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僕と異世界姉妹が魔女の黙示録へ送る復讐譚  作者: ワタナベジュンイチ
第三章 : 帰国
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第三章 25 :悪趣味な部屋

 ユウト達がドァンク北の廃村から屋敷に戻ったのは、赤く目の腫れたソマリからイシュメルとユーシンが亡くなった事を告げられた。


 あまりにも衝撃的な知らせに三人は唖然とした。

何故どうしてとソマリは姉妹から矢継ぎ早に質問攻めにあったが、事が起こった時に我を失って青白い顔で呆然としていたソマリが答えを持ちわあせているはずもなく、申し訳なさそうにわかりませんというしかなかった。



 今日は部屋に戻って待機してほしいとソマリから申し訳なさそうにいわれて、三人は仕方なくそれぞれの部屋に戻った。


 ユウトは部屋に戻ると十数日ぶりの部屋の記憶が蘇ってきて懐かしさを感じたが、この部屋にいない間に屋敷で二人が殺された事実がとても安堵させる状況ではなく、緊張は顔から取れなかった。


 ベッドに腰をかけて、気持ちを落ち着かせる。

殺される現場をみていなかったとはいえ、知った人間が同じ日に二人も亡くなることはユウトにとっては初めてのことで動揺していた。


 あの紫ローブの奴らが来ていたらしく、ユウトを狙う人物の差金に違いないと決めつけても良いだろうと思っていた。


 そして、紫ローブの奴らが初めてユウトに関係する人物の命を奪ったという事実が頭から離れず、ユウトの心を酷く締め付けた。


 もしもっと早く、一日でも早く目覚めていればと自分を責めた。責めたところで過去は変わらないがそう思わずにはいられなかった。


 これが今はイシュメルとユーシンが犠牲になったが、ローシアとレイナがターゲットにされてもおかしくない。今日の廃村の一件はたまたまユウトが目覚める事で危機を脱することはできたが次はないかもしれない。


 そう思うと、今後自分が進むべき道の選択を間違えると誰かの命に関わる事を選ぶことになるかもしれない。自分が原因で誰かが死ぬという考えたくもない予想はユウトを恐怖で身震いさせて呼吸が乱れた。


 一度大きく深呼吸をしたところで部屋のドアがノックされると、ユウトはすぐに返事をした。


「ソマリです。お食事をお待ちいたしました。」


今日に限っては一人でいるのは寂しいので、仕事とはいえソマリが来てくれた事はありがたく、すぐにドアの鍵を開けた。


 扉を開けると笑顔のソマリが、盆に食事を乗せて持ち、礼をしてユウトに歩み寄る。

 

「ユウト様。お食事をお持ちしました。簡単なものですが。」


 ソマリは部屋の中央にあるテーブルに盆ごと置くと


「冷めないうちにどうぞ。」


 と、また一礼した。


「ちょっと待って。」


ユウトはソマリに近づいて、真実を探るように目をじっと見つめた。


「リンやアシュリーはどうしてるの? 」


 すぐに部屋に入ったユウトは、二人が今どういう状況なのか知らされていないり

二人は生きているのか、という質問として、ソマリは答えた。


「二人は健在です。ご安心ください。訳あって仕事はできていませんが……」


「本当に無事なんだね?」


 念を押して聞くユウトの目は真剣そのものだった。

リンやアシュリーの姿を見ていない事がユウトの不安を掻き立てていた。ソマリは一度大きく頷き。


「私たちはクラステル家にお仕えしています。エミグラン様はウソを嫌われます。私たちは嘘はつきません。」


 エミグランは嘘をつかない。

その言葉を思い出し、不安を少しだけ和らげる。


「そっか……二人ともこの屋敷にいるのかな?」

 

「……明日の朝にはユウト様の前に姿を見せると思います。」


 ユウトの何の気ない問いに対して含みのある言い方になってしまったかとソマリは少し動揺したが、ユウトはそれで安心したように、わかったよ。ありがとう。と告げるとニコリと微笑んだ。


