第三章 22 :染み込む言葉
夜だったからかもしれない。闇に包まれた場所に信じられないほどの大きな光の柱が立ち昇った。
それが今まで見たことのない大きさであれば、良きように見る人が見れば天使や、大袈裟に神が現れたという人もいるだろう。
だが、神を信じないものが見ると悪魔やこの世の終わりの光と見られただろう。
だが、レイナとローシアは知っていた。
その光は、深緑の光は、ずっと目覚めるのを待っていたあの人のものであると。
レイナは、ローシアが叫んだ直後に深緑の光に包まれた。
もう懐かしいというほど時間が過ぎていたようにも感じていた。懐かしいと感じたから、その光を放つ人物が背中で動いた事が信じられなかった。
ずっと、ずっと待っていた。
ユウトはレイナの肩を二度軽く叩く。
「ありがとう。レイナ。」
待ち望んでいた声が後ろから聞こえて、涙を堪えられるはずがなかった。
一時は命すら危うかったユウトが目覚めた。
エオガーデ達は深緑の光に恐れ慄いた。五十人のエオガーデはユウトを知らないが、本能でこの光には近づいてはならないと警告を発していて、身動きすらできず今ここからすぐにでも逃げ出すようなそぶりを見せる。
ユウトはレイナの背から降りて自分の足で地面に立つと、ゆっくりと後ろを振り返った。
右腕には、まるでガンドレッドのような深緑のマナに包まれた一際大きな右腕がある。
エオガーデはその右腕に近づいてはならないと脚が自然と後退りを始めた。中には歯を鳴らして怯える者もいた。
「……遅いのよ。アンタ……起きるのが。」
エオガーデの鎖に絡まっていたが、ユウトの覚醒でその力は鳴りを潜めてただの鎖にまで成り下がっていた。
ローシアは鎖を重たそうに退けて、ユウトとレイナの元に駆けよろうとしたが足を挫いたらしく、少し顔が歪む。
「大丈夫? ローシア。」
ユウトがすぐに自ら駆け寄った。レイナも後に続いてヒールの光を手に集めていた。
「大丈夫。すこしひねっただけね。」
「そっか……よかった。」
ローシアはユウトの顔を見て少し大人になったように見えた。なにかつきものが落ちたようにスッキリとした面持ちだ。
「それで、断ち切るべきものは切ってきたのかしら?」
「……そうだね……うん。きっと断ち切れた。だから戻ってこれたのだと思う。この世界にね。」
「そう……ならよかったわ。とは言え、この状況をなんとかしないとね。」
見回すと、後退りしているとは言え囲まれた状況に変わりはなかった。ただ、今は襲ってこないだけだ。
「エオガーデ……こんなにたくさんいるんだ。」
ユウトはこの世界で起きることは受け入れられている。たとえ自分が屠った人間でも蘇ることもあるし増えることもあるだろうと。
普通だとありえない事だが、この世界でまだ知らない事が多いと自覚しているユウトは、ありえない事が起きても受け入れられている。
自分が二度生き返った経験があるからというのもあるだろう。
体験に勝る経験はない。ユウトはこの状況でも非常に落ち着いていた。
威嚇するように視線鋭くエオガーデを視線で抑える。
アルトゥロは苦虫を噛み潰したように顔を歪めて爪を噛んでいた。ユウトのマナが尽きかけていることはユウトの体を調べてわかっていた。
もう虫の息で、ユウトが死ぬにしてもアルトゥロが思い描く最終的な目的を果たせるだろうと踏んで『用無し』と判断した。
だが、今目覚めてマナに愛された者の姿を存分に見せていた。
アルトゥロは愛しき人がまた奪われ、身を火花で焦がすようにチリチリとした痛みを感じるほど悔しさが全身を駆け巡っていた。
「……なるほどなるほど。どこまでも私には縁のないお方ということなのでしょうか……試さなければ……ええ、ええ!試さなければ!試さなければなりません!!」
アルトゥロは右手を上げて振り下ろすとエオガーデに指示を出した。
「三人ともこの地に血と骨を埋めるのです!今すぐにです!」
