八重歯が光った
目の前の、恐ろしさのかけらもない、前髪のちょっと荒ぶっている、背筋をしゃんと伸ばした、今まで一度も見たことがない仙谷さんの姿に・・・混乱が収まりそうもない、むしろどんどん増してきて!!!!!差し出された手を、どうしても取る気になれない私がここに!!!さっきのさっきまで、私とアッシュ君に襲いかかってた人なんですけど?!信用…できるわけ、ない!!仲良く?!無理でしょ、絶対!!!
「あ、あの、ごめんなさい、仙谷さん?なんでここにいるんですか?その、もう帰ってください、すごく怖いです。」
少しだけ、横の俺様のパーカーを握りしめたまま、後ろに、ずれてみる……。正直、真正面からぶつけられた怒り?恐ろしさ?のダメージがハンパなくて、足が少し、震えている。……ダメだ、こういう時、私は、いつも…震えてしまって、なにも、出来なく、なる。……私は、弱い。
「スウ、もう大丈夫だ。怖がらないでいい。こいつは…すべてがぶがぶの管理下にある。おかしな暴走は、しない。」
「ごめんね、かっしー!おら初人間だから失敗も多いかもだけど、これからはちゃんと仙谷耀司として肉体が崩壊するまで責任持つから安心して下さい!」
大きな体の腰を折り、両手を合わせて頭を下げる…仙谷さん!!!恐る恐る目を合わせると…う、ウインク?!
ねえ、誰、これ!なに、これ!唖然、呆然とする私の手を、俺様がギュウと、……握る。…あたたかい、大きな、手に包まれて・・・少しだけ、落ち着きが。……うん、少し、恐怖が、薄く・・・なってきた。
「…震えてる。悪かった…ごめん。」
私を見つめる青い目が、…悔しそう。怖かったけど、私の事、守ってくれた。…感謝の気持ちしか、ない。
「えっと、その…うん、もう、大丈夫、あ、ありがと……。」
無理をして・・・微笑みを、向けてみる。
青い目が、まっすぐ私を見つめて……そっと、にぎりしめられた手が、離されて…、ああ、優しく抱きしめ、られ、た。…私、今、すごく……うん、安心、してる。……良かった、本当に…良かった。なにも、なくて。無事で、済んで。まだほんの少し恐怖の残る体を、アッシュに任せて…手を、背中に回し…目をとじ……
「いやー!!!人肉観察してたら遅れちゃって!時間ってのはホントめんどくさくて…ごめんちょです!!あ、しまったなラブラブの邪魔しちゃったよ、どうぞ、永遠にお続けください!!…いいエコーが漂ってるなあ、くう、うらやま!!」
漂う甘い空気を吹き飛ばすかのように、真正面からド直球にあっけらかんとずかずか踏み込んでくる人がここに!!!そんなこと言われて、うんじゃあ遠慮なくウフフってなる人、いると思ってるの?!あああ、でも、私ってば今、第三者の目の前でイチャラブを恥ずかしげもなくさらしてたよね?!思わず、私を抱きしめている手を少々強引に振りほどいて、姿勢を正す!!
「……時間管理もできないとか…ぬるいんだよ。こんなんで人肉制御できると思ってんの?」
めちゃめちゃ不機嫌な…三白眼で下から仙谷さんを睨み付ける俺様が隣に!!もしかして……ら、ラブラブを、邪魔されたから?!
