった。


 衛兵はその力すら感じる事なく、エミグランに対峙していた。


「……勝手なことを言いやがって、牢の中でほざいてろ! 全員!確保だ!捕まえろ!」


 五人の衛兵が剣を抜くと、周りの人々はエミグランを中心に叫び声を上げて被害が及ばないように広がっていった。


「……まったく……」


 エミグランが手を広げて前に出すと、五人の剣が根本から甲高い音を立てて折れた。


「……?!」


「容赦はせぬと言ったはずじゃよ。」


 広げた手を引き寄せるように握り込むと、五人は急に胸を押さえて声も出せず、言葉を失ったかのように膝をついた。



「お主らの心臓はワシが今つかんでおる。わずかにうごく程度には握っておるが、この扇子で仰げば弾け飛ぶぞ。」


「グググぐぐ……」


「しゃべれぬよのう。お主らの命の瀬戸際をわかりやすく見せておるからの。たまたま今日城門の警備をしていた事を不幸と思え。」


 エミグランの手が強く握り込まれると、数人は泡を吹き、顔が青白くなり始める。


「生か死か選ぶが良い。お主らの正義とは所詮国の力に守られた代理の暴力じゃ。それ以上の力に遭遇した場合のことなど学んではおらぬだろう?」


 握りこんだ手から人差し指を伸ばすと、エミグランの前に立ちはだかった衛兵が術から解放されて、大きく息を吸い込んだ。


「選べ。わしも忙しい身でな。早く終わらせる方法ならいくらでもあるのじゃよ。お主らの脆弱さに合わせておる今のうちに答えよ。それとも、この付近のニンゲンを二、三人どうにかせねば判断できんのか?」


エミグランの視線が周りの野次馬に移った。

まさか自分たちが同じ目に合うとは思っておらず、興味本位の見学が一瞬にして悲劇の当事者になると宣言されて、人々は声を上げてエミグランから逃げ始めた。


「無駄じゃ。恨むなら惚けておる衛兵を恨め。」


逃げ惑う人々から、家族連れの夫婦と子供が動けなくなった。


 子供は何が起こったかわからず泣き叫び、母親は子供の名前を叫ぶ。父親はやめてくれ!と叫び命乞いを始めた。


「……さて、お主の責任とこやつらの命。今わかりやすく天秤にかけた。どうする?」


 考えるまでもなかった。どう見積もっても勝てる相手ではない事は本能的に理解させられ、従うしかなかった。


「わ……わかりました。どうぞ……お通りください……」


と衛兵が言うと、エミグランは握っていた手を解き、全員を解放した。

 夫婦と子供も、自由になったとわかると母親は子供を抱き抱え、父親は母親の肩を抱くように城門を潜り抜けた。


エミグランは三人が城門を潜り抜けると、馬車に乗り込もうと振り返った。


衛兵の一人はその隙を見逃さなかった。

子供を人質に取る事が許せなかった。この国が一人の人物によって平和が脅かされることが認められなかったし、許せなかった。相手はか細い術を使う女。術を解いて詠唱させなければただの人。


膝をついた状態から蹴って立ち上がるようにエミグランに駆け出した。


「うおおおおおお!!」


 リンはスリットに手を入れたが


「傘を出しておいてくれ。」


 とエミグランがリンに言うと、白檀扇子を仰いだ。



「ウグゥっ!!」


 駆け出していた衛兵が突然前のめりに倒れ込んだ。


「?!」


 倒れ込んだ衛兵の脚がありえない方向に曲がっていた。


「……容赦はせぬと言ったはずじゃ。」


 エミグランが白檀扇子で自分を仰ぐと、倒れ込んだ衛兵の身体中の骨が折れる音が響き、一緒に苦痛に悶える声が響き渡る。


「や……やめてくれ!そいつにはまだ幼い子供がいるんだ……」


エミグランは衛兵の言葉に、幼いユーシンを真剣な顔で戸惑いながらあやすイシュメルを思い返した。


「だからなんじゃ? 約束を違える父親を許せ……と?」


 エミグランは仰ぐ手を止めず、同時に骨が砕ける音が響く。


「それとも、子がおるから許せと申すのか?」


 まだ仰ぐ。そして砕ける。声が響く。


「そのためにワシが犠牲になれと?」


 白檀扇子を勢いよく閉じるとすでに骨が砕け切り肉塊のようになっていた骸が出来上がっていた。


 エミグランは振り返る。


「機会を与えたにも関わらず従わぬものになぜワシが酌量せねばならんのか。答えられるのか?」



 折り畳んだ白檀扇子を上に向けると骸は勢いよく空に飛び上がった。


 エミグランは恐れ慄く衛兵四人に歩み寄ると、膝を折って視線を合わせた。


「……答えられぬのなら、今すぐ城に戻りエミグラン・クラステルが入国したと伝えてくるがよい。」


「エ……エミグラン?!」


 この国でその名前を知らない者はいない。二百年前にこの国を追い出された『獣人殺しのエミグラン』


嘘は言わない。やると言ったらかならず実行する。二百年前のお伽話のような話だが、今、まざまざと見せつけられた。

剣を抜いた時に、容赦はしないと言ったエミグランはその通りに行動しただけだ。

そこに情なんて入る隙があるはずはない。

考える時間を与えて、解放されたにも関わらずまた牙を向いたのだ。まともに戦闘経験もない城門前の警備程度では止める方法はない。

国に守られた暴力が、それを上回る相手が目の前に現れた時、死を覚悟して玉砕するか、服従するかいずれにしても死が見えた。



 衛兵達は足腰が抜けたように尻餅をついて足をバタバタさせてエミグランから離れようとしていた。


エミグランがまた白檀扇子を勢いよく開くと、上空で何か破裂する音がする。リンがその様子を見ていた。


「リン。」



「はい。」


 リンは傘をエミグランにさすと突然上から真っ赤な雨が降り注いだ。先ほどの骸の残骸で雨の音はせず、地面に細かい肉片が無数に叩きつけられる音が響いた。

衛兵達にも降り注ぎ、情けない悲鳴をあげる。


「久しぶりの帰国じゃな。」


 降り注ぐ肉片と鮮血で、あたりは完全に朱に染まった。

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