やきもちが焼かれた
「はい、これモエちゃんにプレゼント、私とおそろいの、リストバンドだよ!」
ばばっさ!ばっさ!ばっさ!!!
無事イベントが終了し、少々の疲労感とこの上ない満足感に包まれている私は…ただいまタワマンの公園にお邪魔していましてですね!自腹でお買い上げした、おそろいの青いリストバンドをマッチョなポインセチアにプレゼントしていたり。
自分の右手についているリストバンドと袋に入っている新品を並べて見せてから、袋を開封して差し出す……うん、喜んでるみたい、よかった!うーん、でもどこにつけてあげようか…小枝が多くてちょうどいい太さの枝に付けられない…。タグを使って枝に引っ掛けるくらいしかできないカモ……。どうしよう、バンダナが品切れちゃったから妥協したんだけど、チョイスミスをしたかもしれない。
ぐぐ、ぐー!!
リストバンドを持ったまま、考えあぐねている私の目の前で、広がっている細い枝が…ぎゅっと集まって!!!
ちょっと待って、木の枝ってこんなにもしなやかで柔軟にぬるぬると形を変えることができるものなの?!いや、でもツルが伸びてダンスもしてたし、わりと自由自在に動いていたっけ、アアア!!器用に枝の先を使ってリストバンド広げて、まあまあ太い枝の根元に、と、届いたー!!!なんかこう、ぴったり枝にリストバンドがハマって、枝の指輪みたいになってる!
ばばっさ!ばっさ!ばっさ!!!ぐぐ、ぐー!!ぶわっさ、ばっさばさ!!ギギ、ぎぎぎぎぃイイイイ!!!
サイドチェスト!ダブルサイドチェスト!ダブルダブルバイセップス・フロントからのバックぅうううう!!!
めちゃめちゃ喜んでるなあ、いつも以上にマッスルポーズが決まっている!アアア、掛け声かけちゃおうか、かけてあげたら喜ぶよね?!
「モエちゃんすごい!ブルーリングが筋肉に映えてる!仕上がってるよ!え、ええとー!板チョコちぎりパン通り越して重箱の中にみっちり詰め込んだあんまんみたいになってる!」
拍手をしながら、テンション高くお声がけを―――!!!
「いいなあ…モエちゃん……。僕なんか……。」
ちょ?!燦燦とハイテンションオーラを振り撒くマッチョな木の背後から、実にテンションの低い、どんよりとした空気が!!!な、何でアッシュ君が落ち込んでるの?!あ、あんなにイベントの様子、ニコニコして見学してたのに!
「え?!なに、なんでそんなに落ち込んでる?!なんか変だよ?あの…なんか、あったの?」
そう、今日お迎えに来た時から、やけにこう…アッシュ君の様子がおかしかったんだよね。いつもだったらへらへらしながら、今日飲んだプロテインがどうのテレビで見た肉料理がどうの歩いてたら新種の人肉スーツを見ただの空に母船が浮いてたから退治しただの猫だと思ったら宇宙ゴキブリだったから二次元に持ってっただの、ず―――――っとおしゃべりしながらここまで来るはずなのに、今日はやけに唇を尖らせて私のイベントの話をおとなしく聞いていて…ちょっとは人の話が聞けるくらい成長したんだなって思っていたんだけど、どうも、違ってたみたい……。
「……スーちゃん、なんか、もち上げられてた。」
いつもにへらっと笑ってる大きな口元が…への字口になってる!!そ、その頭を下げて上目遣いでこちらを見上げる感じが…実にあざとい感じになってるじゃないの?!な、なんでそんな表情?!
「ああ、イベントのこと?あれは……」
えっと…それはたぶん、露木さんに持ち上げられた時のことを言っている?……あの時は確か…人肉社長と一緒に、こちらを見て笑っていたような、気がしないでも…あれ?
確か、アッシュ君は二時までの勤務時間を終えて、イベント会場にやってきたんだよね。で、お姫様抱っこ体験第一部で人肉社長がわがまま言ってる時に助けてくれて、プロテイン摂取タイミングについてのトークショーを一番前で聞いて、二・三質問して会場を沸かせたのち、お姫様抱っこ第二部の様子をニコニコして見学してて………。
いつご飯食べるんだろう、またプロテインだけ飲んでおなかぐうぐう鳴らしてるんじゃないのかなって心配した覚えが、ある。一言声をかけようかと思いつつ、忙しくてそれもできず、気が付いた時にはまたいつの間にかいなくなってて。で、露木さんにお姫様抱っこをされて、目を回したわけだけど…その時の様子を、アッシュ君は見てたって事なんだろうか……。
「僕も持ちたい!!持たせて!持つ!!今すぐ!!」
ヤバイ、なんかめっちゃ真剣な目!!若干緑色の目が血走っているような…ちょっと待って、この人こんなにも血気盛んな感じだった?!
