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僕と異世界姉妹が魔女の黙示録へ送る復讐譚  作者: ワタナベジュンイチ
第三章 : 帰国
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第三章 20 :紅白姉妹が守りたい愛しき黒

 エオガーデの操る鎖が五つの方向からローシア達を貫かんとばかりに襲いかかる。


「レイナ!避けて!」


 あの一撃の重さを知るローシアは回避を優先するようレイナに指示を出す。


「はいっ!」


 レイナも当然心得ていて地面を蹴って二人が別れるように避ける。

勢いついた五本の分銅は地面に刺さるようにめり込む。だが地面を抉り取るように五本の鎖は姉妹に標準を合わせて襲う。


五人のエオガーデの攻撃をギョロリと剥いた目で見つめるアルトゥロは、顎に指を当てて吟味するように見ている。


「ふむぅ……やはりオリジナルよりも力は落ちる……人体魔石も拒絶反応を示しているが……」


 エオガーデは五人とも目線を合わせて頷くと、五本の鎖のうち、二本が地面を這うように動く。

 草むらに隠れて動きを誤魔化すと、ローシアの足元から飛びだす。


「くっ!!」


 足元を掴まれたくないローシアが飛んで避けると



「お姉様!!右!!」


「!!」


 空中で身動きが取れない隙に、右から二本の分銅が、ローシアの顔と脇腹に迫る。


 ――避けれない!!――


咄嗟に顔を手で隠して顔への攻撃は、重々しい分銅を手のひらで受け止めたが脇腹は直撃した。


「……ぐっ!!」


 ローシアの顔が苦悶に歪み、分銅の衝撃で飛ばされると、レイナもローシアの方へ一足で飛んで近寄ろうとするが、ローシアに気を取られている間に左腕に鎖が絡む。


 ――!!――


 左腕に絡んだ鎖を操る一人のエオガーデがニヤリとレイナに笑むと、あの時の記憶が蘇ったレイナは、こめかみに血管が浮き上がる。


「許さない……ユウト様を、お姉様の命を狙う者は……誰であろうと許さない!」


 右手の刀を握り込み、鎖と鎖の繋ぎ目を刀で切り上げると、甲高い金属音と共にレイナの左腕を掴むように絡んでいた鎖を断ち切る。


 だが、もう一人のエオガーデが、レイナの背中側の建物に鎖を操って分銅をめり込ませると、鎖を掴んで引き寄せるように引っ張り一気に間合いを詰めてきた。


「……!!」


 獲物を狩る歓喜の顔が隠せないエオガーデの手には、あの夜とは違う少し小ぶりの剣を握ってレイナの首を狙ってきた。


「レイナ!」


 エオガーデの歓喜の顔にローシアの飛び蹴りがめり込み、軌道を無理やり変えられてレイナの横をすり抜け地面を転がって建物の壁に激突した。


 脇腹の痛みを堪えながら地面に着地したローシアにレイナが駆け寄る。


「お姉様!」


「……大丈夫……くらってわかったんだワ。アイツ、本物よりも鎖の力は弱い。あの夜にくらった痛みからすると半分以下ね。」


「半分以下……でも五人もいたら……」


 意思の疎通が会話しなくても取れているかのように攻撃を合わせてくる。

 たとえ一人が本物のエオガーデと比べて半分以下としても五人いたら話は変わってくる。


「理想は各個撃破かしらね。でも連携取れてるうちは難しいかもしれないワ。」


 レイナはエオガーデを目で牽制しながらローシアの意見を聞いていた。

 恐ろしいまでのレイナの殺気は確かにエオガーデ達には効果があるようで、かかってくる気配はなく、姉妹の様子をうかがっていた。


「とはいえレイナ。一人ずつやるワ!」


「はいっ!」


 ローシアが一番手前のエオガーデに一足で間合いを詰めて、右拳で顔を狙う。