エオガーデはアルトゥロの命令となると恐怖はよりも命令が優先されるらしく、表情が切り替わり三人を取り囲む。レイナとローシアはユウトに背を向けて身構える。
ユウトは一度深呼吸をした。そして深緑の右腕の感触を確かめるように何度か拳を握った。そして振り向かずにレイナの名前を優しく呼んだ。
「レイナ、実は思念になっていたとき右手がずっと温かくてさ、きっとレイナが握っていてくれてるんだと思っていたんだ。まず最初にお礼を言うべきだって思ってたんだ。本当にありがとう。」
レイナは鼻の奥がツンとして涙が滲んできた。自分が意識のないユウトが辛く苦しんでいるところをずっと見てきた。ユウトが思念となって何を見てきたのか、何を断ち切ってきたのかはわからないが、耐えてきたのはユウトも同じなのだと思っていた。
そして、レイナの想いはちゃんとユウトに伝わっていた。それがどれだけ嬉しかったかはレイナの涙が表していた。
「いえ……お約束したことですから。」
「ローシアもありがとう。きっとレイナのこと見守ってくれてたんだよね。」
「……まあ、レイナの仕事を変わるくらいのことはね。そんなの別にどおってことないんだワ。」
ツンツンしたローシアだがいつもより声は明るかった。ユウトは明るくなったローシアの声を聞いて少し口元を緩めた。そして深緑の右手を前に出す。
「三人で生きて戻る。絶対に!」
「そうね。もうこの鎖女達の相手も飽きてきたんだワ。」
「はい! 必ず三人で!」
ユウトは深緑の拳をグッと握り込むと、右腕が深緑の光を強くする。
「レイナ達には……指一本触れさせない!!」
振りかぶって地面を殴ると、深緑の衝撃が波状にエオガーデの足元へ伝う。
触れた者、寸前に避けれた者がいたが、触れた者はまるで電気が全身を巡るように痙攣した。
「マナがエオガーデの中で相反する刺激を与えている……さすが愛しき人。マナの扱いを心得ているようですねぇ……」
ユウトは殴った地面の拳を開き、地面を撫でるようにして前方に間合いを詰める。
そして横から引き裂くように右手を振る。
「うおおおおおおおお!!!」
――優斗……アンタがどんな思いで学校に行っていたかわからなくてごめんね。お母ちゃん、鈍感だからわからなかったんだよ――
振るった右手に引き裂きかれるようにエオガーデの体が分割されると、まるで泡のようにエオガーデが消えてなくなった。分銅が無数にユウト目掛けて貫こうと勢いよく飛んでくるが、深緑の右手に吸い込まれるように掴まれてしまう。
「絶対に……絶対に守る! 誰も傷つけさせやしない!!」
――父さん母さんに心配させたくないと頑張ったんだな……もう少し早く気がついて声をかけておけばよかったと今でも思う。優斗がいないと思うとな……いい歳したおじさんだが、泣けるんだよ……ハハッ……でも、夢だとしても、やっと……やっと会えてこれほど嬉しいことはないぞ――
分銅を握りしめて上に振り上げると、鎖の先の数人のエオガーデが宙を舞った。
ユウトは飛びあがると、空中で姿勢が崩れているエオガーデを右手で引き裂くと、また存在そのものが泡が弾けるように消えた。
「……何をやっているのですか! 姉妹からやってしまいなさい!」
地上にいたエオガーデは、アルトゥロの命令通り、視線をユウトから姉妹に移して、操る分銅が姉妹を四方八方から狙い撃つ。
「お姉様!」
「……くっ!」
ユウトの目に赤い炎が宿る。
「……絶対に……守る!! うおおおおおお!!!」
――優斗。あんたが守りたい人がいると言うのなら、しっかり守ってあげなさい。私達は優斗を守る事ができなかったからそんなこと言えたことではないかもしれないけど……――
――お前にもう触れてやることも励ましてやることも出来ないが、父さんと母さんはお前の味方だ。どんな事があってもだ。――
ユウトは地上に落ちながら右腕をまた振りかぶり、
レイナ達に分銅が届く前にユウトの拳が先に地面に届くと、深緑のマナが地面に三人を円筒状に包むように勢いよく吹き上げる。
