父親が乗り込んできた
《《おーい!!砂男~!!!いるんだろー!!!》》
《ドン!!ドンドンドン!!!》
《こ、困ります!!すみません、樫村さん…出てあげてもらえます?お父様、昼間にも来られて…》
音割れしている、インターフォンの声に。
……声に。
「…スーちゃん?どうかし
「今、開けます。」」
……ピッ
マンションの出入り口のロックを解除して、部屋の、鍵を。
鍵を…開けないと。
……ああ、もうじき、もう、すぐに、来る。
どうしよう、アッシュ君がいるのに。
ついに、来た。
ずっと、恐れてた。
二か月前に、女性専用マンションから…一般マンションになった時から、ずっと。
バレてしまった、バレたくなかった人に。
もうこの場所は。
もう、この……場所は。安全な、守られている場所では、ないって……。
自分の、……体温が。
ぐんぐん下がっていくのが…わかる。
「ごめんね?ちょっと…ここに、座っててもらってもいいかな?えっと、なるべく頑張ってすぐに返すつもりだけど、長くなったら…帰るの遅くなっちゃう、かも。予定とか、大丈夫?」
「うんだいじょうぶ。ここに座って、…待たせてもらうね。泊ってってもい
……どた、どたどた!!どかどかっ!!!
部屋の外から、足音が聞こえてくる。
急いで玄関に向かって、鍵を開けた、瞬間。
だんっ!!ガチャっ!!!どごっ!!!
私の、目の前で、ドアが開いて。
「チッ!!!何だあのクソバアアは!!親だっつってんのに鍵開けねえとかふざけんなよ!つかさあ、砂男も休みの日にのたのたと出掛けてんじゃねーよ!!おかげで
「お父さん、もう夜遅いの、だから声を小さく…
……ああ、ダメだ。
「はあ?!まだ九時だぞ!!!小学生かよ!!!相変わらずオメーはガキ丸出しのションベンくせえ暮らししてんなぁおい!!!今からがはしゃぐ時間帯だろうが!!!」」
「ごめんなさい、ドアだけ閉めるから
指先が……震えてる。
バレないように、しないと、また。
必死で、親指を握りこんで、力を、込める。
……大丈夫、震えてなんか…いない。
「ふん!!しょぼくれた顔して実の父親迎えてんじゃねーよ!!もっとかわいく媚びる事が出来んだろ?!俺そっくりな顔で暗い顔すんなよ!気分わりーだろ?!酒出せ酒!!俺らぁムカついてんだ!!あがるぞ!!!どけっ!!」」
この、怒鳴り声を……聞くだけで。
体が。
頭が。
心が。
……息、が。
ダメだ、景色が……モノクロになる。
目の前から、色が……消える。
堪えろ、直。
耐えて、私。
がんばれ、……自分!!!
「ごめんね、今日は、お友達が…来て
「ツレぇ?!クソボッチのお前が?!ウソついてんじゃねえぞ!!!とっととそこをどけってんだ!!!ガキのくせにしゃらくせえぞ!!!」」
「今日は帰って、お願い。連絡もなしにいきなりこられたら困るの、前にも言ったでしょ
「親が子供に気ィ使うかよ!!!バカじゃねえの?!子供のもんは俺のもん、テメーの都合なんざ知ったこっちゃねーよ!!!俺の都合を優先すんのが子の役目だろ?!俺さあ、ちょー困ってんだわ、ミーちゃんとケンカしちまって!!あのブス鍵替えやがってよぅ、家に入れなくなっちまってよぅ!!!あいつマジ心せめーのな!!!ちょっとお姉ちゃんと一発やったくらいでうるせーんだわ!!俺めっちゃかわいそうだろ?!ちょー働いてんのにさぁ!!つーわけで今日からしばらくここに住むから!俺年老いてるし腰がすぐ痛くなるからベッド譲れよ!!若くて元気満々の砂男は床で寝ろよな!!あと灰皿出しといて!!!なかったら茶碗でいいから!!!」」
ダメだ…口をはさむ、隙がない。
言わなきゃいけないことが、口に、出せない。
「スーちゃん、この人だれ?」
大騒ぎしてるお父さんが気になっちゃうのは…仕方ないよね。
出てきちゃうよね、そりゃ……。
アッシュ君が…お父さんと。
お父さんの、目の前に。
ああ、どうしよう。
ダメだ…頭が、回らない。
「おおっ?!マジか!!!このメスガキ父親も招待しねえでオトコ連れ込んでやがった!!どういう親不孝もんだよwwwなに、アンタこんな男女と付き合ってんの?ちょ、今からもしかしてヤルとこだった?!わり~ね、今日からここは俺が住むんで!!!とっとと出てってくんねー?俺パチンコのし過ぎで疲れてんだわ!!あ、将来息子になるんだったらさ、出てくついでにセッターワンカートン買ってきてよ、それぐらいの貢ぎもんしてくんねーと困っちまうわなぁ!!ま、素直に買ってきたら結婚は反対しねーって約束してやってもいいからさ!!!」
「…今日は僕が泊まっていくのでごめんなさい。父親さんには、宿泊代を献上します。これで、今日はお帰り願いたいですが駄目でしょうか?」
私が黙り込んじゃったから、アッシュ君が。
……アッシュ、くんが。
「ああん?!何言ってんのお前?惚れた女の親に出てけってか!!!しけた金掴ませて追い出そうとしても…ッ?!」
「足りませんか?小夏日市の一番高いホテルが一泊19800円です。ルームサービス分も合わせましたが、あとどれくらい必要ですか。お父さんのためにお支払いしますよ」
ダメ、ダメだよ、アッシュ…。
どうしよう、言葉を、ダメだよって止めないといけないのに、声、が……。
ダメだ…目線を、あげる事すら、……私には。
「この倍だな!!!今すぐここを出てやってもいいが、迷惑料が足りねえ…つか、こういう時に男気が見せられない奴に砂おと…俺の大事な娘をやることはできんな!!!誠意、見せろよ!!なっ!!!」
「倍…ええと、今渡したのが五枚円、迷惑料…
「俺が計算してやっからそのダサい札入れ貸してみ!!!…つかさぁ、若もんがこんなに金持ってたらダメだろー、しゃあねーな、俺が中身全部預かっといたるわ!!明日パチンコで五倍にして返してやっから!!!がはは!!また来るわ!!!」
…バタン!!!
ドドッカドカドカ、ドカ、ドカ……。
乱暴な、足音が。
足、音が。
去って…いく。
「……スーちゃん」
どう、しよう。
ダメ…返事が。
のど、が。
手が…、目線が、あげられない。
ジッと、赤土と、砂利が飛び散っている、玄関の。
コンクリート部分の、すみっこを、見る、事しか。
「……ごめん、ゴメン、ね?アッシュの、お金……、すごく、失礼な、事…あの、あの人…私の、おと、おとう・・・・・・」
「…靴、靴箱に入れておいてよかったね。さすがスーちゃん、見直しちゃった」
ポン、ポン……。
私の、頭を。
そっと…叩く、この、あたたかい。
……あたたかい、ものが。
ポン、ポン……。
優しい衝撃を受けるたびに、私の目から、涙が。
ぽたり、ぽたりと、……落ちる。
「スーちゃん、…頑張ったね」
……ぎゅっ。
そっと、でも、……ぎゅっと。
抱きしめて、もらえたから。
私は、冷え切ってしまった、体を。
暖かい体に、そっと…預けて。
「…うん、……うん。うん、うん……」
落ち着くまで、泣かせて……もらった。