 鎖が浮き上がりとぐろを巻いて盾状に防ぐとレイナも後から詰めて刀で腹部を切り上げた。


 近くにいたエオガーデの鎖が、斬られそうなエオガーデを守るべくレイナの刀に絡みつこうと伸びてきた。


「それを待ってたんだワ!」


 伸びてきた鎖の上に飛び乗ったローシアは綱渡とは思えないほどの速さで細い鎖の上を駆けて、操るエオガーデに詰める。


「おりゃあああああ!!」


 渾身のミドルキックが鎖を渡り切った先のエオガーデのこめかみに直撃する。鎖がレイナをに絡む前に


「レイナ!」


「はい!!」


 風の球を作り出したレイナは、ローシアに向けて放つと空気を震わせて直進する。

ローシアの前まで届くと、風の球を蹴りこめかみを蹴ったエオガーデの腹部に叩き込む。

触れた途端に腹部から背中に向けて圧縮された風の威力がエオガーデの内臓から背骨に伝わり、体をくの字に折り曲げる


「ぐええええ!!!」


空気が圧縮され放たれた力は、人体で耐えきれるはずもなく体内にあった空気を風の力を体外から食らわせることで口から絞り出させて、声帯を無理やり震わせて断末魔の声を出し切ると読み終えた本を閉じるように腰から折り曲げられ、無惨に地面に転がっていった。


「まずは一人!」


ローシアは相手に考える隙を与える間を与えずに次のエオガーデに間合いを詰める。


少し離れたところで姉妹の戦いぶりを興味深く見守っていたアルトゥロは、二人の連携を天性のものだろうと分析していた。


「さすがさすが。これはもう天から、いえ神から与え賜われた二人の生まれながら持ち得た絆。そう!! 絆です!! エオガーデは一人ゆえ絆など持ち合わせない。ですが、元は一人なのです。そう!!一人!!」


アルトゥロは、近くにいたエオガーデに近づくと耳元で


「あなた方はバラバラではなく元は一人なのですよ。それを意識しなさい。見えるものも一つ。考えることも一つ。わかりますね?」


エオガーデは、アルトゥロの方を見てうなずくと、全員が口角を上げて笑い出す。さながら同じ音で響く全くずれない四重奏だ。


ローシア達と間合いをとったエオガーデたちは、アルトゥロを背に横に並んだ。笑い声は止まったが広角は上がっていて、なにか姉妹の弱点を見抜いているかのような余裕すら感じる。

異様な雰囲気にローシアの警戒が強まって眉をひそめた。


「レイナ、気をつけて。明らかになにか変わっているんだワ。」


レイナも同じことを感じていたようで頷いた。

相手と距離を取って戦うことはローシアだけが不利になる。ローシアは単騎でエオガーデに間合いを詰める。

レイナもローシアの戦い方を熟知しているので、次にどうするかは予想がついていた。

各個撃破の方針は変わらず、向かって右端のエオガーデに向かうローシアを援護すべく風の球を手の上に作り出す。


「!!」


レイナの前に二人のエオガーデの鎖が襲いかかる。

寸前のところで横に交わすと、目の前に二人のエオガーデが剣を手にレイナに襲いかかる。


「くっ!!」


風の球を消して刀を抜いて剣撃を二つをいなす。


「お姉様!!」


援護ができないことをローシアを呼ぶことで伝えようとするが、エオガーデの鎖がレイナの足に絡む


「しまっ……」


バランスを崩したレイナの腹部にもう一つの鎖が、レイナの刀を持つ手に絡みつく。


「レイナ!!」


気を取られたローシアの両腕に、残りの二人の鎖が絡みつき拘束すると

アルトゥロは戦い方の変わった四人のエオガーデに興奮の拍手を叩く


「すばらしい!! すんばらしい!!! このアルトゥロを興奮させるほどの成長はさすがとしかいいようがありませんねえ!! さすが愛しきあの人の力!! 神となるべくして生まれた愛しきあの人の顕聖にして名代!!」