分銅は吹き上げる光に巻き込まれると全て上空に打ち上げられ、つながっていたエオガーデ達も勢いに逆らえをず鎖に引っ張られて吸い込まれるように空へ飛び上がった。、
空に舞い上がる無数のエオガーデの無力な様子をただ眺めるだけで、ユウトの深緑の力を使いこなす姿を見ているローシアは、ヴァイガル国でユウトが覚醒したところを目撃した時とはまた違う強さを感じていた。
「すごい……」
地表から噴き上げたマナはユウトの体内のマナではなく自然界のものだ。あんな大量のマナを人体で保持しておくことは出来ない。あんなに激しく動きながら、目に見えるレベルで自然界のマナを扱える人間なんで思い当たらなかった。
そしてエオガーデが空から落ちてくる。
鈍い音を立てて地面に激突し、阿鼻叫喚が至る所から聞こえてきた。
エオガーデは打ち上げられた高さから地面に無事に立てるはずもなかった。
鎖が落ちる金属音、骨が砕ける音、肉を突き破る音。雨のようにとは例えられない激しい音が鳴り響く中、ユウトはそれでもまだ口角の上がっていたアルトゥロを一点睨んでいた。
アルトゥロは、この結果を満足しているように見えた。
ユウトに向けて首を横に傾げて、何か?と言いたげにユウトを見ていた。
「……愛しき人よ。あまり調子に乗らない事だね。今日のところは引き下がるけど、私は君を諦めたわけではないからね。また近いうちに会おうか……そう遠くないうちに……ね。」
アルトゥロは魔石を握り込むと、その姿を消してしまった。
ユウトはアルトゥロが完全に消えると、深緑の右腕は元のユウトの右腕に戻っていった。
そして、姉妹に振り返る。
「……遅くなったけど……ただいま。」
申し訳なさそうに告げると、ユウトの首が締まる。
「ぐえっ!!」
「ユウト様! ユウト様ぁ!」
泣きじゃくるレイナが的確にユウトの首を絞めるように抱きついてきた。
「……ぐ、くるしいっ……て」
レイナの肩をタップすると、慌てて離れて頭を下げるレイナが懐かしく思えた。
ローシアはいつもの光景が帰ってきて安堵したのと同時に、ユウトが自分の意思で戦った事に大きな成長を感じていた。
「……ま、アンタも少しは成長したみたいだし。」
「そうかな?」
ローシアは、ユウトの右腕を叩いて
「……ありがと。助かったワ。」
なぜか少し言いにくそうに感謝を述べた。出会った当初を思えばまさかこんな短期間で助けられる側になるとは思っていなかったローシアは、ユウトの顔もあまりまじまじと見る事ができなかった。
「……うん。僕にも出来たよ。二人を守る事が。」
ローシアは正直なところ嬉しかった。これまで姉妹は人間に助けられた事がなく、二人の力でこれまでいろんなことを乗り越えてきたなかで、ユウトに助けられて信じれるようになり、ローシアにとってもユウトの存在は大きくなっていた。
「ところでさ、あの逃げた人は……」
ユウトはアルトゥロのことが気になっていた。それは姉妹ももちろん気になっている人物ではある。ローシアは少し悔しそうにして
「あの男はエミグラン様が何かを知っているはず。ユウトをさらわれたのだから、何か聞き出してみるのもいいかもしれないワ。」
「ええ?! 僕はさらわれたの?!」
ユウトが驚くとレイナの顔が暗くなる。
「……申し訳ございません……屋敷が襲撃されてしまって、ユウト様がこの場所にいると聞きつけてお姉様と共に……」
「屋敷が襲われた?! だ、大丈夫なの? エミグランさんとかタマモとか、リンとか……」
ローシアは呆れるようにユウトの方を見た。
「襲われたのはアンタをさらうのが目的だったのよ。なに呑気なこと言ってるのかしら。それにあの屋敷に住む人たちはアンタが思うほどやわじゃないワ。」
確かに……とユウトがしょげた顔を見せると、まだあまり変わってないかも、とローシアが両手を広げてため息を吐く。
レイナは二人のやり取りを見て、今までの日常が帰ってきたと胸が熱くなっていた。