「思うだけで満足するんじゃない、やるんだって教えてくれたのは大将でしょう!これからはきちんと制御していきます!!いくのですよ!!今後は全力で頑張る、っていうか、人肉になったから管理もくそもないです!!あとは老化して灰になるだけなので!!」
実に天真爛漫に、笑顔でちょっといい感じの事を言う仙谷さん…では、ない?よね?見た目は仙谷さんだけど、明らかに別人としか思えない。
「あの、…なんでここにいるんですか、仙谷さんの家、この辺りじゃないですよね?」
「うん!おら仕事クビになっちゃったから、かっしーも一緒にやめてもらおうと思って、命令するつもりで五時からここにいたんです!でも全然帰ってこなくて腹減っちゃって、コンビニ行ってめし買ってきて、その十分の間にかっしー帰ってきちゃってて!!電気ついてるの見て頭おかしくなっちゃったんです!ほらここ、こめかみのところに掻きむしった痕あるでしょ!!同じ階の住人が帰ってきたら一緒にドアを潜り抜けて部屋まで乗り込むつもりで待っていたんだけど、誰も来なくて困りました~!でも、部屋の電気が消えたのが見えたので、かっしーもコンビニに出かけるのかなって思って、大喜びしたんですよ!出てきてすぐに襲って叩きのめして持ち帰ろうと思っていたのです!!だけど男と出て来たもんだからエコーが暴走しちゃいました…。もう殺すしかないって思って、とりあえず男と泳がせて、玄関で隠れといて、戻ってきたら後ろからブス―ってやるつもりだったんですー!!死んでも硬直するまでに時間あるし、いろいろ遊べると思って!でもね、濃厚なチューしてるの見て、思わずショックで飛び出しちゃいましたね!!!いやー、すごいね、器が揮発するとこんなんなっちゃうんだねえ、エコーってホント面白いや!!」
・・・この、仙谷さんは、何を言っているの?一気にまくし立てられた言葉を、よーく、よーく頭の中で反芻してみる。首になった?一緒にやめてもらう?電気がついているのを見てた?叩きのめす?持ち帰る?殺す?かくれて、ブスー、硬直、遊ぶ……?ダメ、あまりにも聞いたことが、予想外で斜め上すぎて、全然理解が追い付かない。
「怪しげなエコー飛ばしてるのがわかったから…警戒していた。俺が帰るのを待ち構えてやがったから、引きずり出したのさ。」
「な、なんで?!なんで仙谷さんが私の事こんなに執着するの?!あんなに嫌われてたのに?!」
顔を合わせれば憎まれ口をたたかれ、私物を貸せばぞんざいに扱われ、小さなミスを大げさに叱責され、一度だって褒められたことも無ければにこりとも笑ってもらったことがないんですけど?!
「おらさあ、かっしーのこと好きすぎて暴走しちゃったんだよ、ごめんね!いつでもかっしーの告白を受けるつもりだったのに、ぜんぜん告白してくれなくてさ、腹が立って厳しくしちゃってたの、でも許してってエロくお願いしてくれたら許すつもりでした。まあ、一回殴り始めたら止まらない可能性が高かったし、手出さなくてよかったです。出すつもりで乗り込んでったけど、達人に邪魔されちゃったからねえ。エコー根こそがれて落ち着いたんだけど、ブログの愚痴読んじゃったら器もほとんど残ってないのに暴走しちゃいました。そうそう、おらかっしーの事だったらなんでも知ってるんです!家は二年前から知ってるし、ツイッバンダーもフォローしてたしインスタントもチェックしてたし、あと本人に言うのは何だけどいろいろと画像をありがたく頂戴して毎日何でもない!うふふ!!」
・・・ハイ?
はい?!
セ、仙谷さんが、私の事、好き?!そんなまさか!!というか、なんで私が告白?!許す?!自宅バレにアカウントバレ?!ブログまで?!メリーゴーランド内で私のSNS情報知ってる人なんて、一人もいないはずなのに!!!いつバレた、二年前から?!どうやって?!まさか私の後をつけた?!スマホを勝手に見た?!どこまで知ってるの?!どのブログ、どのアカウント?!
「こいつは、スウの事、求めすぎていたんだよ。身勝手で自己中心的な、ふざけた好意を勝手に暴走させて自滅した、人肉失格者なのさ。」
「かっしーだけがね、おらの事、否定しなかったのです。だから大好きだったんです!みんながおらのこと怖いとか出来が悪いとか、身勝手で気の利かない事ばかり言ったのに、かっしーだけはいつも励ましてくれたしうれしくってさあ、怒る姿も困る表情もぜんぶかわいくって!!弁当盗んだり、ペン貰ったり、尾行して家もよく外からのぞいてたんですよ!ずっと独り身だったでしょう、かっしーの初めては俺が何でもない!でもさあ、事務所でいきなり否定したでしょう、あれきつくって、貯め込んでたエコーが暴走しちゃったんですよね!ごめんね、あの時は怖がらせて!裏切られたからさ、最後はきっちりお仕置きしようとしたんだけどね、主任の監視があってできなくって!!」
全く知らなかった、知りたくもなかった事実が、どんどん暴露されていく!!