 ソマリはユウトの部屋から一礼してから退室し、ドアをゆっくりと閉めると、小さく息を吐く。

ソマリはリンが今何をしているのかは本人から聞いて知っていた。屋敷のため、ユウトのため、単身でヴァイガル城に侵入しているところだ。

 廊下の窓に視線を向けた先はヴァイガル国がある。

月夜で静かな外の景色の先にいるリンの無事を心の中で祈った。



 **************


 リンはミストのセトに会い、ヴァイガル国に来る前にエミグランから預かった手紙を手にしていた。


 それをセトに渡してセトは訝しげに受け取り読むと、すぐに腰を上げて


「ついてきな。」


 と別室に通された。

 埃っぽい小さな倉庫の壁に手を当てると中には土を掘って作ったトンネルが現れた。


「……エミグラン公ともなると、この通路の事を知っていたんだねぇ……まったく、何百年記憶が残っているなんて、頭があがらないさね。」


セトは魔石でランプに火を灯して、中を照らす。


「エミグラン様が、この通路の事を?」


「フン……この通路はね、衛兵達から傭兵を守るために作られたのさ。エミグラン公がこの国にいる頃にはもうあったと聞いた事があるさね。」


 セトはトンネルに歩みを進める。リンも後について行った。



「これからどこに行くのか、と質問します。」


「決まってるだろ? 城内さね。」


「この通路が通じている……?」


「ああ。使ったことはないから先代の残した資料の中にこの通路の出口が全部書いてあってね……エミグラン公がこの通路の事を知っているとはねぇ……恐れ入ったよ。」


 手紙にはこの通路で城内にリンを連れて行ってほしいとのことが書かれていたのだろうと、リンはエミグランのはからいに感謝した。


 「すまないけどアタシは城内のことはわからないさね。 城内からは面倒見れないよ。」


 リンは小さく、ハイ。と答えた。


 しばらく進み、いくつかの坂を上り、ようやく行き止まりになった。


 セトは突き当たった壁を手探りで探すと、小さな石が埋め込まれている事に気がついて、指で引き抜くように外した。


 中は真っ暗で明かりはついてないが、奥から城内の温かい空気が流れ込んできて、土の通路が冷えていたことに気がつく。


「誰もいないさね。」


 と、セトが体を使って壁を押し始めた。リンも同じように体を壁に押し当てて向こう側に無理やり動かすように力を込める。


 地面と岩が擦れる音がして、ドアが開くように土壁がうごき、一人分が通れるくらいに開いた。

 リンは素早くその隙間を通り抜けた。


「……悪いがここからはアンタ一人で探しな。この先は昔は傭兵や賊を捕まえる牢屋だったところさ。今も使われているかわからないけど、捕まってるならそこにいるかもしれないさね。」


 リンは頷いてありがとう。と告げると、壁に手を当てて壁を押し込むと、開くときよりは簡単に動いて壁は二人がここまできた通路に蓋をする。


「礼はいいさね。私は商売で連れてきたのさ……でもアンタ……死ぬんじゃないよ。」


 リンは頷いて、まだ体で押し込むようにして土壁を閉じて振り返った。

目が慣れるまではすぐに動けないが、エミグランから預かってきた魔石を手にして握り込んだ。


 すると、リンのメイド服を含めた全身の色が徐々に薄くなり、しばらくすると透明になった。

 エミグランから預かった魔石は、リンが退治した賊が持っていた透明化の魔石だった。

 城内に侵入するにはうってつけの魔石で、エミグランから渡してきた意図も理解していた。


 リンは少し目が慣れて辺りを手探りも使って確かめると木箱や鎧や食器などが置かれている倉庫だと分かった。

 ドアらしきものが見えて近づき、ドアノブを握り込みゆっくり回すと鍵はかかっていなかった。


 音が出ないように気をつけながらドアを静かに開けると、セトの言っていた通り両側に牢が並ぶ通路に出た。


 明かりはなく、かなり年季が入っており、手触りで牢にサビがあった。

牢屋に誰か入っているような気配もなかった。触った牢の鉄格子には埃も付着しており、セトの言うようにここは使われていないかもしれないとリンは思った。


 突き当たりに向けて慎重に歩くと、丁字路になっているらしく、近くまで来て壁に背を当てて通路の様子を覗き込んで見た。


 すると奥の方に明かりが揺れていた。揺れ方からすると人形松明を持って歩いているようだ。


 リンの耳に僅かに足音と声が聞こえて、身を屈める。初めて使う魔石なので透明化になっていると思っているが確証はない。足音は二つ。もし見つかっても先手を取れたら問題ないと判断したリンは、スリットからククリナイフを取り出して握り込む。


 足音がこちらに向かってくる中、声がだんだんと形を作って言葉になって聞こえてきた。


「鍵はかけてきたか?」


「ああ。どんな力があるかは知らんからな。まああの部屋にいれば使えることもあるまいよ。」


「そうか……あの女、まだ口を割らないのか?」


「俺たちには何も話さないからわからんな。スルア大臣には話しているかもしれんが……それでも大臣は手放さんだろう。」


「……まったく……大臣の女癖の悪さは折り紙つきだな。いつか痛い目を見そうだ。」


「……そういうな。だが、あんな部屋に食事を持って行って食わせる係もやめたいな。」


「ああ……もう見ていられん。」



 足音は、リンのそばを通り抜けて反対方向へ消えて行った。


 あの女、と言うのはクラヴィの事だろう。明かりが見えなくなると同時に、二人が歩いてきた方向に走り出した。

 