アルトゥロの笑い声に四人のエオガーデも共鳴して同じ様に笑った。


「フン……なめられたもんなんだワ。」


ローシアは至って冷静にアルトゥロに向けて言うと笑うことをやめた。


「……おやおや、これは失礼しました。しかしその状態でまだなにかできるのでしょうかねえ?」


「残念ね。アンタもやっぱり見た目で判断する程度の愚か者ということなんだワ。」


ローシアは両腕を拘束する鎖を両手で握って引っ張る。エオガーデにもその力が伝わって笑顔が消えた


「地面に足が付いてるなら、アタシが力勝負で負けることなんてないんだワ!!!」


ローシアの手に持った鎖を地面に叩きつけるように振り下ろすと、鎖を体に巻き付けているエオガーデの体まで衝撃が波のように伝わった。


「体に巻き付けていたのが運の尽きよ!!」


ローシアは両腕に力を入れて鎖を持って後ろに引っ張る。二人のエオガーデは腰を引いて耐えようしたが、ローシアのちからが二人を上回った。


「悪いけど……止められないんだワ!!」


エオガーデがローシアの腕力でバランスを崩すと、一気にレイナたちがいる方へ背負投をするように鎖で二人のエオガーデを引き寄せる。


「ほうほう。小柄な割には馬鹿力なのですねえ。」


腕に絡む鎖が緩み解き放たれるとローシアは、エオガーデの剣が届かない距離で鎖を掴み直すと


「レイナ!!伏せて!!」


声に反応しレイナは身をかがめると、ローシアは鎖を握りしめ、自分の足元を中心に円を描くように二人のエオガーデを引きずると回り始めた、引きずる先のエオガーデはローシアの馬鹿力に抗えず引きずられてしまい、やがて遠心力を得て二人が浮き上がる。そして回転速度を増していった。



「ギギギギギギ…」

「アアアアアアアアアアア!!!」


体に巻きつけていた鎖がエオガーデの体にめり込み、痛みに思わず苦しむ声が回って聞こえた。

ローシアの腕に絡む鎖は、眠るようにぶら下がり、ローシアの腕は解放された。

ローシアは回りながらレイナを拘束する二人の位置を見定めて、手に持っていた鎖を解き放つ。


「うおおおおおりゃあああああああ!!!!」


狙いは確実ではないがレイナの拘束と解き放ち回避させるには十分で、レイナを解放して近くに飛んできた仲間を避けた。

レイナもその隙に距離をとって、ローシアが駆け寄った。


「レイナ! 大丈夫?!」


「はい! しかし……」


相手の連携でできつつある。と続けたかったが

レイナはローシアがすぐにエオガーデ達を見やり巌しい顔に変わっているのを見てレイナも慌てて向き直す。

言わなくてもローシアはわかっていた。

先程までは五人がそれぞれ思い思いに攻撃してきていたが、アルトゥロがエオガーデに何かをいっただけでレイナから分断させられた。助言で戦い方が変わっていた。一人のエオガーデにしか話していないのに全員が理解しているかのように。

エオガーデが選択した戦法は、二人の分断だ。

分断されて二対一だとローシア達の分がかなり悪くなる。

今の状況だと各個撃破は、相手がフォローできない状態で成立するが、四人のエオガーデが補完するように動かれると完全に人数有利が障害になる。

次にローシアが単独で突っ込むと、今度は別の方法でレイナと分断される恐れがあった。

もしどちらかが戦闘不能に陥れば一人で戦うことは困難を極める。

一人になってしまったら勝ち目はないだろうと思い至るとローシアの顔は更に巌しくなった。


「まずいわね……なんとかしないと……」


アルトゥロは姉妹がエオガーデ達の様子が変わったことで攻めあぐねていると見て取れて笑いがこみ上げた。


「面白いです。実に面白い。戦いの中で進化して、私の右腕になれば愛しきあの人も認めてくれるはずです……私こそが世界安寧を顕現できる存在であると……となれば急がなくてはなりません。安寧のために奇人達を目覚めさせなければ……」