……もしかして、これ…やきもち焼いてる?!どうみても、露木さんに対してめらめらと対抗心を燃やしているようにしか!
暴走気味ではあるけど、こんな有無を言わさぬような強引さは…うん、あったかも、でもなんかいつものへっぽこさがなくてちょっと…強引すぎて、怖い、ような気も……。しまった、ちょっと軽率な行動だったかも…、後悔先に立たずぅうううう!
「へっ?!ちょ、ちょっと待って、ええとー、私はその、持ち物ではなくてね?!あれはイベントの出し物的な奴で―!!!アッシュ君には私なんか持ち上げられないよ、だって私その…ろ、60キロもあるんだよ?!
」
「持ってみなわからんがや!!もたせれ!!今持つすぐもつもったああああああああ!!!!」
ばっ!!がしっ!!……ふわぁっ!!
ひとっこ一人いない、いやマッチョなポインセチアはいるけど!夜の公園のど真ん中で、いきなり、持ち上げられた…私、私いイイイイイ!!!!
ちょっと待って、めちゃめちゃ怖い、細腕で私のこと、持ってる!!!
安定感はあるけど、イメージ的な問題で恐怖感がハンパない、だってこの人私と同じ体重!!!同じ身長!!見た目どっちかというと中性的でマッチョ感のない草食系!!男らしさがにじみ出ない、優しい風貌、穏やかで無邪気な少年系の、頼りがいというよりは情けなさの方が目立つ貧弱寄りのォオオオオ!!!
バランスが崩れて落とされたらケガしちゃうかも、そしたら明日の山登りもなくなっちゃうし、落としたアッシュ君も落ち込んじゃうに違いない、これは絶対に落ちたらダメなパターン!!!私は両手でゴーイングマイウェイな不作法宇宙人の首に手を回し、ぎゅっとしがみ付きぃイイい!!!
目、目の前にアッシュ君の美しい顔!ほっぺ!首筋!耳!は、恥ずかしイイイイ!!!何このラブラブ!何このイチャイチャ!何この、何この、何この何この何このォオオオオ!!!
「わーい!スーちゃんだー♡僕のスーちゃんだぞー!ほーら、僕の方がグルグルできる!!みれ!!僕の必殺グルングルン!」
ぐーるんぐるん、グルグルグルグルグル……!!!!
「きゃあアアアアアアアアア!!!ちょ、ちょっと、あ、アッシュ!!!ダメ、ダメだってばあアアアアアアア!!!」
振り落とされないよう、よりいっそう両手に力を込めてしっかりとしがみ付く私!!!振り回されるGがすごくて、実を縮めて首にしがみつくっ!!!
クル、クル……ぴたっ!
勢い良く回っていたお調子者が、急にその動きを止めて!!!
ば、バランスが……く、崩れそうになって…!!!ヤバイ、落ちるかもっ!!
両手にギュッと、力を込めたらっ!!!
……チュッ!!!!!
ひゃはわっ?!
は、ははハハハハハはいイイイイイイイイイ?!わ、私、い、いイイイイイイイイイイ今!!!
あ、ああああああああアッシュ君にぃイイイイイいい!!!
き、キス、した!!!
耳の横、ほっぺの横、あごの上、とにかくそこらへんに、した!!!今、たった今アアア、絶対にした!
ちょっと待って、私今何した、キスした、自分からした、何でした?いやいやこれは不可抗力で、でもそんなことはたぶん宇宙人は全然分かんないはず、もしかしてキスしたいからしたって思われてる、キスしたいって私思った?思ってない、でもイヤなわけではいやいやちょっと待ったいったん落ち着いて、何とかしてごまかした方が良くない?でも万が一気付いてなかったら下手に動いたら余計に違和感が、ねえこの場合どういう行動をするのが正解?喪女には正解なんか導き出せそうにないんですけどおおおおおおおおおお!!!
自分のしでかしたことに目を見開いて固まっていたらっ!!!!!!!!!
……チュッ!!!!!
にっこり笑ったアッシュ君が!!!!!!
堂々と、人の唇、奪ってきたあああアアアアアアアアアア!!!!