 

通路は迷うことはなかった。部屋と言っていたから牢屋ではないだろう。

 ドアなどの入り口がないかを目を凝らして探す。


 リンの足が止まり、目の前にドアがあった。


「……あった。」


 ドアノブに手をかけると動かない。先ほどの二人の話の通り南京錠がかかっていた。


 リンはククリナイフを持ち替えて、上から振り下ろし鍵を破壊して蹴破るようにして部屋に入ると、人は誰もいなかった。

 石壁の部屋には机と椅子が一つあり、そばには金属でできた古い扉があった。



 机の横に鍵がかけてあった。そして、クラヴィの使っていたクナイが机の上に二本置かれていた。二人の男の話だとこの部屋にクラヴィがいるはずと鍵に手を伸ばす。

 この金属の扉の鍵と願い、手に取って鍵穴に差し込み回した。

 ガチャリと言う音が鳴ると扉に手をかけて開いた。



 中は木造の壁でできた部屋だった。部屋の中心の天井には鎖が二本垂らされていて、その先には両手首を拘束された一糸纏わぬクラヴィが座り込んで項垂れていた。


「クラヴィ!」


 リンが思わず声を張って駆け寄る。


 クラヴィは力なく首を上げると、目の前にいるのがリンとわかったのか、少し微笑んだ。


「……来てくれたのね。あなたにしては珍しい事をするから驚いたわ。」


「……! 私の姿が見えるのですか?」


「ええ。お婆様に透明化の魔石でももらったのかもしれないけど、この部屋の壁はマナの効果を無効化にする術がかけられてる。多分お婆様が作った部屋ね。悪趣味だわ。」


 リンはククリナイフを振りかぶって、まず二本の鎖をククリナイフで斬る。

 高い金属音が二つ響いて、クラヴィの腕は床に落ちた。


 手錠を外すにはナイフでは危険すぎると一旦部屋から出るべくクラヴィに肩を貸して部屋の外に出るため歩き出した。


「すまないわね……私の仕事のミスを取り返すために来てくれるなんて夢にも思わなかったわ。」


「クラヴィに質問があります。」


「……おばあちゃまの質問かしら? なら大抵検討はつくけど?」


「……私からの質問です。」


「あら、珍しいわね……何かしら?」


「……クラヴィは、エミグラン様を……屋敷の人たちを裏切ったのでしょうか?」


 クラヴィは歩みを止めると肩を貸していたリンも立ち止まった。


「……もしわたしが嘘をついたら、あなた嘘だってわかるのかしら? 嘘を見破る魔石でも持っているの?」


「いえ、そのようなものは持っていません。エミグラン様からも預かっていません。」


「そう……だとすると、おばあちゃまは信じているのね、私のことを……」


 クラヴィは、下腹部を撫でながら肩を振るわせた。


「どんなに力を手に入れても、女は結局捕まったら同じ……好きなように、欲望のままに扱われて、そして殺される……こんな部屋まで使って……」


「……クラヴィ?」


 クラヴィの目元から涙が流れ落ちた。

 まさか泣くとは思っていなかったので、思わずスリットに手を入れ、ハンカチを取り出そうとしたが、マナの動きが封じられているこの部屋では別次元の扉は開く事なく、何も掴み出せなかった。


 クラヴィは目元を指で拭って、この部屋を振り返って見た。そして金属の扉の方をみて、答えた。


「私は何も話してないわ。あの太った醜い男に。アイツは必ず殺す。絶対にね。あんな豚に屈するくらいなら自分から死を選ぶわ。私は裏切ってはないわ。」


 声に怒りがこもっていた。リンはこの部屋で何が起こったかはわからなかった。だが、今のクラヴィの目は涙の奥に怒りの光が見えた。


 きっとこの部屋ではクラヴィの言葉の通り、尊厳を踏み躙られるような事をされたのだろう。

リンは何も言えなかった。クラヴィは涙を拭ってリンに顔を向けた。


「お婆様に早く渡さなければならないものがあるの。この国が今どうなっているのか、早く伝えないといけない。リン、ここから出る方法はわかるかしら?」

 

 「ここから出る方法はわかりません。透明化の魔石はたくさんあります。」


「透明化の魔石だとおそらくバレるわね。とりあえずこの牢をを出ましょうか。多分私の力があればでられるはず。アルトゥロに見つからないようにしなきゃ……」


 金属の扉から出ると、リンはスリットに手を入れて大きな布を取り出した。クラヴィに羽織らせて、体を隠す。

 クラヴィは机に置いてあるクナイを手に取り、リンの手を握った。


「いくわよ。」


 クラヴィの掛け声と共に、二人は部屋から消えた。

 

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