その矢先のことだった。
三人で話している最中、後ろに気配を感じたレイナが、刀の柄を握って突然後ろを振り返った。
「誰っ!」
レイナの後ろにあった建物の影に、びゅっと隠れた影が一種見る事ができた。
「どうしたのかしら?レイナ。」
「……誰かがいます……」
「……ほんとに? エオガーデの気配はなかったけど?」
ローシアがレイナの睨む方へゆっくりと歩き出す。レイナとユウトは歩く背中を見つめていたが、レイナは刀の柄を握っていつでも抜けるように構えていた。
ローシアは、レイナが見つめていた半壊している建物に近づいた。
簡単に近づいたのはレイナが警戒するほどの気配を感じていないからだ。
だが、レイナの感は正しく確かにそこに人はいた。
木の影と暗闇に紛れて姿ははっきりと見えなかったが、顔を背けて屈んでいた。
「そこのアンタ。ここで何をしてるのかしら?」
ローシアは優しく声をかけたつもりだったが、こちらを見る気配はない。
「……アンタに声かけてるんだけど……聞いているのかしら?」
少し強めにローシアがいうと体をピクリと反応させて頭を抱えて塞ぎ込むように背中を丸くしてしまった。
厄介ごとに巻き込まれそうな予感がして、また大きなため息をついたローシアの後ろからユウトが顔を覗かせた。
「わ 本当にいたんだね。レイナのカンってすごいね。」
「それ、アタシに鈍感って言いたいのかしら?」
とユウトをじとりと睨む。
「え?! いや!そんなことはない……です……ハイ。」
どもるユウトの反応を首を横に振って、屈んで怯える人物の前にしゃがみ込んだ。
「ねぇ、アンタはどこか……ら……」
と言葉を続ける前にローシアは飛んで離れた。
そしてローシアは魔石を取り出してしゃがみ込む人物を照らす。その人物の顔がこちらを向いて明らかになった。
「……エオガーデ……」
紫のローブを羽織って怯えてしゃがみ込み、助けを乞うような様子のエオガーデは、戦意は見られない。
それどころか命が奪われる恐怖で怯えて震えていた。レイナもいつの間にかユウトのそばで刀を抜いて構えていた。
「まだ一人残っていたとは……」
レイナの刀が魔石の光に反射し、エオガーデの目に入ると余計に怯えたエオガーデは、悲鳴を上げることも出来ずに腰を抜かしたように座って地面を蹴りながら後退りし始めた。
「アンタ……えらい怯えてるわね。戦う気は無いのかしら?」
レイナがエオガーデの前に出た。その顔は怒りを噛み殺していても、体の反応は抑えきれずこめかみに血管が浮き出ていた。
「……私は許しません。斬ったところであの記憶が消えるわけではない……けれど、消えないからこそ許せない!」
レイナは刀を持ち直して上段に構えた。
エオガーデの後退りは、壁に阻まれて逃げ場を失った。あわあわと口を動かしながら涙と鼻水が溢れていた。
「……さようなら。」
刀を握り込み、一刀両断せん勢いで振り下ろした。
――優斗……あたしたちは、あんたがとても優しい子に育ってくれて、本当に感謝しているの。だから、これだけは言わせてほしい。辛い思いをさせてごめんなさい……ごめんね……優斗……母ちゃんはあんたのことを愛しているからね……――
――父さんは信じているぞ。お前が自分の中にある正しいことを貫ける子だと。そしてもう間違えるな。そんなに泣くほど後悔しているなら……もう泣くんじゃない。いいな?――
レイナの振り下ろした刀は、深緑の手によって受け止められた。ユウトがエオガーデを守った。
「……ユウト様!」
驚いたのは姉妹だ。
深緑の右腕が出てきたこともそうだが、エオガーデを守るとは思っていなかった。
「何のおつもりですか! この……この女は……ユウト様を……!」
「僕は生きてるよ。レイナ。」
「!!」
「だから刀を納めて。お願いだから。」
レイナの刀は微動だにしなかった。ユウトの右手を斬れるわけがないが、それよりもユウトの右手が刀をこれ以上下ろせることができないほど反発する力を刀を通じて感じていた。