「ホントクソ人間でごめんねー、でももうおらが管理してるから大丈夫です。今までのエコーはね、ぜんぶ揮発したし、器もなくなったから!もうかっしーに執着しないよ、安心してね、スマホやパソコンのデータは全部消します!…記憶も消しますか?消したくないなあ、記憶がないと、うまく日本人でいられないや。おらは、人肉の記憶をすべて生かして、自分のものにしてるんです。出来たら、記憶を残す許可をいただきたいです、ダメでしょうか?本来ならば、人権保護的な問題で、同調しても人肉本体の気持ちを尊重するにとどめねばならないと宇宙では決まっておりましてですね。あとから混じったものは、器とエコーを最前線にもっていかなければならない定めになっているんですけれども、今回はね、器が完全崩壊しているという稀なパターンでしてね、ホント貴重なんです、人肉失格者なんて、めったに出会う事ができないんです、ねえ、お願い、奴隷になってもいいから、許可して!!!」
……宇宙人って、みんなこんな感じなの?一気にたたみ込まれると、なんていうか、とっても、こう、ついていくのに必死というか。ついてったら、知りたくなかった事実を真正面から受け取らなければならないって気づいちゃったというか。戸惑いの方が大きくて、正常な、適切な判断をする自信が…ない!!!思わず、黙り込んでしまう私!!!
「こいつはもう、スウの知る仙谷耀司ではない。仙谷耀司に同化した、がぶがぶという仙谷耀司´と言えば…分かりやすいか。寄生されて、自身をコントロールできなくなったわけだ。」
何も言えずに陽気な中年を呆然と見つめる私の横で、アッシュ君が腰に手をやりながら手のひらを上に向けて呟く。
「カマキリとハリガネムシ、カタツムリとロイコクロリディウムの関係…知ってる?人間と二次元人は、その関係性が最も近しい。がぶがぶは気の良いおっさんだから、今後はクソエコーをまき散らすこともない。…安心していいから。」
音もなく、手の上に現れたタブレットには…うわ!!これ、見たことある!!!カタツムリの目がぎらぎらと輝いてて、鳥に見つかりやすいように目立つ場所まで移動させられて、食べられちゃう動画!!!カマキリも…聞いたことある、ハリガネムシに操られて、水辺に行かされたあげく自分は溺れて死んじゃうとか何とか。
寄生……そういえばさっき、二次元が何とか、組み込ませるがどうたら言っていたような気がする、どうしよう、なんとなくわかったような、わからないような、わかったらヤバいんじゃないかっていうか、わかりたくないというか!!!
……二次元の宇宙人が、仙谷さんを人肉パーツ?として、乗っ取ったって事なんだ、きっと。……宇宙人に、体を乗っ取られた、仙谷さんってこと?こういうの、もしかして、地球上で珍しくなかったりするんじゃない?ちょっと、かなり、怖い気が、する。でも、なんていうか、追及しちゃうと、取り返しがつかない感じがめちゃめちゃする!!!
とりあえず……宇宙人の暴挙の恐ろしさには、気付かないことにしておこう。恐怖心を頭の隅に追いやって、気になることに着目、着目!!
「うん、エコーはね、飛ばさないよぅ‥だからお願いします、記憶消去は、勘弁してほしいです!かっしーの記憶だけ消すことは難しいので、全部消す事になっちゃうんですけど、場所とか言葉とか常識も全部消えちゃうと、人肉に混じって生きるのが難しくなっちゃうんです。せっかくの生人肉だし、人肉スーツでは経験できない老化も楽しみたいの、あんまり人肉二次元に持って行きたくないんです、細胞の破損がすごくてねえ……。」
言ってることはよくわからないけど、誠意のようなものは、伝わっては、いる。あんまりごねて返事を渋るのもなあ…、なんか、クレーマーになってる気分っていうか……。
「その…、記憶を残したまま、何をするつもりなんでしょうか?」
おかしなことをするつもりだったりしたら、困ってしまうので、一応、確認させていただく……。
「おら働きたいんです!この人肉を動かして賃金を得て、人肉を生きながらえるために捕食活動をして!!仕事クビになったので、ちょうどいいと思っているんですよ、おらはね、ハンバーガー売りたいんです!!マンガで面白いの読んだし、労働体験の中でも一番楽しかった!笑顔をゼロ円で販売するとは、ステキな話ですよ、売って売って売りまくりたいと常々考えておりました。夢を叶えさせてはいただけませんか?」
は、ハンバーガー?!マンガ?!
にっこり笑うその口元には……白く輝く八重歯が!!!この人、八重歯あったのか!!!めちゃめちゃ笑う気満々の、実に良い笑顔がここに!!!
「わがままを言っていることは承知しております。そこをあえて、お願いします、どうか、どうかご理解いただけませんか!」
こんないい笑顔で頭下げられたら、断れないやつじゃない―――!!!