アルトゥロは、右手を上げると指を鳴らした。


「!!」


周りの建物や木々に隠れていたらしい紫ローブの一団がゆっくりと現れた。


「ま……まさか……」


レイナは取り囲む紫ローブの人数を目測で数えた。ざっと見積もって五十人はいる。


「ここを教えてくれた行商人……田舎者じゃなかったわね。本当に大人数だワ。」


紫ローブのフードを自らおろしたその顔は、エオガーデだった。

五十人のエオガーデが、鎖の先端についた分銅を無数に浮かべて、姉妹を睨んでいる。

いつでも分銅を叩き込めるように。


アルトゥロは、天高くまで届くように、そして勝利を確信したかのように高らかに笑った。


「ありがとう!紅白の姉妹よ! 君たちのおかげで一つ進化できた。残念ながらもう用はないのでね。あとは下僕となったエオガーデの個人的な遊びに付き合ってくれ。その白い剣士には何やら個人的に恨みがあるらしいからね……」


レイナとローシアは死角を作らないように背中を合わせた。


背中でローシアの声が聞こえた。


「後ろ、任せたワ。」


「はい。」


「アタシ達の宿命。悲願。叶えるためにはここを乗り越えないといけない。命をかけてもね。」


「はい。」


「必ずよ。必ず達成するんだワ。いいこと?」


「…………はいっ!!」



アルトゥロの右腕がまた上がって


「やりなさい! 熟した果実は潰れるか食われるかですよ!」


姉妹に向けて振り下ろされた。



**************




優斗は黒に染まる世界の中で部屋の真ん中で三角ずわりをしていた。

黒は染まり続けて、この部屋以外の殆どが染まり、この部屋が包まれるまで時間の問題だった。


――怖いのか……いや違う……怖いんじゃないんだ――


優斗は黒に染まっていくことに怖さがなかった。失うことが怖かった。

両親や見知った外の景色。自分がこれまで触れてきたものが消えてしまうことが怖かった。


部屋の外が真っ黒に染まり、もういずれにせよ全部黒くなる。黒くなったら命がどうなるかなんてどうでも良かった。


どうでもよいものには自分の命も含まれていた。


優斗がなぜ自分の命を失うことが怖くない理由はわかっていなかった。でも周りの人が死んでいくことは嫌だし、避けたいし、怖くて仕方がなかった。


だが、外が完全に黒く染まって、この部屋のドアの向こうも完全に真っ黒になっていることから、この世界にはもうこの部屋しか残っていないと思っていた。


もう失うものはなにもない。あとは自分の命だけ。


目の前に黒い点が現れた。

この点はすぐに大きくなってその場所を黒く染め上げる。

優斗はうつろな目で点を見ると


「やっと来たんだね。おそいよ。」


と口元だけ笑って見つめた直後に点は巨大化した。

優斗は黒に飲み込まれて塗りつぶされた。そして、暗闇とは違う完全な黒の視界の中何かが軋む音が聞こえた




キィ……

  キィ…………


……なんだよこの音


キィ……

  キィ…………


聞いたことがある音……そうか……僕は……

僕は最後にこの音を聞いていたんだ……


キィ……

  キィ…………


いやだ……いやだ……思い出したくないんだ……忘れたいんだ……


キィ……

  キィ…………


やめてよ……やめてよ……やめてよ!!


キィ……

  キィ…………


悪かったよ! 僕が悪いんだ! 僕が悪かったから! だから許してよ!!!



今、優斗自身が自分の体がどの様になっているかはわからなかった。

しかし、世界が黒に染まったことでようやく思い出したことがあった。


この音は自分が本当の『最期』に聞いた音。


もう優斗は自分が笑っているのか泣いているのか怒っているのか。

そんな自分の感情さえも黒く塗りつぶされたようにわからなくなっていた。


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