これ以上のやり取りは不毛と判断したレイナは刀をあげて、鞘に収めた。顔は全く納得していない。
「……ありがとう。レイナ。」
「……」
「この子は戦意もない、そしてさっきまでいたエオガーデとも違うよ。凶悪なエオガーデでもないし。一旦屋敷に連れて帰ろうよ。」
あまりにも危険な提案に反対したのはローシアだった。
「アンタ、自分で何を言っているのかわからないのかしら? 敵よ!こいつは!」
と怯えるエオガーデを指差して大声を張り上げた。
「……うん。エオガーデは確かに敵だった。でも彼女は僕が殺したんだ。それでもう終わりなんだよ。この子はエオガーデじゃない。エオガーデによく似た別人だよ。」
「別人? 何言ってんのよ!」
「別人だよ。人間は消えたりしない。きっとあの男が魔法が何かでエオガーデに似た何かを作ったんだ。全くの別のものだよ。」
ユウトの言っていることは一理あった。
戦ってみてエオガーデのような強さはなかった。別の人間とは思えなかったが、アルトゥロが使える魔法の類と考えるとユウトの言い分は理解できた。
「瓜二つだからっていう理由で手を出す事は違うと思う。僕たちを殺そうとしているなら話は別だよ。」
「しかし!その女は!」
反対するレイナはそれ以上言葉にできなかったが、ユウトはレイナの言いたかったことを察して優しく答えた。
「この人はただ怯えているだけ……さっきのエオガーデのような力もない。僕はそんな人と戦えない。見た目がそっくりだからと言って、それが戦う理由にはならないよ。」
レイナは表情こそ強張っていたが、心の中では目から鱗のように怒りが剥がれ落ちていった。確かに見た目だけで判断していた。あまりにも弱々しいエオガーデは何か企んでいるようにも見えない。むしろアルトゥロに捨てられたと言う方が正しいかもしれなかった。
「だから、まず屋敷に連れて行こう。そこでエミグラン様の話を聞いてみよう。それからどうするか決めればいいよ。無抵抗な人に手を出す事は間違っているし、彼女も命を奪うようなことはしないと思うし、僕がさせない。」
強い意志を持って自分の意見を言うユウトの言葉を遮ることはできないと目を見て判断したローシアは
「わかったわ。もう……仕方ないんだワ。連れて帰りましょう。」
レイナは自分の未熟な思考を悔やみ、心を落ち着かせるために呼吸を整えてから
「わかりました。ユウト様がそうおっしゃるなら従います。」
と刀をおさめた。
ユウトはエオガーデに手を差し出して立ち上がるように促すと、エオガーデはユウトの目をじっと見つめて、敵意がないことを分かったのか手を握り返して立ち上がった。
「……心配しないでほしい。君が何もしなければ僕たちは何もしない。」
ユウトの言葉の意味は理解できたのかはわからないが、エオガーデの見た目の女はユウトをじっと見ていた。
ユウトは手招きして、いこう。と言うと素直に着いてきた。
「ホント……アイツは器が大きいのかバカなのかよくわかんないんだワ。」
「……私はまだまだ未熟です。ユウト様のことをもっと理解しなくては……」
と姉妹それぞれに思うところはあったようだが、エオガーデの見た目の女を連れて歩く姿は二人とも全く想像できないもので違和感しかなかった。
完全に日が落ちて深い暗闇に落ちつつある廃村から四人が出てきた。
歩いて一時間くらいでドァンクには着くだろうとはローシアの談。ヴァイガル国で散々迷った事を思い出してレイナに聞くユウトに対して、前のように優しく姉をたてるレイナ。
その後ろには三人の背中を見つめて歩くエオガーデに似た女がついて歩いてきていて、たまにユウトが視線を送る。
ユウトは、夜空を見上げると大きな月が輝いて見えた。月を見ていると、もしかしたら遠い星にいるかもしれない父と母の言葉がリフレインする。
ユウトは、何度も何度もその言葉を体に染み込ませるように全身に行き渡らせるように思い出しながら歩いた。




